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2010-07-14

第25話「先輩、私を思い出してください」

翌日
お昼過ぎ
新居
橘「ただいま」
七咲「ただいま」
今朝、七咲が僕の実家に迎えに来て……
僕と七咲は美也と別れてアパートに戻って来た。
美也の奴、昨夜はあんなに悲しそうな顔をしていたのに……
今日は笑顔で僕たちを見送ってくれた。
結局色々あって、梅原や高橋先生とはたった一度しか逢えなかった。
もっと長く向こうにいられたらよかったのに……
すべては法学の講師、ゴリラのせいだ!!
あいつのせいでやむなく帰って来ることになった。
そしてその法学の小テストのことを知らせてくれた華村には感謝しないとな。
橘「どうする?今から行けば4限には余裕で間に合うよ?」
七咲「あ、いえ。長旅で疲れたので、学校は明日からにします」
橘「珍しいな。そんなこと言うなんて」
七咲「先輩こそ、珍しいですよ。自分から学校に行きたがるなんて」
橘「いや?学校行くのは当然だと思うけど」
七咲「そうですか?」
七咲「先輩には、私に起こされなければ大学をサボっていた時期もあったんですよ?」
橘「え?それ本当?」
七咲「はい。先輩が大学に入学したての頃はよく私がモーニングコールしてました」
第10話「先輩、私水泳部の部長になりました」
七咲「こうして一緒に住むようになってからもよく私が先輩を起こしていました」
第18話「先輩、ちゃんと自力で起きてください」
七咲「本当に先輩は出逢った当初からだらしなかったんですから」
橘「う……」
七咲「でも……そんな先輩でも時折すごく頼りになって、かっこよいい一面を見せてくれた……」
七咲「この何とも言えないギャップが私は好きなのかも……」
橘「ん?どうした?ボーッとして」
七咲「あ……いえ。とにかく今日は休みましょう」
橘「あ、うん」
橘(この様子だと七咲は昨夜もよく眠れなかったんだな)
橘(美也の言ってた通り、このままじゃ僕も七咲も身がもたないかもしれない)
橘(僕はともかく、七咲にまでこれ以上迷惑をかけたくない)
橘(なぜなら、僕は……七咲のことが好きなんだ。理由はよくわからない)
橘(だけど!何故か守ってやりたくなる。守らなきゃいけない気がする)
橘(それなのに!僕は七咲に迷惑をかけっぱなしだ。だらしない!本当にだらしない!)
橘(これ以上七咲に迷惑をかけない手段はたった一つだけある!!)
七咲「先輩?どうしたんです?どこか具合でも……」
橘「七咲」
七咲「はい」
橘「落ち着いて聞いてくれ」
七咲「え?あ、はい」
橘「……」
七咲「先輩?」
僕は言い出すのが怖くて一瞬躊躇ったが……勇気を振り絞って言った!
橘「……別れよう」
七咲「え?今何て?」
橘「七咲、別れよう」
七咲「……」
橘「……」
七咲「冗談……ですよね?」
橘「いや、本気だ」
七咲「どうしてですか?だって、先輩……あの時、保健室で……」

回想
第23話「先輩、輝日東って温かいですね」
橘「あの……七咲の彼氏だったっていう橘しゅうがどんな奴だったかは知らない」
橘「僕はそいつには全然及ばないかもしれない」
橘「だけど、こんな僕でよければ、その橘しゅうの代わりになりたい」

七咲「そう言ってたじゃないですか!」
橘「……」
七咲「なのに……どうして?」
橘「……」
僕は返答に困った。
七咲「先輩!ちゃんと理由を教えてください!!」
七咲が両手で僕の両肩を掴み……僕の身体を大きく揺さぶりながら……
今にも泣き出しそうな顔で……僕に必死に問いかけてくる!
本当に真剣な表情だ。見ていてすごく痛々しい。
橘「……」
七咲「もしかして……ご迷惑でしたか?」
橘「え?」
七咲「いきなり私が先輩の彼女だと言い出し、強引に先輩を連れ回した」
七咲「先輩は本当は嫌だったかもしれないのに……私に無理やり付いてきた」
七咲「私は先輩のことを何も考えずに、ただただ自分勝手に……」
橘「それは違う!」
七咲「何が違うんですか?」
橘「迷惑なのは……むしろ僕の方だ」
七咲「え……?」
橘「僕は……七咲のことが好きなんだ!」
七咲「……先輩」
橘「正直、その理由はよくわからない」
橘「だけど!何故か守ってやりたくなる。守らなきゃいけない気がするんだ」
七咲「え?じゃあ、どうして!?どうして別れたいだなんて……」
橘「守らなきゃいけないはずなのに、僕は七咲に迷惑をかけっぱなしだ」
橘「これ以上、僕のせいで七咲が傷つくのを見たくないんだ!!」
橘「好きだからこそ、傷つけたくない!!」
七咲「先輩!」
橘「本当は僕だって別れるのはつらい。嫌なんだ!!」
橘「だけど!そうしないと守りたいものも守れなくなる」
七咲「……」
橘「だから……わかってくれ!!」
七咲「……」
橘「さて、そうは言ったものの、これからどうするか……」
七咲「嫌です」
橘「え?」
七咲「やっぱり先輩を放っておくことなんて私にはできない!!」
橘「七咲?」
七咲「私だって先輩を守りたい!例え自分を犠牲にしてでも」
橘「でも、それじゃあ……」
七咲「例え別れても、私は先輩を独りにしたことを悔み……」
七咲「そのことが原因で私は壊れてしまうかもしれません」
七咲「別れても別れなくても私たちはお互いにボロボロになっていく」
七咲「それだったら、私はずっと先輩のそばにいたい」
橘「七咲……」
七咲「先輩……死ぬ時は……一緒です」
橘「う……」
橘(まさか……こんな答えが返って来るなんて。僕は一体どうすれば?)
七咲「……」
ピンポーン
七咲「え?」
橘「あれ?こんな時間にお客さん?誰だろう?」
僕は立ち上がって玄関のドアを開けた。
橘「あれ?……塚原先輩じゃないですか!」
七咲「あ……塚原先輩」
塚原「こんにちは。橘君に七咲。もしかしてお取り込み中だった?」
橘「あ……いえ」
塚原「橘君。悪いんだけど……ちょっと七咲を借りてっていい?」
七咲「え?」
橘「え?別に……構いませんが」
塚原「そ。じゃあ、七咲、一緒に行きましょう」
七咲「え?どこにです?」
塚原「あ、橘君」
橘「はい」
塚原「後ではるかが来るから。よろしくね」
橘「はるか?ああ、森島先輩ですね。わかりました」
塚原「それじゃ、お邪魔しました」
七咲「え?え?」
バタン。
橘「……あ」
僕は事情がわからず、その場にポカーンと立ち尽くした。
塚原先輩は……一体何しに来たの?


15時頃
塚原先輩のアパート
塚原「ただいま。さ、入って、七咲」
七咲「え?あ……お邪魔します」
塚原「そこに座って。今、お茶出すから」
七咲「あ、いえ。お構いなく」

塚原「どうぞ」
七咲「いただきます」
塚原「……ごめんね。狭い部屋で」
七咲「あ、いえ。さすが塚原先輩ですね。手入れが行き届いてます」
塚原「そう?七咲のアパートの方がキレイだったわよ」
七咲「そんなこと……ないですよ」
塚原「それで……本題に入るけど」
七咲「はい」
塚原「さっきは……何をもめていたの?」
七咲「え……?聞こえてたんですか?」
塚原「ええ……、悪いとは思ったんだけど聞こえちゃったの……大丈夫?」
七咲「あ……はい。塚原先輩でしたら別に」
塚原「もし差し支えなければ私に事情を話してくれない?」
七咲「ええ。いいですよ」


塚原「なるほど。その選択は確かにきついわね」
七咲「はい。どうすればいいかわかりません」
塚原「……」
七咲「……」
塚原「とりあえず……一度休んで気持ちを落ち着けてみたら?」
七咲「……」
塚原「あまり根詰めずに、一度彼のことは忘れて……」
塚原「気持ちをリフレッシュしてから出直す」
塚原「努力も確かに大事だけど、疲れた時には無理せず休んだ方がいいわ」
七咲「でも、私はそれでいいとしても、先輩は……」
塚原「ああ、彼のことならはるかに任せておいて」
七咲「森島先輩に?」
塚原「はるか……ああ見えて、こういう時結構頼りになるから」
七咲「なるほど。確かに」
塚原(そう、私は知っている。はるかはその天然で人の心を明るくすることができる)
塚原(現に、七咲も病院ではるかに元気づけられていた……)
塚原(私は、あの子を信じている。きっと、うまくやってくれるって信じている!)


一方、その頃
新居
橘(塚原先輩、七咲を連れて行ってどうするつもりなんだろう?)
ピンポーン
橘「はーい」
僕はドアを開けた。誰が来るかはさっき塚原先輩から説明があったのでわかっていた。
森島「ジョン、お手」
橘「え?あ、はい」
僕は何故か森島先輩に『お手』をした。
森島「グー!いい子ね!それじゃ、ジョン。散歩に行きましょう」
橘「あの……人違いじゃないですか?僕はジョンじゃなくてしゅうですよ?」
森島「ありゃ……犬違いだったか。それじゃあ、しゅう!行くわよ」
橘「あ……はい」
橘(犬違いって……あのなぁ)

駅前通り
森島「あ!見て見て!あれすごくない?」
橘「あ、はい。すごいです」
森島「むむむ……キミ、何かつまんなそう」
橘「え?あ、すみません」
森島「私とお散歩するのは楽しくないのかな?」
橘「そ、そんなことないです!楽しいです!」
森島「だったら、もっと楽しんで!ほら、笑顔で」
橘「はい!」
森島「……色々悩むのは仕方ないことだよ」
森島「でもね、それをずっと引きずるのは駄目!」
森島「楽しむ時はとことん楽しむ!気持ちを切り替えてね」
橘「わかりました」
橘(森島先輩って……何だか特別な感じがする)
橘(そばにいるだけで僕自身も明るくなっていくような……)
森島「またそんな神妙な顔して……」
橘「すみません!!」
僕は笑顔になった。
森島「そう。それでこそキミらしいよ」
橘「はい!……あ、あの神社」
森島「どうしたの?心当たりあるの?」
橘「前にも行った覚えが」
森島「ちょっと、寄って行かない?私もお守りがほしくなった」
橘「はい。行きましょう」


塚原先輩のアパート
七咲「あの……一つ聞いてもいいですか?」
塚原「いいわよ」
七咲「どうして塚原先輩は私を助けてくださるんですか?」
塚原「七咲は、私の大事な後輩だからよ。ついついお節介を焼きたくなる」
七咲「本当に……それだけなんですか?」
塚原「……というと?」
七咲「塚原先輩は……私に何か隠していますよね?」
七咲「2年生の創設祭の時に、塚原先輩は私に何かを言いかけました」
塚原「……」
七咲「あの時、本当は何が言いたかったんですか?教えてください」
塚原「……」
七咲「……」
塚原「……参ったわね。この話をする時がついに来るなんて」
塚原「はるかにも、他の誰にも話したことはなかった」
塚原「話したくなかった。私のつらい……初恋の話なんて」
七咲「え……?あ、すみません。今のは、聞かなかったことに……」
塚原「別にいいわよ。七咲になら話してもいい」
塚原「はるかには恥ずかしくて言えないけど、今の七咲ならきっとわかってくれるはず」

CLAGAMI~クラガミ~塚原響編~初恋さよなら~より
塚原「それは……私がまだ小学4年生の時だった」
塚原「私はその時からすでに今のような強面でね」
塚原「しかも勉強もスポーツもできなくて」
塚原「だから、クラスメイトの男子からも女子からもいじめを受けていた」
七咲「そんな……意外です!」
塚原「そう思うでしょ?でも、それが事実なの」
七咲「……」
塚原「教科書に落書きをされたり、上履きを隠されたりと……」
塚原「よくあるいじめを受けて泣いてばかりいたわ」
塚原「もういっそのこと登校拒否しようかと諦めていたの」
塚原「でも、そんな時、クラスメイトの一人の男子が私の味方をしてくれた」
塚原「彼は私のことを励ましてくれた!ずっと見守っていてくれた」
塚原「だから私は勉強やスポーツに打ち込むことができた」
塚原「それでも、時々いじめに遭って心が折れそうになったこともあった」
塚原「だけど、彼がずっと私を支えていてくれたから私は頑張ることができた」
塚原「勉強もスポーツも得意となり、自分に自信がついたわ」
塚原「今まで暗かった表情も次第に明るくなっていき、徐々にいじめを受けなくなっていた」
塚原「それどころかクラスメイトにだんだん打ち解けていった」
塚原「彼にも誉められて、本当に嬉しかったわ」
七咲「よかったですね」
塚原「ええ」
七咲「じゃあ、もしかして塚原先輩の初恋の相手って……」
塚原「そう。その彼よ。立花直生(なお)君」
七咲「たちばな!?」
塚原「立つ花って書いて立花君。苗字は同じだけど、漢字が違う」
塚原「なおは、真っ直ぐ生きるって書く」
七咲「立花……直生。いい名前じゃないですか!」
塚原「ええ」
七咲「それが……どうしてつらいんですか?」
塚原「彼、急に転校したの。両親の仕事の都合だって」
七咲「……」
塚原「ちゃんと、彼が旅立つ前に彼から新しい住所を教えてもらったわ」
塚原「だけど……それから1年たったある日を境に彼から返事が来なくなった」
七咲「そんな……!?どうしてですか!?」
塚原「さあね。私にもよくわからなかった」
塚原「でも、私は彼が必ず生きているって信じた。それだけは信じたかったの」
塚原「だから、彼は転校先で私以上に好きな子ができたんだって……」
塚原「勝手に思い込んで、その日を境に私は恋を捨てた」
塚原「彼を失った今、また強面へと戻ってしまった」
七咲「……」
塚原「七咲……泣いて……くれてるの?」
七咲「当たり前じゃないですか!その直生君とはそれからもう逢ってないんですよね?」
塚原「ええ。あれからずっと何の音沙汰もなかった」
七咲「……」

