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2010-08-13

エピローグ特別編「先輩、私最高に嬉しいです!! 後編:二人の死闘、そして……」

翌朝
逢の病室
逢「起きて!」
しゅう「……」
逢「先輩、早く起きて下さい!!」
しゅう「……」
逢「早く起きないと朝の回診の時間です!先生が来ちゃいます!」
時刻はまもなく7時になろうとしている。
しゅう「……」
逢「どうしよう……こんなとこ見られでもしたら、恥ずかしくて生きていけない……」
それもそのはず!
ベッドで寝ているのは本来入院患者である逢のはずだが、今寝ているのはしゅうだ。
逢「そうだ!昨日先輩がやったみたいにベッドを傾けちゃえば……」
逢はリモコンを操作してベッドの頭部を90度以上挙上した。
逢「これならさすがの先輩も起きるはず……」
ズサーッ。
しゅう「……」
逢「えっ??」
何と、しゅうは傾斜によって上体が下にずれ落ちるが、それでも起きない!
逢「はぁ。あきれた」
逢「昨日の飲みかけのミネラルウォーターでも頭にかけてあげれば……いや、それはまずい!」
逢「ベッドが濡れていたら私が疑われて……それは絶対に駄目!恥ずかしい!」
逢「じゃあ、どうすれば!?もうあと5分しかない!!」
逢「いい加減起きて下さい!!お願いですから!!」
逢が一生懸命、しゅうの身体を揺さぶるが……
しゅう「……」
逢「うう……」
逢は明らかに取り乱している。一方、そんなことも知らずに呑気に寝ているしゅう。
回診まであと5分。迫る時間。
逢「一体どうすれば……」
??「お困りのようね」
逢「ん?誰か来た……回診が来たの?」
逢はボソッとつぶやく。
??「七咲、私が代わりに起こしてあげようか?」
逢「え?その声は……」
逢は病室内を隔てるカーテンを開けた。その人物が姿を現す。
逢「あ……塚原先輩!お久しぶりです!!」
塚原「おはよう、七咲。久しぶりね」
塚原「それと……そこでいつまでも七咲の代わりに寝ている君もね!」
しゅう「……」
逢「あの……どうしてここへ?科が違うんじゃ……」
塚原「その説明は……二度手間になるから、まずこの寝ている人を起こしてからね!」
逢「はぁ……」
塚原「七咲、ちょっとどいてなさい」
逢「はい」
塚原「ふっ!」
逢「えっ!?塚原先輩の目付きが変わった!?こ、怖い……」
塚原「私の可愛い後輩を困らせるとは……やるわね、君!」
しゅう「……」
逢「塚原先輩が……不敵な笑みを……まるで悪魔みたい……」
塚原「回診のお時間ですよ!七咲しゅう君、おはよう!」
しゅう「……」
塚原「昨夜はよく眠れたかな?」
しゅう「……」
塚原「それじゃ、早速朝の血圧を測るね!」
塚原先輩が水銀血圧計を取り出す。
塚原「じゃ、ちょっと袖まくらせてもらうね」
しゅう「……」
塚原先輩がしゅうの右の二の腕を露出し、カフをぎゅっ!と巻きつける。
しゅう「……!?」
逢「あ……先輩が今ビクッてなった……」
塚原「それじゃ、痛かったら言ってね」
塚原先輩がゴム球を握って加圧し、水銀柱を上げていく……
100、120、140、160、180、そして200!!
しゅう「うう……」
しゅうが右の二の腕に猛烈な痛みを感じて、思わず唸る!!
それもそのはず!
普通200まで加圧したら相当な圧力が二の腕にかかる!当然、痛いに決まってる!
塚原「あ、ごめん。上げ過ぎちゃった。緩めるね」
塚原先輩はさらにゴム球を握る!!210!!
しゅう「うぎゃあ……」
しゅうが痛みに耐えきれず、手足をバタバタさせる。
しかし、まだ目は寝てる。
塚原「あ、間違えた。ごめん、ごめん」
逢「塚原先輩……完全に楽しんでる……」
逢の表情が少し引きつっている……。
塚原「でも、これ以上やると動脈を止める時間が長いから危険ね」
塚原「仕方ない。緩めてあげるか……」
プシュー。
塚原「上が130の、下が90か。ちょっと高めね」
塚原「まあ、相当圧迫したから上がってても当然なんだけど」
逢「しかも、遊びながらでもちゃんと測れてる……すごい……」
しゅう「うう……こんな朝っぱらから……何事?」
僕は薄目で右のテーブルに置いてある目覚まし時計を見る。
しゅう「まだ7時……もうちょっと寝かせて……逢」
しゅう「……」
逢「……」
塚原「……あきれた。あんな事されてもまだ起きないなんて」
塚原「七咲、苦労ばっかりで可哀相ね。同情するわ」
逢「い、いえ!違うんです!これには訳が……」
塚原「訳?」

