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2011-03-11

エピソード「先輩、七咲家の初旅行に行きましょう 1日目」(ノベル)

僕と逢、それに娘の祈は金、土の2日間を利用して……
遠く離れた場所にある田舎の老舗温泉旅館に1泊2日の温泉旅行をすることになった。
目的は僕と逢の骨休めと、七咲家の思い出作りだ。
僕と逢はお互いを想ってお互いに無理をしすぎていた。
僕は逢のために署員旅行の話をパスして仕事に明け暮れた。
逢は僕のために祈の世話や家事など家のことを一切引き受けた。
今回の旅行は逢を休ませるために僕が逢に提案したものだが……
実際僕もちょっと疲れていたのかもしれない。
それに後から気付いたが、祈が生まれてからまだ旅行したことがなかった。
僕と逢は新婚旅行で1回だけ旅行したが、祈にとってはこれが初めての旅行なんだ。
だから、今回の旅行は七咲夫婦ではなく、七咲家としての初旅行なんだ。
しかも泊まる宿は金持ちが泊まるような高級老舗温泉旅館だ。
こんな高級な旅行が初旅行だったと知ったら成長した祈はきっと大喜びするだろう。
新聞の懸賞で旅行券を当てて僕にプレゼントしてくれた同僚の華村に感謝しないとな。
おかげで宿代はタダだ。
色々な意味で今回の旅行が楽しみだ。

「……」
「……」
「あの!」
「あの!」
「あ……」
「あ……」
「あ、逢からいいよ」
「え、え?先輩からどうぞ」

現在、特急列車に乗っている。
僕と逢は向かい合っている席の通路側に座っている。
ベビーカーは窓側に置いてある。
ベビーカーを通路側に置くと二人とも寝てしまった時に持って行かれてしまう危険性があると逢が言ったからだ。
まあ、こんな田舎に赤ん坊を盗む奴なんていないとは思うけど、用心に越したことはない。
ちなみにベビーカーには、名前の由来となった安全祈願のお守りがぶら下がっている。
祈の名前が決まったその日に僕が急いで神社に買いに行ったもので、僕と逢が持っているものとまったく同じものだ。

「え、えっと……外の景色がきれいだなぁって」
「はい……そうですね」
「都会とは大違いだよ」
「私もそう思います」
「……」
「……」

う……会話が続かない。
確かに旅行は楽しいけど、移動中ってかなり暇なんだよな。
逢と向かい合って、いったい何を話せばいいんだろう?
普段平気でキスとかしょっちゅうしていても、こういう時って案外照れくさいもんだ。

「えっと……」
「はい」
「逢は何を話したかったの?」
「えっ?」
「ほら、さっき……」
「あ……はい。ええっと……」
「うん」
「……」
「……」
「ト、トイレ行って来ますね。祈を見ていて下さい」
「……うん」

逢はその場から逃げるようにトイレに向かった。
やっぱり……照れくさいよな?

「……」
「……」

逢が席を外している間、僕はじっと祈を見つめる。
祈を見ていろって言われたから。

「……」
「……」

それにしてもよく眠っている。
僕はまだ祈が起きている姿を見たことがない。
僕が仕事から帰る時間にはいつも眠っているから。
でも、今日明日はずっと一緒だ。
起きている姿を見るチャンスがついに訪れる。
あ、忘れてた。日曜日も休みだった。
3日連続で祈と一緒にいられる。

「何でそんなにじっと見つめているんですか?」
「えっ?」

逢が戻って来た。

「おかえり。いや、祈を見ていろって言われたから」
「確かに見ていて下さいとは言いましたが、そんなに見つめなくていいです」
「あ、あはは……そうだよな。まあ、かわいかったから……つい」
「そうですか……」
「逢と一緒だよ」
「えっ?」
「その……かわいいから……つい」
「ええっ??」

そう言って僕は逢を見つめる。
逢は照れくさくて視線をずらす。

じーーー。

「う……」

僕は逢をずっと見つめる。
逢は顔を赤くする。

じーーー。

「せ、先輩……」

「お弁当でございます!!」

「えっ?」
「はぁ。よかった……」

車内販売員が予め注文していた車内弁当を配りに来た。
しかも空気を読んだのか、僕と逢の間に割って入った。
気のせいかなぁ?ちょっと表情が怖い。
「お前らこんな真っ昼間から何してんだ?」みたいな表情をしている。
しかも女性販売員が……。
僕は驚き、逢は安堵している。

「ご注文は以上でしょうか?」
「あ、じゃあ、僕はホットコーヒーのMで。逢は何か注文する?」
「じゃあ私はお茶にします。ホットの緑茶のMを」
「かしこまりました」

車内販売員が去って行った。

「ふふふ、残念でしたね」
「本当だよ。タイミングよすぎ!」
「それじゃいただきましょうか」
「そうだな」

僕と逢はお昼ご飯を車内で食べる。
家を出た時はまだ朝だったのに、今はもうお昼だ。
道理でお腹が空くわけだ。
この特急列車にももうかれこれ1時間は乗っているけど、まだあと1時間はかかるらしい。
まあ、退屈だけど気長に待つしかないな。
この2時間をずっと眠って過ごせる祈がうらやましくなった。

