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2010-11-08

エピソード「先輩、私を溶かしてください~初雪の思い出~続編」(ノベル)

前編:エピソード「先輩、私を溶かしてください~初雪の思い出~」(ノベル)

外はしんしんと今年の初雪が降り積もる。
逢の部屋に僕と逢の二人きり。
逢はベッドで温かく安静にしていて、僕は逢の勉強机用の椅子に座ってベッドサイドで逢の看病をしている。
時刻は午後二時。ついさっき二人でお粥を食べたところだ。
部屋は暖房が効いてるけど、足元が少し寒い。
ベッドで布団被ってる逢はいいけど、僕は少し寒いんだよな……。
逢が少しうらやましい。僕も寝たいよ。
だけど……こんな時だからこそ、逢のそばにいてやらないとな。

「……」
「……」
「……」
「……う!な、何ですか?さっきからジロジロと」
「い、いや……あはは」
「……」

ジロジロって……あのなぁ!こっちは心配して逢の顔色を見ていただけなんだぞ!
べ、別に……覗きとかじゃ……。
まったく、こういう時ってどこに視線を合わせたらいいんだ?
看病って言っても何をすればいいのやら。

「寒くないか?」
「はい」
「そっか」
「先輩こそ、見るからに寒そうですが」
「僕は大丈夫だよ」
「本当ですか?足、震えてますよ」
「ああ、これは……単なる貧乏揺すりだ」

そう言って僕はわざと貧乏揺すりをした。寒いのをごまかすために。

「寒いんですね?」
「いや、だから貧乏揺すりだって!」
「じゃあ、その貧乏揺すり、やめてください。みっともないです」
「……はい」

僕は仕方なく貧乏揺すりをやめた。

「うちはただでさえ貧乏なのに、貧乏揺すりなんて縁起でもないです」
「そ、そっか……ごめん」

そうだった!七咲家はずっと貧乏だったんだ!なのに僕って奴は……

「そんなに落ち込まないでください」
「いや、僕が悪いんだ……」
「もういいですから」
「……」
「あの、もし、先輩が寒いなら……」
「ん?」
「……入りますか?」

そう言って逢は掛け布団をめくった。

「あ、いいよ。平気だから」
「遠慮しなくてもいいですよ」
「え、遠慮なんてしてないよ」
「それとも……私が風邪だからですか?」
「うん。いや、あの……決して風邪うつされるからっていう理由じゃなくて……」
「はい。分かってます。風邪うつされることを気にしているなら、そもそも私のそばにいないはずですし」
「うん。僕の心配はいいから、逢はちゃんと温かくして、早く風邪を治すことを考えてよ」
「お気遣い、ありがとうございます」
「……あ!」
「どうしました?」
「思い出した!ちょっと一人で寝てて」
「え?あ、はい」

七咲家のことを考えていたら思い出した!逢のお母さんから言われてたことを。

「お待たせ」
「あ……それ」
「そう、生姜汁だよ。これを飲んで温まろう」
「はい」
「……う、熱いなぁ。飲んだ瞬間に身体が温まっていく感じがする!」
「ん!?この味……どこかで……」
「味がどうした?」
「あ!思い出しました!!これ、昔よくお母さんが作ってくれた生姜汁です」
「そうなの?」
「はい。先輩がどうしてこれを知ってるんです?」
「実はな……さっき逢が眠ってる間に、逢のお母さんに電話したんだ」
「私のお母さんに?」
「うん。逢が風邪ひいたの初めてだから、どうやって看病したらいいかわからなくて」
「それで生姜汁を?」
「そう。きっと幼い頃を思い出すはずだから飲ませてあげてって」
「そう……ですか。じゃ、じゃあ水枕の雪のことも?」
「え?い、いや、それは僕が思い付いたことだから」
「そうなんですか?」
「うん」
「……」
「あの……もしかしてさ……」
「はい」
「前にもこんなことがあったの?」
「え?こんなことって?」
「生姜汁を飲ませてもらったこと、水枕に雪を詰めてもらったこと……それに……」
「……それに?」
「……ペンギン」
「……え?ペンギン?」
「さっきペンギンって言いかけただろ?」
「え?……」
「気になる!すごく気になる!何があったか言ってほしい」
「……」
「もしかして……言えないようなこと?恥ずかしいこと?」
「い、いえ……別にそんなことでは……」
「あ……嫌ならいいんだ。ただ……僕と出逢う前の逢をもっと知りたいってだけだから」
「いえ、別に嫌ではないです。ただ……幼い頃の話なので……」
「幼い頃?」
「はい。……笑わないで聞いてくれますか?」
「うん」

笑わないでって……いったいどんな話なんだろう?