塚原「なるほど。なかなか寝付けない七咲のために、しゅう君がずっと起きててくれたのね」
塚原「そりゃ寝不足にもなるわけだ……」
逢「はい。先輩は半年間ずっと私のために頑張ってくれたんです」
逢「だから苦労させられたのではなく、私が先輩に苦労させてしまったんです」
塚原「……分かった。そういう事ならさっきの発言を謝るわ」
逢「い、いえ……そんな……謝らないでください!!塚原先輩は何も悪くないです!!」
逢「私と先輩が誤解を招いただけなので」
塚原「……変わってないわね。七咲のそういう素直なところ、昔と全然変わってない」
逢「あ……」
逢はちょっと照れてる。
塚原「でも、そろそろ起こさないとまずいわよ。回診が来るから」
逢「そうなんです……だから困ってます」
しゅう「ああ、何か騒がしくて寝れない……逢、もうちょっと静かに……」
僕は薄目で逢を見る。
しゅう「あれ?気のせいか??何か一人多く見える……」
塚原「やっと旦那さんが起きたみたいね。おはよう、しゅう君」
しゅう「あ、おはようございます、塚原先輩……」
しゅう「……?」
しゅう「えっ?塚原先輩!?」
僕は目を見開いて辺りを見渡す。
しゅう「嘘!?塚原先輩がどうしてここに!?」
グギッ!
しゅう「う……足攣った!!痛い……」
逢「だ、大丈夫ですか??」
しゅう(そうだ、思い出した!そういや昨夜4時に寝たんだっけ?)
しゅう(逢を押し倒したら、そのまま僕の太ももの上で寝ちゃって……)
しゅう(僕はやむを得ず、背もたれを下げて、膝を伸ばしたまま寝たんだ)
しゅう(だから血の巡りが悪くて足が……)
しゅう(あれ?また背もたれが上がってる!?誰が90度にしたんだ!?)
しゅう(それにさっき右の二の腕が猛烈に圧迫されて痛かった)
しゅう(一体何がどうなってるんだ!?)
僕は自分が置かれた状況を把握しきれずにいた。
しゅう「痛てて……」
僕は痛い足を摩った。
逢「もう、そんなに慌てて行動するからですよ!ちょっと落ち着いてください」
しゅう「うう……よく言うよ……人の上に乗っかっておいて……」
しゅう「こうなったのは逢が重いからなんだぞ?」
逢「ああ!また人のせいにする!!最低」
しゅう「いや、事実ですから!!」
逢「だいたい乗っかっていいって言ったのは先輩の方ですよ!」
逢「私は悪くないんです!!」
しゅう「だからって乗っかるか?普通」
しゅう「こっちはずっと膝伸ばしたままで、血の巡りが悪くなったんだ……」
逢「知りません、そんなこと……ふん」
しゅう「ちょっと……何その態度!?可愛くないなぁ」
逢「ええ、そうですよ!ブスで悪かったですね!!」
しゅう(たくーーーー!!こんな朝っぱらから、何で逢と喧嘩してんだよ??)
塚原「はいはい。夫婦喧嘩はそのくらいにして」
塚原先輩はやれやれといった感じの顔をしている。
塚原「で?どこが痛むの?」
しゅう「あ……ももの裏です」
塚原「ハムストか……分かった」
塚原先輩がマッサージとストレッチを始める。
しゅう「すみません、せっかく塚原先輩がいらしたのに寝てました」
しゅう「この無礼、どうかお許しください」
僕は塚原先輩に軽く頭を下げる。
塚原「いいわよ、別に。寝顔、拝見させてもらったし」
しゅう「う……」
僕はちょっと恥ずかしくなった。
塚原「まったく」
塚原「そろそろ回診の時間だっていうのにしゅう君起きないから。七咲が焦ってたわよ」
塚原「私も起こすの大変だったんだからね」
しゅう「そうだったのか……ごめん、逢」
しゅう「僕、さっき失礼な事を言っちゃったから……」
逢「い、いえ……仕方ないですよ。先輩……私のために寝不足になったので」
しゅう「……」
逢「……」
塚原「ふふっ。何か羨ましいわ。うちはこうはいかないからね」
しゅう「あ!そういえば、葉書出し忘れてた……」
逢「葉書って……あの仲人の件の?」
しゅう「うん」
逢「もう……何やってるんですか?まったく」
しゅう「仕方ないだろ!誰かさんが急に倒れるもんだから……」
しゅう「そのせいで出し忘れたんだよ」
逢「また私のせいにする!」
しゅう「だって事実だし!」
逢「まあ……そうですけど」
しゅう「あ、珍しい!大人しく認めたよ……」
逢「……」
塚原「それで?引き受けてもらえるかな?」
しゅう「はい。昨夜逢と話し合った結果、引き受ける事に決めました」
塚原「ありがとう、期待してるわ」
塚原「これよし……と。どう?少しは楽になった?」
しゅう「あ!少しどころか大分楽になりました!さすが塚原先輩」
塚原「ふふっ。お褒めいただいてありがとう。これでも元水泳部部長だから」
しゅう「そうでした……あはは」
塚原「それから、一つ注意ね」
しゅう「はい」
塚原「ずっと膝を固定していると、血栓ができて……」
塚原「心臓や肺近くの血管が詰まりやすくなるから、くれぐれも注意してね」
しゅう「はい、分かりました」
しゅう「……って、何か患者間違えてません?」
塚原「そうね……そもそもここに来た事自体、間違ってるんだけどね」
逢「えっ?ああ……なるほど」
しゅう「え?何納得してるの?だって、回診に来たんですよね?」
塚原「ええ。そうよ」
しゅう「んで、本来診るべき患者は……こっちなわけですよね?」
僕は逢を指指す。
逢「はい?」
塚原「違う」
しゅう「えっ?何がですか?」
逢「はぁ……聞きました?うちの夫は結構鈍いんです」
塚原「納得」
しゅう「はい??あのーお二人とも??」
逢「私は昨日、先輩に何て質問しましたか?」
しゅう「……昨日?えっと……確か……」
しゅう「『しゅうさんって、実は中身はおじさんですね?』とか……」
逢「はい?」
塚原「ふっ」
しゅう「『あ、今の物真似お上手ですね……一体誰の物真似なんですか?』とか……」
逢「……」
塚原「ふふっ」
しゅう「『ふふっ。先輩、そんな推理力でよく刑事さんになれましたね』とか?」
逢「違います!その最後の質問の少し前です!!」
しゅう「前?」
逢「はい」
しゅう「う~ん、そうでさぁねぇ……わかんない!逢ちゃん教えて!」
逢「う……」
塚原「ふふっ、それ……はるかの真似?」
しゅう「そうです!!」
逢「……もういいです!塚原先輩のネームプレートをよく見てください」
しゅう「ネームプレート?」
しゅう「ああ!!思い出した!!」

回想
逢「クイズです。塚原先輩は何科の科長になったでしょう?」
しゅう「そんなの……考えるまでもない!小児科じゃないか」
しゅう「うん?小児科!?」
僕は逢のお腹を見る。
しゅう「ああああ!!そういう事か!!」

