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2010-06-19

第12話「先輩、私を知ってください」

父「これは今から25年前の話だ」
橘「25年前…?」
母「私たちが出逢ったのがちょうど25年前なの」
橘「へぇ」

七咲のお父さんの話はだいたいこんな感じだ。

当時輝日東高校2年生だった七咲邦夫はある日、
同校1年生の水澤希(のぞみ)と出逢い、一目惚れする。
やがて二人は交際を繰り返すうちに恋人同士となる。
当時の二人にとっては毎日が幸せで充実していて
文字通り、夢のような日々だった。

それから約1年後、邦夫は大学生となり、希と離れて暮らすようになる。
寂しさのあまり、毎日のように文通をやりとりしたこともあった。
そんなある日、邦夫はふと、希に将来の夢について聞いてみた。
すると、希は人の面倒を見る仕事が夢だと答えた。
なぜなら、彼女は昔から身体が弱く、しょっちゅう風邪を引いていた。
そんな時、いつも自分を優しく看病してくれていたお母さんが大好きで、
お母さんみたいな優しくて温かい人に憧れているらしい。
実を言うと、希のお母さんは希が10歳の時にガンでこの世を去って、
希はお父さんに男手ひとつで育てられた。
だから、幼少期のお母さんの温もりが彼女にとってはすごく恋しかったのだ。
そんな希の想いを知った邦夫は、その夢を絶対に叶えようと言った。

しかし、現状はそう甘くはなかった。
希のお父さんがこれに猛反対した。当たり前と言ったら当たり前だ。
彼一人の稼ぎでは家計をやりくりするのが精一杯で、
例えどんなに頑張っても、学費を出せる余裕なんてなかった。
それに何より、愛する我が娘を人様の家の男に取られて、
自分は家に独りぼっちになってしまう。
愛する妻をガンで失った彼にとっては希が唯一、自分を癒してくれる存在なのだ。
それさえも失ってしまったら、自分は何のために生きていけばいいのだろうか。
家計の事情と親心…立ちはだかる二つの壁。
でも…それでも…希は諦めなかった。

「私が…幸せになること。それがお父さんに対する恩返しだと思うの」
「だから…お願いします!!大学に行かせてください」

なかなか許可してくれない父親に対して…
ついには希が泣いてお願いをする始末…。
それを見ていた父親は、娘が心から目の前の男を愛しているのだなとわかり、
やむなく、娘の頼みを受け入れた。
やはり頑固な父親でも娘の涙には勝てないのだろう。

「でも…君も知っての通り、うちは決して裕福な家庭ではない」
「学費はいったいどうするつもりなんだ?」

邦夫はしばらく悩み、答えた。

「僕が責任をもって、学業とアルバイトを両立し、彼女の学費を稼ぎます!」
「これは、元はと言えば僕たちの自分勝手なお願いなんです」
「だから、お父さんには絶対負担をかけません」
「ですから、お願いします!!」

…そう言って、邦夫は希の父親の前で深々と土下座をした。
希も邦夫と一緒に深々と土下座をした。



橘「え?それってさっきの僕らと同じ状況じゃないですか?」
父「そうだ。君が当時の私と同じこと言ったので、驚いたよ」
橘(七咲のお父さんと僕が同じ状況だったなんて…)
橘(なんだか、運命を感じるなぁ)



そんな二人を見て、希の父親はこう言った。

「そういうことならしかたがない。許可しよう」

その言葉に安堵する邦夫と希。

「じゃ、じゃあ…来年から一緒に?」
「ただし、条件がある!」
「はい。何でしょうか?」
「娘を…希を必ず幸せにするとこの父に誓えるか!?」
「さっきも希が言った通り、希が幸せになることが…この父に対する恩返しだ」
「心から…誓えるか!?」

希の父親の強い言葉に…邦夫は一瞬驚き、戸惑った。
でも、すぐに答えた。

「もちろんです!僕が彼女を…希を必ず幸せにしてみせます!」

邦夫の力強い返答に、希は無言で涙を流し、希の父親はもう返す言葉がなかった。
二人の願いはここに叶ったのである。


その日から邦夫は来年一緒に大学に通う希のために、
毎日汗水垂らして一生懸命仕事をした。
毎日仕事から帰るとクタクタに疲れ果てた。
だが、その疲労は決して苦痛ではなかった。
愛する人のためだと思えば、辛いとは決して思わなかった。