CLAGAMI~クラガミ~塚原響編~10年ぶりの涙~より
塚原「……でもね。つい最近になって偶然、彼のお兄さんに逢った」
塚原「彼のことがやっとわかった」
七咲「え?本当ですか?」
塚原「うん。それも、他ならぬ橘しゅう君のおかげでね」
七咲「え?橘先輩の?」
塚原「あ……こんな言い方、不謹慎かもしれないけど……」
塚原「彼があの病院に運ばれたおかげで偶然巡り逢えた」
塚原「彼を診察した精神科の先生、覚えてる?」
七咲「ええ。確かネームプレートに『立花』って……あ!」
塚原「そう。あの人が直生君のお兄さんの立花直也先生」
塚原「月曜日に大学の友達のお見舞いに行ったら偶然彼と再会して話を聞いた」
塚原「彼、日曜日に橘君の病室で私と逢った時から何となく感づいていたらしい」
塚原「私がかつて直生君と付き合っていた塚原響だってことを」
七咲「それで?お兄さんは何て?」
塚原「直生君は転校してからもずっと私のことを愛していたらしい。心の底からね」
七咲「でも、それならどうして何も連絡を……まさか!?」
塚原「そう。そのまさかよ。私が一番信じたくなかった事……彼の死」
七咲「……」
塚原「さっき、彼が急に転校した理由は両親の仕事の都合だって言ったでしょ?」
七咲「はい」
塚原「あれは……嘘だったの」
七咲「嘘……」
塚原「本当は……彼の持病である小児癌の闘病のためだった」
七咲「癌……」
塚原「彼は幼い頃からずっと癌で、彼の成長とともに癌も進行していった」
塚原「彼は転校の一ヶ月前の定期検診で余命1年と診断された」
七咲「……」
塚原「だから、彼は私を悲しませたくなくて両親にせがんで、転校することに決めたの」
塚原「転校して、そこでずっと生きているって私に思わせたくて」
七咲「じゃあ、その直生君なりの思いやりだったんですね」
塚原「そういうことになるわね。悲しいけど」
塚原「彼は、お兄さんにこんな遺言を託した」

回想
直生「最期に、一つだけお願いしてもいい?お兄ちゃん」
直也「最期だなんて言うなよ!」
直生「ごめん。でも、これだけは言っておきたくて」
直生「もしもお兄ちゃんが将来お医者さんになって、響に逢ったら伝えてほしい」
直也「おう。何だ?」
直生「ありがとうって」
直生「こんなひ弱な僕でも、助けられた人間がいたことを誇りに思う」
直生「僕は幼い頃から病気で、しょっちゅう、僕は何のために生きているんだろうって考えてた」
直生「死にたくなった時もあったんだ」
直生「でもね、響が、僕の生きる目的になってくれた」
直生「僕は響の笑顔を守れて本当によかった。僕はずっと響のことが好きだったんだ」
直生「死んでもあいつのそばでずっとあいつを守り続けたい」
直也「そ、そっか。頑張れよ」

七咲「塚原先輩が……生きる目的」
塚原「彼が私を助けてくれた理由はね……」
塚原「いじめを受けて自殺した彼のお姉さんを救えなかったことらしいの」
塚原「私をお姉さんみたいな目に遭わせたくなくて助けてくれたんだって」
七咲「いい話じゃないですか!」
塚原「ええ」
七咲「それにしても不思議な運命ですね」
七咲「橘先輩が立花直也先生の診察を受けたおかげで……」
七咲「彼と塚原先輩が偶然逢うことができて……」
七咲「そのおかげで10年前の真実を知ることができた」
塚原「ええ。そうよ。最初はお節介のつもりで橘君と七咲を支援していた」
塚原「でも、この真実を知ってからはお節介ではなく恩返しに変わった」
塚原「私は橘しゅう君に感謝している。だから、彼のために全力を尽くしたい」
七咲「塚原先輩!」
塚原「七咲は疲れているだろうから、今日はここに泊まってゆっくり休むといいわ」
塚原「橘君のことははるかに任せておけば大丈夫だから」
七咲「ええ。私もそう思います」
塚原「七咲、真剣に話を聞いてくれてありがとう。ちょっと気が楽になった」
七咲「いえ。私の方こそ、ありがとうございます」
七咲「おかげで何だか元気が出ましたから。本当に塚原先輩のおかげなんです」
塚原「七咲。私が水泳部部長だった時の活動目標って覚えてる?」
七咲「はい。最後まで諦めず、努力する……でしたよね」
塚原「ええ。だから……最後まで諦めず、努力しなさい」
塚原「でも、あの時みたいな無茶は決してしないこと。いいわね?」
七咲「はい!わかりました!!」


一方、その頃
神社
森島「わぉ!お守りいっぱいあるねぇ!」
橘「どれにするんですか?」
森島「うーん……そうでさぁねぇ……」
僕はいっぱいあるお守りを森島先輩と一緒に見渡す。
橘「あ、これ!」
森島「安全祈願のお守り?それがどうかしたの?」
橘「はい。輝日東に帰省する時、七咲が鞄にこのお守りをつけていたんです」
森島「逢ちゃんが?」
橘「はい。それでこのお守り、どうしたのかって聞いてみたんです。そしたら……」

回想
第23話「先輩、輝日東って温かいですね」
橘「あ。その鞄についてるお守り、どうしたの?」
七咲「これは私の入学前に先輩と一緒に行った神社で買いました」
橘「僕が?神社?」
七咲「あ……先輩が覚えてないのも無理はないですね」
七咲「あのアパートの近くに神社があって、そこで先輩と同じものを買いました」
七咲「この安全祈願のお守りと、もう一つは学業成就のお守りです」
七咲「今は旅の安全と、先輩の記憶が戻ることを祈って、安全祈願のお守りを鞄に」
橘「安全祈願のお守り?そんなの僕買ったかなぁ?」
七咲「え?どういうことです?」
橘「実は、記憶を取り戻すために自分の持ち物を一通り調べたんだ」
橘「そしたら筆箱に学業成就のお守りは入っていたけど、安全祈願のお守りはどこにも……」
七咲「え?それ調べたのいつです?」
橘「日曜日。寝る前に調べたんだ」
七咲「日曜日……ということは記憶を失う前!?病院じゃないことは確か」
突然、七咲の表情が変わった。
何やら僕がお守りを持っていないことをすごく気にしているらしい。
橘「どうしたの?お守りがどうかした?」
七咲「い、いえ。別に」
橘「……」
僕が持っていない安全祈願のお守り……それに一体何の意味があるのだろうか?

森島「ここでお揃いの安全祈願のお守りを買ったにも関わらず、キミが持っていなかったんだね?」
橘「はい。覚えていませんが、たぶん無くしたんじゃないかと」
森島「むむむ……一体どこで無くしたんだろうねぇ」
森島「いやはや、謎は深まるばかりだねぇ」
橘「それで、森島先輩はどのお守りにするんです?」
森島「そうでさぁねぇ……わからない。今度ひびきと一緒に来て決める」
橘「そうですか」
森島「あ、ねぇ!」
橘「はい」
森島「あっちの通り、もみじがすごくキレイだよ!行こっ」
橘「はい」
橘(あれ?あの通りも何か見覚えがある!)
森島「ほら、早く!」
橘「は、はい!今行きます」

通り
森島「わぉ!キレイだねぇ!!」
橘「そうですね!」
橘(森島先輩、すごくはしゃいでる!!ちょっといいかも!!)
森島「こーら!また何か余計なこと考えていたでしょ?」
橘「は、はい!すみません。つい見とれていました」
森島「見とれるのも訳ないか。こんなにキレイなんだもんね」
橘「は、はい。キレイです。その……先輩が」
森島「……え?もう、やだ!この子ったら!かわいいんだから!この、この!!」
森島先輩が笑顔で僕を肘で突いてくる。
橘「あ……あ」
僕は少しだけ照れている。
橘「あ、森島先輩」
森島「どしたの?」
橘「お腹、空きませんか?あそこに、お団子屋が!」
森島「あ、本当だ!食べたいね」
橘「僕、買って来ましょうか?」
森島「うん。じゃあ、みたらし団子をお願い」
橘「はい!」

橘「森島先輩!お待た……えっ?」
森島「もう!離してって言ってるでしょ?」
男「残念だったな。もう離しはしねぇよ!!」
男「幸い、この前の強面で気の強そうな女はそばにいねぇしな」
橘(強面で気の強そうな女!?塚原先輩のことなのか!?)
森島「離して!!」
森島(ひびき!!助けて!!)
橘「あいつめ、許さない!!」
僕の身体が無意識に動いた!!
僕はその場に買ったばっかのお団子を置いて咄嗟に森島先輩の元に駆け寄る!
そしてナンパ男と森島先輩の間に割って入る!
橘「そのきったない手で僕の彼女に触るな!」
僕は力一杯ナンパ男の手を森島先輩の腕から引き離した!
森島(この子……今私のことを彼女って!)
男「お前もこの前の!?」
橘「この前だと!?どういう意味だ!?」
男「確か4月の頭だったな。お前は黒髪ショートの女と一緒にいた!!」
男「その時もお前、同じこと言ってた」
男「そいつはどうしたんだ?まさかこの女に乗り換えたのか?」
橘「は?何が言いたいんだ!?」
森島(4月に逢ちゃんと歩いてて同じ場面に遭遇していたの!?)
男「とぼけても無駄だ!お前に用はねぇんだよ」
男「早くその姉ちゃんを差し出せ!!」
橘「何がなんだかよくわからないけど、断る!!」
男「ああん?痛い目に遭いたいのか?」
森島「隙あり!!」
男「ぐお!」
男が僕に注目している隙に森島先輩が不意打ちし、男の足を引っ掛けて転ばせた。
森島「逃げるよ!!」
橘「はい!!」
森島「あ、お団子を拾わなきゃ」
森島先輩がちゃっかりお団子を拾って、僕たちは逃走した。
途中で雨が降り始めたので、コンビニでお弁当を買って帰宅した。


新居
橘「はぁはぁはぁ」
森島「ねぇ」
橘「はい」
森島「さっきの神社と通り、4月の頭に一度逢ちゃんと来たんでしょ?」
橘「……」
森島「神社でお守りを買った後、さっきの通りでキミがお団子を買っている間に……」
森島「さっきの私同様、逢ちゃんがあの男にナンパされた」
森島「そこでキミがさっきと同じことを言って男を撃退した」
森島「……違う?」
橘「そう……だったような気もします」
森島「やっぱり」
橘「何で覚えてないんでしょうか。お守りのこともあの男のことも」
森島「わからない。でも、ゆっくり思い出せばいいと思う」
橘「そうですね。あの、すみません」
森島「ん?」
橘「疲れたので、休んでもいいですか?」
森島「わかった。それじゃ、キミも独りになりたいだろうし、私は帰るね」
森島「傘、借りてっていいかな?」
橘「あ、はい。どうぞ」
森島「ありがとう。お休み」
橘「お休みなさい」


塚原先輩のアパート
塚原「……なるほど」
七咲「森島先輩、お疲れ様です」
森島「ごめんね、お役に立てなくて」
七咲「あ、いえ。ありがとうございます」
塚原「あの男、まだいたんだ。もっと懲らしめるべきだったかな?」
七咲「やっぱり、先輩、あのお守りのことは覚えてないんですかね」
七咲「そしてお守りはどこに無くしたのか……」
森島「あ、ねえねえ!!見て見て、ひびきに逢ちゃん!!」
塚原「はるかったら、またここでテレビ見てる」
塚原「テレビ見るんだったら自分の部屋に行けばいいのに」
七咲「確かお隣でしたね?」
塚原「そうよ」
森島「んもう!固いこと言わないの!」
森島「それより見てよ、このワンちゃん!!おっかしくて」
塚原「はぁ。どうかしたの?」
森島「ほら!自分で登ったくせに冷蔵庫の上から降りられないでいるよ」
塚原「ん……?」
七咲「あ……」
森島「身体がぶるぶる震えて、かわいいわ!」
塚原「これは……」
七咲「高所恐怖症!?」
塚原「あ!そっか。そういうことだったのね!」
七咲「ええ。やっとわかりました。森島先輩のおかげで!」
森島「え?何が?」
塚原「橘君にあった不自然な点の謎……」
七咲「20mの高さから転落したのに、全身軽度の打撲で済んでいること」
塚原「落下途中で運良くどこかに掴まった跡が彼の手の平にはないこと」
七咲「そして……記憶喪失」
塚原「さらには無くなったお守りの行方と……」
七咲「高所恐怖症」
塚原「これですべての謎が繋がった」
七咲「塚原先輩!私、行ってきます!!」
森島「でも、外は雨よ」
七咲「森島先輩がさっきうちから持ち出したこの傘を使わせてもらいます」
森島「あ、なるほど。その手があったわね」
塚原「でも、雨激しくなってきたわよ。今日はやめた方がいいんじゃない?」
七咲「塚原先輩。私、最後まで諦めません!!努力してみせます!!」
塚原「あ、七咲!……行っちゃった」
塚原「止めても聞かないのがあの子の長所かもね」
塚原「だったら……次に私が打つべき手は……!」
森島「ああ、かわいい!!」
塚原「はるか……」



七咲が傘をさして、まっすぐ自宅を目指し、走っている!

待っていてください、橘先輩。
私、わかっちゃったんです。
先輩の記憶喪失の本当の原因が!!
私の推理が正しければ、おそらく今度こそ……
今度こそ記憶が元に戻るはずです!!
私、絶対に諦めません!!



森島先輩の偶然のヒントを元に……
事故の真相に辿り着いた塚原先輩と七咲。
はたして、この二人の推理は合っているのか!?
そして橘しゅうは元に戻るのか!?
次回、いよいよ感動のクライマックス!!



