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2011-03-11

エピソード「先輩、七咲家の初旅行に行きましょう プロローグ」(ノベル)

「……スー。スー」
「……クスッ。いい子、いい子」

生後数日の祈が眠っている。
その傍らに逢が寝そべっている。
祈のあまりにもかわいい寝顔に逢はそっと笑みを浮かべ、そっと祈の頭をなでた。
母と子の何とも微笑ましい光景である。
その静寂を破るかのように……

「ただいま!」
「あ、帰って来た」

逢は起き上がって玄関に向かう。

「お帰りなさい」
「ただいま、逢」
「すみません、もうちょっと静かにしてもらえますか?」
「あ、もしかして寝てる?」
「はい」
「あ、ごめん」
「ご飯できてますよ。一緒に食べましょう」
「その前に祈の顔を拝むことにするよ」
「はい、では待ってます」

僕は着替えて手洗いうがいをしてから逢の寝室で寝ている祈に逢いに行く。
そうそう、生まれたての赤ん坊は色々な雑菌やウィルスに弱いから、消毒は念入りにしておくんだ。

「……スー。スー」
「ただいま、祈。逢いたかったよ」
「……スー。スー」
「かわいいなあ!!!」

僕は祈の頭をそっとなでた。

それから居間に向かう。

「ぐっすり眠ってるみたいだね」
「はい。今はぐっすり眠ってますが、さっきまで泣きわめいて大変だったんですよ」
「そうなのか?」
「はい」
「そっか。大変だったんだな。……ごめん、何か任せっきりで」
「いえ、子供の世話は昔から得意ですから。それに、先輩こそお仕事ご苦労様です」
「いや、僕なんかまだまだだよ。逢は家事に育児にと僕よりももっと大変だと思う」
「そんなことないですよ」
「いや、逢は僕と違って好きなことをする自由時間がないから」
「いえ、今はむしろ先輩のおかげで好きなことができて幸せです」
「え?僕のおかげ?」
「はい」
「僕、何かしたかな?」
「大好きな先輩の子供の世話ができることが幸せです」
「え?」
「クスッ」

逢……本当は育児が一番大変な仕事だっていうのにそれを幸せだって思えるなんて。
やっぱり逢はすごい。僕には到底真似できないよ。

「他にも幸せなことがありますよ」
「というと?」
「先輩が無事に帰って来てくれることです」
「え?」
「毎日朝早くから命懸けの仕事をこなして来て、夜には元気な姿で帰って来てくれる……」
「……」
「そしてこうして家族3人の幸せな一時を過ごせる」
「逢」
「先輩、ありがとうございます。私が今幸せなのは全部先輩のおかげです」
「そ、そんなことないよ」
「いえ、これは全部先輩がくれた幸せなんです」
「や、やだな……照れるじゃないか」
「クスッ」
「そ、それを言うなら僕の方こそ!」
「はい。何ですか?」
「逢のおかげで毎日安心して仕事ができるよ」
「私の?」
「うん。逢がこうして毎日ちゃんと祈の世話をしてくれているから」
「えっ?」
「どんな辛い仕事が回って来ても、逢と祈がいるから頑張れるんだ。僕には帰る場所があるから頑張れるんだ」
「先輩」
「僕は逢も祈も大好きだよ。二人とも温かい。仕事の疲れなんてこの家に帰って来ればすぐに吹き飛ぶよ」
「……え、えっと」
「逢」
「ええっ!?」

僕が逢を抱きしめようとしたその時……

「ふええん。ふええん」

「あ!」
「あ……」

僕も逢も立ち上がる。

「え?何で先輩まで?」
「いや、逢は疲れているだろうから、たまには僕が代わるよ」
「い、いいですよ。これは私の仕事です」
「よくないって。無茶は禁物」
「ですが、これは私の仕事なんです!」
「ぼ、僕にだってできるよ」
「抱き方も知らなかったくせに?」
「う……」
「いいから。先輩は座ってて下さい」
「……はい」

僕は座り、逢は祈の元に向かう。
……無力だ。僕は何て無力なんだろう?
育児もできない父親なんて本当に育児なし……いや、意気地なしだ。
あれ?今うまいこと言った?うまいこと言っちゃった??