やがて、二人の夢は叶う。
二人とも大学進学を果たし、邦夫のアパートに同棲することになる。
二人とも夢の大学生活を満喫する一方で、
数ヶ月前に一度の長期休暇を利用して地元に帰省し、
実家に独りぼっちで寂しい希の父親に逢いに行き、近況を報告していた。


その後、二人とも無事に大学を卒業し、希望通りに就職した。
そして、出逢いから6年後に二人はめでたく結ばれた。
23歳の夫と21歳の妻…
この二人にとっては毎日が幸せ以外の何物でもなかった。
そんな幸せな二人を見て、安心したのか、
希の父親はそっと息を引き取った。
二人の同棲を頑なに否認する頑固な父親に見えて、
実は他の誰よりも一番二人の幸せを願い、
ずっと陰で支え続けた優しい父親は、
やっと幸せになった二人を見て、肩の荷が下りたのだろう。

「ありがとう、お父さん。これからも娘さんをずっと幸せにすると誓います」
「ありがとう、お父さん。この御恩、私は一生忘れません」

二人は、天国にいる希の父親にそう誓った。


しかし…希の父親の死は…
この後、幸せな二人に起こる悲劇の前触れでもあった。
そう…社会というものは幸せな二人に決して甘くはなかったのだ!
この時から世の中はだんだん景気が悪くなってくる…
不況と呼ばれる時代に突入する。

邦夫が務める企業も不況の煽りを受けて赤字へと転落する。
その影響で、リストラされる社員がぼちぼち出始める。
自分の家族を…幸せにしたい…
そう思った邦夫は、自ら残業を志願し、今まで以上に熱心に働く。
希のためにも…そして生まれてくる新しい生命のためにも、
どうしてもこの企業から消えるわけにはいかない。

そう、結婚から2年後…二人は待望の子供を授かっていたのだ。
だから尚更、二人は一生懸命働いて養育費を稼がなければならない。
不況と新しい生命…それらの要因が重なり、邦夫に負担をかける。
それでも彼は必死に仕事をする。

そしてついに…最悪の事態が訪れる。
邦夫が…度重なる疲労のあまり、仕事中に不慮の事故に遭って
利き腕である右腕を骨折してしまう。
そのことが原因で邦夫は企業からリストラされた。
さらに、骨折の治療やリハビリにかかる費用が家計を圧迫する。
希の給料を以てしてもかなり苦しい状況に陥った。
お腹の子の養育費なんていったいどこから出せばいいんだ!?

二人は悩み苦しんだ。
幸せ一杯だった二人の面影はどこかへ消え…

「お互いの幸せのために、お腹の子供を諦め、そして…別れるか?」
「何言ってるの?この子に罪はないでしょ!!」
「でも…養育費が稼げないんじゃな…」
「例え…稼げなかったとしても…私はこの子を産みます」
「う…」
「私たち親の都合で消えていい生命なんて…ないに決まってるじゃない!!」

と、喧嘩ばかりする毎日…。
そんな二人を不憫に思った、地元・輝日東の人たちは…
二人のために地元で簡単に働ける職業を探した。
二人に、帰省して輝日東で働くよう勧めた。
もうそれしか…二人、そしてお腹の子が幸せになれる手段は残ってない…
そう思い、二人は輝日東で働くことに決めた。



橘「それが…今やってらっしゃるお仕事なんですね?」
母「ええ。その時からずっとね」
橘「なるほど。それで…その後は?」



地元・輝日東で安定した職業に就いた二人。
お腹の子も無事に生まれた。
元気な女の子が生まれてきた。
再び幸せを取り戻した。
二人が真剣に話しあった結果、女の子の名前が決まった。

彼女の名前は…
自分たちは今まですごく幸せな反面…
すごく辛い人生を歩んできた。
だから、せめてこの子だけは…
ずっといつまでも幸せでいてほしい。
たくさんの幸せに出逢ってほしい…
そんな想いをこめて、と名付けられた。
七咲逢はここに誕生したのである…。