それから1時間経過して目的地の最寄り駅に着く。
ここから宿までは送迎バスがあるらしいんだけど、1時間に3本のペースでしか運行していない。
さっきのバス、何とか走れば乗れそうだったけど、荷重な逢にペースを合わせたため乗り遅れた。
まあ、仕方がない。次のバスを待とう。

……それにしても、逢の荷物は何だかすごく重そうだ。
キャリーバッグに自分の着替えや祈に必要な用品をいっぱい詰め込んでいて……
さらにベビーカーまで引いている。
それに比べて僕は何て身軽なんだろう?リュック1つだ。
せっかく逢を休ませるために連れて来たのにこれでは逆効果だ。
手伝ってあげよう。

「逢、何か持とうか?」
「えっ?あ、別に平気です」
「ベビーカーと旅行鞄両方じゃ大変だろ?どっちか持つよ」
「いえ、いいですよ」
「よくないって。いいから貸して」
「えっ?あ……じゃあ、ベビーカーお願いします」
「オッケー」

僕はベビーカーを引き受けた。

「ありがとうございます」
「いや、当然のことをしたまでだよ」
「……」
「……」
「バス、行っちゃいましたね」
「うん。暑いからどこか木陰で待とうか」
「はい」

そういえば今季節は夏だ。見渡せばアイスクリーム屋があちらこちらにある。

「アイスクリーム買って来る?」
「いえ、いいです。夕飯が食べられなくなりそうなので」
「そっか。でも、せめて水は買おうか。暑いから脱水には気を付けないと」
「そうですね。お願いします」

僕は近くの自販機でミネラルウォーターを2つ買って戻る。

「ごくごくごく……はぁ。生き返るー」
「ん、ん、ん……はぁ。おいしいですね」

僕はミネラルウォーターを見て不意に思い出した。

「あ!ふっ……は~~~~~~」
「ん?……ひゃっ!」
「ふふふ」
「もう!いきなり何するんですか!」
「あの時のしかえし!逢とまったく同じことをやっただけだよ」
「あの時?」
「ほら、祈が生まれる前夜のことだよ」
「あ!あれですか」

(参照:エピローグ特別編「先輩、私最高に嬉しいです!! 中編:前夜に……」

祈が生まれる前夜、自宅で突然陣痛に襲われた逢を僕は病院に連れて行った。
翌日に生まれるかもしれないとのことで逢はすぐに入院することになった。
広い病室にたった一人で泊まることになった逢がすごく不安がったので、僕が付き添った。
その夜は……他に誰もいない真っ暗な広い病室で……逢と……あんなことやこんなことをした……。
そのうちの一つが今のだ。
冷たいミネラルウォーターを飲んで冷えた息を逢が僕の耳元に吹きかけた。
あの時は相当びっくりしたんだ。

「そうだ。思い出したか?」
「……」
「え?もしかして怒ってる?」
「今夜」
「今夜?」
「部屋を分けましょうか」
「えっ?」
「先輩だけ一人で」
「えっ?ええっ?そ、そんなのやだよ」
「あの時と同じく、広い部屋を貸しきってそこに先輩だけ一人で」
「こ、こわ!」
「お化けに逢えたらいいですね」
「い、いるか、お化けなんて!!」
「老舗旅館なのでいるかもしれませんよ」
「は??」
「何でも、聞いた話によるとあの旅館、過去に宿泊客の一人が自殺したことがあって……」
「えっ?」
「それ以来、お化けが出るとのことで、旅館の女将の提案で高級旅館に格上げしたそうです」
「何のために?」
「決まってるじゃないですか。最高のおもてなしをすることでお化けに祟られないようにするんです」
「ええっ?」
「そんな旅館の、しかもお化けが出る部屋に先輩は一人で泊まれるんですよ?もっと喜んで下さい」
「い、嫌だ……ぼ、僕は逢と一緒の部屋がいい」
「だめです」
「どうして?」
「罰ゲームです」
「う……」

そ、そんな!ちょっといたずらしただけなのに、そんな怖い部屋に泊まらなきゃいけないのか!!
逢、お願いだから許してくれ!!
僕、嫌だよ。怖いよ。

「先輩?」
「うう……」
「何を焦っているんです?冗談ですよ」
「えっ?何だ、冗談か。よかった……」
「本気にしたんですか?」
「だ、だって……悪いか!本気でびっくりしたよ」
「すみません。そんな幽霊話、ないので安心して下さい」
「部屋は?」
「仕方ないので一緒でいいです」
「よかったぁ」

僕は心底安心した。

「ふふっ、今のは単なるしかえしです」
「単なるって……冗談にもほどがあるよ」
「すみません」

でも……その話が本当だったらちょっと興味はあるけどな。

そんなこんなで、逢と雑談しているうちに送迎バスが到着した。
やっと宿に向かえる。


宿に到着し、早速チェックインを済ます。
旅館の従業員の話によると、この旅館の近くに動物園があるらしい。
しかもこの旅館の宿泊客限定で動物園の入場料がタダになるという。

「先輩、行きましょう」
「うん。じゃあまずは部屋に荷物置いてくか」
「はい」

部屋に到着する。
内装は12畳間の普通の和室だが、外の景色は絶景だ!
山に面していて自然豊かな感じの景色だ!