「はぁ~」
「先輩?何ため息吐いているんです?」

僕は無力であることを自覚してため息を吐く。
そこに逢が戻って来た。

「無力だよな、僕って」
「え?」
「こういう時、何もできずにただ座ってるだけなんて」
「仕方ないですよ」
「でもな、何かしてやりたいんだよ」
「クスッ。その気持ちだけで十分ですよ」
「そういうもんかなぁ」
「ええ、そういうものです」

逢……いやにあっさりと返答するなぁ。
こっちは真剣に悩んでいるのに。
それかもしくは一人で抱え込んで、僕に余計な心配をさせないようにしているのか?
うーん。

結局僕は逢と祈に何がしてあげられるのかを一晩考えることにした。
というよりは何だか逢のことが心配で寝付けなかったんだ。
時計を見る。深夜3時。もういい加減寝ないと明日の仕事に響く。
一生懸命心を無にして寝る努力をするが……

「ふええん。ふええん」

……まただ。また逢の寝室から祈の泣き声が聞こえて来る。
とっても元気のいい子なので泣き声も大きい。
僕の部屋まで聞こえて来るほどだ。

僕も何か手伝わないと!

そう思って起き上がった瞬間……

「……」

祈の泣き声がピタリと止んだ。
逢が起きて世話してあげたんだろう。
ものの2、3秒で泣き声を止めるとは!
さすが逢だ。僕の出る幕じゃなかった!!
しかし、毎日こんなことを繰り返していたら寝不足で大変じゃないか?
僕も何かしてやりたい!!
……でもなぁ、実際無理な話なんだよな。
日中は仕事、夜は次の日の仕事のために夜更かしが出来ない。
結局逢に任せっきりになってしまう。
でも、これじゃ逢の身がもたないかもしれない!!
どうすればいいんだ??

……結局僕一人じゃ何の解決策も思い付かない。
明日先輩刑事さんに相談してみるか。


そして翌朝。

「ええっ?奥さんに何かできないかって??」
「はい。何か手伝いたいんです」
「それで私に相談か?」
「ええ。刑事としても夫としても先輩であるあなたに……」
「えっ?そうだなぁ……うーん……」
「お願いします!何かいい知恵を下さい!!」
「うーん……と言われてもな。うちは妻のご両親が世話好きだったからな」
「えっ?同居されてるんですか?」
「当時はな。孫が大きくなるまで一緒に住むって言ってくれて妻も大分楽ができた」
「そうなんですか……」
「ごめんな、お役に立てなくて」
「あ、いえ。ありがとうございました」

そっか!他の家族が同居って手があったのか!
でもな、今は輝日東には住んでないし。
それに逢のご両親はまだ共働きを続けていて、郁夫一人で精一杯で、とても孫まで世話できる状態じゃない。
僕の実家って手もあるけど、僕の両親に悪いしなぁ。
美也なら快く引き受けてくれそうだけど……あいつも一応仕事してるしな。
それに美也に頼む際は必ず何かと引き換えだ。いや、逢が交渉すればタダでいけるかも!!
いや、待て待て!
輝日東にいる家族をこっちに呼んだり、僕らが輝日東に引っ越したりするのは無理があるぞ!
絶対に逢が拒むに決まってる!!人に迷惑をかけたくないって言うに決まってる!!
というわけで、この案は無理だ。残念。

「ええっ?夫に何か手伝ってほしかったことがあるかって?」
「はい。何でもいいんです!何か育児で苦労されたことは?」
「ないねぇ」
「えっ?即答ですか?」
「別に苦労とは思わなかったからねぇ」
「そうなんですか?」
「ええ。第一、あんな夫に何ができると思う?」
「えっ?あんなって?」

――『結婚したらお前には一切苦労させない!全部俺に任せておけ!』
とか何とか言っておきながら現実は……
家事、できない。休日、だらだら寝そべっているだけ。仕事、できない。給料、私より低い。
さらには育児なんてなーんにもできない!!
そんなひどい夫だったんだから!!

「えっ?うわあ……」
「あ~あ。男なんてみんなそうなのかしら?それとも私が運悪かっただけ?」
「い、いえ、そんなことは!!」
「い~い?」
「はい」

先輩刑事さんは僕の顎を右手の人差し指で突き上げる。

「奥さん泣かせたら私が許さないからね!」
「え?は、はい」
「あなたの奥さんを私と同じ目に遭わせたりしたら、この職場から即刻出て行ってもらうわよ?」
「う……」
「私はあなたの上司。気に入らなかったらいつでもあなたをここから追い出せるんだから!!」
「こ、怖い……」
「返事は?」
「はい!約束します!必ず妻を幸せにしてみせます!!」
「……よろしい」

僕は解放された。

「分~かればいいのよ。ね、しゅう君?」
「は、はい……」

そっかぁ。僕とは対照的だな。自分で言うのも難だけど。
僕は絶対に逢を同じ目には遭わせない!!
必ず幸せにしてみせるさ!!