逢の誕生を皆が喜ぶ…
しかし、まだ養育費の問題が消えたわけじゃない。
何とかして稼がなければならないが、その一方で幼い逢の世話もしなければならない。
このままでは、共働きはできなくなり、また邦夫に負担がかかり、
以前と同じ悲劇が起きてしまうだろう。
何か対策はないのかと考えた時、希は現在輝日東保育園に就職していることを思い出した。
園長さんにお願いして、育児をしながら仕事を続けることに成功した。
これで何とか逢の養育費の問題は丸く収まった。


そして月日は流れ、逢はすくすくと成長する。
彼女は希に似て、生まれつき身体が弱く、風邪を引きやすい体質だった。
さらには、両親が共働きのため、家に帰っても誰もいない。
独りぼっちの逢を心配した邦夫と希は、少々お金がかかるが、
逢に習い事をさせることにした。
何を習わせようか悩んだ結果、水泳に決まった。
理由は水泳にはあまり費用がかからないこと、
病弱な体質を改善するのに水泳が適していると医者から勧められたこと、
そしてスイミングスクールには仲間がいるため独りぼっちにならないことである。
逢は最初は嫌々スイミングスクールに通っていたが、
そのスイミングスクールの入り口にあった巨大なペンギンの像に逢いたくなり、
さらに他の学校の人とも友達になったことで、
次第にスイミングスクールに通うことが好きになったという。
最初は子供らしい、すごく単純な理由だったが、
それが彼女にとっての習い事をする理由となったので、
邦夫も希も嬉しくなった。


そんな彼女が8歳の時に、希が突然仕事中に倒れた…。
何事かと思えば…何と、第2子がお腹にいた!!

「やったね、お母さん。この子は私の弟かな、妹かな」
「妹だといいな。だって、私のお下がりをあげられるし…」
「それに、好きな漫画を一緒に読めるしね」
「あ…でも、弟が嫌ってわけじゃないよ」
「弟が生まれたら、私、思いっきりかわいがってやるんだ!」

と、8歳の逢が誰よりも第2子の存在を喜んだ。
家計のことなんか一切知らない逢の…
両親の苦労なんか全く知る由もない逢の…
その純粋で真っ直ぐなきらきらした瞳が…
その時の両親にとってはとても痛々しく感じられた。

ある晩、ふと両親の話し声で目が覚めた逢は、
二人ともこんな夜遅くまで何してるんだろう?と思い、
居間に行ってみると…
何と、お腹の子供のことを巡り、父親と母親が口論していた。
逢の時と同じ、養育費の問題がまたしても二人の関係を険悪にさせてしまった!

「二人ともやめて!!」
逢は、口論する両親に対して必死にそう叫んだ。
「逢……まだ起きてたのか?」
「もう寝なさいって言ったでしょ?」
「だって……眠れないんだもん。お父さんとお母さんが喧嘩してるから……」
逢の言葉に二人とも何と返事したらよいのかわからず、無言になる。
「ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、聞こえちゃったから」
「うちって…そんなにお金ないの?」
「お母さんのお腹の中にいる子を育てるだけのお金がないの?」
「私…そんなの嫌だよ!!」
「お父さん、お母さん。お願いします!」
「私、いい子にするから…」
「家のお手伝いをちゃんとやって…お父さんとお母さんを助けるから…」
「本当にいい子にするから…」
「だから、もっとお仕事頑張って!!」
「その子のために…私の兄弟のために…もっとお仕事頑張ってください!!」
「お願いします」
逢はぽろぽろ涙を流しながら、両親に訴えかけた。
「逢…」
二人とも娘の必死な訴えを聞いて、ようやく仲直りした。
「逢の言う通りだな。本当にすまなかった」
「逢…お母さん、頑張るから。家族みんなのためにね」
「お父さん…お母さん…二人とも大好きだよ」


その翌日から両親は再び仕事や家事に打ち込み、
逢は出来る限り両親のお手伝いをした。
家計のために、もらったお小遣いはちゃーんと貯金して、
決して無駄遣いをすることはなかった。
例え家が貧乏でも、弱音を吐くことなく、彼女は精一杯家族のために頑張った。
近所でも評判の「できる子」となっていった。