「うわ……」
「きれい……ですね」
「うん」

外の景色に僕も逢も見惚れていた。

「逢、祈を連れて来て。写真撮ろう」
「はい」
「カメラ、お願いできますか?」
「かしこまりました」

逢が祈を抱き上げる。
僕は旅館の従業員にカメラを渡す。
外の景色を背景に3人が写った写真を2、3枚撮影した。
これが七咲家の初旅行の集合写真となった。

「どうする?すぐ行く?それとも」
「行きましょう」
「休まなくて平気か?」
「平気です。少しくらい疲れた方が温泉に浸かった時気持ちいいので」
「それもそうか」

僕はとりあえず財布と携帯電話とカメラがあればいいかな。
カメラを首からぶら下げた。
そんな僕を横目に逢はキャリーバッグを開けて中身を取り出す。

「何してるの?」
「準備です。色々必要なものがあるので」
「あ、そっか。祈のおしめとかか」
「そういうことです」

逢は折りたたまれた空のショルダーバッグを取り出して広げ、そこに荷物を移した。
なるほどね!大きい鞄の中に小さい鞄を入れておいて小分けにするのか!
大は小を兼ねる……さすが逢!気が利くなぁ!

「先輩のカメラもこっちに入れて下さい」
「分かった」
「……じゃ、行きましょうか」
「うん。今度はそっちのショルダーバッグを持つよ」
「はい。お願いします」

僕は逢のショルダーバッグを持ち、逢はベビーカーを押して、動物園を目指した。
本当にすぐ近くなので迷うこともなかった。

「そういえば初めてだな」
「初めて?」
「うん。逢と一緒に動物園に来るのはこれが初めてだよな」
「そうですね。水族館なら先輩と一緒に行ったことありますが」
「ああ、あの水泳のタイムが伸び悩んでいた時期か」
「ええ」
「あの時は本当に心配したよ」
「心配かけてすみませんでした」
「ううん。いいんだ。あの出来事がなければ今こうして一緒にいることはなかっただろうし」
「……はい」
「……」
「……」
「動物園っていつ以来だろう?僕は小学校かな?修学旅行だった気がする」
「私も同じです。先輩と同じ輝日南小学校でしたので」
「そういえばそうだったな。じゃあ二人とも小学校の修学旅行以来なんだな」
「ええ。すごく懐かしいですね」
「じゃ、行こうか」
「はい」

輝日南小学校……か。
逢の両親は同じ輝日南小学校と輝日東高校出身らしい。
そして僕と逢もまた同じ。
だとしたらこの子は……祈は……やっぱり輝日南小学校に通わせた方がいいのだろうか?
祈が小学生になる前に輝日東への転勤を考えるべきなのか。
逢と一緒に輝日東に住む……でも、どこに?橘家なのか七咲家なのか。それとも……。
ま、いいや。それはまた後で逢に相談してみよう。
せっかくの楽しい雰囲気をぶち壊さないためにも、今は考え事はなしだ。

早速動物園に入場する。
この動物園は大規模で色々な種類の動物がいる。

「先輩、見て下さい。鹿ですよ、鹿」
「へぇ、鹿もいるんだぁ!」

鹿かぁ。お前の仲間には数年前困らされたもんだ。
どういうことかと言うと……

「トナカイ」
「え?」
「先輩がトナカイと間違えた鹿ですね!クスッ」
「あ、いや……あはは」

こういうことだ。
逢が告白してきたあの日、温泉に行く途中で鹿に出逢った。
僕は鹿とトナカイを素で間違えてしまったが、逢には「じょ、冗談だよ。僕なりの」と言い訳をした。
後で調べたら鹿もトナカイも同じイカ科の哺乳類だし、あながち間違っていないんじゃ……?

「あ!逢、ちょっとこっち来て」
「え?はい」

僕が逢を呼んだ先……そこには日本猿に餌をやるコーナーがあった。

「僕が餌をやるところ、撮ってよ」
「分かりました」

飼育員から餌をもらって、右手で餌をつまんで、日本猿の檻に慎重に右腕を伸ばした。
逢がシャッターを構える。僕は顔を上げてカメラ目線になる。
1匹の日本猿が餌を咥えた。

「いきます!はい、チーーズッ」

パシャッ!

「うまく撮れた?」
「はい、ばっちりです!」
「よかった」

僕が安堵した瞬間!

バクッ!