それから逢は小学1年生の時の初雪の思い出について、僕に話してくれた。
逢の小学1年生の時の初雪の日……
逢は風邪で熱を出して家で大人しくしてなきゃいけなくて……
せっかくの初雪を体験出来なくて悔しい思いをした。
無理してでも学校に行って友達と雪で遊びたかった逢。
そんな逢を当然の如く、お母さんは止めた。
逢の体調を気遣っての事だった。それは親として当然の事だ。
だけど、逢はそんなお母さんを恨んだ。
雪で遊びたいのに、お母さんが意地悪する!!嫌い。大っ嫌い。
泣きながら寝室に戻り、寝室で泣きじゃくる逢。
そんな逢を不憫に思ったお母さんは逢のためにと思い、ある秘策を考える。

「……え?じゃあ、僕だけじゃなく逢のお母さんも水枕に雪を詰めたのか。しかもペンギンの枕カバー」
「そうなんです。先輩とまったく同じ理由で」
「奇遇だなぁ。僕が逢のお母さんとまったく同じ理由でまったく同じことをするなんて……」
「ええ。びっくりしました。本当に先輩が自力で思い付いたんですか?」
「うん」
「そうですか……」
「じゃあ、ちなみに、その涙の跡は今話したことをついさっきまで夢に見ていたからなのか」
「そうなりますね。どうやらその夢を見ながら泣いてしまったようです」
「で、この出来事がきっかけでペンギンが好きになって水泳を始めたと?」
「はい」
「なるほど……」
「今考えてみれば、おかしな話ですよね。ペンギンさんが雪を運んで来ただなんて……」
「……」
「先輩?」
「……」
「やっぱり……つまらないですか?こんな昔話」
「いや、すごくいい話だと思う」
「え?」
「逢が羨ましい。そんなにいいお母さんに育てられて羨ましいよ」
「そ、そんなこと……ないと思います」
「いや、そんなことあるよ!僕にはそんな感動的な思い出がないからね」
「……」
「第一、雪自体にそんなにいい思い出がないんだ。逢と出逢うまではね」

例えば、中学2年生のクリスマスの日にデートをすっぽかされたりとか。
あれは本当に嫌な思い出だった。
逢と出逢うまでの僕には雪の日にろくなことがなかった。
だから……今の逢の話を聞いててすごく羨ましく思えた。

僕は独り俯いて感傷的な気分に浸った。

「……」
「……先輩?」
「……」
「……先輩!」
「……」
「……先輩!!」
「あ、ああ……何?」
「どうしたんですか?顔色……悪いですよ?」
「ああ、大丈夫」
「もしかして、すでに私の風邪がうつったとか?」
「それはないから大丈夫」
「そう……ですか?」
「うん。馬鹿は風邪ひかないって言うし」
「先輩の場合は馬鹿と変態は風邪ひかない……ですよね?クスッ」
「ん?今何か言った?」
「い、いえ、何も」
「そっか。……それよりもさ」
「はい」
「その後の年は初雪を体験出来た?」
「いえ。初雪どころか他の雪の日もあまり積もらなくなり……まったく」
「ああ、そっか。そういえばその日以来あまり雪降らなかったもんな」
「温暖化の影響でしょうか?」
「かもね」
「先輩は当時小学2年生でしたね?」
「うん」
「その初雪の日に誰かと遊びましたか?」
「うん。一応」
「やっぱり……美也ちゃんと?」
「美也もいたし……梅原や幼馴染みの桜井とも一緒に遊んだよ」
「そうですか……羨ましいです」
「そんなことないよ。逢の方が絶対羨ましいって!いいよな、優しいお母さんで」
「……」
「僕も七咲家の家族ならよかったのに。きっと昔から温かい家族なんだろうな」
「先輩はすでに七咲家の家族じゃないですか!違いますか、七咲しゅう先輩」
「まあ、そうだけど……出来れば逢の弟とかがよかったかもな」
「嫌です」
「え?」
「郁夫だけでも世話するの大変なのに、もっと手の掛かりそうな先輩が弟だなんて……」
「ちょ……それどういう意味?」
「そのままの意味です!」
「う……」