やがて、無事にお腹の子供が生まれた。
逢の弟が誕生したのである。
名前は郁夫。9歳も年下の逢の弟である。
名前の由来は、逢のおかげで家族が一丸となり、
そのおかげで無事に生まれてきた、郁々青々とした子だからである。
「い…く…お?うーん…」
ちょっと変わった名前に最初戸惑う逢だったが、
だんだん慣れてきて、郁夫をかわいがった。
スイミングスクールに家事に弟の世話…
逢にとって忙しい毎日となったが、
それでも彼女は笑顔で頑張り続けた。

そして現在へと至る。
これが25年前から続く波瀾万丈な七咲家の歴史である。



父「以上だ」
橘「あ……」
僕はあまりにもびっくりし過ぎて一瞬言葉が出なかった。
母「ん?どうしたの、橘くん。もしかして……つまらなかった?」
橘「あ、いえ。そうではなくて。凄くびっくりして一瞬言葉が出ませんでした」
父「…そうか。まあ、色々あったからな」
橘「でも、これでわかりました。やっと繋がりました」
母「何が?」
橘「僕が日頃から逢に感じていた違和感の原因です」
橘「逢は…普段は大人びていてしっかりした子なのに…」
橘「時々子供みたいに僕に甘えてくるんです」
橘「たぶん、あいつは…」
橘「普段から家事と弟の世話と部活をすべて完璧にこなす努力家だけれども…」
橘「どこか疲れを感じていて、時々子供みたいに誰かに甘えたくなるんでしょうね」
橘「幼い時から誰にもすがることなく頑張ってきたので…」
橘「誰かに甘えたくてしょうがないんだと思う」
母「そうね…。私たち両親はあの子に何もしてあげられなかったから…」
母「あの子は誰かに甘えたいってずっと思っていたんでしょうね」
父「でも…私たち身内の者ならともかく」
父「橘くんみたいな他人だとなかなか素直に甘えられないんじゃないか?」
橘「はい。それが原因で逢は部活に集中できなくなったことがあったんです」
橘「もう…どうしようもなくなって涙を流して感極まって…」
橘「彼女はそのままプールに転落しました」
橘「僕はそんな彼女を不憫に思い、助けたい一心で…」
橘「制服のままプールに飛び込みました」
橘「僕が自ら彼女の心の支えになってあげました」
父「そんなことがあったのか。ありがとう、橘くん」
母「本当にありがとう」
逢「…」
いつからそこにいたのか…逢も戸口で涙を流しながら終始無言で話を聞いている。
父「私たちは彼女に…たくさんの幸せに出逢ってほしい…という願いを込めて」
父「逢という名前を付けたにも関わらず…」
母「結局、あまり幸せにしてあげられなかったわ」
母「だから橘くん」
橘「はい」
母「私たち両親に代わって、あなたが逢を幸せにしてあげてください」
父「その役目は…君にしかできないと思う」
父「だって君は…逢が初めて心から好きになった相手だからな」
橘「え?でも…僕なんかが逢の彼氏で本当にいいんですか?」
橘「お父さんに呼ばれた時、ひょっとしたら『お前じゃダメだ』って…」
橘「言われるかと思って…ちょっとおどおどしていました」
母「え?本当に?」
橘「はい。正直な気持ちです」
父「あははは…君はつくづく面白い男の子だなぁ」
父「でも、そういうところが気に入ったよ」
橘「えっ?」
父「驚かせてすまなかった」
父「最初から二人の交際を反対するつもりは更々なかったよ」
父「ただ…逢の彼氏になるには相当な覚悟が必要だって教えたかっただけなんだ」
父「私たちのせいで君にまで負担をかけるのが辛いんだ」
橘「そんなの…僕は平気ですよ」
橘「だって普段から生意気な逢に振り回されてますし」
橘「だからちょっとぐらい負担が増えたって何も問題ありません」
七咲の親御さんはクスクス笑っている。
当の本人は戸口でちょっと怖い表情をしてる。
橘「それに…お父さんお母さんのせいなんかじゃありませんよ!」
橘「だってお二人とも凄く努力されたじゃないですか!!」
橘「それでもこの結果になったから、仕方ないですよ」
父「橘くん…」
母「橘くん…」
橘「覚悟なら、とっくにできていますよ。あいつの彼氏になった時から」
橘「例え、どんなことがあっても、必ず逢を守り、幸せにすると誓います!」
父「本当か?」
橘「はい!この気持ちに嘘はありません」
橘「あ…でも」
母「ん?」
橘「逢がいなくなったら郁夫は…どうなるんですか?」
母「ああ。その心配なら要らない」
母「橘くんが逢を幸せにしてくれるなら、私たちは全力でサポートするから」
母「逢だけじゃなく、橘くんの幸せも願っているわ」
橘「ありがとうございます!!」
父「さて、話はまとまったし、そろそろお開きにするか」
母「あら?もう11時。橘くん、早くお風呂に入っていらっしゃい」
橘「いえ…僕は家に帰ります。そこまでしていただくのはちょっとご迷惑かと」
父「こんな夜中に出歩くのは危ないから、今夜はうちに泊まっていきなさい」
母「それに大切な人を夜中に出歩かせて、もしものことがあったらあの子が悲しむわ」
橘(うーん。それもそうだな)
橘「わかりました!お言葉に甘えることにします」
母「狭くて恐縮だけど、客間に布団敷くから、そこで寝るといいわ」
橘「いえ、恐縮だなんてとんでもない。僕の方が恐縮です…」
父「あははは…」
母「うふふふ…」
逢「クスッ」
父「あ、そうだ。橘くんにお願いがあるんだ」
橘「はい?」
父「さっきの話の…一度逢を諦めようとしたこと、彼女には内緒にしておいてくれないか?」
父「本当に申し訳ないと思ってる」
父「逢にバレたら何をされるか…」
橘「はい、わかりました。絶対内緒にします」
橘「でも、あいつのことだから、別にバレたところで特に何もしないと思いますよ」
橘「むしろ、そんなことがあっても結局は自分を産んでくれたことに感謝すると思います」
橘「僕だって同じ気持ちなので」
父「そうか。じゃあ、お休み」
母「お休みなさい」
橘「お休みなさい」
逢はそっと微笑み、空気を読んですでにその場を立ち去っていた…。
……