……

結局、数人から聞くも良い解決策は見つからず。
僕は途方に暮れていた。

「はぁ~」
「ん?何ため息吐いてんだ?」
「ああ、華村か」

華村政治。松原正義(通称:まっちゃん)と同じく、僕の大学の同期で同僚でもある。
以前、僕が記憶喪失になった時にも大変世話になった。
今の逢との関係を築いてくれた恩人のうちの一人でもある。
もちろん、まっちゃんも華村も独身だ。
この二人に聞いたって分かるはずがない。
いや、意外と分かるかも?
この職場で僕と逢について一番詳しいはずだ。長い付き合いだから。

早速相談を持ちかけようとしたが……

「あの……」
「なぁ、休んでいる暇があったら手伝ってくれないか?」
「はぁ?何で僕が!まっちゃんはどうしたよ?」
「今パトロール行ってていないんだ」
「それで僕が?他の人に頼めよ。友達いないのか?」
「むっ!」
「……」
「あれれ~?さっき先輩刑事に、何か手伝ってほしいことはあるか?って聞いてたのはどこの誰でしたっけ?」
「えっ?」
「手伝えるよな?」
「いや、あれはそういう意味じゃなくって!」
「さ、行こうぜ」
「い、いや、待て……」
「せんぱぁ~い!しゅうが手伝ってくれるって」
「おい!バカ」

結局、捜査資料の整理を手伝わされる羽目になった。
華村め!!覚えてろ!!

……

「はぁ。ひどい目に遭った」

僕はクタクタに疲れ果てて机に伏せていた。

「よぉ、お疲れ」
「お疲れじゃない!!何がお疲れだ!!ひどいな」
「ほらよ」

華村が突然僕の目の前に旅行券を置いた。

「は?何これ?」

僕は顔を上げて旅行券を手に取って見た。

「見て分かんないのか?旅行券だ」
「言われなくても分かる」
「何だ、それは分かるのか」
「どうしてこれを僕に?」
「お礼とお詫びだ。さっきは無理やり手伝わせて悪かったな」
「そうだよ!ひどいなぁ」
「だから悪かったって!」
「……」
「……それ、ペア旅行券って書いてあるだろ?」
「ああ」
「さっき問い合わせたら子供連れもOKだって」
「……うん。それで?」
「……実はさっきお前と先輩刑事の会話をこっそり盗み聞きしてたんだ」
「えっ??」
「お前、逢に何かしてやりたいって必死なんだってな」
「はぁ!?べ、別にそんなんじゃ……つーか呼び捨てにすんな」
「だって他に呼び名がないし。俺がちゃん付けとかきもいだろ」
「七咲でいいだろ!僕のことはしゅうで!現に塚原先輩もそう呼んでる」
「そっか。えっとじゃあ……その……七咲と一緒に行って来たらどうだ?」
「一緒に行くって……どうしてだよ?」
「俺思うにお前に育児はできないさ」
「は??どうしてだよ!?僕だって」
「仮にお前にできたとしても七咲がやらせてくれないだろ?」
「まあ、確かにな」
「自分の專門は人には絶対に任せない。それに愛する夫は一家を支えるだけで精一杯。負担はかけられない」
「う……」
「そんな性格だろ?違うか?」
「ま、まあな」

すごい!さすが長い付き合いだ!
やっぱり見抜いていたか。持つべきものは友だな。

「例え能力があったとしてもそれを発揮する場がなきゃ能力がないも同然だ」
「うん」
「そこでだ。お前にできることはたった一つしかない」
「たった一つ?」
「そう。日頃育児で疲れている七咲をたまに外に連れ出してゆっくり休ませてやるんだ」
「なるほど。それでか」
「そういうこと」
「ところでこの旅行券、どこで手に入れたんだ?」
「たまたま新聞の懸賞で当たったんだ。でもよく見たらペアって書いてある!」
「……」
「使い道に困ってとりあえず財布に入れてたんだけど、さっき会話を盗み聞きして……」
「それで僕に渡すことにしたのか。だったら何でもっと早くに言わない?」
「いや、せっかく当たったのに使えないって思って悔しくてお前に八つ当たりしたかった!!」
「……」
「……」
「……あ、そ。ひどい奴だ」
「感謝しろよ」
「理由が理由だ。嫌だね」
「だったら返してもらおう」
「拒否する」
「あー分かったよ。これならどうだ?……お前、この前の署員旅行パスしただろ?」
「ああ」
「理由はやっぱり七咲と娘のことか?」
「ああ。言うまでもない。逢に負担かけられなかったから」