逢の奴……さっきまで高熱で眠ってた割にはやけに元気じゃないか。
いつもの如く、僕をいじめる……。
まあ、元気なのはいいことだ。

「そっか。逢は生まれてからずっと雪で遊んだことがないんだな……」
「はい」
「しかも今日は17年ぶりの大雪の初雪の日だっていうのに、また風邪ひくなんて……かわいそうだな」
「仕方ないですよ」
「うーん……」
「初雪は体験出来ませんでしたが、先輩もお母さんと同じことをしてくれました。私はそれで満足です」
「うーん……それで満足……か。いや!きっとそれじゃ駄目なんだ!!」
「え?」
「逢にそれで満足って言われて……僕は悔しい!!納得がいかない!!」
「どうしてですか?」
「だって……僕は結局逢のお母さんと同じことしかしてあげられていない」
「え?それでいいと思いますが……」
「それじゃ駄目だ!!」
「え?」
「僕は何のために逢と結婚したんだ!?僕にしか出来ないことをしてあげるためなんだよ!!」
「先輩……?」
「僕にしか出来ないことはないのか!?逢を、僕なりの手段で本当の意味で満足させてあげたい!!」
「……え?」
「考えるんだ……逢のために……」
「……」

僕は……逢のために何が出来るんだろう?
逢は17年前、小学1年生の時に初雪を体験することが出来なかった。
そして現在、17年ぶりに大雪の初雪の日が到来した。
だけど、逢はまた風邪をひいて、17年前と同じ状況に陥ってしまった。
今度はいつ大雪の初雪の日が到来するか分からない。
もしかしたら、今日ずっとこのまま寝ていたら、逢は二度と初雪を体験出来なくなる!!
悔しい……何とかして逢を外に連れ出してあげたい!!
何とかして逢に初雪を体験させてあげたい!!
でも、逢は風邪をひいている……無茶させるわけにはいかないんだ!!
どうする!?どうすればいい!?

「先輩!」
「ん?」
「どうしたんですか?今度は何だか思い詰めた顔をしていましたよ。本当に大丈夫なんですか?」
「うん。大丈夫」
「そうですか。それならいいですけど……」

はは……思い詰めた顔……か。
どうしたら逢に初雪を体験させてあげられるんだろう?
こうなったら、一か八かやってみるか!
それでもし逢が風邪をこじらせてしまったら、僕が責任を取る!!

「はぁ……外は……真っ白ですね」

逢は窓の外を見つめ、ため息をついた。
その表情は……ちょっと寂しそう。
やっぱり逢は外で遊びたいんだろうな。
よし!!やってみるか!!

「なあ、逢」
「はい。何ですか?」
「やっぱり……外に出たいか?」
「え?それは……出たいですけど。……この風邪じゃちょっと無理そうですね」
「じゃあ……出よう」
「はい??今何て?」
「外に出て、雪で遊んで来よう」
「ですが、私は風邪をひいて……」
「僕が責任を取る!もしも逢が風邪をこじらせたら、逢のご両親に誠心誠意謝罪して、逢を全力で看病する!」
「い、いえ、そこまでして遊びたいわけではないので……風邪が治ってからでも……」
「そこまでしなきゃ駄目なんだ!!風邪が治ってからじゃ手遅れだ!!」
「え?でも……」
「このままじゃ逢は一生初雪を体験出来ない!!逢がかわいそうで仕方がない!!」
「先輩……」
「僕は僕にしか出来ないことをしてあげるために逢と結婚したんだ!!」
「……」
「なのに、僕は逢のお母さんと同じことしか出来ていない。悔しいよ」
「……」
「僕は……僕にしか出来ないことをやるんだ!!!」

そう言って僕は急いで自分の部屋で防寒着とスキーウェアを着て、逢の部屋に戻った。

「ほら、逢も防寒着とスキーウェアを着て」
「え?本当に外に出るんですか?」
「うん。早く行こう」
「あの……しかもどうしてスキーウェアを着るんです?」
「そのままの格好じゃ雪で濡れるから」
「なるほど……。え?でも……」
「ほら、早く着て」
「あ、はい」

逢は上体を起こして防寒着とスキーウェアを着た。ちょっと嬉しそうだ。

「気分はどうだ?」
「はい。まだ熱で少しだけフラフラします」
「まだ熱あるのか……」
「はい」
「でも、せっかくの初雪だから行こう!!」
「行くって……どこにです?」
「午前中に行ったあの公園に行こう」
「え?あそこまで歩くんですか?私熱あるのに……」
「僕が連れて行く。だから……ちょっと体育座りして」
「え……?体育座り……?」
「うん」