第26話(完結)に続く。

2010-07-13

第24話「先輩、大学に戻りましょう」


橘家・居間
橘「ふあ~あ。おはよう……」
美也「にぃに、おはよう。ふあ~あ。みゃーも眠いのだぁ」
橘「にぃに?ああ、僕のことか。でもさ、お前……」
橘「『にぃに』って呼ぶのは僕とお前の二人っきりの時だけだって前言ってなかったか?」
美也「え?それは……」
橘「よく覚えてないけど、確かそんな気がした」
美也「き、気のせい気のせい。ね、逢ちゃん?」
七咲「そ、そうだよ!に、にぃに……おはよう」
橘「え?あ、ああ。おはよう、七咲」
七咲「違いますよ、先輩……」
美也「逢ちゃん!」
七咲「あ!ごめん」
七咲「……じゃなくって!違うよ、にぃに」
七咲「私は橘逢!にぃにの妹だよ。逢って呼んで」
橘「は?」
橘(ど、どうしたんだ!?美也は素だとしても……七咲まで!!)
橘(これは……そうか、夢か!夢なんだな!)
僕は自分の頬をつねってみた。
橘「夢じゃない……ど、どういうことなんだ!?一体……」
美也「にぃに?どうしたの?」
七咲「にぃに?大丈夫?」
橘「もう……限界だ。何がなんだか……」
バタッ。
僕は頭を抱えながらその場にうつ伏せに倒れた。
美也「あっちゃあ。ちょっと……やりすぎちゃった?」
七咲「……みたいだね」
美也「にぃに、しっかりして!!」
七咲「先輩、大丈夫ですか?」
橘「スコー、スカー」
美也「寝てる……だけ?」
七咲「……先輩は放っておいて、早く朝ご飯を作ろうか」
美也「そだね。みゃーお腹空いたのだ」



橘「スコー、スカー」
美也「まだ……寝てる」
七咲「せっかく先輩が寝てる間に朝ご飯作ったのに冷めちゃう」
七咲「ふふっ、久々にあれをやろうかな」
美也「あれって?」
七咲「美也ちゃん、ちょっと耳塞いでて」
美也「わかった」
七咲「……すぅ!」
七咲「おはようございます!!」
橘「うわあ!!び、びっくりしたぁ!!」
七咲「先輩、おはようございます」
橘「七咲、いや逢……僕の耳元で大声を出すなんてひどいよぉ」
橘「いくら僕の妹でも許さないぞ!!」
美也「え?」
七咲「はい?」
橘「だから!いくら逢が僕の妹でも許さないぞ!!」
美也「まだ寝てるみたいだよ?お仕置きが必要だねぇ、逢ちゃん。にししし」
七咲「……すぅ!」
七咲「おはようございます!!」
橘「うおおおおおおおおおおおお!!」
橘「あれ?ここは現実……なのか?確か美也が僕の妹で、逢も僕の妹だったはず……」
橘「おっかしいなぁ」
美也「にぃに、さっきのはお芝居だよ!!逢ちゃんに協力してもらったの!」
橘「お芝居?ん?何が?」
美也「だーかーらー!!」

橘「何だ、やっぱりそうだったのか。おかしいと思ったんだよ」
七咲「すみません、先輩。昨夜、美也ちゃんがどうしてもって言うから断れなくて」
七咲「先輩を騙すつもりはなかったんです」
橘「もう……いいよ。別に気にしてないから」
美也「にぃに、ごめん」
橘「謝るなって!正直……嬉しかったから」
七咲「え?」
美也「にぃに?」
橘「ついこの前まで仲違えしていた二人が笑顔で協力しあう姿を見られて嬉しかったよ」
七咲「あ……」
美也「……」
二人はお互い照れ臭そうに顔を見合わせる。
橘「それと!『私は橘逢!にぃにの妹だよ。逢って呼んで。』……いただきました!!」
七咲「あ……」
橘「……いいものを聞かせてもらった!僕の脳内にしっかりと保存させてもらったよ!」
七咲「もう……先輩!!」
七咲が赤面する。
美也「お兄ちゃん、ご飯抜きね」
美也が僕の食器を片付けようとする。
橘「おい、待て!何をする!?」
美也「猛省なさい!」
橘「は、はい!だからご飯を……」
美也「今の忘れるって約束する?」
橘「約束します!」
美也「ならばよろしい。お食べ」
橘「ははっ。ありがたき幸せ」
橘(もう!!言いだしっぺは美也なのに、何で美也に怒られなきゃいけないんだよ?)
七咲「クスッ」


午前中
美也「はい。これ、にぃにの卒業アルバムだよ」
橘「輝日東高校か。どれどれ」
僕はクラスメートの写真を見て驚いた。
橘「あ、この人!!それにこっちの人も!!この人もそうだ!」
そこには一昨日の僕の夢に出てきた女の子たちが写っていた。
黒髪ロングで頭が良さそうな女の子……
髪の毛がもじゃもじゃした女の子とその友達の女の子などなど……
七咲「これは絢辻先輩に棚町先輩……と田中恵子先輩?」
美也「にぃに、この3人のこと覚えてるの?」
橘「いや、知らない」
橘「だけど一昨日の僕の夢に出てきて僕の名前を呼んでたんだ」
橘「彼女たちのことを思い出せなくて怖くて怖くて眠れなかった」
七咲「なるほど。あの時の悪夢」
美也「じゃあ、改めて紹介するね」
美也「この人が絢辻詞先輩。国公立大学の法学部に進学。将来は弁護士になるんだって」
橘「道理で。頭良さそうだしな」
美也「この人が棚町薫先輩。将来は画家になるらしいよ。写生大会で描いた絵が表彰されたんだって」
橘「うーん。そうは見えないな」
七咲「先輩。そうやって見かけだけで人を判断するのは良くないですよ」
橘「ああ、そっか。ごめん」
美也「そう言うにぃにだって刑事さんに見えないもん」
美也「昔からよく言うじゃん。人は見かけによらないって」
七咲「いえ……そういう意味じゃ……」
橘「そっか!そうだよな。って!僕が刑事さんに見えないだとぉ??」
七咲「だから先輩も納得しないで下さい!!」
美也「それはいいとして!次行くよ」
七咲「……」
僕と美也に思いっきりスルーされた七咲はちょっと不満そう。
美也「この人は田中恵子先輩。棚町先輩のお友達だよ」
橘「それで?」
美也「以上」
橘「え??それだけか??」
美也「だって、みゃーは田中先輩のこと全然わかんないし」
橘「……そっか」
七咲「先輩のクラスメートで夢に出てきた人は他にいますか?」
橘「うーん……いないな」
美也「もしかしてりほちゃんとかも夢に出てきた?」
橘「りほ……?誰?」
美也「えっとね、隣のクラスの……」
美也は1枚めくって、B組のページを開いた。
美也「この子!!」
橘「桜井梨穂子?ああ!このぽっちゃりした子だ!!確かに出てきたぞ」
美也「まさかりほちゃんまで忘れちゃうなんて……情けない」
橘「情けない?何でだよ?僕とこの桜井って子は一体どんな関係なんだ?」
美也「幼馴染だよ!!小さい頃よくお互いの家に行ったりして一緒に遊んでた!!」
美也「みゃーも一緒に遊んだんだからね」
橘「そうだったのか!?」
七咲「初耳ですね」
美也「幼馴染の子も忘れちゃうなんて……いやはや、世も末だね」
橘「うっ」
七咲「……」
美也「それでこの人が伊藤香苗先輩。梨穂ちゃんのお友達。すっごい仲いいんだよ」
橘「彼女も僕の夢に出てきたな」
美也「他には?」
橘「ちょっとアルバム貸して」
美也「うん」
僕はアルバムを適当にパラパラめくる。
橘「この子は?」
美也「どれ?」
橘「ほら、この創設祭の写真。この隅にいる茶髪でツインテールの控え目な女の子」
七咲「あ、中多さん……。彼女は中多紗江。私や美也ちゃんと同じクラスの子です」
七咲「アニメ研究所に所属していました。今は……」
七咲「……」
橘「ん?どうした、急に黙ったりして」
七咲「美也ちゃん、代わりに説明して。私はお茶をいれてくるから」
美也「え?逢ちゃん??」
七咲は……どうやら逃げたらしい。
理由は『説明したくない+聞きたくない』
橘「七咲、一体どうしたんだ?急に血相変えたよな」
美也「……無理もないよ。紗江ちゃんはね、グラビアアイドルになったの」
橘「グ、グラビアアイドル!?」
美也「ほら、紗江ちゃん、とってもふかふかしてるでしょ」
美也「みゃーも逢ちゃんも羨ましくてたまらな……って!」
橘「ん?」
美也「何を言わせるんじゃ!?このスケベ星人!!」
ガイッ!ガイッ!
橘「いてええええええええええええええええええええ」
僕は美也に思いっきり両手の爪で顔を引っかかれた……
橘「ひどいじゃないか!!何でいきなり顔をひっかくんだ!?」
橘「僕は何も言ってないのに」
美也「あ……ごめん。いつもの癖が出ちゃったのだ!にししし」
橘「笑い事じゃない。僕は……深く傷ついた」
美也「そっか。にぃには記憶がないから変態じゃなかったんだ……」
美也「みゃーとしたことが……」
橘「変態って……あのなぁ……」
美也「にぃに、お詫びにまんま肉まん、後で奢るね」
橘「あ、ありがとう」
七咲「はい。お茶いれましたよ」
橘「ありがとう」
美也「逢ちゃん、ありがとう」
七咲「いえ、どういたしまして」
七咲「……それで?他に誰か先輩の夢に出てきた人は?」
橘「うーん……こんな感じかな」
七咲「そうですか。まあ、これで一昨日の悪夢の件は解決できましたね」
橘「うん。思い出せてよかった」
美也「アルバム見て他に思い出したことはないの?」
橘「うーん……特にこれといったものはないな」
美也「そっか……」
七咲「午後はどこかに出掛けますか?先輩、何か思い出すかもしれないので」
橘「うん。そうだな」
美也「あ!いっけなーい!!」
橘「どうした?」
美也「今日模試があるのすっかり忘れてたのだ。にししし」
橘「おい!」
七咲「何時から?」
美也「1時」
橘「い、1時だと!?」
七咲「あと1時間しかないよ!早く行ったほうが!!」
美也「そ、そだね!それじゃあ、にぃには任せたよ、逢ちゃん」
七咲「うん。頑張ってね!」
橘「お前寝不足だろ?試験中に寝るなよ!!」
美也「大丈夫なのだ!」
美也は部屋へと上がる。
橘「じゃあ、僕たちも美也と一緒に出るか」
七咲「はい」
橘「どこ行く?」
七咲「水族館と浜辺はどうです?以前デートした場所です」
橘「うん。そこ行こうか」
七咲「はい」


13時
美也は輝日東高校に模試を受けに行った。
僕と七咲は水族館に到着。

水族館
七咲「どうです?何か思い出しました?」
橘「うーん。前にこのペンギンの水槽の前で七咲と話をしたような気がする」
七咲「それってもしかして私の水泳についてですか?」
橘「そうだっけ?」
七咲「はい。確か私が水泳を始めた理由についてでしたね」
橘「そうだったような……違うような」
七咲「とりあえず、他の水槽も見に行きましょう」
橘「うん」

しかし、他に何も思い出せず、水族館を後にした。


14時
浜辺
二人で寄り添って岩に腰掛けて、近所で買ったお弁当を、海を眺めながら食べている。
橘「風流だなぁ」
七咲「そうですね」
橘「ついでに、このお弁当もおいしいね」
七咲「はい。味付けが私好みでよかったです」
橘「……」
七咲「でも、すみません。以前とは違ってお弁当を作る暇がなくて」
七咲「しかもピクニックシートも用意できず、このゴツゴツした岩に直接……」
橘「ううん。仕方ないよ。今回はそれどころじゃなかったし」
橘「それにさ、こういう経験もたまにはいいよね」
七咲「そうですか?」
橘「うん。何か幸せって感じがする」
七咲「幸せ……なるほど」
橘(よし。うまく七咲をフォローできたようだ)
七咲「そういえば、先輩。海といえば……覚えてますか?」
橘「ん?」
七咲「先輩がまだ高校3年生だった頃、先輩は風邪を引いていたにも関わらず……」
七咲「海に飛んで行った私のピクニックシートを追いかけて……」
七咲「全身ずぶ濡れになりながら拾ったんですよ」
七咲「それで風邪をこじらせてみんなに迷惑かけて」
橘「そんなことあったか?」
七咲「はい。ありましたよ」
橘「……覚えてないな」
七咲「他には……今年の夏休みにアパートの近くの海に行って……」
七咲「先輩と私で協力して、溺れた男の子の救助をしたことも」
橘「……」
七咲「もしかして……両方とも覚えてないんですか?」
橘「ごめん。思い出せない」
七咲「……」
橘「……」
七咲「……くっしゅっ」
橘「だ、大丈夫?寒くない?」
七咲「ちょっと……肌寒いですね。さすがに秋の海は冷えますね」
橘「よし。それじゃ、移動しようか」
僕が片付けを始めようとしたその時!
橘「あ……」
お弁当を入れていたビニール袋が風に流されて海へと飛んで行く。
さらにその視線の先、海に浮かぶブイを見て……
さっき七咲が言ってた二つの出来事が不意に脳裏に浮かんだ。
すごく曖昧だけど、何となく、断片的に思い出した。
その瞬間、また激しい頭痛に襲われた!
橘「うっ!」
七咲「先輩?先輩!!しっかりして下さい!!」
僕はその場に跪いた。



回想
第3話「先輩、また明日から頑張りましょう」
ヒュー!バサッ!
橘「ああ!ピクニックシートが!!」
僕は、風に飛ばされるピクニックシートを無我夢中で波打ち際に向かって追いかける!
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
バサッ、バサッ、バサッ……
橘(頼む!止まってくれ!……大事な思い出の品を奪わないでほしい!)
橘「くそっ!何としてでも取り返してやるー!!」
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…
バサッ、バサッ…
橘「止まったぞ!今がチャーンス!滑り込み…」
ザッバーーーーーーーーーーーーーーン!
橘「セーーーーーーーフ!ぐふっ」

橘「大丈夫だよ。ほら、この通り、しっかり掴んでいるから」
僕は、ピクニックシートを強く握っていた。大切な物を失いたくないからな

橘「こんなピクニックシート……じゃないよ。これは……大切な思い出の品じゃないか」
橘「……ここでお弁当を食べたっていう証拠の品だ」
橘「僕は、こんな大切な物をそう安々と失いたくなかったんだ」

そう。僕はあの時、誰かとの大切な思い出を失いたくなくて……必死に追いかけた。
自分を犠牲にしてでも守りたいものがあったんだ。


第19話「先輩、海に行きましょう」
橘「あ、待て。口元にラーメンのスープが跳ねてる!」
??「え?」
橘「……」
??「ん……」
橘「これでよし。あんな小さな子には負けてられない!」
??「もう……先輩!いきなりキスをしてまたチアノーゼになったらどうするんです?」
橘「その時はまたキスをすればいい。人工呼吸をね!」
??「あ……その手がありましたか……」
橘「さてと。すっかり暗くなったな。帰ろうか」
??「はい」

小さな男の子の唇にキスをして人工呼吸を施す女の子を見て……
キスをされている男の子がすごく羨ましくなった。
救命のためにやむを得ないことだとはわかっていた。
だけど、何故か無性に羨ましくなって女の子に不意打ちでキスをした。
あの時のキスの味……何となく覚えている。