そう。この前、全体朝礼で3泊4日の署員旅行の話があった。
目的は仕事ではなく、単なる息抜きだった。
仕事ならやむなく参加していたのだが、単なる息抜きなので僕はパスして仕事をした。
3泊4日ということは間の2日間、家を留守にすることになる。
つまり、逢と祈を2日間家に残すことになる。
逢が頑張って祈の世話をするなか、僕はただ息抜きをする……。
そんなの僕には無理な話だった!!
逢は毎日息抜きできないのに僕が息抜きするわけにはいかない!!
逢には署員旅行の件は内緒にして必死で仕事をした。

「これ1泊2日だから署員旅行の代わりにはならないかもしれない。でも行って来いよ」
「いや、仕事があるから」
「家族を想って署員旅行をパスして仕事し続けた……だからその報酬の有給休暇だと思えよ」
「報酬の有給休暇?それでいいのか?」
「ああ。そういう理由ならきっと上司もOKしてくれると思うぜ?」
「いいのかなあ?」
「明日俺から話してやるよ」
「う、うん……」
「どうだ?これでもまだ許せないか?」
「う……し、仕方ないな。許してやる」
「おう、ありがとな」
「いや、礼を言うのは僕の方だ。ありがとな」
「……」
「……」
「んじゃ、俺はそろそろ帰る。また明日な」
「ああ、また明日」

逢と祈を連れての1泊2日の温泉旅行か……。
この旅行券は効能がすごい温泉、豪華な夕食付きの老舗旅館にタダで泊まれる券らしい。
普通に金を払って泊まろうとするとかなり高く付くらしいので、大変お得だ。
そういえば前に新聞でその懸賞を見たことがある。
毎回応募多数で当選の確率は一桁らしい。
そんななか当選したのに使い道がない。
ふっ、道理で八つ当たりしたくなるわけだ。
こんな素晴らしい旅行券をタダで……いや、労働と引き換えに譲ってくれたわけだし、許してやるか。
さて、はたして逢が喜んでくれるかな?


「ただいま」
「お帰りなさい」
「逢、ちょっと夕食の時に話したいことが……」
「えっ?あ、はい」

……

「えっ??1泊2日の家族旅行ですか??」
「うん」
「……」
「有給休暇とるから一緒に行かないか?」
「えっ?でも祈の世話が……」
「子供連れもOKだってさ」
「……」
「駄目……か?」
「……はい。せっかくの嬉しいお誘いですが……」
「う……」
「私は祈と一緒に残るので先輩は華村さんと……」
「いや!それじゃ駄目なんだ!!逢と祈が一緒じゃないと駄目なんだよ」
「えっ??」
「その……何ていうか……まだ3人で旅行したことないだろ?」
「ええ、まあ」
「逢も祈が生まれてからずっと家に篭りっぱなしだし、たまには外に出てみたいんだろうなぁって思って……」
「えっ?私ですか?私は別に……」
「それにさ、小さい頃からたくさん外に連れ出した方が頭のいい子に育つって聞くし」
「そ、それはそうですが……」

僕は決して「逢が疲れているから」とは言わなかった。いや、正確には……言えなかった。
だってそう言ったら逢は絶対に「疲れていない」って言うに決まってる!!
逢は昔から強がって無茶ばっかりしてたから分かる。

「それにこの老舗旅館が高級だってこと、逢も知ってるだろ?」
「はい。毎日欠かさずに新聞を読んでますから」
「初めての家族旅行がこんな高級な老舗旅館だったんだって後で祈が知ったらきっと大喜びするよ」
「ええ……」
「いっぱい写真を撮って成長した祈に見せてやるんだ。それが僕の楽しみ」
「きっと素晴らしい思い出になりそうですね」
「だろ?だから3人で行こう!初めての思い出を作りに!!」
「……」
「……」
「……分かりました。先輩がそこまで言うなら行きましょう」
「ありがとう」
「いえ、お礼を言うのは私の方です。先輩と華村さんに」
「僕はただもらっただけだ。華村だけでいいよ」
「ええ。じゃあ、伝えておいて下さい」
「分かった」

こうして逢をうまく説得することができた!!
翌日、華村と一緒に上司と交渉して有給休暇をとれることになった!!
しかも金曜日、土曜日と連続でとれるので実質3連休だ!!
旅行から帰って来ても日曜日、もう1日休める!!
上司の思いやりらしい!!本当にありがたい!!
いよいよ来週の週末から七咲家の初旅行が始まる!!
どんな冒険が待っているのだろうか!?
楽しみだなぁ!!



1日目へ続く

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