逢は訳も分からず、とりあえず体育座りする。

「……こうですか?でも、ここからどうやって……?」

僕は逢の背中と膝の裏に手を回す。

「え?これってまさか……」
「せいの!」

僕は逢をお姫様抱っこした。
しかし……

「う……重い!」

逢は以前よりも重くなっていた。
当然だ。現在逢は妊娠5ヶ月でお腹に子供がいる。
ちなみに以前というのは7年前、逢が高校2年生の時だ。
インターバルで全力を出し切った逢は帰りのバスで疲れて爆睡した。
終点の輝日東駅前に着いても起きなかった逢を僕はお姫様抱っこでバスから降ろした。
(参照:第6話「先輩、夏休みですね」第7話「先輩、兄弟っていいですね」
あの日が懐かしいな。

「う……くくく……」
「先輩、危ないです!無理しないでください」
「で、でも……」
「普通におんぶでいいじゃないですか。何でわざわざお姫様抱っこなんです?」
「だって……逢はお姫様だし」
「え?」
「何でもない!じゃあ、一旦降ろすよ」
「はい」

おんぶか……やりたいんだけど、やりたくないんだよな。どっちだよ!?
おんぶすると僕の背中に逢の胸が当たって緊張するし……
前に一度足を捻挫した逢をおんぶしたら、ふざけて耳をアマガミされて……
びっくりして危うく落としかけたことあるし!!
それに今は大きくなった逢のお腹が僕の背中に当たるし。
いろんな意味で緊張する。

「じゃあ、おんぶするけど、ふざけて耳をアマガミしないでくれよ」
「しませんよ。もう落とされたくないので」
「ならいいんだ。あれは本当に危なかったから」
「ふふっ、先輩って結構単純なんですね。いきなり耳をアマガミされただけでびっくりするなんて」
「いや、それが普通の反応だし。よし、今度逢を不意打ちしてやろうか」
「ふふっ、そんなことをしたら、どうなるかわかりますよね?先輩っ!」
「う……怖い」
「クスッ」
「ほら、冗談言ってないで早く乗れよ」

僕は逢に背を向けてしゃがむ。

「はい。では遠慮なく」

逢をおんぶする。やっぱり……いろんな意味で緊張する。

「それじゃ、行こうか」
「はい」

家を出て公園に向かう。

「おお、午前中よりも結構積もったなぁ」
「辺りは一面の銀世界……きれいですね」
「うん。あ、寒くない?」
「はい」

おんぶでもやっぱり逢が以前よりも重く感じられる。
しかも辺りは一面の銀世界……路面もところどころ凍っている。
滑って逢を落とさないように慎重に慎重に一歩一歩歩みを進める。

「ごめんな。お互いに無理をしないっていう約束……破ることになる」
「構いませんよ。先輩がちゃんと責任を取ってくれるなら」
「ありがとう」
「いえ、お礼を言うのは私の方です。私のために……私に初雪を体験させるためにわざわざ……」
「いや、それこそお礼はいいよ。逢にどうしても初雪を体験してもらいたかったから」
「……」
「こんなに素晴らしい一面の銀世界を今まで味わえなかった逢がかわいそうで仕方なくてさ」
「……」
「ん?逢?どうした?……ま、まさか!?」
「も、もう……どうなっても知りませんからね!」
「……え?あ……ああ」

なんだ、ただ照れて何も言えなかっただけなのか。
てっきり熱で意識が朦朧としたのかと思って心配しちゃったじゃないか!

「もし、具合悪くなったらすぐ言って。あまり逢に無理させないようにするから」
「はい。分かりました」

そして公園に到着した。
公園は雪で埋もれていた。

「はい、到着」

僕はゆっくりしゃがんで逢を降ろした。

「きれいだなぁ」
「はい」
「……」
「……」
「どう?初雪の感想は」
「何だか……すごく神秘的です!」
「……そっか」
「先輩、ありがとうございます」
「逢こそありがとう」
「え?」
「ほら、さっき初雪の思い出について話してくれただろ?」
「はい」
「幼い頃の逢のことをまた一つ知ることが出来た」
「……」
「それに、さっきの話を聞いてなかったら僕らは今ここにはいなかったと思う」
「そう……ですね」

公園には僕と逢の二人しかいない。

「とりあえずさ……」
「はい」
「ずっと立ってるの辛いだろうから、どこかに座らない?」
「どこに座るんですか?ブランコにもベンチにも雪が積もっていますが」
「まあ、どこに座ろうとスキーウェアを着てるから濡れる心配はない。何も問題はない!」
「なるほど……そのためのスキーウェアだったんですね」
「うん。どこに行っても雪が積もってて濡れない場所なんてないと思ったから」

よし!!今日の僕は珍しく頭が冴えているぞ!!大成功だ!!