しゅう「塚原先輩は小児科の先生、逢は産婦人科にお世話になっている」
しゅう「だから、そもそも科が違うんだ!!」
塚原「正解。ちょっと時間かかったね」
しゅう「なるほど。え?じゃあ、どうしてここに?」
塚原「そうね……強いて言うなら……逢いたくなったから?」
塚原「小児科の回診をしていたら、偶然この部屋の前を通りかかって……」
塚原「懐かしい名前を見つけたからね」
逢「でも、同姓同名の可能性もあるんじゃないですか?」
塚原「ええ。それも一応考えたわ。けど、声で分かった」
しゅう「声?」
塚原「ええ。愛する夫を起こそうとしている可愛い奥さんの声でね!」
逢「あ……ん……」
逢は赤面している。
塚原「ちょっと可哀相で放っておけなかったから思わず、手助けに入っちゃった」
しゅう「手助け?もしかしてさっきの二の腕のあれは?」
塚原「ああ、ちょっと血圧測るフリをして悪ふざけをね」
しゅう「じゃあ、このベッドの傾斜も?」
逢「それは私です。先輩、まったく起きなかったので……」
逢「ベッドを傾けたら起きるかと思ったのですが……」
しゅう「あ……そっか。ごめん」
逢「いえ、もういいですよ」
塚原「あ。本物の回診が来たみたいね」
塚原「私もそろそろ戻らないといけないから」
しゅう「もう行かれるんですか?もっとお話したかったのに」
逢「先輩、それは無理です。もう7時10分を回っています」
しゅう「そっか。じゃあ、また今度、お逢い出来れば」
塚原「ええ。そうね。出来れば……その子を連れて小児科にいらっしゃい」
塚原「あなたたちならいつでも大歓迎だから」
しゅう「え?いいんですか?」
塚原「ただし、仮病はお断りよ!こっちも忙しいからね」
しゅう「あ……はい」
逢「ほら。昨日私が言った通りじゃないですか!」
しゅう「あ、ああ」
塚原「それと……これ。さっき小児科の病棟でお礼にってもらったんだけど、よかったら君にあげる」
しゅう「あ……どうも」
塚原「それじゃあね!」
しゅう「お疲れ様です!」
逢「ありがとうございました!」
塚原先輩と回診の先生が交代で入る。
しゅう「じゃあ、僕はちょっと顔洗って来るか!」
逢「行ってらっしゃい、先輩」
しゅう「ついでに目覚ましのコーヒーも買う予定だけど……要る?」
逢「じゃ、お願いします」
しゅう「分かった」

僕は逢の病室を飛び出して廊下へ出る。
そして洗面所へ向かった。

しゅう「さっき、塚原先輩、何くれたんだろ?」
僕は気になって中身を開けてみた。
しゅう「あ、これは!!!」
何と、イナゴマスクの変声機だった!!しかも今はもう売られていないレア物だ!!
子供が塚原先輩にあげたくなる理由も、たぶんこれがレア物だからだ。
しゅう「わーい、ちょっと遊んで来よっ!」
僕は顔を洗い、中庭へ出た。
しゅう「確かこれって、録音した音声をイナゴマスクの声で再生するやつなんだよな?」
僕はワクワクしていくつか声を録音して遊んだ!!
すっげぇ楽しい時間を過ごした。
しゅう「って!こんな事してる場合か!?」
しゅう「いくらなんでも、もう回診終わってるぞ!!早くコーヒー買って戻ろう」

再び逢の病室へ戻った。

しゅう「お待たせ」
逢「お帰りなさい。何してたんですか?顔洗うのに30分もかかって……」
しゅう「ごめん。ちょっとな」
しゅう(まさか逢におもちゃで遊んでたなんて言えないよな。ガキじゃあるまいし)
しゅう「あれ?おいしそうな匂いがする……あ、それ朝ご飯か!!」
逢「ええ。そうです」
しゅう「ああ……僕も何だか腹減ってきた。売店行って来るか」
逢「顔洗ったり売店行ったり、忙しそうですね。クスッ」
しゅう「不公平だよな。僕の分も用意してくれればいいのに」
逢「それは出来ませんよ。入院しているのは私だけなので」
逢「先輩も悔しかったら入院してみてはどうです?仮病で」
しゅう「もう仮病はいいから!!んじゃ、行って来る」
逢「行ってらっしゃい」


しゅう「うん、この焼きそばパンうまい」
逢「……」
しゅう「ん?どうした?食べたい?」
逢「あ……いえ……別に」
しゅう「何かすごく食べたそうな顔してたから……」
逢「そう……見えました?」
しゅう「うん」
逢「……」
しゅう「じゃあ、ちょっと分けてあげるよ」
逢「いえ、いいです」
しゅう「遠慮しなくていいから!ほらっ」
僕はパンの端っこをちぎって口に咥える。
逢「え?」
しゅう「んん!」
僕は首を素早く上に振る。
もう片方を咥えろと主張する。ポロッキーゲームの要領だ。
逢「えっと……じゃあ、いただきます」
僕と逢はお互いの口を近付けていく。
病室はカーテンを敷いているので、誰にも目撃されない!
絶好のチャンス!!
二人の距離はどんどん近付いていく……
逢の口がパンの端っこにもう少しで届く!!そんな時だった……
ピリリリ……
しゅう「うお!ごくり」
逢「え?」
僕はびっくりして急に上を向き、パンを丸飲みしてしまった!
しゅう「ゲホッ、ゲホッ」
逢「だ、大丈夫ですか?えっと……どうぞ」
逢は僕に飲みかけのコーヒーを渡す。ただし、僕の。
しゅう「ごくごく……はぁ。死ぬかと思った」
逢「先輩、病院内での携帯電話はマナー違反ですよ」
しゅう「ああ、そうだった」
逢「それより早く電話に出てください!うるさいです」
しゅう「ああ、悪い」
僕は電話に出た。
しゅう「もしもし」
華村「ああ、おはよう!」
しゅう「何だ、お前か……せっかくいいとこだったのに邪魔しやがって」
華村「おい?何の話だ?……と、それよりこっちは非常事態なんだ!!」
しゅう「え!?非常事態??」
逢「?」
華村「ヤバいもん、見ちまったんだ……」
しゅう「えっ?」
華村「4年前に起きた一家殺人事件の犯人……そいつとそっくりな奴をな!!」
しゅう「何だって!?」
華村「今、まっちゃんと一緒に尾行して、そいつのアジトに来ているんだ!!」
しゅう「場所は?」
華村「俺の小型発信機のID知ってるよな?それで見つけてくれ!!」
しゅう「ああ……貸して」
逢「はい」
僕は逢の携帯電話を借りる。場所を特定した。
華村「ん?そこに……いるのか?七咲」
しゅう「ああ。今ちょっと病院にな」
華村「もしかして今日って……ついに??」
しゅう「ああ。祝ってくれ」
華村「そっか。どうしよう。そりゃ悪いよなぁ」
しゅう「どうした?」
華村「実はな、今俺とまっちゃんしかここにいないんだ」
華村「応援を呼ぼうにも他の署員は近くであった大きな事件に人員を割かれているんだ」
華村「そっちの方は手一杯らしくて……」
しゅう「だから僕が行くしかないのか?」
華村「ああ。だけどお前……今日はめでたい日なんだよな?」
しゅう「うん……」
華村「一緒に……いてやった方がいいに決まってるよな?」
しゅう「うん……」
華村「悪い。このヤマは俺とまっちゃんで何とかするから!」
逢「……下さい」
しゅう「えっ?」
逢「行って下さい!!」
しゅう「逢?」
逢「聞こえますか?今、松原さんと華村さんしか現場に行けないんですよね?」
華村「あ、ああ」
逢「4年前の犯人は相当残虐な殺し方をしています!」
逢「お二人だけじゃ返り討ちに遭うかもしれません!」
逢「それだけ危険な犯人なんです!!」
しゅう「逢?」
逢「そして今、お二人を助けられるのは、先輩ただ一人!」
逢「先輩は必要とされているんです!私の事はいいですから、行ってあげてください!!」
しゅう「逢……でも、危険な犯人なんだろ?僕が行ってもしもの事があったら……」
逢「だから、約束して下さい!必ず、生きて帰って来ると」
しゅう「……」
華村「……」
逢「松原さん、華村さんもです!3人揃って生きて帰って来て下さい!!」
逢「そのために、私は、夫の貸し出しを許可します!」
しゅう「……分かったよ。逢がそこまで言うなら、行って来る!」
しゅう「死ぬ気で頑張って来る!だけど、僕は絶対に死なない!!」
しゅう「逢との強い絆が今まで何度も僕を守って来たから今度もきっと大丈夫だ」
しゅう「生きて帰って来て、逢とその子の顔を拝むから!!」
華村「しゅう……分かった。お前らがそこまで言うなら……しゅうを拝借いたします!!」
しゅう「それじゃ、電話を切るぞ」
華村「ああ!」
しゅう「逢……必ず、生きて帰って来るからな!」
逢「あなた……どうかご無事で!御武運をお祈りしております!」
しゅう「ん……」
逢「ん……」
僕は逢にキスをしてから病院を飛び出した!
ここから僕の死闘が始まる!!

