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2010-07-03

10年ぶりの涙

時代設定
塚原響、20歳。
国公立大学医学部3年生
前作:CLAGAMI~クラガミ~ 塚原響編~初恋さよなら~
その10年後
及び
外伝:七咲アフターストーリー第21話「先輩、これから一緒に頑張りましょう」
その翌日

病院
塚原「はい。これ今日の医学概論の講義資料と私のノート」
塚原「それから来週小テストがあるから頑張ってね」
女性「ありがとう。響」
塚原「ううん。別に当たり前のことをしているだけだから」
女性「そんなことないって!本当に感謝しているよ」
塚原「そう。ならよかった」
女性「どうか……したの?」
塚原「え?」
女性「だって、響、昨日より顔色が悪いから」
塚原「ああ。気のせいよ。もともと強面だし」
女性「ねぇ、本当に何かあったんでしょ?もし差し支えなければ、私に聞かせて」
塚原「……」
女性「ねぇ」
塚原「はぁ。困ったな。あなたには嘘は吐けないか。実はね……」
私は彼女に、昨日の橘しゅう君の記憶喪失について話した。
女性「そっか。そんなことが。ごめんね、ただでさえ落ち込んでいるのに……」
塚原「ううん。いいの。話したらちょっとだけ気が楽になった」
女性「本当に大変ね。彼自身が一番大変だけど、同じくらいにその七咲って子も」
塚原「でも、あの二人ならきっとうまく乗り越えられる気がする」
塚原「私だってできる限りサポートするから」
女性「うん。そうだね。ね、もしよければ私にも協力させて」
塚原「ううん。いいって。あなたにまで負担をかける訳にはいかない」
塚原「私たちに任せて」
女性「本当に大丈夫?」
塚原「うん。大丈夫だから。……と、もうこんな時間ね。それじゃあ、また明日」
女性「うん。じゃあね」


廊下
塚原「……」
塚原「あの二人なら……きっと乗り越えられる……か」

私はそう信じつつも、何故か少し不安だ……
そう。私はまた橘君と七咲に、10年前の立花君と私を重ねてしまっている。
10年前に小学校を転校し、それ以来連絡がとれなくなった初恋相手の立花直生君……。
今、どこで何をしてるんだろう。

塚原「あ……このベンチ」
私は昨日七咲が座って俯いていたこのベンチに深く腰掛け、同様に俯く。
初恋の立花直生君のことをいろいろ回想してみた。

当時、小学4年生でいじめられっ子だった私をいつも助けてくれた。
別れ際にその理由を聞いたら、いじめられて自殺したお姉さんに私が似ていたかららしい。
お姉さんみたいな目に私を遭わせたくなくて、一生懸命助けてくれたらしい。
本当にいい人だったな、彼は。
だからこそ連絡がつかなくなった時、私は物凄く切なくなった。
彼が絶対に無事だと信じたくて、向こうで私以上に好きな子ができたんだろうと勝手に推測し、
その時から私は恋に対して奥手になってしまった。
そしてあれから10年経った。
私の近くには初恋の彼と同じ苗字の橘しゅう君、それに部活の後輩の七咲逢のカップルがいる。
私の悪い癖で、苗字が同じだからってしゅう君に勝手に直生君を重ね、
私同様に七咲に悲しい思いをさせたくなくて、色々この二人にお節介を焼いてしまう。
まったく、私ったら何をやっているんだろう。
でも、橘しゅう君は山からの転落事故で記憶喪失になってしまった。
思い出を何もかも失ってしまったんだ。
あんなに仲のよかった橘君と七咲の間にまた距離ができてしまった。
だからまた心配なんだ。二人が私みたいな悲しい結果にならないか。
ならないと信じたい。でも、逆の可能性だって、なきにしもあらずだ。
人間の感情は複雑で「絶対」って言葉は当てはまらない。
お互いに最後まで信じ合わない限り、幸せは訪れない。
直生くんだって……直生くんだって……私は信じていたのに……
どうして?どうして私の前から消えてしまったの、あなたは!?

ベンチで俯くこと30分。
一人の男性が俯く私に声をかけた。
精神科医「あれ?あなたは……昨日の?」
私は即行で元の顔に戻り、そっと顔を上げた。
塚原「ああ、どうも」
精神科医「塚原……くん?」
塚原「え?」
精神科医「やっぱりそうか!昨日から引っかかっていたんだ」
精神科医「初対面だったのに、どこかで見た顔だと思っていたんだ」
精神科医「それに周りの人が塚原さんと呼んでいるのを聞いて」
塚原「私に何か用ですか?」
精神科医「ここで話すのも難だ。もう診察が終わっている時間だから診察室へ」
塚原「……ええ。わかりました」


精神科診察室
塚原「それで話って……」
精神科医「単刀直入に聞こう。立花直生って子、覚えてる?」
塚原「!!」
塚原「どうしてそれを?」
精神科医「実は僕は彼の3つ上の兄なんだ。名前は立花直也」
塚原「お兄さん?」
立花「あいつ、昔よく家で塚原くんのことをよく話しててね」