「今日は……珍しく先輩の頭が冴えていますね」
「う……」

今思ったことをバシッと逢に言われてしまった!ちょっと屈辱。

「それで?どこに座ります?」
「そうだな……じゃあ、このままここに座るか」
「ここにですか?」
「うん。熱があるのにブランコに乗ったら危ないし、ベンチじゃ具合が悪くなっても狭くて寝転がれないし」

そう、この状況なら地面に座るのが一番安全なんだ。
倒れてもこれだけ雪が降り積もっていれば雪がクッションになって衝撃を防いでくれる。
それにスキーウェア着てるから汚れても平気だし。
うん、我ながら逢のことを考えた最善の選択をしたと思う。

「分かりました。そういう事なら」

僕と逢は地面にゆっくりと腰を降ろした。
ちょっと一息ついて……

「よし。記念に1枚撮ろうか」
「え?」
「じゃじゃーん」
「カメラ!?」

僕は逢の初!初雪記念に写真を撮ろうと思ってポケットにカメラを忍ばせておいた。

「じゃあ、撮るよ」
「あ、待って下さい……いいですよ」
「はい、チーズ!」

パシャッ!

「よし。これが逢の初!初雪記念写真だ。もう1枚撮るか」
「はい。お願いします」
「はい、チーズ!」

パシャッ!

「今度は私が撮ります」

逢は少しフラフラしながら僕に近寄って来た。

「だ、大丈夫か?」
「はい。撮影なら任せて下さい」
「いや、そっちじゃなくて身体の方は……」
「早く座って下さい」
「……はい」

逢も2枚写真を撮った。

「今度はツーショット写真でも撮りたいなぁ」
「でも、この公園には私と先輩以外の人はいませんよ」
「そうなんだよな……困った」
「だったらこうしましょう」

そう言って逢は地面に寝転がった。

「え?雪の上に寝転がったりしたら身体が冷えて風邪ひどくなるぞ」
「大丈夫です!ほら、先輩も早く寝転がって下さい」
「う、うん」

僕も逢の右隣に寝転がった。

「それで、こうやって……」

逢が寝転がった時点で何となく想像はついていた。
逢は空に向かって思いっきり腕を突き上げた。

「あ、僕がやるよ。僕の方が腕長いし」
「はい。お願いします」
「じゃあ、いくよ!……はい、チーズ!」

パシャッ!

「ちゃんとうまく撮れてますか?」
「分からない」
「じゃあ、不安なのでもう数枚撮りましょう」
「うん。じゃあ、いくよ!」

僕と逢のツーショット写真を数枚撮った。
カメラをポケットに入れ、僕と逢は寝転がったまましばらく空を見つめた。

「……はぁ」
「……」
「……」
「……先輩」
「ん?」
「午前中にした話を覚えてますか?」
「午前中?」
「雪はいつか溶けてなくなってしまうから切ない……という話です」
「ああ、うん。覚えているよ。逢が熱で倒れる前にした話か」
「はい」
「うん。確かに逢の言う通りだな。雪は儚いと思う」
「……」

僕は上体を起こした。

「でもさ」

逢も上体を起こした。

「はい」
「中には溶けてなくなることのない雪もあるんじゃないか?」
「え?そんな雪あるんですか?」
「あるよ。例えば逢の小学1年生の時の初雪とかね」
「え?それならもうとっくの昔に溶けてなくなってますよ」
「うん。雪自体はね。だけど、逢は当時の事をまだ覚えている!」
「……」
「確かに外の雪は全部溶けてなくなってしまった。だけど、逢の思い出の中の雪はまだ溶けていない」
「……」
「17年前の初雪はまだ逢の心の中に降り積もったままだよ。逢が覚えている限りね」
「……」
「その雪は逢と逢のお母さんの心の中にまだ降り積もっている。決して溶けることのない思い出として」