16時
橘家
橘「……あれ?ここは……僕の家?」
七咲「よかった。気がついたんですね、先輩」
橘「どうしてここに?確か僕は突然の激しい頭痛に襲われて、砂浜に跪いて……」
七咲「そのまま気絶したんです」
橘「気絶?そうだったのか」
七咲「はい。すごく心配しました」
橘「でも、あそこからどうやってここに?」
七咲「それは……たまたまそこに居合わせたおじさんに協力してもらって……」
七咲「先輩をポートタワーまで運んでもらい、そこからタクシーで帰って来ました」
橘「そっか。道理でな。女の子一人で僕を運ぶのはきついもんな」
橘「ありがとう」
七咲「あ、いえ。当然のことをしたまでです」
橘「でも、どうしてだろうな」
橘「また、せっかく何か思い出しかけたのに……悔しいよ」
七咲「……」
ジリリリリリン
橘「あ、電話」
七咲「私が出ます。先輩は寝てて下さい」
橘「わかった」

七咲「もしもし。橘です」
華村「おお!その声は七咲か」
七咲「華村さんですか?先輩のお友達の」
華村「ああ。ところで何でお前が出てるんだ?」
七咲「ちょっと色々あって美也ちゃんが留守で、先輩も電話に出られない状況で」
華村「そっか。あ、俺は連絡したいことがあって電話したんだ」
七咲「もしかして先輩の大学の講義についてですか?」
華村「ああ。後でしゅうちゃんに必ず伝えておいてほしい。大事な連絡だから」
七咲「大事な連絡?」
華村「ああ。来週法学の小テストがあるらしい」
華村「で、しかも範囲がかなり広いから早いうちから勉強しなきゃやばいんだ!!」
七咲「そうなんですか!?」
華村「ああ。しかも厄介なことに、赤点採った奴には補習をさせるってゴリラが言ってた」
七咲「……はい??ゴリラ??」
華村「あ……い、今の……聞かなかったことにしてくれ!!」
華村(やっべぇ!いつものくせでつい、あだ名を呼んぢまった!!習慣って奴は恐ろしいな)
華村(しかもこのあだ名、しゅうちゃんが考えただなんて言えないよな……)
七咲「ふふっ。わかりましたっ」
華村「え?」
七咲「出題範囲の広い法学の小テストが来週あって……」
七咲「赤点を採ったらゴリラっていう先生に怒られて補習をさせられるんですね」
華村「い、いや、それは……」
七咲「しっかりと先輩に伝えておきますね。他に何かありますか?」
華村「いや、それだけだ」
七咲「そうですか。では、ありがとうございました。失礼します」
華村「お、おーい七さ……」
ガチャッ。
七咲(ゴリラ……か。ふふっ、梅原先輩といい、松原さん、華村さんといい……)
七咲(橘先輩のお友達ってどうしてこうも面白い人たちばっかりなんだろう……?)
七咲(やっぱり先輩が変な人だからかな?類は友を呼ぶ……)

七咲「お待たせしました」
橘「それで?誰からだった?」
七咲「はい。華村さんです」
橘「華村?え?あいつが何だって?」
七咲「何でも……出題範囲の広い法学の小テストが来週あって……」
七咲「赤点を採ったらゴリラっていう先生に怒られて補習をさせられるそうです」
橘「マジか!?それはヤバい。あいつ怒ると怖いからな」
橘「ん??待てよ。ゴリラ??」
七咲「はい」
橘「何で七咲があいつのあだ名を知ってるの?」
七咲「ふふっ、華村先輩が口を滑らせました」
橘「あっちゃあ!あいつ何やってるんだ!?」
七咲「それはそうと。小テストの方はどうします?」
橘「どうって言われても……帰って勉強しなきゃまずいよな」
橘「でも、まだ思い出せないのに帰らなきゃいけないのか。くそぅ」
橘(ゴリラめ……余計なことを!!)
七咲「でも、やっぱり帰るべきだと思います」
七咲「テストのこともありますが、一番は先輩自身のためです」
橘「僕自身?」
七咲「はい。記憶を取り戻そうとして頑張り過ぎて……」
七咲「何度も何度も激しい頭痛に襲われていたのでは先輩の身がもたないと思います」
橘「それもそうか」
七咲「ですからちょっとした休憩だと思って一度帰りましょう」
橘「そうだな。あ、でも!」
七咲「何ですか?」
橘「せっかく帰省したのに、七咲は両親に逢わないまま帰っちゃっていいのか?」
七咲「あ……いえ。別に」
橘「よくないよ!」
七咲「え?」
橘「ちゃんとご両親にお逢いして僕のことをしっかりと伝えてくれ」
橘「昨日の美也の、電話による説明だけじゃきっと心配なさっているはずだから」
七咲「先輩……」
橘「ほら。もうしばらくしたら美也が帰って来るから、七咲は今晩だけでも実家に帰るべきだよ」
橘「それで明日、迎えに来てよ」
美也「にぃに。ただいま!!」
橘「美也!お前いいところに来た!!」
美也「ふえ?」

美也「なるほど。確かににぃにの言う通りだね」
七咲「美也ちゃん……」
美也「にぃにのことはみゃーに任せて。逢ちゃんは今晩だけでもゆっくり休んでよ」
七咲「うん。わかった。ありがとう、美也ちゃん」
美也「どういたしまして」
七咲「それじゃあ、先輩。また明日」
橘「うん。明日、一緒に帰ろうな」
七咲「はい。じゃあね、ありがとう、美也ちゃん」
美也「逢ちゃん、また明日ね」

こうして僕と七咲は明日の午前中にアパートに帰ることになった。
七咲は今晩実家に帰り、ご両親に近況報告した。
この日の夜は久々に美也と二人っきりで過ごすことになるのだが……

橘しゅうの部屋
美也「にぃに!にぃに!起きて!!」
橘「あ、ああ。美也か。こんな時間にどうした?」
美也「にぃにがものすごい声を出すからびっくりして飛び起きたよ」
橘「そっか。また悪夢を」
美也「にぃに、すごい汗だよ。本当に大丈夫なの?」
橘「あ、ああ。わざわざありがとうな」
美也「みゃーは心配だよ」
美也「だって、にぃに、毎晩悪夢にうなされて眠れないんじゃテストどころじゃない!!」
美也「逢ちゃんだって毎晩寝不足で……」
美也「みゃーはそんな二人が見ていられないよ」
橘「美也……心配かけてごめんな」
美也「ねえ、何かみゃーにできる事はない?」
橘「え?そう言われてもな……」
美也「みゃー、やっぱり何の役にも立てないのがすごく悔しいよ」
美也「黙って大好きな二人がボロボロになっていくのをただ見過ごすだなんて……」
美也「そんなの……みゃーには耐えられないよ!!」
橘「美也。気持ちは嬉しいけどな、こればかりはさすがに」
美也「にぃに」
橘「僕のことはいいから、美也はもう寝るんだ。早く休め」
美也「……うん。お休み」
橘「お休み、美也」
美也は不安そうな表情で僕の部屋を出て行く。


美也の部屋
美也「ぐすっ。ぐすっ」
美也(にぃに……逢ちゃん……。みゃーは……みゃーは一体……どうすれば?)
美也(どうすれば二人を助けられるの?そんなの……みゃーにはわからないよ)
美也(みゃーなんか何の役にも立たない。こんな時……誰かがいてくれたら……)
美也(……そうだ!!塚原先輩と森島先輩がいた!!)
美也(あの二人ならきっと何かいい知恵をくれる!!)
美也(明日、電話してみよう!!)

これまで橘しゅうの記憶を取り戻すために奔走して来た七咲逢。
それに彼女を支えて来た橘美也を始めとする4人の仲間たちと高橋麻耶先生。
そして二人の身を案じた橘美也によって……
今、最後のバトンが塚原響・森島はるか両名へと託されようとしている!!


美也(お願いします!!みゃーに代わって二人を助けて下さい!!)
美也の……この必死の想い……
はたして二人に届くのか!?



第25話に続く。

2010-07-09

第23話「先輩、輝日東って温かいですね」

翌朝
新居
七咲が誰かに電話している。
七咲「……っていうわけでね、しばらく講義に出られないの」
七咲「出席とかノートとかお願いね。……うん。ありがとう。頑張るから!」
七咲「じゃあね!」
七咲「……と。塚原先輩や梅原先輩にはさっき電話したし、後は先輩の……」
橘「おはよう。こんな朝早くから何やってるの?」
七咲「先輩、おはようございます」
七咲「先輩も早く支度してください。今日からしばらく輝日東に帰るので」
橘「あ、そう。輝日東に?ふーん。って!ぶーーーーーーっ」
僕は思わず紅茶を吹いてしまった!
橘「き、輝日東だと??何で輝日東に??大学は??」
七咲「大学は……仕方ないのでサボります」
七咲「さっき大学のお友達に電話しました」
七咲「塚原先輩や梅原先輩にも電話しました」
七咲「後は迎えに来る先輩のお友達にも直接事情を説明します」
橘「え?それでいいのか?だってまだ1年生だし……」
七咲「いいんです。大好きな先輩に比べたら大学なんて……」
橘「よくないだろ!?せめて週末まで……」
七咲「待てません!!」
橘「う……」
七咲「もう……嫌なんです……限界なんです……」
橘「……」
七咲「先輩、記憶を失ってから毎晩悪夢にうなされて……」
七咲「私もそんな先輩が心配なので毎晩眠れなくて……」
七咲「このままだと二人ともどうにかなってしまいそうで……怖くて、怖くて」
橘「七咲……」
七咲「早く先輩の記憶を取り戻して……この悪循環から解放されたいです」
橘(松原、華村の言っていた通りだ……まさか七咲も同じ考えだったとはな)
橘(こんなことなら昨日のうちに相談しておけばよかった)
橘(でも、どの道結果オーライだ。よかった)
七咲「それに……」
橘「ん?」
七咲「私、つらいんです……大好きな人が私のこと、全く覚えていないんです」
七咲「今までの人生で初めて本気で好きになった人を私は失いかけている……」
七咲「私が心から慕い、頼りにしていた人が……私の目の前から消えようとして……」
俯いて、今にも泣き出しそうになった七咲を僕は必死に元気づけようとした。
橘「諦めるな!」
七咲「え?」
橘「七咲の彼氏だったっていう橘しゅうがどんな奴だったかは知らない」
橘「だけど!最後まで馬鹿みたいに信じ続けていれば、きっとそいつは帰って来るさ」
橘「だから……行こう!輝日東へ」
七咲「先輩……」
橘「……実は僕も昨日松原や華村に相談して輝日東行こうかなって思っていたんだ」
橘「だけど、何か悪い気がして、それを七咲に相談するのを躊躇っていたんだ」
七咲「そうだったんですか?」
橘「うん。ごめん」
七咲「いえ。別に構いませんが」
橘「それじゃあ、僕も支度する!」
七咲「では、私も」


七咲「お待たせしました」
橘「それじゃ行こうか」
七咲「はい」

こうして僕たちはアパートを出てまっすぐ、故郷である輝日東を目指した!
アパートに迎えに来た松原と華村に事情を説明し、協力してもらうことになった。
松原「おう!そうか。大学のことは俺らに任せておけ!何も心配しなくていいからな」
華村「そんじゃ、夫婦水入らずで行ってらっしゃいませ。ちくしょー羨ましいぜ!」
橘「馬鹿!夫婦じゃねぇよ!」
七咲「変な冗談は辞めてください!!」
華村「わりーわりー!とにかく二人とも元気でな!」
松原「ついでにお土産よろしく」
橘「お土産?そんなものないよ」
松原「おいおい!協力したご褒美はないのかよ、冷たいな」
七咲「あ、お土産でしたら別に構いませんよ」
橘「え?」
松原「マジで?」
七咲「はい。私は大学の友達にお土産を買うつもりなので、そのついでに」
松原「ありがとう。さすが七咲!」
華村「しゅうちゃんも見習え!!」
橘「う、うるさい。覚えてたらな」
松原「じゃあ、俺らは大学行くから。いいなぁ、二人ともサボれて」
華村「まぁ、お土産で許してやるから!とにかく頑張れよ!じゃな!」
橘「ありがとう!松原に華村!」
七咲「ありがとうございます!」
松原「ああ、お礼は記憶取り戻してからでいいから!じゃな!」
駅まで二人に見送ってもらい、僕と七咲は輝日東へ向かう。


道中
橘「あ。その鞄についてるお守り、どうしたの?」
七咲「これは私の入学前に先輩と一緒に行った神社で買いました」
橘「僕が?神社?」
七咲「あ……先輩が覚えてないのも無理はないですね」
七咲「あのアパートの近くに神社があって、そこで先輩と同じものを買いました」
七咲「この安全祈願のお守りと、もう一つは学業成就のお守りです」
七咲「今は旅の安全と、先輩の記憶が戻ることを祈って、安全祈願のお守りを鞄に」
橘「安全祈願のお守り?そんなの僕買ったかなぁ?」
七咲「え?どういうことです?」
橘「実は、記憶を取り戻すために自分の持ち物を一通り調べたんだ」
橘「そしたら筆箱に学業成就のお守りは入っていたけど、安全祈願のお守りはどこにも……」
七咲「え?それ調べたのいつです?」
橘「日曜日。寝る前に調べたんだ」
七咲「日曜日……ということは記憶を失う前!?病院じゃないことは確か」
突然、七咲の表情が変わった。
何やら僕がお守りを持っていないことをすごく気にしているらしい。
橘「どうしたの?お守りがどうかした?」
七咲「い、いえ。別に」
橘「……」
僕が持っていない安全祈願のお守り……それに一体何の意味があるのだろうか?