それにしても逢はどうして僕を行かせたりしたんだろう?
そりゃ一人でも仲間が増えれば犯人に立ち向かえるんだろうけど……
でも、僕一人増えたところで何の役に立つんだろう?
下手したら僕まで殺されかねない危険な犯人だ。
普通ならそんな犯人の元に大事な夫を向かわせたりはしない。
もしかして逢は僕ならこのヤマを片付けられるって信じているのかな?
僕は自慢の夫で、他の誰よりも肉体的にも精神的にも強いから……
きっと無事に犯人を逮捕して帰って来るって……そう思ってるのかな?
いや、考え過ぎだろ。とにかく、早くこのヤマを片付けよう!!
逢と、お腹の子が僕の帰りを待っているから!!


犯人のアジト
しゅう「待たせたな」
僕は一度署に寄り、制服に着替えて拳銃を所持してから来た。
華村「ああ、よく来た。悪いな」
しゅう「いいって!それよりまっちゃんは?」
華村「偵察だ。中の様子を調べている」
しゅう「そっか。あ……メールだ」
当然、着信音は切ってある。犯人にバレないように。
華村「相手は3人か。主犯とその仲間2人」
しゅう「建物の構造は……よし」
華村「俺たちも行くぞ!」
しゅう「ああ」

建物の2階から入った。そこから見下ろすと犯人一味が1階にいる……
松原「しゅうちゃん、よく来てくれた。悪いな」
しゅう「いいって!」
華村「あいつらか……」
松原「どうやって倒す?」
しゅう「ゆっくりと背後から近付いて拳銃でな」
華村「了解」
僕らはゆっくりと階段を降る。音を立てないように、慎重に慎重に。
一歩一歩慎重に歩みを進め、5段くらい降りたところだった!
ツルッ。
しゅう「うわっ!」
ドスン!
段には予め油がまいてあった。僕はそれに足を取られて一気に階段から滑り落ちた。
たぶん、松原、華村が尾行していると奴らが気付き、予め罠を仕掛けておいたのだろう。
僕がまんまとそれに嵌った!犯人の思惑通りに。
犯人「やっぱり来たか……サツめ」
しゅう「いててて……お前は4年前の!?」
犯人「その通りだ」
しゅう「偉くあっさり認めたな?それだけ捕まらない自信があるってことか?」
犯人「ああ、そうだよ……」
犯人、そして仲間2人は拳銃を取り出す。
しゅう「うっ……やっぱり所持していたか」
しゅう(どうすんだ!?これじゃ勝ち目がない)
すると、松原が犯人の仲間の一人の拳銃を陰から狙撃する……しかし、外した。
松原「ちくしょ!」
しゅう「外したか……」
その仲間が松原を狙撃する……しかし、間一髪、松原は避けた。
松原「あぶねぇ!!」
しゅう(相手が拳銃持ってるんじゃ、拳銃だけでは対抗できない)
しゅう(何かないか……)
僕は周りを見渡し、使えそうな武器を捜す……
しゅう(これだ!!)
僕は後ろにあった木の棒に向かって全力でダッシュする!
しかし、コケる。靴の裏についている油のせいでうまく動けない。
しゅう「ちくしょ!」
あともう少しの距離なので、這って移動しようとするが……
犯人「ふっ、無駄な抵抗だ!」
犯人に右肩を撃たれた!!
しゅう「うぐっ……」
僕はその場に倒れた。
松原「しゅうちゃん!!」
華村「くそおおおおおお」
しゅう(うっ……逢……)

一方、その頃
逢「……先輩」
逢は少し不安そうな表情をしている。
はたして本当に行かせてしまってよかったのだろうかと。
無事を信じたいが、その反面どこか不安だ……
逢「いや、きっと大丈夫。変な人だから、きっと変なところで強運に助けられるはず」
逢「クスッ」
安心したのもつかの間……
逢「う!!あ!!来た……まただ……」
昨日に続き、二度目の陣痛に襲われる逢……
逢「あ……う……先……輩……」
逢は苦し紛れにナースコールをする。
しゅうに引き続き、逢の出産という名の死闘も始まった。

犯人のアジト
状況はますます悪くなる一方だった!
僕は油のせいで身動きが取れない!!
自分の靴でまき散らした油に囲まれ、靴を脱いでも滑って転ぶ始末。
しゅう「くそう!」
しゅう(こんな大事な時に寄りにもよって何でこんな奴らと……)
しゅう(早く帰りたい……逢の元へ)
しゅう(いや、何弱気になってんだ!?約束しただろ?)
しゅう(必ず犯人を捕まえて逢の元へ生きて帰ると!!)
しゅう(しかし……状況が状況だ……何とか形勢逆転出来る手段はないのか!?)
僕がそんな事を考えていると……
仲間「次はお前だ!」
しゅう「華村!!あぶねぇ!!」
僕は油まみれでも何とか頑張って立ち上がり、走って華村をかばう!
しゅう「あう……」
今度は背中に一発くらう。幸いかすっただけだ。
華村「馬鹿!何で俺なんかをかばった!?お前には俺以上に守らなきゃいけない奴がいるだろうが!!」
華村「そいつがお前の帰りを待っているのに、何で自分を犠牲にした!?」
しゅう「馬鹿はお前の方だ!お前だって大切な仲間なんだ!!守って何が悪い!?」
しゅう「確かにあいつは大切だよ。だけど、お前だってあいつと同じくらいに大切なんだよ」
華村「……」
しゅう「3人揃って生きて帰って来いってあいつに言われただろ?」
しゅう「だから、守れてよかった」
華村「く……」
松原「しゅうちゃん……」