「ぬお!」

ドタッ。

「あ……クスッ。あははは……」
「わ、笑うなよ!びっくりしたんだから!」
「だ、だって、先輩の驚き方が……プッ!あははは……」
「あ、逢……」

餌を咥えた日本猿が急に暴れだした。
最初は大人しく咥えていたけど、写真を撮り終えた瞬間、急に僕の手に噛み付く勢いで餌をかじった。
これにはさすがの僕もびっくりしてコケてしまった。

「あははは……」
「そんなに笑うなよ」
「す、すみません。小学校の修学旅行の時の美也ちゃんにあまりにもそっくりだったので……その……つい」
「美也に?」
「はい」
「え?美也も日本猿に餌やったことあったのか」
「あれ?聞きませんでした?」
「うん」

まあ、普通そんな恥ずかしいことを軽々しく話すわけないよな。

「実は美也ちゃんも日本猿に餌をやろうとして噛み付かれそうになってびっくりして泣いてたんです」
「そ、そうだったのか!……って、あれ?」
「どうしました?」
「美也と逢って小学校同じクラスだったっけ?」
「いえ、たぶん別のクラスでした」
「じゃ、どうして知ってるの?」
「偶然です。美也ちゃんと偶然同じ檻の前で逢って……」

――
「よし、今からこの日本猿にみゃーが餌をやるのだ!にーしっしっしっし」
「本当に大丈夫なのか、橘?」
「そうだよ、危ないよ美也ちゃん」
「だーいじょぶなのだ!みゃーに任せて」
「……」
……
「ほらほら、餌なのだー」
バクッ!
「にゃーーーーーーーー。猿に噛まれたあああああ」
「おいおい。あははは」
「み、美也ちゃんたら……あははは」
「……クスッ」
――

「私は離れて傍観していましたが、思わず笑ってしまいました」
「へぇ、そうなのか。あいつ動物園のこと何もしゃべらなかったからなぁ」
「後でそれが隣のクラスの橘美也だと知って、高校で偶然同じクラスになった時……」
「あー!あの時の女の子か!……ってなったわけか」
「はい」
「美也にはそのこと話したの?」
「いえ。かわいそうだったので、誰にも話していません。先輩が初めてです」
「そっか。ありがとう」
「ありがとう?」
「い、いや、何でもないよ」

これは後で美也を揺するネタに使えそうだぞ!
美也に話しても誰から聞いたかバレない!
だって逢は当時隣のクラスだったし、美也には話していないし!

「ちなみに逢はやったことあるの?」
「いえ。クラスの子に付き合って他の檻に行ってしまったので、まだ……」
「じゃあ、やってみせてよ」
「え?私がですか?」
「だってまだやったことないんだろ?いい思い出になるよ」
「え……?」

逢が日本猿の檻を見つめる。

「う……」
「あれ~?もしかして怖いの~?さっきの僕を見ていたから~?」
「そ!そんなわけ!……ないじゃないですか」
「じゃあ、やってみせて。期待してるから」
「わ、分かりました……」

今度は逢が挑戦。
飼育員から餌をもらって、右手で餌をつまんで、日本猿の檻に慎重に右腕を伸ばした。
僕はシャッターを構える。逢は顔を上げてカメラ目線になる。
1匹の日本猿が餌を咥えた。

「いくよ!はい、チーーズッ」

パシャッ!

何故か逢がやった時は猿は大人しかった。つまらない!
と、僕はここでちょっといたずらを思い付いた。

「うまく撮れました?」
「あれ?さっきシャッター音が鳴らなかった気がする」
「え?」
「ごめん、もう一回撮り直しだ」
「ええっ……もう仕方ないですね」

逢が再び挑戦。

「お、お願いだから、大人しくしててね」

逢は猿に向かってそう言い、ゆっくりと腕を伸ばした。
逢と同じタイミングで小さな子が別の猿に向かって餌を渡そうとし……

バクッ!

「きゃ!」

ドンッ!

「え??」
「うええええええん」

バクッ!

「ひゃっ!」

「今だ!!」

パシャッ!!

「やった!ベストショット!!」

何が起きたかと言うと、小さな子が餌をやったら猿が突然餌に噛み付いた!
その子がびっくりして急に後ずさりしたらちょうど後ろにいた逢にぶつかった!
逢がびっくりして腕を揺らしたらそこへ猿が突然餌に噛み付いた!
そして僕はびっくりした逢をうまく写真に収めた!
すべての小さな偶然の出来事が連鎖して起きた大きな偶然の出来事!!
いやあ、逢にはいいものを見せてもらった。

「う……」

逢の目には涙が浮かんでいる。たぶん怖い思いをして反射的に出た涙だろう。

「泣くなよ」
「先輩、意地悪です。今の絶対狙ってましたよね?」
「そ、そんなことない。偶然だよ」
「さっきベストショットだって叫んでましたよね!」
「あ、ごめん。何かいい感じだったから思わず……」
「最低です」

逢はベビーカーを押して先に行こうとした。

「ま、待ってよ、逢!僕が悪かったって!」
「知りません!」
「逢!」
「先輩はこれでも食べてて下さい」
「うぐっ!」

逢が咄嗟に猿の餌を僕の口に突っ込んだ!
猿の餌って言っても果物だから人間でも食えるんだけどね。

「うぐっ!うぐっ……」
「おいしいですか?」
「うぐっ……」
「ふふっ」

大きい塊を無理やり突っ込まれたから苦しくて息ができない!
しかも噛み切れない!反射的に涙が出て来る!