逢は黙って僕の話にそっと耳を傾けていた。
というより、何と返事したらいいか分からないから黙っている……といった感じかな。
さらに僕は続ける。

「でも、その雪は逢と逢のお母さんだけのものだ。僕の心の中にはその雪は存在しない」
「……」
「当然だよ。僕はその場にいなかったんだから。僕の思い出であるはずがない」
「……」

僕は手袋を取って両手で素手で地面に積もった雪を掬った。

「だからさ、今度はこの雪を僕と逢だけの……決して溶けることのない思い出の雪にしよう!」
「……はい」
「二人だけの……思い出にね!」
「……はい!」

ヒュ~。

「うっ!寒い!!特にさっき雪を触った手が冷たい……」
「先輩」
「ん?」

ぎゅっ。

「え?」

逢がいつの間にか手袋を取って両手で素手で地面に積もった雪を掬い……
雪を持ったままのその手で僕の手を握った!

「つ、冷たい!!」
「あははは……」
「こら、逢!何するんだ!?」
「その慌てぶり……先輩ったら、おかしいです」
「ひどいじゃないか!僕は真面目な話をしてたんだぞ」

逢は再び手袋を両手にはめた。
僕も再び手袋を両手にはめた。

「今のも立派な思い出です。先輩が私に意地悪をされたという」
「い、嫌な思い出を作るなよ勝手に」
「クスッ」
「だったら、これも立派な思い出だ!」
「あ……」

ぎゅーーーっ。

僕は思いっきり逢を抱きしめた。ちょっと痛いくらいに。

「逢……好きだ!大好きだ!この気持ちは生涯決して溶けることがない!!」
「先輩……」

僕は逢の後頭部に左手を軽く添え、逢の身体をゆっくりと後ろに倒した。
逢の背中と頭をゆっくりと地面に降ろした。
そして……

「ん……」
「ん……」

キスは僕にしか出来ないことの一つだと思う。
しかもただのキスではなく大雪原での周りの雪を溶かしてしまうくらい熱いキス。

「ん……」
「ん……」
「んん……」
「んん……」

逢……逢……たまらなく好きだ!
公園には僕と逢の二人しかいない。
もっと……熱くしてもいいよね?

ペロッ。

「あ……ん……」

僕は舌を出して逢の唇をなめた。

「あん……ちゅっちゅ……あん……」
「ん……ちゅっちゅ……ん……」

お互いに舌を出してもっと深いキスをする。

「あん……ちゅっちゅ……あん……」
「んん……あ……んんん……」

僕は逢の口の中に舌を突き入れた。
もう……逢を食べてしまいたい。
さすがの逢もちょっと苦しそうだけど、それでも何とか抵抗してくる。
だから構わず行く!!

「あん……ちゅっちゅ……あん……」
「んん……あ……んんん……」

僕たちはお互いに無我夢中で気付かなかったけど……いつの間にか雪が止んでいた。
それでも僕と逢の周りだけ吹雪が吹き荒れていた。
何度も何度も吹雪の如く激しく……止むことを知らないキスの応酬。

「あん……ちゅっちゅ……あん……」
「んん……あ……んんん……」

それはしばらく繰り返され、最終的には二人とも息が荒くなっていた。
逢の体調を考え、僕の方から唇を離した。

「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
「あ、あはは……」
「ふふっ、ふふふ……」
「疲れたぁ」
「それはこっちのセリフです」
「そ、そっか。あはは……」
「もう……本当にエッチな先輩なんですから……」
「逢」
「はい」
「寒くないか?気分は?」
「大丈夫です。雪の上に寝たのでちょっと熱が下がって気分も楽になりました」
「ならよかった。でも、あまり冷えると逢の身体にもお腹の子にもよくないと思う」
「では、そろそろ帰りますか?」
「もう十分初雪を味わえた?」
「はい。おかげさまで」
「そっか。えっと……今何時だろ?」

相当長い時間公園にいた気がする。
気になって立ち上がり、公園にある時計を見上げると……

「げっ!もう5時か!!夕飯の支度何もしてないよ」
「ちょっと先輩……何してるんですか」
「だ、だって……誰かさんが初雪体験したいって言うから……」
「私は何も言いませんでしたよ。先輩に勝手に連れて来られただけですから」
「う……そうだった。僕が連れて来たんだった。でも勝手にって何だよ……」
「私は別に家にいてもよかったんですよ」
「ああ!僕が逢のためにわざわざ連れて来てやったっていうのにそういうこと言うのか!」
「ええ」
「最悪。もう……逢なんて置いて帰ってやるー」
「どうぞ、ご自由に。熱も下がってきたので、私は一人で帰れますよ」

そう言って逢は立ち上がるが、まだ熱があるらしくフラフラして前に倒れそうになる!