今僕がかばわなかったら、華村は心臓を撃たれて死んでいた……
相手の拳銃の銃口の向きからしてそれは間違いなかった……
だから僕は咄嗟に華村をかばった。大切な仲間を死なさずに済んだ……
これで……いいんだよな?逢

一方、その頃
病室からストレッチャーで分娩室へと運ばれる逢
逢「う……うう……」
痛みに必死に耐えようとして歯を食いしばり、顔にしわを寄せている。
逢「先……輩……私……頑張りますから……」
逢「どうか……ご無事で……」

犯人のアジト
状況は少しだけ良い方に傾く。
華村「うらあ!!」
ガシッ!
仲間「くっ!」
華村「ったく、手間掛けさせやがって!」
華村は傷だらけになりながら、ようやく一人目に手錠を掛ける。
仲間「くっそ!」
手錠をかけられた仲間を見てもう一人の仲間が悔しがる。
その隙をついて……
松原「余所見してんなああああああ!!」
ボカッ!
仲間「うごっ!」
松原「2人目ゲット!」
華村「あとは主犯だけだ!」
松原「しゅうちゃん、任せたぞ!!」
しゅう「おっし、了解!」
犯人「くそっ」
僕と犯人の一騎打ちになる!
しゅう「もう観念するんだな!お前の仲間はすでにお縄に付いたぞ!!」
犯人「ふっ、観念するのは、そっちだぜ」
しゅう「何だと!?」
犯人「さっきの撃ち合いで全弾使い果たしたはずだ」
しゅう「嘘だ!」
僕は試しに犯人を撃ってみる……本当だ。
華村「俺のもないんだ」
松原「俺も。あと……調べたけど、こいつらも持ってない!」
犯人「つまり、ここにいる6人の中で弾を持っているのは俺だけだ」
しゅう(そっか。そういうことになるのか)
犯人「もう……勝負はついた。お前の負けだ!大人しく観念しろ」
しゅう「うぐっ!」
犯人に左の脇腹を撃たれる。
しゅう「くっそ」
僕は痛みに耐えきれず、跪く。
華村「しゅう!!」
松原「しゅうちゃん!!」
犯人「どうやらお前には生きる目的があるらしい」
しゅう「何!?」
犯人「左手の薬指」
しゅう「あっ」
そこには逢からもらった結婚指輪がはめられていた。
犯人「悲しいなぁ。せっかく大事な奥さんがいるのに……」
犯人「お前はもう生きられない。ここで俺がお前を止めてやるんだ!」
しゅう「くっ」
しゅう(逢!!)
しゅう「うおっ」
今度は右の太ももを銃弾がかする。
華村「しゅう!!」
松原「しゅうちゃん!!」
犯人「哀れだなぁ……まあ、安心しろ」
しゅう「!?」
犯人「お前を殺したら血まみれの遺体となったお前の写真を奥さんに送り付けてやるよ!」
犯人「お前の一家ともども悲しみのどん底に沈むがいいさ!」
しゅう(くっそ!黙って言わせておけば、ムカつくこと言いやがって!!)
しゅう(死んでたまるか!!こんな所で!!)
しゅう(僕は必ず生きて帰り、逢と二人で子供を育てるんだ!!)
しゅう「絶対に、絶対に……」
しゅう「僕は死なない!!!!!!!!」
しゅう「生きてみせる!!!!!!!!」

僕は制服の胸ポケットにいつも忍ばせている安全祈願のお守りを強く握った!
逢との強い絆で満たされている、この大切なお守りを強く握った!
また、僕の生命を救ってくれ、逢!!
犯人「でも、どうやって生き延びるんだ?」
犯人「お前が生き延びる術はもうない。そして俺は逃亡する。一人でな」
仲間「何だって!?俺らを見捨てる気か!?」
犯人「仲間なんていくらでもいるんだ……また探せばいいだけのこと」
仲間「ふざけるな!!俺らは一体何のためにこいつらと殺り合ったんだ!?」
しゅう「……くっ!」
しゅう(僕は猛烈に怒りを覚えた……仲間を見捨てるだと!?ふざけるな)
しゅう(こんな残虐な奴に……絶対負けてたまるか!!)
しゅう(何か……何かないか!?)
僕はポケットの中を探ってみる。ダメもとで。
しゅう(ん?何だ、これ!?)
右手の先に何か固くて四角い物が当たっている……
しゅう(あ!これは!!)

回想
塚原「それと……これ。さっき小児科の病棟でお礼にってもらったんだけど、よかったら君にあげる」
しゅう「あ……どうも」

しゅう「さっき、塚原先輩、何くれたんだろ?」
僕は気になって中身を開けてみた。
しゅう「あ、これは!!!」
何と、イナゴマスクの変声機だった!!しかも今はもう売られていないレア物だ!!