お昼過ぎ
輝日東駅
七咲「さぁ、着きましたよ。ここが私たちの故郷、輝日東です」
橘「わぁ……ここが輝日東か。あ……あれって!」
梅原「いよっす!大将!俺様がお出迎えだぜ」
橘「あ、梅原」
梅原「何だよ、何だよ。その冷たい態度は。せっかくのお出迎えが台無しだぜ」
梅原「それとも……俺じゃなくて美女の方がよかったか?」
橘「いや、別に。ありがとう、梅原」
七咲「美女?何のことです?」
梅原「あ……いや、久しぶりだな、七咲!!」
七咲「久しぶり?まだ2日しか経っていませんよ」
梅原「あれ?そうだっけか?いやぁ、2日前より美女になってるから気付かなかったぜ」
七咲「お世辞は結構です。それより、美也ちゃんは?」
梅原「うわ……バッサリ斬られた……」
梅原「美也ちゃん……来たくないってよ。逢ちゃんとは逢いたくないって」
橘「やっぱりか……」
七咲「美也ちゃん……」
梅原「何があったかは知らねぇが、早く仲直りしろよ」
梅原「じゃ、行こうぜ。輝日東高校へ」
橘「……ああ」
七咲「……そうですね」

住宅街
七咲「ところで梅原先輩。仕事はどうしたんです?」
梅原「ああ。休暇をもらったよ。親父が行って来いって!」
梅原「くぅ!我が親父ながら、泣かせてくれるぜ!」
梅原「おめぇの大事なダチなんだろ?だったら行って来い!こっちは俺に任せろ……」
梅原「だってよ!」
橘「いい親父さんじゃないか!」
七咲「後でちゃんとお父さんにお礼を言うんですよ、梅原先輩」
梅原「ったりめぇだ!じゃなきゃ罰が当たる!」


輝日東高校・正門
梅原「さぁ、ここが輝日東高校だ。俺たちの母校だ!」
梅原「麻耶ちゃんには予め伝えてあるから早速逢いに行こうぜ」
橘「麻耶ちゃん?誰?お前のガールフレンド?」
梅原「まぁ、そんなところだ。とにかく逢えばわかるって!」
七咲「まさかとは思うけど……」

輝日東高校・職員室
橘「え?ここ職員室だけど?麻耶ちゃんって生徒じゃないの?」
七咲「……」
梅原「失礼します!」
高橋「あら。梅原くんと……それに橘くんに七咲さん!お久しぶりね」
七咲「高橋先生、ゴールデンウィーク以来ですね。お久しぶりです」
梅原「麻耶ちゃん、お久!!相変わらず美人だねぇ」
橘「え?麻耶ちゃんって……先生だったの!?」
高橋「うん?梅原くんに橘くん!麻耶ちゃんじゃないでしょ!」
高橋「高橋先生とお呼びなさい!」
梅原「はいはい!高橋先生」
橘「え?た、高橋先生?うわ……何と言うか……美人」
高橋「梅原くん、『はい』は一回でよろしい」
梅原「はーい」
高橋「それに橘くんも……どうしたの?何か様子が変よ」
梅原「麻耶ちゃん、よくぞ聞いてくれた。実はな……」
七咲「梅原先輩。ちょっと黙ってください」
梅原「うっ」
七咲「高橋先生。大事なお話があるので、場所を変えてもらってもいいですか?」
高橋「大事なお話?……それじゃあ、応接室でいい?」
七咲「はい。お願いします」

輝日東高校・応接室
高橋「それで?大事なお話って?」
七咲「はい。橘先輩の……ことです」
高橋「やっぱりね。さっきの七咲さんの表情がすごく真剣だったからわかったわ」
七咲「高橋先生も薄々感づかれたと思いますが、橘先輩は……記憶喪失なんです」
七咲は僕が記憶喪失になった経緯と輝日東に帰省した理由を高橋先生にすべて説明した。
七咲「……ですから、是非ともご協力をよろしくお願いします」
高橋「わかったわ。私にできることなら何でもするから」
高橋「まずは自己紹介からね」
高橋「私は3年間橘しゅうくんの担任をしていた高橋麻耶です。よろしく」
橘「高橋……麻耶……先生。ああ!それで麻耶ちゃんか!」
梅原「そういうことだ!」
高橋「こら、梅原くん。彼に余計なこと言わないで」
梅原「すいません。あーあ、麻耶ちゃんに怒られちゃったぜ。やったな!」
高橋「梅原くん、あなたは出て行きなさい」
七咲「そうですよ。外で待っていてください」
梅原「な、七咲まで……わかったよ。後でな」
梅原はまさかの退場。
高橋「まったく。いちいち話の腰を折るんだから」
橘(この人が……こんな素敵な人が僕の担任の先生だったのかー!)
橘(僕は……何て幸せ者なんだ……!!)
高橋「それで、話の続きね」
橘「は、はい!どうぞ」
僕は緊張のあまり、背筋をピーンと伸ばした!
七咲「ん?何やってるんです?先輩」
橘「ほら、真面目に話聞くんだよ」
七咲「……はい」

その後、高橋先生は僕の3年間について話してくれた。
担任の目から見て、僕がどんな生徒だったのか話してくれた。
だけど、それを聞いても僕は何も思い出せない。
高橋先生がすごく一生懸命に説明してくれたのに、何だか申し訳ない気持ちになった。
話は3時間にも及んだ。もう夕方だ。空がすっかり赤く染まっている。
幸い高橋先生は授業がなかったので落ち着いて会話できた。
さすがに梅原は待ちくたびれてどこかへ行ってしまったみたいだ。
最後に、高橋先生の許可を得て放課後の校舎内を散歩することになった。
すでに生徒の下校時間が過ぎているので、校舎内に生徒はいない。
最初に教室、図書館、屋上などを順番に回る。しかし、何も思い出せない。
次に二人の思い出が一番深いと思われる校舎裏、プール、ポンプ小屋を回った。

校舎裏
七咲「2年前のお昼休みによくここで二人でお弁当を食べていましたね。覚えていますか?」
橘「うーん……」
七咲「私が毎日先輩の分のお弁当も作ってました。懐かしいですね」
橘「そう言われれば……そうだったような……でもな、うーん」
七咲「校舎裏と来れば……先輩、こっちです」
橘「うん」

プール
橘「あ!ここって……」
七咲「どうしました?」
橘「何だろう?何か引っかかるんだよ。ここで……何かあったはずなんだ!!」
橘「何て言うか……こう……ちょっと衝撃的な出来事が……」
七咲「例えば、私を追って制服のままプールに飛び込む……とか?」
橘「うーん、それ近いような、遠いような。だめだ。わからない」
七咲「大分思い出してきているんですね?でしたら次は!」

ポンプ小屋
七咲「ここはどうです?」
橘「見たところ、ただの汚いポンプ小屋だけど……ここで何が?」
七咲「先輩と私が……キスをしたところです」
橘「え?七咲と……キス??ここでか?」
七咲「はい」
橘「ここが……」
七咲「あの!」
橘「うん」
七咲「先輩が、よければ」
橘「うん……」
七咲「キス……いいですか?」
橘「えっ?」
橘(な……何を言ってるんだ!いきなりキスするのか?)
七咲「あ、やっぱり……駄目ですよね」
橘(で、でも、せっかくのチャンスなんだ!ここで断ったら僕は男じゃない!)
七咲「そうですよね。今の橘先輩は……別人ですから」
橘「いいよ」
七咲「え?」
橘「キスすれば……何か思い出すかもしれないんだろ?だったら!」
七咲「ほ、本当ですか?」
橘「うん。い、いいよ。緊張するけど」
七咲「では、私から」
橘「うん」
七咲の顔が徐々に近づいて来る。そして……
七咲「ん」
橘「ん」
橘(記憶喪失になってから初めてのキス……この感覚、何故か覚えている)
橘(七咲の唇って確かこんな感じだったっけか?すごく気持ちいい)
七咲「んん」
橘「んん」
橘(この感じ、何か思い出せそう!もっと味わっていたい)
しかし、そう思った矢先!まただ!
橘「う……く……」
ドンッ!
七咲「きゃっ!」
僕は突然激しい頭痛に襲われ、痛みに耐え切れなくなって……
思わず七咲を突き飛ばしてしまった!
幸い七咲の後ろにはワラが積んであったので……
それがクッションとなり、七咲は無傷で済んだ。
七咲「先輩!突然何を!?あ……大丈夫ですか??」
僕は思わず、その場にしゃがみ込んだ。
橘「うあ……くそっ。まただ!また……激しい頭痛が!」
橘「何かを思い出そうとするたびにこの頭痛に襲われる」
橘「今せっかく、思い出しかけたのに!!」
七咲「先輩。とりあえずここを出ましょう。立てますか?」
橘「う、うん。何とか」

輝日東高校・保健室
僕は保健室のベッドに仰向けに寝ている。
七咲「今高橋先生にお願いして職員室からタクシーを呼んでもらいました」
橘「あ、ありがとう」
七咲「いえ。それよりもう頭痛は大丈夫ですか?」
橘「うん。さっきよりは引いたけど、まだ痛む」
橘「どうしてだろう。せっかく思い出しかけたのに、頭痛が邪魔する」
橘「よっぽど怖い思いをしたのかな?思い出しちゃいけないのかな?」
七咲「……」
橘「あ、ごめん。その前に言うことがあった」
橘「さっきは……いきなり突き飛ばしたりしてごめん。怪我、なかった?」
七咲「あ、いえ。平気です。ワラの上に倒れたので」
橘「ごめん。本当にごめん。僕、ひどいことしたよな」
七咲「仕方ないですよ。先輩がひどい頭痛に襲われているのも知らずに……」
七咲「私ったらいつまでも先輩を離さなかったので」
七咲「悪いのはむしろ私の方なんです。ごめんなさい」
橘「そんなことない!七咲は悪くない」
七咲「いえ。本当に。悪いのは……私なんです」
七咲「あれは私の欲だったんです。先輩を……離したくなくて」
橘「七咲……」
七咲「せっかく取り戻した先輩のぬくもりを決して無くしたくはないから……」
七咲「二度と……失いたくないから。先輩を絶対に離さないって決めたんです」
橘「……」
七咲「ごめんなさい。ご迷惑……ですよね」
橘「え?」
七咲「……」
橘「……」
七咲はその場に俯いた。
橘「そんなことない!」
七咲「え?」
僕は何故か無性にそう叫びたくなった。
そうせずにはいられなくなったんだ。
橘「僕、嬉しいよ」
七咲「え?先輩?」
橘「七咲が僕のことをそこまで想っていてくれたなんて」
橘「僕も……七咲が好きだから」
七咲「え?ほ、本当ですか?」
橘「うん」
自分でもどうしてかわからない。
突然、聞き覚えのないセリフが口を突いて出た。
でも、前にもどこかで同じセリフを言ったような気もする。
どこだったかまでは思い出せないけど。
七咲「先輩……」
七咲(このセリフ……確か私が温泉で先輩に告白した時に先輩が返してくれたセリフ)
七咲(先輩、覚えてたんだ……覚えててくれたんだ……)
橘「七咲?どうしたの?ボーッとして」
七咲「あ、いえ。嬉しくて……つい」
橘「そっか」
七咲「はい」
橘「あの……七咲の彼氏だったっていう橘しゅうがどんな奴だったかは知らない」
橘「僕はそいつには全然及ばないかもしれない」
橘「だけど、こんな僕でよければ、その橘しゅうの代わりになりたい」
橘「いい……かな?」
七咲「……」
橘「……」
七咲「いいに……決まってるじゃないですか」
橘「七咲……」
七咲「是非とも、私の橘しゅう先輩の代わりになってください」
橘「……」
七咲「でも、言っておきますが、あくまで代わりですからね」
七咲「だって、先輩は私の橘しゅう先輩にはまだまだ及びませんので」
橘「うう……ひどい」
七咲「冗談ですよ、クスッ」
橘「その冗談がきついよ……」
僕は掛け布団で顔を隠した。
七咲「あ、すみません。私、そんなつもりでは……」
橘「冗談ですよ、クスッ」
僕は顔を出してそう言った。
七咲「う……先輩、ひどいです」
橘「ひどいのはどっちだよ!まったく」
七咲「仕方ないですね。ここはお相子ということで」
橘「そうだな」
橘「……ところでさ」
七咲「はい」
橘「僕、実家までの帰り道がわからないんだけど……一緒にタクシーに乗ってくれる?」
七咲「ええ。最初からそのつもりですよ。当然じゃないですか」
橘「やった」
七咲「先輩、はしゃぎ過ぎです。何だか子供みたいですよ」
橘「そ、そうかな……」
七咲「ええ、大きな子供です」
橘「ははは……」
七咲「ふふふっ」
高橋「橘くんに七咲さん。タクシーが来たわ」
橘「はい。すぐ行きます」
七咲「ありがとうございます」
高橋「どういたしまして。二人とも、気をつけて帰るのよ。もう8時なんだから」
橘「え?もうそんな時間ですか?道理でお腹が空くわけだ」
七咲「時間が経つのが早いですね」
橘「高橋先生、ありがとうございます。さようなら」
七咲「ありがとうございます。お疲れ様です」
高橋「二人とも元気でよろしい!また遊びに来てね」
橘・七咲「はい」

高橋「橘くん、記憶喪失になっても七咲さんとあんなに仲がいい」
高橋「これは期待できそうね。クスッ」

その後、僕と七咲は正門からタクシーに乗った。
七咲の道案内でタクシーは無事に僕の実家に到着した。

20時半
橘家前
橘(へぇ。ここが僕の実家か。結構大きいんだな)
七咲「……」
橘「どうした?この前のこと、気にしているのか?」
七咲「はい。美也ちゃんのことが心配です」
橘「そっか。でも、お腹空いただろ?家で何か食べて行けば?」
橘「ついでに美也と仲直りできたら……」
七咲「そうですね。では、そうします」
カチャッ。
橘「え?ドアが勝手に開いた」
七咲「違いますよ。ほら、美也ちゃん……です」
美也「……逢ちゃん」
橘「美也……」
美也「いらっしゃい!!カレー作ったから食べて行って」
七咲「えっ?」
美也「ほら、お兄ちゃんも入った、入った!」
橘「う、うん。ただいま」

橘家・居間
美也「ほら。これがみゃー特製カレーなのだ!!」
橘「うわ……見た目はうまそうだけど……これ本当に食えるのか?」
美也「失礼ね!!お兄ちゃんのバカ。食べてみればいいでしょ?もう」
七咲「そうですよ、先輩。せっかくなのでいただきましょう」
橘「うん。いただきます」