回想
10年前
立花家
直生「僕ね、また響ちゃんを助けてあげたんだ」
直也「そうか。偉いな、直生は」
直生「そんなことないよ。だって僕は当たり前のことをしているまでだよ」
直生「……お姉ちゃん、助けられなかったのが悔しくてね」
直也「……」
直生「それに、響ちゃんってとってもいい顔してるから」
直也「まさかお前、好きなのか?」
直生「え……や、やだなぁ。ご、ごちそうさま!!」
直也「図星か」

塚原「……」
立花「本当にあいつは君のことを心の底から愛していたんだよ」
塚原「でも、だったらどうして引越して連絡をしなくなったんですか?」
立花「死んだんだ」
塚原「……えっ?」
立花「あいつは、幼い頃からずっと癌で、あいつの成長とともに癌も進行していった」
立花「転校した本当の理由は両親の仕事の都合なんかじゃない」
立花「……闘病のためだよ」
塚原「そんな……」
立花「転校の一ヶ月前の定期検診で余命1年と診断された」
立花「あいつも僕も両親もみんな絶望した」
立花「そしてあいつは悩みに悩んだ末にこう言い出した」

回想
直生「……転校したい。お願い、僕を転校させてください!!」
父「いきなりどうした?」
母「そうよ。何で転校するの?」
直生「響の……好きな子のためだよ」
両親「何だって!?」
直生「あいつに、悲しい思いをさせたくないんだ!!」
直生「あいつと離れて、あいつには僕がずっと生きているって思わせて……」
直生「独り、静かに息を引き取りたい」
両親「……」
直生「お願いします!!僕を……僕をあいつから引き離してください!!」
両親「……」

塚原「……」
私はそれを聞いて言葉が出なかった。
ただ、目から涙が溢れ出て来た。
10年間ずっと目の奥に仕舞い込んでいた涙が一気に溢れ出て来た。
それは10年経っても変わらず、きらきらとまるでダイヤモンドのようにきれいに輝いていた。
ずっと生きているって信じていた直生君がまさか……
まさか私を気遣って転校しただなんて……
馬鹿。馬鹿だよ、直生君。
君のせいで私は余計な思考を巡らせ、余計悲しくなってしまったんだよ?
どうして教えてくれなかったの?
キミの最期をちゃんと看取って、お礼が言いたかったのに。
何で……どうして私を置いていってしまったの?

立花「あいつは……」
塚原「はい」
立花「あいつは死の間際にこう言っていたよ」

回想
直生「最期に、一つだけお願いしてもいい?お兄ちゃん」
直也「最期だなんて言うなよ!」
直生「ごめん。でも、これだけは言っておきたくて」
直生「もしもお兄ちゃんが将来お医者さんになって、響に逢ったら伝えてほしい」
直也「おう。何だ?」
直生「ありがとうって」
直生「こんなひ弱な僕でも、助けられた人間がいたことを誇りに思う」
直生「僕は幼い頃から病気で、しょっちゅう、僕は何のために生きているんだろうって考えてた」
直生「死にたくなった時もあったんだ」
直生「でもね、響が、僕の生きる目的になってくれた」
直生「僕は響の笑顔を守れて本当によかった。僕はずっと響のことが好きだったんだ」
直生「死んでもあいつのそばでずっとあいつを守り続けたい」
直也「そ、そっか。頑張れよ」

立花「そのすぐ後だったよ。あいつはいい笑顔で安らかに息を引き取った」
塚原「……」
私は返事ができず、ただ、ただ、立花先生の前で泣くばかり。
10年間我慢していた涙はまるで滝のようで、止まることを知らない。
立花「直生は……生命の限り塚原くんを愛し続けたんだ」
立花「本当に、凄い奴だったよ」
塚原「……」
立花「塚原くん。あいつの分まで君には立派に生きてほしい」
立花「それが……あいつの本望だったから」
塚原「……わかりました。ありがとうございます」
立花「さて。本日の診察はここまで。お疲れ様でした」
塚原「本当にありがとうございました。お疲れ様でした」


病院外
その後、私は立花先生の話を思い出しながら、まっすぐ帰宅した。
これで、やっと、10年前の真実が明らかになった。
直生君、今まで君のこと疑ってごめんね。
私は君の温もりを感じながら、これからも真っ直ぐ生きてみせるよ。
恋だってもっと積極的に頑張ってみせるから!
だから、ずっとそばで私のことを見守っていてね。約束だよ?

……それにしても橘しゅう君って本当に不思議な子ね。
あの子が記憶喪失になって立花先生のお世話になったおかげで……
こうして私は立花先生と巡り逢い、直生君の話を聞くことができた。
一人の「たちばな」くんが呼んだもう一人の「たちばな」くん。
本当に不思議な運命ね。
私はこの二人の「たちばな」くんに感謝しなきゃいけないわね。
そして、この二人の「たちばな」くんのために、私はこれからも橘くんと七咲を支援し続ける。
これはお節介なんかじゃないんだ。ちょっとした恩返しだ。
よし、明日からまた頑張ろう、明るい未来のために。



CLAGAMI~クラガミ~
塚原響編~10年ぶりの涙~
END

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