しゅう「確かこれって、録音した音声をイナゴマスクの声で再生するやつなんだよな?」

しゅう(イナゴマスクの変声機……あ!)
僕は周りを見渡した。ちょうど都合良く犯人の背後に人が出入り出来そうなドアがある!シメた!!
しゅう(一か八かの大勝負!こんなおもちゃでうまくいく保障はない)
しゅう(だけど……試してみる価値はある!!逢、待ってろ!!今ケリを着ける!!)
しゅう(このスピーカーを取り外して……)
犯人「さあ、もう決心は着いたか?いつでも殺してやるぞ」
しゅう「僕は……不死身だあ!!」
スピーカーを貼り付けた拳銃をドアに向かって投げる。
犯人「おっと!コントロール悪いな。かすりもしない」
犯人「それでどうやって俺を追い詰めるんだ!?」
松原と華村が固唾を飲んで見守る。
しゅう「ふん、残念だったな。もうお前の負けだよ?」
犯人「何!?」
しゅう「聞こえないか?僕が呼んだ、警察の声が!」
僕はポケットの中で再生ボタンを押す。
イナゴマスク「警察だ!犯人一味め!大人しく降伏しろ!!」
犯人「何!?ドアの向こうにサツがいる!?」
犯人「嘘だ……確かこの近辺で大きな事件があって……」
しゅう「その捜査、たった今終わったらしいぞ!」
しゅう「こっちに応援が向かっている。総勢……30人!!」
犯人「!?」
松原「嘘!?」
華村「マジで!?」
しゅう「ああ。僕の携帯に連絡があった」
僕はポケットの中でもう一度再生ボタンを押す。
イナゴマスク「そこを開けろ!!」
犯人「くそっ!」
犯人はかなり取り乱している……その隙につけ込んだ!!
しゅう「今だ……くらえ!!」
僕は油を振り払い、犯人に向かって猛ダッシュする!!
犯人「あ!!」
ズッキューン。
弾丸が僕の左の頬をかすめる……だが動じない!!
しゅう「必殺・ナナサ……」
犯人「!?」
しゅう「キーーーーーーーーック!!」
ドゴッ!!
鋭い僕のナナサキック、もといイナゴキックが犯人の腹にめり込む!!そのまま蹴り倒す!!
犯人「グホッ!」
一度は倒れる犯人……それでもまだ起き上がろうとしたので……
しゅう「もう一発くらえ!!これは……」
しゅう「逢の分だあああああああああああああ」
ドゴーッ!!
犯人「うあ……」
僕は犯人に手錠をかけ、事件は一件落着。
しゅう「お前、マジで許さない!人の生命を弄びやがって……」
しゅう「相手が自分の同僚だろうと、自分の大切な人だろうと、自分の敵だろうと……」
しゅう「生命の重さに変わりはないんだ!」
華村「しゅう……」
しゅう「お前の仲間だってお前を守るために必死で闘った。なのにお前は見捨てようとした」
しゅう「仲間なんて探せばいくらでもいる。それは確かにそうだ」
しゅう「だけど、たくさんいるからといって犠牲にしていい者なんて誰一人いないんだ」
しゅう「自分のために生命を張ってくれる一人一人を……大切にしなきゃいけないんだ」
しゅう「じゃないと、罰が当たる」
犯人「……」
そう、僕がさっき自分を犠牲にして華村をかばったように……
仲間を大切にしなきゃいけないんだ。
僕が死んだら逢が悲しむ。それと同じように華村が死んだら悲しむ人は必ずいる!
僕は自分が傷付くよりも相手が傷付く方が何百倍も悲しいと思う。
だから、華村をかばって正解だったんだ。逢には悪いけどな。
だけど、僕はこうして生きている。一応約束は守れた。
松原「なあなあ?」
しゅう「ん?」
松原「応援の奴ら、なかなか入って来ないぞ?入り口で何手間取ってんだ?」
しゅう「ああ、それは……」
華村「イナゴマスクの変声機……だろ?」
しゅう「ああ。よく知ってるな?」
華村「俺昔よくこれで遊んでたんだ。だから、道理で聞き覚えある声だなと思ったんだ」
しゅう「そっか」
松原「それより、早く行ってやれよ!生まれるんだろ?」
華村「付き合わせて悪かったな。けど、お前……カッコ良かったぜ」
華村「まるでイナゴマスクみたいだった」
しゅう「よせよ、お世辞は」
華村「その変声機でさっきのお前の演説、録音しときゃよかったな」
しゅう「あ、そうか。すっかり忘れてた」
松原「ついでにその傷、治療してもらって来れば?病院なんだし」
しゅう「あ、そっか。それも思い付かなかった」
華村「頑張れよ、お父さん」
しゅう「ああ!任せた。行って来る!」

華村「あいつは……しゅうは……間違いなくいい父親になりそうだな」
松原「うん。きっとな」

こうして僕の死闘は無事、終わった。
血まみれのまま、その血を拭き取ることもなく、僕は病院へ急いだ。
もう生まれたのかな?
生まれる時まで一緒にいるって言っちゃったけど……もうその必要なかったりして。
でも、それはそれで安心だ。逢が一人で乗り切ったってことだから。
どっちにしても僕は嬉しい。
そんなことを思いながら、僕は病院へと急いだ。

病院へ到着。
すぐさま逢の病室へ向かう……いない。
聞き込みの結果、どうやらストレッチャーで運ばれたとのこと。
となれば、今、分娩室か!?僕は分娩室へ急ぐ!!
もう始まっている!!急がねば!!
病院の廊下をひた走る!!僕が走った跡には点々とする血の跡。
それに犯人に撃たれた場所が痛くて、そこを押さえながら変な走り方をしている。
僕は周囲の人間から注目を浴びる。当然だ、明らかに不審者だからな。

分娩室
逢「う……うう……」
もうすでに陣痛開始から2時間が経過。
しかし、一向に事態は進展しない。
いきなり痛みが襲ってきたり、まったく痛くなくなったりで……不規則な痛みが逢を襲う。
汗だくになる逢。その表情は不安そうだ。
さすがの水泳部もこれだけ長い間慣れない痛みに襲われたら、だんだん衰弱してくる。
逢「う……先……輩」
逢「あれ?何だか……眠くなってきた。意識が……飛びそう」
助産師「逢さん、しっかりしてください!意識を保って!!」
それもそのはず!
しゅうと同じで逢も寝不足だった。そのツケが回ってきた。
朝コーヒーを飲んだが、とっくに眠気覚ましの効力は切れている。
痛みと眠気……その二つが同時に容赦なく逢を襲う。
肉体的にも精神的にも追い詰められる逢。もうダメかと思ったその時だった!
ななさきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
がんばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!