客間
コンコン!
橘「ん?こんな時間に誰だ?」
七咲「先輩、起きて…ますか?」
橘「な、七咲!?まだ起きてたのか。よくここがわかったな?」
七咲「はい。さっきのお父さんお母さんと先輩のやり取りを聞いていたので」
橘「え??あれ聞いてたの??」
七咲「はい。ぜーんぶ聞いてましたよ」
七咲「生意気な私が先輩を振り回していることとか…」
七咲「私が諦めかけられたことまで…」
橘「う…内緒にしておいてくれって言われていたのに」
橘「どこで聞いていたんだ!?」
七咲「お父さんの部屋の戸口です」
七咲「お父さんの『…もう9時か。橘くん、君、時間は大丈夫かい?』っていう言葉が…」
七咲「ちょっと引っ掛かっていたので…お風呂に行くフリをして…」
七咲「気付かれないように後をつけてみました」
橘「うう…何でそんなに鋭いんだ。まるで探偵みたいだ」
七咲「あ、安心してください。私は聞かなかったことにしておくので」
橘「う…うん。なら、いいんだけど」
橘「あれ…てことはお風呂はまだなの?でも、その割にはいい臭いが…」
七咲「いえ。場所を突き止めた後、急いでお風呂に入りました」
橘「……そっか。こっそり聞いてたんだな…」
七咲「はい」
橘「……」
七咲「……」
橘「なぁ、七咲」
七咲「はい。何ですか?」
橘「お前のご両親って…凄いんだな。何と言うか…努力家?」
橘「だからなのか?七咲も同様に努力家なんだよな」
橘「七咲家って本当にすごいと思った」
橘「どんなに苦しい状況でも決して諦めない。それって並大抵なことじゃないよ」
七咲「はい…そう思います。お父さん、お母さんが努力してくれたおかげで…」
七咲「私や郁夫がこうして生きていられます」
橘「そのおかげで、こうして僕が七咲に出逢えたわけだし」
橘「本当に…感謝しなきゃな。七咲のご両親…そして二人を支えてくれた輝日東の人たち…」
橘「それに忘れちゃいけない…七咲の、死んだおじいちゃん」
七咲「はい、もちろんです」
橘「…」
七咲「…」
橘「それにしてもさ…」
七咲「はい?」
橘「どこまで似たもの同士なんだ…僕らは。これじゃ25年前と同じじゃないか!!」
七咲「クスッ、そうですね。…あ、だとしたら…」
橘「ん?」
七咲「先輩、私のお父さんみたいにくれぐれも無茶はしないでくださいね!」
橘「あ…そっか。そういうことになるか」
七咲「はい。先輩はお父さん以上に見ていて危なっかしいので」
橘「ふふっ」
七咲「笑い事じゃないです!真面目な話ですよ」
橘「ふふっ、ごめんごめん。けどさ…プールに落っこちた人にだけは言われたくないなーって思った」
七咲「あ…。もう…それ誰のことですか!?」
橘「いてててて…ご、ごめん…すみませんでしたっ!!」
橘(七咲に腕の肉をつねられた…いてててて…)
橘(何もそこまで怒らなくたって!!)
七咲「わかればいいです、わかれば。クスッ」
橘「ふははははは…」
七咲「あはは…」