「私にいたずらした罰です。ずっとそうやってて下さい」
「うぐっ……うぐっ……ふぁい……ふぁっへほ」
「何言ってるのか分かりません。ちゃんと日本語をしゃべって下さい」

僕は何とか噛み切って飲み込むのに必死だった。
ようやく飲み込めた。

「はーふーはーふー。し、死ぬかと思った」
「おいしかったですか?」
「う、うん」
「ならよかったです。お代わりがほしければ……」
「まだ言うか!」
「はい。私に意地悪をした罰です」
「う……」
「ふえええん。ふえええん」
「あ……」
「あ……」
「どうしたの?よしよし」
「……」
「先輩、ちょっとトイレ行って来ます。ここで待っていて下さい」
「分かった」

逢が祈を抱いてトイレに向かう。
こんな時まで世話をするなんて……大変だな。
いや、僕は何を言ってるんだ!人事じゃないだろ?
僕だってきっと何かできるはずなんだ……きっと。

「お待たせしました」
「それで?何だったの?」
「あ……ちょっとお腹が空いたみたいなので……」
「お腹が?」
「はい」
「そっか」

祈はお腹が空いたと。だから……

「先輩?」
「うん?」
「また何かエッチなこと考えていませんか?」
「い、いや、別に」
「そうですか」
「そろそろ夕方だな。残り一通り見たら旅館に戻ろうか」
「ええ。そろそろ温泉に入ってみたくなりました」
「よし、いこう!」
「はい」

動物園の残りの檻を見て回った。数枚写真を撮った。
もちろん僕と逢だけではなく祈もちゃんと写真に収めた。


そして動物園を後にして旅館に戻った。

「先輩、先に温泉行って来ていいですよ」
「いや、逢が先行っていいよ」
「いいんですか?」
「さっき意地悪しちゃったし、そのお詫びってことで」
「いえ、それはもう関係ありません。さっきのしかえしで許しました」
「え?許してくれたのか?」
「はい。先輩のあんな困った顔を見られたので満足です」
「ははは……ひどい」
「私は祈と一緒にここで待ってます。ゆっくりして来て下さい」
「分かった」

早速温泉に向かう。
木造建築の建物なので旅館全体が木のいいにおいがする。
大浴場に入った瞬間、硫黄のにおいと木のにおいが混ざり合ったとてもいいにおいがした。
しばらく輝日東を離れて都会で暮らしていたので、このにおいがすごく懐かしい感じだ。

チャプッ。

「はぁ~~~生き返る~」

この温泉の効能は疲労回復、冷え性、筋肉痛、関節痛などいっぱいある。
僕も最近仕事のし過ぎで肩が凝っていたのでちょうどいいかもしれない。

「はぁ~~~」

……
……

――
「私は先輩が好きです」
「うん」
「この気持ちが体に収まりきらないくらいに。隠そうとしてもだめなんです。溢れてくるんです。
 もう隠しきれないんです」
「七咲」
「はい」
「嬉しいよ」
「えっ?」
「七咲が僕のことをそこまで想っていてくれたなんて。僕も七咲のことが好きだから」
「えっ?本当ですか」
「うん」
「じゃあ、もう一度お願いします」
「七咲、好きだ」
「もう一度」
「好きだ」

ザバーーン。

「七咲?……うわ!」

ザバーーー。
――

「七咲?……うわ!」

ザバーーー。

「だ、大丈夫ですか?」
「えっ?」
「あなた今寝かかっていましたよ」
「えっ?」
「危うく湯に顔が浸かりそうになったので、私が顔にお湯をかけて……」
「えっ?ああ……ありがとうございます」

夢か……。
あれ?……てことは僕今寝てたのか。危ない危ない。溺死するところだった。
僕は逢が告白してきたあの日のことを夢に見ていた。
逢が湯にダイブして僕に跳びかかる場面で、近くにいた他の宿泊客が僕の顔に湯をかけて起こしてくれたようだ。
それにしても……気持よかった。
って、早く出ないと逢が夕食の時間に間に合わない!
今何時だ?……よかった。どうやら10分しか寝てなかったようだ。
もうちょっとしたら出よう。

僕は部屋に戻った。

「逢。ごめん、遅くなった!」
「……」
「え??」
「……」

逢が机に伏せて寝ている。
何だ、さっきの僕と同じじゃないか!似たもの夫婦だな。

「逢、起きろ」
「……あ、先輩」
「おはよう」
「え?今何時ですか?」
「えっと……朝の5時」
「え??」
「嘘」
「もう、ふざけないで下さい」
「ごめん。温泉行って来ていいよ」
「はい。そうします」

逢が準備をして温泉に向かう。

「温泉で寝るなよ」
「分かってます」

さあ、本当に分かっているのやら。
さっき温泉で寝ていた僕が言うのも難だけど。

こうして僕は初めて祈と二人っきりになる。
逢がいない間、当然祈の世話は僕がすることになる。

「……」
「よく眠ってるなぁ」

眠ってる祈の頭をそっとなでながら思う。
僕はこの子の父親として何ができるんだろうか。
抱き方も知らなかった僕にいったい何ができるんだろうか。
いやいや、諦めるのはまだ早い。
あの時だって、ちゃんと克服できたじゃないか!
あの時っていうのは、逢が祈を妊娠したことが分かった時。
逢のために何かしようと必死になっていた。
最初は何も家事ができなくて逢の役に立てないんじゃないかと諦めていた。
だけど、絶対に諦めたくないっていう気持ちが心のどこかにあった!
大好きな逢のために何が何でもこなしてやりたいという気持ちが強かった!
だから!その気持ちがあったからこそ、ここまで来れたんだ。
今だって同じだ。家事が育児に変わっただけだ。
僕ならきっとできるさ。全部逢のためだと思えば!!