逢「え?」
逢にはそう聞こえた。実際は……
しゅう「あいいいいいいい!!!!がんばれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
どうやら朦朧とする意識の中で高校2年生のインターハイの時と今を重ね合わせているようだ。
分娩室の入り口を見ると、そこにはしゅうがいた。
全身血だらけ、警察官の服装でそこに立っている。
逢「先……輩?」
しゅう「逢!!無事か!?」
僕は何の躊躇いもなく逢に駆け寄る。
周りにいる助産師さんたちは僕の格好に驚いている……だが、そんなこと気にしている場合じゃない!
僕はすごく弱々しそうな声で僕を呼んでいる逢が気がかりで仕方がなかった。
逢「先……輩……どうしてここへ?」
僕は診察台で寝ている逢のすぐ右横に駆け寄り、しゃがみ込む。
そして逢に向かって敬礼する!
しゅう「ふっ、七咲しゅう巡査、ただ今任務を終えて戻って参りました!」
しゅう「七咲逢署長、次なる指令をなんなりと!」
逢「あ……お帰りなさいませ。ご無事で何よりでした」
逢「じゃあ……そばに……いてください」
しゅう「了解」
逢「あ……」
逢がゆっくりと僕の左の頬に右手を伸ばし、優しくあてがう。
逢「血……血が……」
しゅう「大丈夫。こんなのかすり傷だから!」
逢「……先輩!よく、ご無事で……私、ずっと心配でした」
逢「先輩を行かせたことがずっと……不安で」
逢がぽろぽろと涙を流す。
しゅう「ううん、逢の判断は正しかったよ」
しゅう「だって……現に僕は……ここにいるから!」
しゅう「約束通り、生きて死闘から帰って来たんだよ」
僕もつられて涙を流す。
逢「先輩……」
まるで第二次世界大戦の戦場から帰って来た夫の帰りを喜ぶかのように逢は涙を流す。
本当に、激しい闘いだった。一歩間違えば僕はあの場で死んでいた。
塚原先輩がくれたおもちゃのおかげで、間一髪危機を脱することが出来た。
本当に感謝しています、塚原先輩。
しゅう「さて、僕は約束を守ったよ。次は……逢の番だ!」
僕は逢の右手を自分の両手で優しく包み込むようにして握ってやる。
逢「あ……」
しゅう「大丈夫、逢は一人じゃないよ。僕がここにいて一緒に闘うから!」
しゅう「そうだな……皮の盾くらいの防御にはなるんじゃないかな?」
逢「クスッ。そんなことないですよ。先輩は……鉄の盾です」
僕は実は、つい最近、逢と某RPGをやったんだ。一緒にクリアした。
エピソード「先輩、一緒にゲームしましょう」参照)
皮の盾、鉄の盾はそのゲームのネタだ。
しゅう「そ、そっかな?」
逢「ええ。心強い味方です!」
しゅう「よし、だったら早速ダンジョンに行こうか!」
しゅう「怖かったら、この手を思いっきり握ってくれ!!」
しゅう「握り潰してくれてもいいんだからな?」
しゅう「絶対にこの手を離さないって約束するよ!!」
逢「はい」
周りでポカーンとする助産師さんたち。
でも、なかには感動する人も……
そしてそんななか、再び陣痛が逢を襲う。
逢「うっ……来た」
逢は僕の手を強く握る。僕も握り返す。
しゅう(もしかしてこの子……僕が来るのを待ってたんじゃ?)
しゅう(いや、考えすぎか……)
しかし、そう考えてもおかしくはなかった。
今度は規則的な痛みが逢を襲う。
間違いなく、今度こそ生まれる。
逢の死闘、第2ラウンドが始まる。今度は僕も一緒だ。
逢「う……うううう!」
しゅう「頑張れ!!諦めんな!!」
逢「ううううう……」
逢は歯を食いしばる!顔中にしわを寄せる。
逢「先輩!!先輩!!」
逢の握力が次第に増していく……痛い!!
本当に、手の関節が変形するんじゃないかと思うくらいの強い激痛だ。
だけど僕は痛みに耐えて、逢の手を絶対に離さない!!
逢の痛みはこんなもんじゃないんだ!!もっと、全身を傷めつけられるような痛み。
しゅう「う……く……く」
逢「あ……ああ……」
二人して喘ぐ。傍から見たらちょっと変な感じ。
僕は、頑張る!!だって、昔逢が同じようなことをしてくれたし。
(第26話(完結)「先輩、私はずっと先輩のそばにいますから」)
逢は、悪夢にうなされる僕の手を握って、僕を悪夢から引き上げてくれた。
そのおかげで僕は記憶喪失から復活出来たんだ。
今度は僕が逢を引き上げる番だ!
助産師「頭です……頭が見えました!あともうちょっとです」
しゅう「逢!あともうちょっとだって!!頑張れ!!頑張るんだ、僕の自慢の奥さん!!」
逢「はい……あなた……私……頑張ります」
さきほどよりも逢の握力が増していく。
しゅう「うく……く……」
逢「う……うう……」
しゅう(痛い……痛いよ……痛いに決まってるじゃないか!僕の手、真っ赤くなってる)
しゅう(でも、あと少しだ!しっかりと支えてあげるんだ!!)
ちょうどそんな事を思った時だった……
おぎゃあああああああ、おぎゃあああああああ!!!!!!!!
しゅう「あ……」
逢「あ……」
助産師「おめでとうございます!元気な……女の子ですよ!」
しゅう「う……嘘!?もう……生まれたのか!?」
逢「あなた、女の子ですって。クスッ」
しゅう「やった!やったな、逢!!よく頑張ったよ」
僕は涙を流した。涙声で逢にそう話した。
逢「あなた……ありがとう」
しゅう「ん……んん」
逢「ん……んん」
僕と逢は……その場で抱き合って、キスをした。
僕の制服に付着していた血が逢の顔や上半身に付着したけど、そんなことどうでもよかった。
とにかく、二人でこの誕生の喜びを分かち合った!
こうして逢も無事に出産という名の死闘を終えた。
ちゃんと、生きて帰って来た。
しゅう「逢……良かったな」
逢「はい……良かった……で……す」
逢が目を閉じる。同時に握力が急激に低下する。
しゅう「逢!?おい、逢!?しっかりするんだ!!逢!!」
逢「……」
しゅう「ん?何だ、疲れて寝ちゃっただけか……お疲れ様」
助産師「……」
しゅう「あ……すみません。勝手に、しかもこんな服装で乱入して!」
しゅう「すぐに出て行きますんで、妻と子をよろしく頼みます」
助産師「いえ、立派でしたよ。あなたは立派なお父さんです」
しゅう「そ、そうですか!?あははは……照れるなぁ」
助産師「体重2700g、呼吸・脈拍その他特に異常なしです」
しゅう「そ、そうですか。良かった」
助産師「奥さんの方はまだ検査が残っていますので、外でお待ちください」
しゅう(検査?ああ、母体が健康かどうかを調べるんだな。了解)
しゅう「分かりました!ありがとうございました」
僕は分娩室を出て、身体の傷を手当てしてもらいに行く。
あれ?こういう時って何科に行けばいいんだろう?
ま、いいや。受付で聞いて来るか。