橘「あ……う、美味い!!」
七咲「本当に、おいしいですね」
美也「でしょでしょ?にししし」
美也の作ったカレーは冗談抜きで美味しかった!
七咲「美也ちゃん、このカレー、一体どうしたの?」
七咲「味付けといい、野菜の切り方といい、前よりも断然上手くなっている」
美也「練習したんだよ。逢ちゃんに負けたくなくて一生懸命に」
七咲「美也ちゃん……」
美也「私、二人の役に立てないのがすごく悔しくて」
美也「まずは料理から頑張ってみようかなって思ったの」
美也「料理の本買って、一生懸命練習した!」
七咲「……」
美也「逢ちゃん……この前は本当にごめんね。みゃーもできるだけ努力するから!!」
美也「だから……いつまでもみゃーの親友でありライバルでいてほしい」
七咲「美也ちゃん……ありがとう」
七咲「うん!美也ちゃんは……いつまでも私の親友そしてライバルだよ」
美也「逢ちゃん!!」
七咲「美也ちゃん!!」
二人は涙を流し、抱き合った。
この前とは全く違う、深い深い、そして温かい友情がそこにはあった。
二人とも仲直りできて本当によかった。
美也「今日はもう遅いから泊まっていってよ、逢ちゃん」
七咲「え?いいの?」
美也「いいに決まってるよ!!だってみゃーの親友そしてライバルだし」
七咲「美也ちゃん……」
美也「あ、ちなみに、逢ちゃんの家には予めみゃーが連絡しておいたのだ」
美也「だから安心して泊まっていってね」
七咲「ありがとう、美也ちゃん」
僕はその場に二人を残し、電話機へと向かった。
何となく察しはついていた。

橘「やっぱり梅原か。美也に何か言ったんだろ?」
梅原「バレちまったか。そうだよ、俺があの二人を仲直りさせたんだ」
梅原「うまくいってよかったぜ」
橘「俺がって……まるで自分の手柄みたいに」
梅原「ははは……」
梅原「いやな、美也ちゃんが七咲と喧嘩したって聞いて……」
梅原「何とか仲直りさせる手段はないかと思って、美也ちゃんに喧嘩の原因を聞いたんだ」
梅原「そしたらそれが料理だとわかって、美也ちゃんにアドバイスしたんだ」
橘「そうだったのか」
梅原「ちなみにあのカレー、俺も作るの手伝ったんだぜ」
橘「え?あれ美也一人じゃないのか?」
梅原「ああ。お前は覚えてないかもしれないが、美也ちゃんは相当料理が下手なんだ」
梅原「料理の本を見ながら作ってもうまく作れないんだ、なっさけねぇことに」
梅原「何でも、隠し味とか言って変なものをドバドバ入れるんだ」
橘「え?そうなのか!」
梅原「ああ。だから、応接室からわざと追い出されて、美也ちゃんの元に急いだ」
梅原「仲直りのきっかけとなるおいしいカレーを作るためにな」
梅原「感謝しろよ。大将」
橘「梅原、ありがとう」
梅原「いいってことよ。お前も美也ちゃんも似たもの同士だからな」
梅原「まったく、二人とも世話が焼けるぜ」
橘「梅原……本当にありがとう」
梅原「ああ。お前も頑張れよ。んじゃ、また明日な。おやすみ!」
橘「ああ。また明日。おやすみ!」

橘「……」
橘「梅原……か」
梅原正吉……僕は本当にいい友達を持ったよ。
梅原がこんなにも友達思いな奴だったとはな。
僕は、世界一、幸せだ。

その夜、七咲は美也と一緒に寝た。
この前とは違い、隣の部屋からは時折笑い声が聞こえて来た。
二人とも満面の笑みで本当に幸せそうだ。
結局、二人は一晩中語り明かし、眠れなかったらしい。
僕も二人の笑い声のせいで眠れなかった。
案の定、翌朝三人とも欠伸を連発する始末……。
でも、僕はすごく幸せだ。
眠れなかったおかげで悪夢を見ずに済んだっていうのも一つの理由だけど……
それ以上に、二人の笑い声を聞けたのがとても嬉しかった。
本当に、輝日東って温かいんだな。
ありがとう、僕の故郷・輝日東。
僕は今日も頑張るよ!



第24話に続く。

2010-07-05

第22話「先輩、一緒に輝日東に帰りましょう」

夕方
新居・居間
七咲「ただいま。さぁ、先輩に美也ちゃん。どうぞ」
橘「お、お邪魔します」
美也「お邪魔しまーす。へぇ、広いんだねぇ」
七咲「覚えていないかもしれませんが、ここが先輩と私の家です」
橘「え?二人暮らし?君と?どうして?」
七咲「え?どうしてと言われましても……うーん」
美也「正直に話した方がいいんじゃない?」
七咲「そうだよね。うん。わかった」
美也「お兄ちゃん、とりあえずここ自分の家なんだから、もっとくつろげば?」
橘「え?くつろいで……いいの?」
美也「いいの!ほら座る!」
橘「あ……うん」
何が何だかわけがわからないけど……
とりあえず、ここは僕と七咲の家らしいので……
とりあえず、まずはくつろぐことにした。
七咲「それで……あの……先輩」
橘「あ……うん」
七咲「落ち着いて、聞いてください」
橘「……うん」
橘(怖いな。何を言われるんだろう?)
七咲「実は……先輩と私は恋人同士なんです」
橘「ええっ?嘘だろ?」
七咲「本当なんです」
橘「……信じられない」
美也「お兄ちゃん、これ見て」
橘「アルバム?……あ、ここにいるのって?」
七咲「はい。先輩と私です」
橘「これはいつの写真なんだ?」
七咲「2年前の輝日東高校のベストカップルコンテストです」
橘「ベストカップルコンテスト?何それ?」
七咲「輝日東高校では毎年クリスマスイヴに創設祭が開祭されます」
七咲「その創設祭にはベストカップルコンテストという企画があります」
美也「当時3年生だったお兄ちゃんと2年生だった逢ちゃんが一緒に出て優勝したんだよ?」
橘「そうなのか?」
美也「みゃーはその場にはいなかったけど……後でウメちゃんに聞いたんだ」
橘「ウメちゃん?」
美也「梅原正吉。通称ウメちゃん」
七咲「本人は嫌がっているみたいですが……美也ちゃんはそう呼んでいます」
橘「なるほど」
美也「相当恥ずかしいことしたんだよ、お兄ちゃん」

回想
第8話「先輩、今日は創設祭ですね」より
橘「待ってくれ!」
七咲「えっ?」
観客「おお?」
タタタ…ガバッ。
七咲「えっ??」
橘「僕は…七咲のすべてが好きだー!!」
橘「七咲のことが…大好きなんだーーーーーーーー!!」

橘はステージ上で七咲を思いっきり抱きしめてそう叫んだ!!
七咲「………」
観客「………」
アナウンス「………」
塚原「ふっ。彼やるわね」
森島「わぉ…大胆ね」
その場にいた塚原先輩以外のすべての人が唖然とする…
観客「ブラボー!!」
アナウンス「…!!す、素晴らしい!まさかの…大胆不敵な公然告白です!!」
橘「……」
観客からは歓声が湧き上がる!!
橘「よかった…」
七咲「よかったじゃありません!先輩、恥ずかしいです…」
そう言いながら七咲も僕の肩に手を回してくる。
観客「お!抱き合ったぞ!!いいぞ、もっとやれ!!」
観客「ちくしょう!羨ましいぜ!!」
観客「彼かっこいい!!」
塚原「七咲の好きなところを聞かれて、緊張のあまり何も言えず…」
塚原「やむを得ず、思い切った行動に出た…ってところかしら」
塚原「彼ならやると思ったわ」
森島「ひびき冷静すぎるわ!絶対おかしいって!」
橘「七咲…」
七咲「橘先輩…」

橘「えっ……お、覚えてない」
美也「ええっ?よくもあんな恥ずかしいことをそう簡単に忘れられたね」
美也「みゃーだったら記憶を失ってもこればかりは衝撃的過ぎて覚えていそうだけど」
七咲「美也ちゃん……無理もないよ」
七咲「だって先輩は恥ずかしいことを平気で人前でできる変な人だから」
美也「……そだね。そういえばそんなお兄ちゃんだった。はぁ」
橘「僕が変な人?何のことだかさっぱり」
美也「とにかく!これで本当だってわかったよね?」
橘「……何が?」
美也「ええっ、もう忘れたの?あきれた」
美也「お兄ちゃんと逢ちゃんが恋人同士だってこと」
橘「あ、ああ。何となくだけど、わかった」
七咲「それで、話を先に進めます」
橘「うん」
第11~13話より
七咲「えっと、それから去年のゴールデンウィークの話になりますが……」
七咲「先輩と私は同棲してお互いに近い大学に通いたいということになって……」
七咲「私の両親に直々に許可を得るために、先輩が私の家に来ました」
橘「……」
美也「そ、そうだったの!?」
七咲「え?美也ちゃん、先輩から聞いてなかったの?」
美也「だって、お兄ちゃん意地悪で教えてくれなかったもん」
美也(突然気絶させられてお寿司をごちそうになっているうちにすっかり忘れてた)
美也(そういう真面目な理由なら正直に言ってくれればよかったのに。バカにぃに)
七咲「そして両親の許可を得て、晴れて同棲することになりました」
橘「なるほど。そうだったのか」
七咲「こんな感じの説明でわかりましたか?それとももうちょっと……」
橘「ううん。だいたいわかった。でも、やっぱり思い出せない」
七咲「いえ。焦って思い出そうとしなくてもいいです。まだこれからですから」
美也「ああ……みゃーお腹空いた。逢ちゃん、そろそろご飯にしようよ」
七咲「わかった。じゃあ、先輩の大好きなカレーを作るね」
美也「あ、カレーならみゃーも手伝う!」
橘「?」
七咲「いいよ、美也ちゃん。私一人で十分だから」
美也「でも、逢ちゃん今日は色々あって疲れてるでしょ?みゃーも手伝うから」
七咲「じゃあ、お言葉に甘え……」
橘「だめ!!お前は手伝うな!!」
美也「え?」
七咲「先輩?」
橘「あ……いや。何故か今そう思った。理由はよくわからないけど」
美也「さてはみゃーが料理下手とか言いたいんでしょ?馬鹿にしないでよ!!」
美也「みゃーだってカレーくらいはおいしく作れるんだから!」
橘「……ごめん」
七咲「……」



美也「お待たせ~」
七咲「お待たせ……しました」
橘「ああ」
美也「あれ?逢ちゃんさっきよりも余計に疲れてない?大丈夫?」
七咲「う、うん。大丈夫」
七咲「……まったく、誰のせいで疲れたのか」
美也「ん?今何か言った?」
七咲「あ……ううん。何でもない」
橘「いただきます」
美也「いっただっきまーす。……おいしい!さっすが、みゃーと逢ちゃんなのだ!にししし」
七咲「……」
七咲(はぁ。いつもの倍疲れた)
七咲(美也ちゃんたら料理の基本すらなっていなくて……)
七咲(美也ちゃんの無謀を止めるのに必死だった……)
七咲(やっぱりさっきの先輩の態度……もしかしたら何か覚えている?)
七咲(美也ちゃんが料理が下手だってことを覚えていて咄嗟に出た行動?)
美也「どうしたの?逢ちゃん顔色悪そうだけど?食べないの?」
七咲「あ、ううん。いただきます」
橘「ん?」
橘(これはきっとカレー作ってる最中に何かあったんじゃ?)
七咲「先輩。どうです?おいしいですか?」
橘「うん。どこかで食べたことのあるような味がする。よくわからないけど」
七咲「そうですか」
美也「……」

カレーを食べ終わって、僕が風呂に入っている間……
七咲と美也は二人で夕飯の後片付けをしている。
七咲「……」
美也「……ねぇ、逢ちゃん」
七咲「ん?どうしたの、美也ちゃん」
美也「もしかして……怒ってる?」
七咲「え?」
美也「だって、カレー作ってる時くらいから逢ちゃんずっと顔色悪そうだから」
美也「もしかしたら、それみゃーのせいなのかな?」
七咲「……」
美也「実は料理上手じゃないのに無理やり手伝って、余計逢ちゃんに負担をかけたから」
七咲「そんなことない!」
美也「嘘!!絶対にみゃーのせいだよ。みゃーが……みゃーがいけないんだ」
七咲「……」
美也「病院を出る時、逢ちゃんが言ってくれたこと、すごく嬉しかった」

回想
第21話「先輩、これから一緒に頑張りましょう」より
七咲「ねぇ、美也ちゃん。ちょっといい?」
美也「どうしたの、逢ちゃん」
七咲「お願いがあるんだけど。あのね」
七咲「いきなり先輩と二人っきりだとお互いに気不味いと思う」
七咲「それで。先輩が慣れるまでしばらく美也ちゃんに一緒に住んでもらいたいの」
七咲「お願い」
美也「うん。うん。わかったのだ!」
七咲「ありがとう」

美也「あの時、みゃーも二人の力になれるって思ってすごい嬉しかった」
美也「だけど、来て早々、力になるどころか余計迷惑かけた……」
七咲「迷惑だなんて……そんな」
美也「今夜はもう遅いからここに泊まって行くけど、明日になったら輝日東に帰るね」
七咲「明日だなんて!もっとそばにいてほしいのに」
美也「ありがとう。でも、みゃーがいない方がお兄ちゃんも思い出しやすいと思うよ」
橘「二人とも、おふ……」
美也「だって、みゃーは……二人にとって邪魔だから」
七咲「!!」
橘「ん?」
僕はその場に足を止め、遠くから二人の様子を伺う。
美也「悔しいけど、私は逢ちゃんには何一つ勝てないよ」
美也「だから力になるどころか、足手まといにしかなれない」
七咲「美也ちゃん……」
美也「それにさ。今浪人生だから帰って真面目に勉強しないと」
美也「というわけで、美也は明日の朝、輝日東に帰ります」
美也「今日はありがとう、逢ちゃん」
七咲「……」
七咲は今にも泣き出しそうな顔をしている。
美也「泣かないで。せめて最後くらい笑顔で。ね」
七咲「美也ちゃん!」
二人は抱き合う。
そこには深い、深い友情が確かにあった。
でも、何故だろうか、二人の間に少しだけ距離ができた気がする。
橘「……」
美也「さてと。片付けも終わったことだし、みゃーはさっさとお風呂に入って来るね」
七咲「……」

その夜
ベッドが2つしかないので、美也は七咲のベッドで一緒に寝ることになった。
七咲の寝室
七咲「……」
美也「……」
七咲「ねぇ、美也ちゃん。起きてる?」
美也「……」
美也は狸寝入りしている。
七咲「寝ちゃった……のかな。はぁ」
美也「……」
七咲(美也ちゃんが、まさかあんなことを言うなんて)
七咲(先輩のことも美也ちゃんのことも、すべて私のせい)
七咲(本当に何やってるんだろう、私は)
美也(ちょっと……きつく言い過ぎたのかな?)
美也(逢ちゃん、落ち込んでいなければいいけど)
美也(はぁ。気不味い。このまま何も話さずに輝日東に帰りたい)
美也(早く、朝が来てほしい)

橘しゅうの寝室
橘(あの二人……夕飯前はあんなに仲良かったのに、どうしてだよ?)
橘(どうして突然気不味い雰囲気になってるんだよ?)
橘(元はと言えば、その原因を作ったのは僕なんだ!)
橘(僕のせいで二人を仲違いさせてしまったんだ!)
橘(うう……何だか頭が痛くなってきた。眠れない)
橘(それに喉も渇いた。ちょっと台所に行こう)

居間
橘(ん?さっきのアルバムか。出しっ放しじゃないか)
橘(ちょっと見て行こう)

そこにはコンテストで優勝を決めて喜ぶ僕と七咲の姿があった。
別の写真には塚原先輩や森島先輩、それに見たこともない人たちが写っている。
この、七咲が着ている衣装、結構可愛くて似合ってるじゃないか。
どうして僕は覚えていないんだ!?
どうしてこの写真の二人はこんなにも嬉しそうな顔をしているんだ!?
この頃に戻りたい……。
早く記憶を取り戻したい……。
いけない。
こんな暗いことばかり考えていたら、さっきよりも頭痛がひどくなってきたみたいだ。
もしかしたら、僕はちょっとだけ思い出しかけているのかもしれない。
でも、頑張って思い出そうとすると頭痛がそれを邪魔する。
もしかしたら、思い出しちゃいけないのかな?
そのくらい、怖い記憶だって言うのか?