そのためにはまず……抱っこからだ!これが一番基本的なことだと思う!
逢に僕の実力を認めてもらうにはまず、できなかった抱っこができるようになればいいんだ!!

僕は僕自身にそう言い聞かせ、抱っこの練習から始める。
絶対に大事なわが子を落とさないように座って抱き上げる。

「確か……こうだったか」

逢から教わった通りに抱っこしてみる。

「よし、いい感じだ」

僕は両腕をうまく使い、両腕で支えるようにして抱っこする。
安定しているのか祈は安らかに眠ったままだ。

僕は眠ってる祈を見つめながら数分間抱っこしていた。
何だろう、このオーラ。
ずっと抱っこしていても腕が疲れない。
いや、逆に癒されているのか。
柔らかくて温かくて何だか僕を包みこんでくれるような優しいオーラだ。

「……そうか。そうだったんだ……」
「……」
「このオーラは……何だか……逢にそっくりだ」
「……」
「やっぱり……君は逢の子なんだな」
「……」
「逢……」

僕は自分の顔を祈に近付けようとした。
もっとこの逢譲りの優しいオーラを感じたくて……

「逢……」
「先輩」
「え?」

突然背後から声がしたかと思うと、背後から僕を包み込む感じがした。
僕の背中に柔らかい感触……そして僕の両腕を下から支えている。
この感じ……

「逢」
「……」
「何だ、もう出てきたのか。もっとゆっくり休んでくればよかったのに」
「いえ、そういうわけにはいきませんよ」
「やっぱり……安心して僕に祈を任せられないからか?」
「……」
「……逢?」
「あの、先輩を疑うわけではありませんが、祈が心配だったので」
「……やっぱり」
「すみません」
「僕だって……やればできるんだよ!現にこうして祈を抱いているじゃないか」
「……はい」
「逢が祈を妊娠したあの日だって!僕は最初は何の役にも立てなかったけど、努力して役に立てるようになった」
「……」
「あの時と同じだよ。家事が育児に変わっただけ。こんな僕だって努力すれば……!」
「それは違うんです!」
「何が?」
「先輩には育児ができないなんて……そんなことまったく思っていません」
「……」
「私も先輩なら努力すれば何でもできると信じています」
「じゃあ、どうして?どうして心配して早く上がって来たんだ?」
「それは……」
「それは?」
「……」
「逢」
「もうこれ以上、先輩に苦労してほしくなかったんです」
「え?」

――先輩はいつだって全力で私を助けてくれた。
数学の追試で困っていた時、基礎からしっかりと教えてくれておかげで合格できた。
夜の小学校で野良犬に襲われた時、私をかばって一人で闘って野良犬を追い払ってくれた。
水泳のタイムが伸び悩んで絶望しかけた時、プールに飛び込んでまで私を支えてくれた。
インターハイの時、自分の受験勉強を放ってまで私を応援しに駆けつけてくれた。
水泳部部長になって不安だった時、私らしく指導すればいいってアドバンスしてくれた。
七咲家の辛い過去を知って、私と一緒にその重荷を背負って生きていこうと決意してくれた。
私の大学受験前夜、一緒に過ごしてくれたおかげで安心して大学に合格できた。
夫婦になって最初の頃、私が商店街で誘拐された時、単身で乗り込んで全力で助けてくれた。
そして私が祈を妊娠していた時、家事を引き受けてくれたり、初雪を体験させてくれた。
出産の時はずっとそばにいて支えてくれた。
……思えば、私は先輩と付き合い始めてからずっと先輩に助けられっ放しでした。
私からは何も……何もできていなかった。

「……」
「……」
「何だ、そんなことか」
「そんなことって……」
「気にすることないのに。むしろ僕の方が逢に助けられっ放しだったよ。特に大学受験と記憶喪失の時はな」
「……」
「家事や育児って外の仕事に比べたら断然大変だと思う」
「え?そんなことないです」
「いや、それがそんなことあるんだよ」

――仕事をするためには体や心が健康であることが大事だろ?
そのための重要な仕事が家事だよ。
僕が毎日安心して仕事ができるのは逢や祈がいてくれるからだよ。
逢が毎日頭をひねって栄養バランスのいい食事を作ってくれる。
逢が仕事で汚れてきた僕のために毎日お風呂を沸かして待っていてくれる。掃除も洗濯もしてくれる。
それだけじゃない。逢や祈、家族の笑顔に毎日包まれて心もずっと健康でいられる。
外じゃこうはいかないよ。
外は人混みで汚れるし、外食じゃ栄養は偏るし、人様はみんな他人で気が休まらない。
逢は気付いていないだけで僕以上に大変な仕事をしているんだよ。
だから、逢にたまには休んでもらいたくてこうして温泉に連れて来たんだ。