翌朝
母「逢、起きなさい。…て、あれ?いない。どこに行ったのかしら」
母「橘くんも起きて。朝ご飯よ」
七咲のお母さんが客間のドアを開けると…
母「橘くん、起きな……あら?ふふっ」
母「逢はどうしてこんな所にいるのかしら?」
母「二人とも、そんなところで寝たら風邪引くわよ」
そう言って、近くにあるかけ布団を持って来て…
寄り添ってうたた寝している僕と七咲にそっと掛ける。
母「…お幸せにね」
そう囁いて、にっこり微笑み、七咲のお母さんは居間に戻っていく。

第13話に続く。

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コメント

こちらでは初めまして…ですね。
自分の作品の更新情報しか呟かないベネジクトです。

たまに他の方の作品を読むようにしているのですが、過去の七咲家の話には感嘆させられました。
七咲家の経済状況・命名と水泳を始めたきっかけ・郁夫誕生時の経緯・それによる七咲の意識の変化…。私も中多さんの両親の話を書いたりしてますが、完成度がまるで違いますね。
暇が出来たら通して読んでみようと思いました。

最後に、これは突っ込まずにはいられないのですが…『水澤』という姓は何らかの裏設定があるのでしょうか?(既にどこかで書かれていたらすみません。)

Re: 読んでくださってありがとうございます!!

読んでくださってありがとうございます!!
完成度そんなに高かったですか?ならよかったです。
前々から逢の悲しい過去については書きたいと思っていました。
ここ(http://ilovenanasakiai.blog24.fc2.com/blog-category-13.html)にも書いてある通り
この話は泣きゲーのCLANNADを元に作ってみました。
アマガミをやった後のCLANNADは本当に悲しくて心が折れそうになりました。
CLANNADみたいな話をぜひアマガミにも取り入れようと思ったのがきっかけです。
「こんな悲しい過去を背負っているからこそ彼女を守ってあげたい!!」って思いました。
ストーリーが絶えず頭に浮かんで、悲しくて夜も眠れなかったこともありましたw
ちなみに逢の母親の旧姓「水澤」には特に深い理由はありません。
キミキスの水澤摩央姉ちゃんから取りました。ちょっと思いつかなかったものでw
ベネジクトさんの紗江ちゃんのご両親のお話も機会があったら読んでみたいと思います。

> 「こんな悲しい過去を背負っているからこそ彼女を守ってあげたい!!」って思いました。
> ストーリーが絶えず頭に浮かんで、悲しくて夜も眠れなかったこともありましたw
まんま、中多紗江スキBADを初めて見た時の私ですねw
今は別の作品に流れてしまってますが、当時は他の事が手に付かなくなるくらいストーリーを練っていたものです。

> ちなみに逢の母親の旧姓「水澤」には特に深い理由はありません。
> キミキスの水澤摩央姉ちゃんから取りました。ちょっと思いつかなかったものでw
これは失礼しましたw
今後どこかで摩央姉ちゃんが絡んでくるんじゃないかと期待してしまいました。

> ベネジクトさんの紗江ちゃんのご両親のお話も機会があったら読んでみたいと思います
タイトル「アマガミプライ」の第三話「願掛け」になります。

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