とりあえず、早く台所で水を飲んで寝室に戻ろう。


翌朝
新居・居間
美也「逢ちゃん、おはよ……」
七咲「美也ちゃん、おはよう」
橘(やっぱりこの二人の間にはまだ少し距離があるみたいだ……)
美也「……」
七咲「……」
橘(二人は一言も言葉を交わすことなく朝飯を食べている)
橘「あ、あの……」
美也「お兄ちゃん、どしたの?」
七咲「先輩、どうかしましたか?」
橘「あ、いや。何でもない」
橘(僕には……二人に返す言葉が見つからない)
美也「じゃあ、そろそろみゃーは行くね」
橘「どこに?」
美也「輝日東に……帰るんだよ」
橘「どうしてそんな急に!?」
美也「だって、私がいない方がお兄ちゃんは記憶を取り戻しやすいから」
橘「そんなこと……あるものか!?」
美也「……」
七咲「先輩……」
橘「だいたい何なんだよ、二人とも」
橘「昨日の夕飯前はあんなに仲良かったのに……」
橘「今じゃあいさつ以外に言葉を交わさなくなった」
橘「僕の……せいなんだな?」
美也「違う!」
橘「僕がこんなことにならなければ二人はずっと仲良くいられたはずなんだ」
橘「すべて……僕の……」
七咲「それは違います!だって……」
ピンポーン。
橘「あ……松原たちが来たみたいだ。じゃ、僕は行くね」
美也「行ってらっしゃい……」
七咲「行ってらっしゃい……」
僕は少し後ろめたさを感じながらも家を出た。
美也「お兄ちゃん……」
七咲「……」

橘しゅうの大学
松原「ほら、ここが俺らの大学だ」
華村「1限は必修科目だ。教室は5階」
橘「……」
松原「ちょっとまだ時間あるし、キャンパス内をぐるぐる回ろうか」
橘「うん」

華村「……んでな、法学の講師がゴリラに似てるから、お前がゴリラってあだ名付けたんだぜ」
橘「……」
松原「そうそう。ここが学食で、ここのラーメンはマジでうまいんだぜ!」
華村「自販機も結構色んな種類の飲み物が売られていて……おい?どうした?」
橘「……」
松原「もしかして……七咲との間に何かあったんだろ?」
橘「……」
華村「そうなのか!?俺らも力になりたい。聞かせてくれ」
橘「実は……」

松原「そっか。美也ちゃんは料理が下手……メモメモ」
華村「おい……まだあいつ狙ってんのか?いい加減諦めろ」
松原「ええっ?……って!話題が違うって」
松原「どうやって仲直りさせればいいんだろうな」
華村「直接言ったんじゃ余計傷つけるだけだしな」
橘「だから難しいんだ。僕の記憶さえ戻れば……」
松原「でもさ、しゅうちゃんも七咲も悪くないと思うぞ」
橘「えっ?」
松原「単に妹が料理が下手だったってことが原因なんだろ?」
松原「七咲はお前の妹を傷つけたくなくて嘘をついてまでかばおうとした」
松原「でも、妹にはバレバレで、妹は責任を感じて身を引くことにした……」
松原「そんな妹を哀れに思った七咲。だからお互いに気不味い雰囲気になったんじゃないか?」
橘「そうかもな。でも、どうすればいいんだ!?」
華村「そうだなぁ……料理さえ上手くなればな……」
橘「料理だけじゃない。あらゆる面で美也は七咲に劣っているらしい」
橘「本人がそう言ってたんだ。だからそう簡単には」
華村「じゃあ、しょうがないからほとぼりが冷めるのを待つか」
松原「その間に美也ちゃんが努力してくれれば丸く収まるんだが」
橘「うーん」
松原「って!やべ!あと5分だ。急ぐぞ」
華村「おう!」
橘「うん」


その夜
橘しゅうの寝室
美也が帰って僕と七咲はまた二人っきりになった。
でも、昨日のことが原因でお互いに気不味くて、ほとんど口を利かずに夜を迎えた。
橘「ほとぼりが冷めるのを待つ……か」
僕は何故だかわからないけど、それではだめな気がした。
よく時間がすべてを解決してくれるって言うけど……
そんなのは嘘だ!!
二人を再び直接逢わせて仲直りさせないと!!
だけど……大学が……くそっ。
うう……また頭痛が……
早く、眠ろう。

橘「う……うう……く、苦しい」
橘「誰なんだ、キミたちは!?」
僕は悪夢を見てうなされている。
僕の夢には……
黒髪ロングで頭が良さそうな女の子、ちょっとぽっちゃりした女の子とその友達……
髪の毛がもじゃもじゃした女の子とその友達の女の子などなど……
見たことはあるけど誰だかわからない女の子たちが登場して彼女たちが頻りに僕の名前を呼んでいる。
でも、僕は彼女たちが誰だったのか思い出せなくて……すごく苦しい。
七咲「先輩。先輩!」
橘「あ……七咲か」
僕は七咲の呼びかけで悪夢から現実に帰って来た。
七咲「大丈夫ですか?今、うなされていましたよね?」
七咲「私の部屋にも先輩のうめき声が聞こえてきました」
橘「う、うん。大丈夫。……ちょっと怖い夢を見たんだ」
橘「誰だかわからない、でも見たことはあるような女の子たちが……」
橘「僕の名前を呼んでて、思い出せなくて怖くて……」
七咲「先輩。もし、ご迷惑でなければ、先輩が寝付けるまで私がそばにいます」
橘「え?」
七咲「いい……ですか?」
橘「……」
七咲「……」
橘「うん。そうしてもらえるとありがたい」
七咲「はい。では、私はここにいますから、安心してお休みください」
橘「ありがとう」
(イメージソング=ゆかな「そばにいてあげる」
その後、七咲のおかげかぐっすり眠ることができた。
起きたらいつの間にか七咲はいなくなっていた。
たぶん僕が眠ったのを確認して自分の寝室に戻ったのだろう。


翌朝
橘「おはよう」
七咲「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」
橘「うん。おかげさまで」
七咲「そうですか。ならよかったです」
橘「……」
七咲「今日はパンでいいですね?焼いて来ますね。あ……」
フラッ。
七咲が一瞬よろめいた。
橘「危ない!」
ガシッ。
僕は無我夢中で、倒れそうになった七咲に駆け寄って行き、後ろから七咲の両肩を支えた。
七咲「あ……」
橘「だ、大丈夫?寝不足じゃない?無理しない方が……」
七咲「あ、いえ。大丈夫です」
橘(きっとまた僕のせいなんだ。僕なんかのために七咲は寝不足だったんだろう。くそぅ)
七咲「それよりも早く食べないと遅刻しますよ」
橘「あ、うん」

橘しゅうの大学
松原「おい?それマジかよ?やべぇじゃん」
橘「そうなんだ。何か、眠ろうとすると悪夢に襲われるんだ」
橘「そんな僕を心配して、僕が寝付けるまで七咲は僕のそばにいるんだ」
華村「で。そのせいであいつは寝不足なんだな?」
橘「うん」
松原「……やっぱりさ、大学なんかサボって、さっさと帰省した方がいいんじゃねぇ?」
松原「じゃないとお前も七咲も毎晩寝不足できつくなるぞ?」
華村「そうだそうだ。早く記憶取り戻せよ。大学の講義のことは俺らが引き受けるから」
橘「でも……」
松原「それにさ。お前と七咲のためだけじゃない」
松原「七咲と美也ちゃんを早く仲直りさせた方がいいんじゃねぇ?」
橘「う……それもあるか」
橘「わかった。今夜相談してみる」

その夜
橘しゅうの寝室
しかし、結局七咲に相談する勇気が湧かなかった。
事態は平行線を辿る一方かと思われたが……
橘「う……うう……」
まただ!また僕は悪夢に襲われている。
七咲「先輩……」

もう、限界かもしれない。
このままでは先輩も私も生命がいくつあっても足りない。
早く先輩の記憶を元に戻さないと!!
早く輝日東に帰らないと!!
大学の講義と愛する人……私は一体どっちが大事なの!?
考えるまでもない。……決めた!私は決めた!
大学の講義はしばらくサボって輝日東に帰る。
大事な大事な橘先輩のために。
先輩とともに、思い出の場所へ、私は帰る。

先輩、行きましょう!
一緒に輝日東に帰りましょう!




第23話に続く。

2010-07-03

第21話「先輩、これから一緒に頑張りましょう」

外は相変わらず強い雨が降っている……
まだお昼過ぎだというのに空は黒い雲で覆われ、真っ暗だ。
橘しゅうの病室
橘「僕は一体誰なんですか?」
七咲「……そんな……本当に何も覚えていないんですか?」
塚原「どうやら原因はわからないけど、記憶喪失のようね」
松原「俺、先生呼んで来ます!」
松原が僕の主治医を呼びに行った。
梅原「おい。俺はお前の高校時代の……いや、今もか」
梅原「親友の梅原正吉だ!覚えてるだろ?」
橘「……」
僕は静かに首を横に振った。
梅原「マ、マジかよ……」
美也「みゃーのことも覚えてないの?妹だよ」
橘「……わからない」
美也「お兄ちゃん……」
松原「呼んで来たぜ!!」
医師「紹介します。こちらは精神科医です」
精神科医「よろしく。……では早速診察します」



精神科医「わかりました。彼は逆行健忘です。登山する以前の記憶が失われています」
精神科医「学業や日常生活を過ごすには支障はありませんが……」
精神科医「自分を含めた人の名前、過去の出来事といったエピソード記憶が失われています」
梅原「え?それってつまりどういう……?」
精神科医「はい。勉強した内容や日常生活を過ごすために必要な知識は残っています」
精神科医「でも、思い出はすべて失っています」
七咲(思い出……つまり先輩と私が積み重ねてきた約3年間の思い出はすべて……)
華村「ちっくしょーーーーーー!!」
塚原「先生。やはり原因は山からの転落による精神的ショック……つまり心因性でしょうか?」
精神科医「はい。おそらく。脳に損傷は見られないため心因性と思われます」
塚原「……なるほど」
橘「先生……僕は……治るんですか?」
精神科医「はい。心因性なので、何かショックになるような出来事に遭遇すれば治ります」
橘「ショック?」
塚原「彼を思い出の場所に連れて行って、何らかの刺激を与えれば治るわ」
美也「あ、じゃあ輝日東高校は?一番思い出深い場所だから!」
美也「それに実家に帰ればアルバムがあるよ!」
梅原「うお!美也ちゃん冴えてる~」
美也「にししし」
塚原「でも、大学の講義はどうなるの?そっちも重要じゃないの?」
松原「そんなんサボればいいっすよ!」
華村「そうそう。大学の講義なんてただ眠いだけだし」
七咲「それはだめです!!講義は受けることに意味があります」
松原「でもさ、このまま一生記憶が戻らなかったらどうなるんだ?」
松原「就活の時に履歴書書けないぞ。面接だってちゃんと答えられないし」
七咲「あ……確かに」
華村「だからサボっちゃえばいいんじゃない?」
美也「ちょっと待ってよ!言いだしっぺだからこんなこと言うのも難だけど……」
美也「お兄ちゃんは大学サボれても逢ちゃんはどうなるの?」
美也「お兄ちゃんが帰省している間、逢ちゃんはこっちに独りだよ」
美也「サボって一緒に帰省するにしても1年生だから必修とか多いだろうし」
美也「二人とも出席日数が足りなくて留年なんてことになったら……」
美也「みゃーは耐えれないよ!!」
梅原「それもそっか」
松原「ふっ、何を言ってるかさっぱりわからないな」
松原「七咲は……しゅうちゃんがいなくたって独りじゃないだろ?」
七咲「え?」
松原「俺や華村、それに塚原さんがいるし」
七咲「あ……」
塚原「……」
華村「違うだろ?そういう問題じゃない」
華村「七咲の性格からしてしゅうちゃんのことが心配で心配でたまらないはずだ」
華村「ずっと一緒にいたい……くっついていたい……イチャイチャしていたい」
華村「だろ?」
七咲「え……?」
華村「ほら、図星だ!だから俺やまっちゃんや塚原さんじゃ……」
華村「七咲の心は満たせないってことさ。残念ながら。くそぅ」
塚原「残念ながら、今のは一理あるわ」
梅原「そう……だよな」
美也「はぁ」
精神科医「とにかく。彼を連れ出して刺激を与えることが一番の治療です」
精神科医「でも、あまり無理はなさらないでください」
精神科医「山からの転落が原因ならショックが強いので……思い出すのも辛いはずです」
七咲「わかりました。ありがとうございます」
一同「ありがとうございます」

梅原「さてと、どうするよ?大将」
橘「……」
七咲「……」
七咲は無言で病室を出て行く。
塚原「……七咲」
梅原「そういえばどうして塚原先輩はここにいらっしゃったんです?」
塚原「ああ、それはね」


病院の廊下
人気のないベンチ
七咲「……」
独り俯いている。

橘先輩は……すべてを忘れてしまった。
橘先輩と出逢った3年前の11月末から今までのすべての思い出を。
つまり今は出逢う前、お互いのことをまだ知らない状態に逆戻りした。
すべてが……リセットされてしまった。
二人で必死に積み上げてきた、この約3年間が……すべてリセットされてしまった。
それは紛れもなく私のせいだ!他の誰でもない私のせいだ!
私があの時、ちゃんと先輩を止められていたら、こんなことには!!