「……」
「夕飯までまだ間があるよ。もうちょっと入って来たら?」
「……」
「逢?」
「やっぱり……」
「……」
「やっぱりそれじゃ駄目なんです」
「え?」
「先輩を健康にするのが私の仕事だと言うなら、先輩に手伝ってもらっては駄目なんです」
「逢」
「それに、家事も育児も意外と大変じゃないんですよ。むしろ楽しいです」
「え?大変じゃないのか?楽しい?そんなに強がらなくても……」
「いえ。強がりなんかじゃないです。本当のことなんです」
「……」
「だって、先輩の喜ぶ顔がいつも頭に浮かんで、疲労なんて感じたことがないんです」
「僕の?」
「はい。大好きな先輩を喜ばせたくて毎日わくわくしながら家事や育児をしています」
「……」
「楽しくて仕方がないんです」
「……」
「先輩」
「うん」
「私を気遣ってくれたことに感謝します。でも、私は先輩の思っているほど弱くはありません」
「え?べ、別にそんな弱いなんて……」
「私を……信じて下さい。家のことは私にすべて任せて下さい。先輩は安心して毎日仕事して来て下さい」
「逢……」
「お願いします」
「……」
「……」
「分かった。そこまで言うなら信じよう」
「ありがとうございます」
「あ、でも」
「はい」
「あまり無理はするなよ。本当にきつくなったら、その時は正直に言って」
「はい。分かっています」
「あと……」
「はい。何ですか?」
「たまには僕にも手伝わせて。いい息抜きになると思うから」
「ふふっ。仕方ない先輩ですね」

逢が僕の両腕を支えていた両手を離す。
僕は向きを変えて逢と向きあう。
再び逢が両手で僕の両腕を支える。

「逢」
「先輩」
「ん……」
「ん……」

僕と逢はキスをする。
間にいる祈を二人で支えて押し潰さないようにしながらそーっと。

「ふえええん。ふえええん」

「あ……」
「あ……」
「ねぇ」
「はい」
「僕に……教えて。育児を」
「えっと……ちょっと待って下さい」

逢が祈を調べてみる。

「どう?」
「……遊んでほしいだけみたいです」
「そっか。じゃあ僕が」
「先輩にできますか?」
「バ、バカにするな!赤ん坊をあやすくらい僕にだって!」
「ふえええええええん」
「あ……」
「クスッ。怖がられてますね」
「わ、笑うなよ」
「先輩にはあやすことはできませんね」
「う……」
「どうしたの?ほら、泣き止んで」
「……」
「すごい。逢があやしたら一発だ」
「郁夫の世話で慣れてますから」
「やっぱり逢はお母さんなんだなー。僕なんて……」
「そんなことないですよ。先輩は立派なお父さんです」
「え?そうかな?」
「ええ。そうです。こうして家族のことを考えて旅行に連れて来てくれるのは立派なお父さんの証です」
「え?そ、そうか……照れるな」
「クスッ」

コンコン。

「お食事をお持ちしました」
「あ、はーい」

逢が扉を開けに行く。
部屋に夕飯が届けられた。しかも量が多くて豪華だ!

「うわ、うまそう!!ちょうどお腹減ってたんだ」
「じゃあ早速いただきましょうか?」
「うん。いただきます」
「いただきます」

豪華な夕飯を逢と二人で食べる。

「この出汁巻き玉子、おいしいなあ!!!」
「ええ。私もそう思います」
「逢がいつも朝作ってくれるのとちょっと味付けが違うみたいだね」
「これは……隠し味に味噌を使っているんでしょうか?」
「……うん。そんな感じかな」
「おいしいので今度挑戦してみますね」
「お?作ってくれるのか?」
「はい。もちろんです。先輩と祈のためなら私頑張ります」
「ありがとう、逢」
「いえ、お礼はいいですよ。当然のことをするまでなので」
「これ祈の離乳食にしてみたらどうかな?」
「祈の離乳食に?」
「うん。祈の初旅行で考案された七咲家の新メニューだから」
「初めてを……祈の初の食事に……ですか。いいですね!覚えておきます」
「今から祈の成長が楽しみだよ。……って、気が早いかな?」
「いえ。子供はすぐに成長するのでちょうどいいくらいです」
「そうだね。僕も成人になるのが何だかあっという間だった気がするよ」
「小学校を卒業するまでは長く感じますが、小学校を卒業したらあっという間って感じですね」
「そう。小学校の6年間って結構長く感じるよね」
「先輩もですか?私もです」
「いつになったらこの校舎から解放されるんだろうってずっと思ってた」
「あ、それ思いました!」
「だろ?」
「ええ」
「……」
「……」
「小学校……か」
「……」
「あ、そうだ。逢にちょっと相談したいことがあるんだ」
「私に相談?」
「祈のことでな」
「祈の?」
「その……小学校をどこにしようかって」
「え?というと?」
「ほら、逢の両親は同じ輝日南小学校と輝日東高校出身で、僕と逢も同じだっただろ?」
「はい」
「だから祈の小学校はこっちにするのか輝日南小学校にするのか……迷うんだ」
「……なるほど。それは私もちょっと考えていました」
「祈はできれば僕らの故郷で生活させてあげたい。でも……」
「そうするためには私も先輩も転勤する必要があるということですね」
「うん。僕は頑張れば輝日東署に転勤できると思うんだけど、逢はコーチと相談しなきゃいけないし」
「……」
「……」
「……難しいですね」
「やっぱり難しいか」
「でも、私も先輩とまったく同じことを考えていたので、何とか交渉してみます」
「あ、無理しなくていいからな」
「いえ、無理のない範囲で頑張ってみるつもりです。それより先輩こそいいんですか?」
「え?何が?」
「お友達と別れることになりますが」
「ああ、あいつらなら平気だよ。祈のことを考えて出した結論だって言えばきっと分かってくれる」
「いえ、そうではなくて……辛くないですか?長年付き合って来たお友達と別れるのは」
「……」
「……すみません。意地悪な質問をして」
「いや、いい質問だと思う。そうだな……僕は平気だよ」
「え?」
「だって、たとえ勤務先が変わったってあいつらと友達だっていう事実は変わらない」
「先輩……」
「またいつかきっとどこかで逢えると信じるよ」
「……ええ。そうですね」
「それに……逢と祈がそばにいてくれたらそれだけで僕は満足だよ」
「先輩……クスッ。お友達がかわいそうですね」
「いいんだよ。逢と祈が一番大切だから。ずっとそばにいてほしい」
「……」