数時間後
逢の病室
逢「あ……ん?」
しゅう「おはよう。やっと目が覚めたね」
逢「あれ?私……」
しゅう「その子を産み終えた直後、寝ちゃったんだよ。覚えてない?」
逢「あ……確か……そんな気が……」
しゅう「まだ寝ぼけてるね……はい、コーヒー」
逢「あ、どうも」
逢はコーヒーを飲む。
逢「はぁ……あれ?子供は?」
しゅう「やだなぁ……すぐ左横にいるじゃないか」
逢「あ……ふふっ。私ったら寝ぼけて」
しゅう「ふふふっ。今朝の僕の事言えないな!」
逢「あれよりはまだマシです……」
しゅう「はいはい。体重2700g、呼吸・脈拍その他特に異常なしです」
しゅう「誰かさんに似て元気な女の子です」
しゅう「その誰かさんも特に異常なしだそうで」
逢「あ……なら、よかったです」
しゅう「ついでに言うと……」
逢「はい」
しゅう「異常があるとするなら……」
逢「えっ!?」
しゅう「あんな不気味な格好でいきなり分娩室に入って来たどこぞの刑事さんくらいかな?」
逢「あ……ぷぷっ」
しゅう「普通あんな格好じゃ怪しまれるって!だって全身血だらけだよ?」
逢「そうですね……不審者に間違われてもおかしくないですね……ふふふっ」
しゅう「まあ、もう手当てしてもらったから平気なんだけどね」
しゅう「それと……ほら、着替え。逢が寝てる間に家に帰って取って来たんだ」
しゅう「二人分の着替えと……子供服ね」
逢「わざわざありがとうございます」
しゅう「いいって!どうせ汗だくだろうし」
逢「まさかとは思いますけど、私の下着を漁ったりしてませんよね?」
しゅう「な!?何を言う!?そんな事するはずが……」
しゅう(まあ、どれがいいか選んでいたのは事実なんだけど……)
しゅう(それを漁ったって言うのか!?)
逢「図星ですか……やっぱりあなたって変態ですね!」
しゅう「待て!人がせっかく気を利かせて持って来てやったのにそれはないだろ?」
逢「ありがとうございます、変態さん!」
しゅう「う……もういいよ。腹減ってるだろうと思ってりんごも持って来たけど……」
しゅう「一人で食べちゃうからな……」
逢「りんごもあるんですか?いただきます」
しゅう「ちょ!おい!誰が食べさせるって言った!?」
逢がりんごを口に咥える。
逢「んん!」
しゅう「え?」
逢「んん!」
しゅう「その端っこを噛じれって?ああ、朝出来なかったあれの続きか」
僕と逢は再び口を近付ける。
今度こそ邪魔者が入らない事を祈りたい!
カーテンは閉めた。
夕飯まではまだ時間がある。
今日の検査は一通り終わっている。
携帯電話はマナーモードにしていて音が鳴らない。
子供は安らかに眠っている。
よし、条件はすべてクリアされた。
僕はりんごの端っこを噛じった。それからお互いに少しずつ迫っていく。
そして……ついに……
しゅう「ん……」
逢「んん……」
りんごを噛み切らないまま、キスをしている。
りんごを通してお互いの唾液がつたっていく。
すごくあまーいキスだ。
朝の焼きそばパンじゃこうはいかなかっただろう。
りんごだからこそ実現出来た、すごくあまーいキス。
その後、りんごを噛み切ってお互いの口を離し、りんごを噛んで飲み込んだ。
お互いの唾液もりんごと一緒に飲み込んだ。
しゅう「ふふっ、甘くておいしいな」
逢「はい……ふふっ」

それから夕食を終えて消灯時間になる。
3人とも服を着替える。
今度はちゃんと忘れずにパジャマを持って来たぞ!
さすが、僕。偉い、偉い。
再び二人っきりの時間が始まる。
赤ちゃんを挟んで左隣に逢、右隣に僕が寝る。
しゅう「逢、今日はお疲れ様でした」
逢「あなたこそ、今日はお疲れ様でした」
しゅう「出産ってすごいんだなぁ……改めて思った」
逢「はい……」
しゅう「新しい生命が生まれるのってこんなにも大変な事だったのか」
しゅう「お父さんがいて、お母さんがいて……」
しゅう「二人を支える家族、友人、親戚、病院関係者がいて……」
しゅう「みんながみんなそれぞれに役割を持っている」
しゅう「一番苦労するお母さんと赤ちゃんを支えるためにね」
逢「ええ……そうですね」
しゅう「お母さんが自分の身の危険を顧みずに……」
しゅう「新しい生命を産むために懸命に闘う」
しゅう「それこそ自分の生命を削ってまで懸命にな」
逢「……」
しゅう「出産は下手したらお母さんも赤ちゃんも死ぬかもしれない危険な闘いなんだ」
しゅう「そんな闘いをお母さんと赤ちゃんが乗り越えて、赤ちゃんが生まれて来る」
しゅう「生まれるのってこんなにも大変な事なんだ」
しゅう「だから、僕たちは自分の生命を大切にしなきゃいけないんだよ」
しゅう「簡単に死のうだなんて思っちゃいけないんだ!!」
しゅう「死ぬのは簡単だけど、生きるのはこんなにも大変な事なんだよ」
しゅう「多くの人に迷惑をかけている……だからこそ、その恩に報いるために……」
しゅう「僕たちは精一杯生きなければいけない!じゃないと罰が当たる」
しゅう「なあ?そうだろ、逢」
逢「はい!」
しゅう「今日は本当によく頑張ったよ。生きていてくれてありがとう」
逢「あなた……」
しゅう「それと、キミもだよ」
僕は子供の頭を優しく撫でてやる。
子供「……」
逢「あなたも、生きていてくださってありがとうございます」
逢「やっぱり……あなたなら出来ると信じて、送り出して正解でした」
しゅう「ありがとう。それと、これからもよろしくな!逢」
しゅう「僕が一生守りたい大切な、最高の奥さん!!」
逢「ありがとうございます。それと、これからもよろしくお願いします!しゅうさん」
逢「私をずっと支えてくれている大切な、最高の旦那さん!!」
しゅう「逢……」
逢「しゅうさん……」
しゅう「ん……んん……」
逢「ん……んん……」
僕と逢はキスを交わした。
これからもお互いによろしくという誓いの意味を込めた神聖なキス……
しゅう「……」
逢「……」
赤ちゃん「……」
そして疲れているのか、3人ともそのまま安らかな顔で眠った。
今日一日のながーい死闘を乗り越えた3人が一緒に幸せに眠る。


どうか、いつまでもこの幸せが続きますように。



七咲アフターストーリー
エピローグ特別編「先輩、私最高に嬉しいです!!」

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