回想
今朝
新居
七咲「雨、降ってますね。本当に大丈夫なんですか?」
橘「大丈夫。あいつらも来るって言ってたし」
七咲「雨だと足場が滑りやすくなって危険なんですよね」
七咲「下山中の先輩にもしものことがあったら私……」
橘「大丈夫だって!今夜ちゃんと帰って来るから」

私はなぜあんな不吉なことを言ってしまったんだろう……
そのせいで先輩が……。
いや、これはきっと……夢なんだ。悪い夢を見ているに違いない。
橘先輩は隣の部屋で寝ている……
きっとそうに決まっている!!
こんな嫌なこと……夢の中だけにしてほしい。
でも、これは夢なんかじゃない!!現実なんだ。
夢なんていう嘘……そんな嘘は絶対につけない。
これは紛れもなく現実の出来事で……
最近調子に乗りすぎた私に対する天罰なんだ。
先輩のことをもっと大切に思うべきだったんだ。
だから天罰として、私は橘先輩から引き離された。
私が……私がいけなかったんだ。

七咲「ぐすっ、ぐすっ。先輩……ごめんなさい」

私は……最低な彼女です。
もう、橘先輩に逢わせる顔がない……
神様。私みたいな最低な彼女なんてどうなったっていい。
でも、橘先輩のことは助けてあげてください!!
あの人は……何も悪くないんです。悪いのは私。
いっそ、このまま、私の存在を、橘先輩の頭の中から消して……

??「こらこら。そんな叱られたワンちゃんみたいな顔しないの」
七咲「え?」
??「キミ、何で泣いてるの?お姉さんにわけを話してみて」
七咲「え?この声……どこかで」
七咲が少しずつ顔を上げると……
七咲「あ……森島先輩」
森島「あれ?逢ちゃんじゃない。誰かと思った」
七咲「森島先輩。どうしてここに?」
森島「うん。ちょっとね。高校時代の友達が入院してて」
森島「今彼女、ひびきと同じ大学に通ってるの」
森島「それで待ち合わせしたひびきがいなくて……」
森島「看護婦さんに聞いたらこっちに来たって」
森島「そしたら、なんと!!ベンチで泣いてる女の子がいるじゃない!?」
七咲「あ、すみません。見苦しいところを」
森島「何があったの?その様子だと彼に何かあったのね?」
七咲「はい。実は……」



森島「なるほど。そりゃ自分を責めたくもなるわね」
七咲「本当に私のせいなんです」
森島「どうしてそう思うの?」
七咲「だって、私があんな不吉なことを言ったから……」
森島「でも、逢ちゃんは彼のために行かせてあげた……違う?」
七咲「え?」
森島「外は雨。一歩間違えば危険な状況。本当は止めるべきだった」
森島「だけど、逢ちゃんは敢えて止めなかった」
森島「彼の交友関係に傷をつけないため」
森島「それにお守りを持たせて、彼は必ず無事に帰って来ると信じた」
森島「これってさ、相手を思いやる気持ちがないとできない行動じゃない?」
七咲「……」
森島「ついでに言うとお守りが彼を生命の危機から守ったんじゃない?」
森島「普通なら即死か重傷のはずよ。でも彼は軽傷と記憶喪失で済んだ」
七咲「……」
森島「きっと逢ちゃんの祈りが通じたからよ」
七咲「森島先輩……」
森島「しかもその記憶喪失もいつかは治るんでしょ?」
森島「記憶が戻ればまた元の彼に戻るんでしょ?」
森島「だったら諦めずに頑張ろうよ。私も出来る限り協力するから」
七咲「森島先輩!ありがとうございます」
森島「さ。早くこれで涙を拭いて」
森島先輩は私にダックンタオルを渡した。
七咲「ダックンですか。クスッ。かわいいですね」
森島「そう。そうやって、今みたいに笑って」
七咲「……」
森島「逢ちゃんは……泣いているよりも笑っている方が断然かわいいから」
七咲「クスッ。そうですね」
森島「さあさあ、早くひびきの所に案内してよ」
森島「勝手に場所動かないでって文句言ってあげなきゃ」
七咲「わかりました」
塚原「遅れて来ておいて何言ってるの?」
七咲「あ……塚原先輩」
森島「ひびきちゃん。いつからそこに?」
塚原「たった今来たところよ。はるかが遅いから電話しようと思って」
塚原(というのは嘘。ナイスフォローだったわ、はるか)
森島「そうなんだ……」
七咲「とりあえず橘先輩の病室へ」


夕方
橘しゅうの病室
森島「お邪魔しまーす」
梅原「うおお!森島先輩。お久しぶりです」
美也「さっき塚原先輩から話を伺いました」
森島「あー!美也ちゃんじゃない!!かーわいい」
美也「ふえ?あ……森島先輩、くすぐったいです」
森島「この、この!」
橘「あの……あなたは?」
森島「ああ、そっか。初対面だもんね」
森島「私は森島はるか。あなたと同じ輝日東高校出身で一つ上の先輩よ。よろしく」
橘「ど、どうも」
橘(きれいな人だな……)
梅原「そういえば俺らもまだ自己紹介してなかったな」
森島先輩?と一緒に入って来た女の子が僕の財布の中から学生証を取り出し……
近くのテーブルに置いてあった手鏡と一緒に持って来た。
七咲「橘しゅう……これが先輩の名前です。鏡もどうぞ」
橘「たちばな、しゅう?へぇ。そうなんだ」
橘「……確かに、この写真、僕の顔だ」
七咲「思い出しましたか?」
橘「……わからない」
七咲「そうですか」
梅原「とにかく、お前の名前は橘しゅうだ。あだ名は大将!」
松原「しゅうちゃんって呼んでもいいよな?」
橘「あ……うん」
橘(大将に……しゅうちゃんか。どうやら僕はそう呼ばれていたらしい)
橘「じゃあ、キミは?」
七咲「私は七咲逢。先輩と同じ輝日東高校出身で、1つ下の後輩です」
華村「ついでにお前のかの……んんんん」
森島先輩?が隣にいた男の子の口を塞いで耳打ちする。
森島「こーら。見知らぬ女の子を指さして、この子はお前の彼女だとか……」
森島「突然言われたらびっくりするでしょ?」
華村「あ、そっか。ごめんなさい」
森島「グー。いいお返事ね」
梅原「ほんでもって。俺は梅原正吉。お前と同じ輝日東高校出身で、元同級生だ」
梅原「お前とは小学校から一緒で、家も近く、高校では剣道部に所属していた!」
梅原「幽霊部員だった時期もあったけどな」
梅原「寿司屋の次男坊でお前の親友だ」
橘「は……はぁ」
橘(何だか、寿司屋の息子だけあって威勢のいい奴だな)
美也「えっと……」
松原「俺は松原正義」
美也「にゃ!」
松原「しゅうちゃんとは同じ大学の同じ学部学科に所属していて、ついでに学年も一緒だ」
松原「俺も同じくしゅうちゃんの親友だ!」
美也「え……」
華村「俺も同じく親友の華村政治だ。よろしく」
橘「ああ。二人ともよろしく」
橘(松原に華村か)
美也「……」
塚原「美也ちゃん、お先にどうぞ」
美也「え?いいんですか?さっすが、塚原先輩。ありがとうございます」
美也「それに比べてどっかの空気の読めない人たちは……」
松原・華村「誰のことだ!?」
美也「おっほん。私は妹の橘美也。逢ちゃんとは輝日東高校で同じクラスだったんだ」
美也「お兄ちゃんは私のことよくかわいがってくれてた」
梅原「あれ?そうだっけか?」
美也「そーよ!そーに決まってる!!」
梅原「いててて……ごめん、美也ちゃん」
橘「……」
橘(妹……か。僕には妹もいたのか)
塚原「私は塚原響。はるかと同じよ。よろしく」
橘「よろしくお願いします」
橘(強面だけど、すごく優しそうな人だな)
森島「そうそう!響ちゃんにこっちの逢ちゃんは元輝日東高校水泳部でね」
森島「インターハイの優勝経験を持つの。しかも二人とも2連覇」
橘「へぇ。それってすごいですね!」
森島「でしょでしょ~?照れるなぁ」
七咲「あの……森島先輩」
塚原「照れるのははるかじゃないでしょ?」
森島「あれ?そうだっけ?」
七咲・塚原「はぁ」
橘「クスッ」
七咲「え……今橘先輩」
塚原「笑った?」
橘「あ。ごめんなさい。なんか、つい見てて面白くて」
七咲「あ……」
森島「これは見通し明るいかもね」
松原「ん?」
華村「俺らにはさっぱりだ」
松原「ところで、しゅうちゃん」
橘「あ、ああ」
松原「この子、俺がもらっていい?」
美也「ふえ?」
松原「しゅうちゃんの妹を……俺にください!!お願いします!!」
美也「え?だめだめ!!お兄ちゃん、絶対だめだよ!!だめって言ってね」
橘「うーん……」
美也「悩むなぁ!!」
森島「だーめ!キミにはあげないよ」
松原「え?何でです?」
美也「森島先輩」
森島「だって、この子は私のものなんだから!」
松原「え……ええっ!?そうなんですか!?」
森島「そう。ね、美也ちゃん」
美也「う……うん」
華村「本人乗り気じゃなさそうっすよ」
梅原「いいなぁ、美也ちゃんは。俺を森島先輩のものにしてほしいぜ!!」
森島「キミはダメ。美也ちゃんだけね」
梅原「く~~。悔しい」
塚原「で。自己紹介が終わったところでこれからどうするか考えましょ」
森島「作戦会議ね」
梅原「今日は日曜日。また明日から学校。まぁ、俺と美也ちゃんは学校ないけどな」
松原「問題となるのはしゅうちゃんと七咲か」
松原「学校をサボってまでその輝日東って所に帰るのかそれとも……」
華村「週末までちゃんと学校行って、金土日と輝日東に帰るのか」
美也「本当は今週一杯帰省する方が、毎週末にちょくちょく帰るよりも旅費は安く済むけど」
塚原「とりあえず、旅費の心配はしなくていいから。私とはるかで工面するし」
七咲「いえ。旅費をもらうことはできません。そんなのお二人に悪いです」
森島「かわいい後輩たちのためだから!そのくらいさせて。ね?」
七咲「で、でも……」
塚原「……で?キミはどうしたいの?」
橘「どう……って言われましても。うーん」
橘「とりあえず、学校行きます」
塚原「そっか。うん。それがいいと思う」
七咲「でも、学校行って大丈夫ですかね?校舎内で迷子になったり……」
松原「大丈夫さ。しゅうちゃんには俺たちがついている!」
華村「大学でのことは任せておけ!」
七咲「それが逆に不安というか……」
松原・華村「何ぃ!?」
七咲「あ、いえ。冗談ですよ。クスッ」
松原・華村「何だ、冗談かよ……」
七咲「しっかりと頼みましたよ」
松原「お、おう!」
華村「任せとけ!」
梅原「頼んだぜ、親友!」
松原「頼まれたぜ、親友!」
森島「よかったわね!それじゃあ、みんな解散しよっか!」
美也「おう!」
塚原「じゃあ、主治医に一言伝えて来るわ」
橘「よろしくお願いします!」
七咲「ねぇ、美也ちゃん。ちょっといい?」
美也「どうしたの、逢ちゃん」
七咲「お願いがあるんだけど。あのね」
七咲「……で。……の」
美也「うん。うん。わかったのだ!」
七咲「ありがとう」

塚原「うん。主治医が帰っていいって」
梅原「それじゃあ、帰りますか!じゃあ、美也ちゃん。一緒に輝日東に帰ろうか」
美也「えーやだ!みゃーはにぃにが心配だからこっちに残るのだー!!」
梅原「おいおい。それはまずいんじゃ……二人っきりにしてやれよ!」
美也「嫌なのだ!!記憶のないにぃにが変な気起こして逢ちゃんに襲いかかったら困るし」
梅原「襲わないって!好きでもない女の子を襲うか?普通」
美也「わかんないじゃん!!あのスケベ星人のことだからきっと……」
美也「突然思い出していきなり襲いかかるかもしれないし」
梅原「それはねぇって!」
橘「あの……一体何の話を?」
美也「あ、ううん。何でもない!!」
美也「とにかくみゃーはこっちに残るから」
梅原「そっか。じゃあ俺は寂しく一人で帰るぜ。とほほ」
松原「俺たちも家に帰るよ」
華村「じゃ、しゅうちゃん。明日8時に迎えに行くから。寝坊すんなよ」
橘「う……うん。わかった」
七咲「大丈夫です。私が寝坊を許しませんから」
美也「みゃーもいるからだいじょーぶ!」
松原「そ、そっか。じゃ、安心だな」
七咲「橘先輩。立てますか?」
橘「う、うん。何とか」
美也「にぃに!行こっ」
橘「にぃに?」
美也「あ、ああ。お兄ちゃんって意味ね」
橘「はぁ……」
森島「ふふっ。まずは好発進ってところかしら。ね、ひびき」
塚原「ええ。あの二人なら、きっと大丈夫」
塚原「何があっても乗り越えられると信じている」
森島「きっと、大丈夫……か。うん、そうだね!」


こうして僕は明日から……
みんなの協力を得て記憶を取り戻す努力をすることになった。
正直言ってかなり不安だ。
まだこの人たちのことを100%信用しているわけじゃない。
でも、まずは信じるところから始めてみようと思う。
何故なら、そこからすべてが始まる気がするからだ。

僕の出身高校である輝日東高校……
僕の後輩で元水泳部の七咲逢
彼女の同級生で僕の妹でもある橘美也
元剣道部で、僕の小学校時代からの同級生だった、寿司屋の次男坊で親友の梅原正吉
僕の先輩で元水泳部の塚原響先輩。
僕の先輩の森島はるか先輩。
僕の大学の同じ学部・学科・学年の松原正義華村政治

これからはこの7人の協力を得て頑張ることになる。
みんな、どうかこれから僕をよろしくお願いします。



第22話に続く。

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