逢は照れて無口になってしまった。
それからしばらく会話は途切れ、お互いに無言で夕飯を食べる。

「ふぅ。お腹いっぱいだ。さすがは高級旅館、量が多いな」
「ふふっ。先輩のお腹がイカ飯みたいになってますね」
「おっ!そのセリフ懐かしいな!さすってくれるか?」
「遠慮します」
「何で?ついこの前までイカ飯みたいだった逢のお腹をさすってやったじゃないか」
「誰がイカ飯ですか!それにあの時はあの時です。私は先輩のお腹なんてさすりたくありません」
「ひどい」
「ふふっ。冗談ですよ」
「え?じゃあ?」
「それでもさすりません」
「……」
「そんなに落ち込まないで下さい」
「逢が食べれば?残り」
「いえ、私もお腹いっぱいです。先輩がどうぞ」
「いや、逢は体力つけなきゃ」
「それを言うなら先輩こそ」
「いやいや、逢が」
「先輩が」
「分かったよ。じゃあ、せめて半分こな。僕も全部は食べ切れそうにないし、残すのもったいないし」
「分かりました。頑張って半分食べます」

僕と逢は苦し紛れに料理をすべて平らげた。

「ふぅ、食った食った」

そう言うと僕は横になった。

「先輩。食べてすぐに寝ると牛になりますよ」
「またまた~。子供みたいな冗談を」
「いえ、冗談ではありませんよ」
「……」
「……」
「あっそ」
「それより、ご飯も食べ終わって寝るまで暇なので、夜景でも見に行きませんか?」
「夜景?」
「はい。屋上から見る夜景は絶景だそうですよ」
「……じゃあ、行こう」

僕はご飯で重くなったお腹をゆっくりと持ち上げて立ち上がり、カメラを持って部屋を出た。

それから数時間の間、屋上で逢と夜景を眺めてまったりした。
本当に絶景だった……。

「あ、もちろん逢の方が……」
「はいはい。きれいだって言いたいんですよね?」
「え……」
「よくあるセリフですから」
「う……」
「でも、ありがとうございます」
「う、うん。どういたしまして」

この旅館……建物自体の造りに加え、接客、料理、温泉……いや、それだけじゃなくて立地条件も……
何から何まですべてが高級なんだな。
こんな高級な旅館に逢と祈と一緒に泊まることができて僕は幸せだ。
二人には最高のプレゼントができたと思う。
偶然とはいえ、懸賞を当てた華村には感謝しなきゃいけないな。
僕はこの時、そんなことを考えていた。

「あ、流れ星!」
「えっ?どこどこ??」
「……」
「逢?」
「ふふっ。もう遅いです」
「ええっ」
「だって先輩、今ボーッとしていましたから」
「うう……」
「私はちゃんと願い事できましたよ」
「な、何を願ったの?」
「秘密です」
「ええっ!教えてよ」
「さ、もう寝る時間ですよ。部屋に戻りましょう」
「逢~」
「クスッ」

結局逢は何もしゃべらなかった。
そのまま3人とも眠りに就いた。
逢の願い事……すっごい気になるなぁ……。

こうして楽しい七咲家の初旅行も残すところあと1日となった。
明日はどんな1日になるのだろうか。



1日目深夜(※18禁注意)へ続く
2日目へ続く
※18歳未満の方は1日目深夜(※18禁注意)を飛ばして2日目へリンクして下さい。
飛ばしても話の内容に特に差し支えはありません。
ただし、どうしても読みたいぞ!!って方は……煮るなり焼くなりお好きにどうぞ(笑)
僕は無理に止めたりはしない!!
少年よ大志を抱け!!(笑)

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