「あ……」
「危ない!」

ドサッ。

僕は咄嗟に逢を前から抱きしめて支えてやる。

「……」
「……」
「嘘だよ。帰りもおんぶするから!」
「……お願いします」

僕は少しの間だけ逢を自力で立たせて、急いで逢に背を向けてしゃがんだ。

「よいしょ」

そして逢をおんぶする。

「はぁ……世話が焼けるなぁ」
「それはこっちのセリフです。夕飯のことを何も考えずに私を連れて来た先輩に世話が焼けます」
「ほっとけ……」
「でも、そこが逆に先輩のいいところかもしれません」
「え?」
「私のお母さんにはない、先輩だけの優しさだと思います」
「逢……」
「……」
「……」
「……」
「……ん?逢?」
「……」

寝ちゃったのか。おんぶされて安心して寝ちゃうなんて……まるで子供みたいだな。
でも、たまにはこういうのも悪くないかもしれないな。
逢はいつも僕を子供みたいって馬鹿にする。クールで大人びていて、まるで逢の方が年上みたいだ。
だけど、たまにこうして子供みたいに甘えられると普段の逢とのギャップを感じてすごくいい!!
こういう時だけ、逢に頼られている気がしてすごく嬉しい。
僕はちゃんと責任を持ってこれからも逢を全力で守っていこうと思う。


――先輩から教わったこと
雪はどんなにたくさん降ってもいつかは全部溶けてなくなってしまう。
だけど、雪に関する思い出は人の心の中に降り積もり、その人が忘れない限り、溶けてなくなることはない。
現に私も17年前の初雪のことを覚えていた。あの時の雪はまだ私の心の中に溶けずに残っている。
私と私のお母さん……二人だけの思い出の初雪はまだ溶けずに残っている。
そして今、今度は私と先輩……二人だけの思い出の初雪が二人の心の中に降り積もった。
しゅう先輩……。本当に不思議な人。
先輩は私のお母さんみたいに優しい。何も知らずに私のお母さんと同じことをしてくれた。
私は本当にそれだけで十分だった……。
だけど、17年前の初雪の思い出について話した途端、先輩ったら急に熱くなって……
私のお母さんと同じことをするだけじゃ駄目だとか言い出した。
僕にしか出来ないことをしてあげるために逢と結婚したんだ……
とか突然言い出して……私を無理矢理外に連れ出した。
もしかして私のお母さんを勝手にライバル視した!?
僕が責任を取る!
……先輩はそう強く断言したけど、本当に先輩に責任が取れるのか私は正直不安で仕方がない。
確かに先輩は私のお母さんみたいに優しい。
だけど、私のお母さんとは違って、いつも無計画で衝動的。
現に夕飯のことを何も考えていなかった。
本当に困った先輩ですね。
あ、でも、スキーウェアを用意したこと、ブランコやベンチではなく地面を座る場所に選んだことは……
先輩にしては珍しく計画的で、正直びっくりした。
先輩はいつも私のことになると一生懸命……というより、一所懸命になる。
私のことを想うあまり、私だけを見つめ、周りが見えなくなり……後先考えない衝動的な行動に出る!
その先輩の行動が無意識に私の心を熱くし、私を溶かしていく。
それが私のお母さんにはない先輩のいいところかもしれない。
でも、計画性がないって裏を返せば……馬鹿……ってことなのかな?
うん、先輩はきっと馬鹿なんだ。
正直、そこまでしなくていいのにっていつも思う。
私は満足しているのに、先輩は馬鹿だから、そこまでしなきゃ気が済まないらしい。
馬鹿なだけじゃなくて、おまけにエッチで……本当にどうしようもない先輩です。
でも、そんな馬鹿でエッチな先輩だからこそ、一緒にいるととっても心地よくて幸せな気分になる。
私はそれだけしゅう先輩に愛されているっていうことなのかな?

――と、そんなことを考えていたら、いつの間にか眠気が襲ってきた。
たぶん先輩と公園で遊んで疲れたんだと思う。
先輩の背中……大きくて……温かい。
先輩になら……先輩のこの背中になら……安心して身体を預けられる。
後で先輩に子供みたいだって馬鹿にされるかもしれないけど……
たまには……先輩に甘えてもいいですよね?
私はそのまま目を閉じた。
いつまでも……頼りにしてますからね……しゅう先輩。


それからしばらくして僕は逢を無事に家まで連れ帰った。
家までの道中、逢のかわいい寝息がすぐ耳元から聞こえてきた。
逢のかわいい寝息で僕の耳元が少しくすぐったかった。
まったく、逢って奴は困ったもんだ。
耳をアマガミしないって約束は守ったのに、今度は耳に寝息を吹きかけてくるなんて。
まあ、でもかわいいから許す!
僕は逢をベッドに寝かしつけるなり、急いで夕飯の準備をした。

そして翌朝。
僕は一晩、逢が風邪をこじらせないか心配で寝付けなかったが……
逢は風邪をこじらせるどころか、一晩で全快した。
もともと水泳やってて体力があるとはいえ……恐ろしい女だ。
本当に魔女みたいに驚異的な回復力を発揮した。
逢のご先祖様はもしかして魔女なんじゃ……?
いや、違う。そんなはずはない!
むしろ僕の方が魔法使いで、キスという魔法で逢を全快させたに違いない!!

「そうだ、きっとそうだ!!」
「先輩?何を一人で納得してるんですか?」
「うわっ!逢か!びっくりした」
「何を一人で驚いているんです?」
「い、いや、何でもない」
「……変な先輩」
「じゃ、じゃあ仕事に行って来る!」

僕は外に出た。
逢も僕を仕事に送り出すために一緒に外に出た。

「先輩、行ってらっしゃい。今日もお仕事頑張って下さい」
「うん。ありがとう、逢。行って来るよ」

僕は逢に背を向けて歩き出す。数歩歩いたところで……

「あ、先輩。待って下さい」
「ん?」
「ほら、これ忘れ物です……よっ!」

ズシャッ!

「うわっ!」

ツルッ!ステン!

「あ……」
「いてて……」
「クスッ。あはははは……先輩って本当に単純ですよね」
「くそぅ……逢め……振り向き様に雪を投げるなんて卑怯だぞ!おかげでびっくりしてコケたじゃないか!」
「あはははは……」
「にゃろう!覚えとけ!仕事から帰ったらたくさん仕返ししてやるからな!」
「これも……大切な初雪の思い出ですね」
「僕は嫌だよ、こんなカッコ悪い思い出。……早く溶けてしまえばいいのに」
「それは……私に対する負け惜しみですか?」
「……」
「あ……先輩、逃げた」

何とでも言え!
僕は逢の言葉を無視してさっさと仕事に向かった。
これ以上関わっているとまた何かひどいことされそうだ。
逢の奴……覚えとけ!仕事から帰ったらたくさん仕返ししてやるからな!
やっぱり……昨日意地悪して公園に置いてくればよかったかな~。


――こうして、僕と逢……二人だけの初雪の思い出が出来た。
昨日逢を無理矢理連れ出して、無理矢理思い出を作って、一時はどうなることかと思ったけど……
結局何事もなく、逢も一晩で全快して一件落着だ。
全快した逢は相変わらず僕に対してちょっと意地悪だけど……
昨日は逢にとってもいい体験をさせてもらったから、それでよしとしよう。
次はいつ大雪が降るのだろうか。
今度は家族3人で同じ体験が出来たらいいな。



七咲アフターストーリー
エピソード「先輩、私を溶かしてください~初雪の思い出~続編」(ノベル)
END


最初は前編で終わらせるつもりでしたが、昨日急遽ネタを思い付き、この続編を書くに至りました。
僕もこの話の中の七咲しゅうと同じく馬鹿でエッチな先輩なので……
きっと前編だけでは満足しなかったんでしょうね(笑)
僕が逢に真面目な話をするシーンとか……
その逆で逢が僕に真面目な話をするシーンとか……
二人の本音とか……
二人がイチャイチャするシーンとか……
ちくしょ!!羨ましいよ!!
毎回思うけど、自分よくこんなあま~い話を突然思い付くよなぁ(笑)
それだけ日々妄想しかしてない暇人ってことですかね?(笑)
基本的に僕が毎回話を書く時は、どうしても書きたいから書いているんだけど……
書いたら書いたで今度は自分の書いた話にものすごく嫉妬します(笑)
自分自身にもこんな素敵な出来事が起きればいいのにな……
そしてこのブログを読んで下さる皆さんにもこんな素敵な出来事が起きればいいのにな……
そう願っています。
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