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2010-06-10

初恋さよなら

七咲アフターストーリー第8話「先輩、今日は創設祭ですね」より
一方、その頃
女子更衣室
塚原「似合うわ、七咲」
七咲「そ…そうですか?なんか…可愛すぎる気が…」
七咲「それに胸元が…」
塚原「ううん、似合うわ。橘くんもびっくりすると思う」
七咲「ありがとうございます」
塚原「ところで、七咲」
七咲「はい」
塚原「彼が卒業したら、七咲はどうするの?」
塚原「彼が目指している大学は確か遠方だったわね?」
塚原「卒業したら離れ離れになるでしょ?」
七咲「それは……定期的に連絡を取り合って、時々逢いたいと思います」
塚原「七咲は…それでさみしくない?」
七咲「もちろん、さみしいです。でも、また逢えると信じて橘先輩を待つことにします」
塚原「そっか。……うまく…いくといいわね。じゃないと…私みたいに…」
七咲「え?塚原先輩、今何て…」
塚原「ううん、何でもないわ。ちょっと羨ましかっただけ。さ、行きましょ」

この時、私が七咲に言いかけたこと…
それは…
離れ離れになってしまうと私みたいに…二度と好きな人と逢えなくなるから…

そう。こんな強面の私にもかつて愛し合っていた人がいたんだ。
ふふっ、と言っても小学生時代の話だけどね。

私は小学4年生の時、すでに今のような強面だった。
だからクラスメイトの男子だけでなく女子からもいじめを受けていた。
私は今でこそ国公立大学の医学部に合格できるほどの学力を持っているが、
当時はクラスでも下の方の学力だった。
同様に体力もあまりなかった。
ブスで勉強もスポーツも何もできない…何も自慢できるものがない。
そんな私はいじめっ子たちにとって格好のターゲットだったのだろう。
教科書に落書きをされたり、上履きを隠されたりと、
よくあるいじめを受けて泣いてばかりいた。

もういっそのこと登校拒否しようかと諦めていたその時…
クラスメイトの一人の男子が私のもとに歩み寄って来た。
「塚原さん、大丈夫?」
そう言って彼はポケットからハンカチを取り出して、
泣いている私にそっと差し出してくれた。
「うん」
そう言って私は彼のハンカチで涙を拭いた。
「どうして私なんかの味方をしてくれるの?」
「だって、私はブスで勉強もスポーツも何もできないんだよ」
「何の取り柄もない、ただのいじめられっ子だよ」
「それに、私の味方をしたらキミもいじめられるんだよ」
「それでもいいの?」
すると、彼は私の問いかけに対してこくりと頷いた。
「誰が何と言おうと僕は塚原さんの味方だよ」
「え?本当?」
「うん。約束する」
「でも、私は何もできないんだよ?」
「だったら努力すればいい!僕がずっと応援してるから頑張ってよ」

約束通り、彼はずっと私のことを見守っていてくれた。
だから私は勉強やスポーツに打ち込むことができた。
それでも、時々いじめに遭って心が折れそうになる。
そんな時はいつも彼がやって来て私を再び立ち上がらせてくれる。
そしていつしか私は勉強もスポーツも得意となり、
だんだん自信をつけていく。
すると、今まで暗かった表情も次第に明るくなっていき、
徐々にいじめを受けなくなっていた。
それどころかクラスメイトに打ち解けていった。
「今の明るい塚原さん、すごく素敵だよ」
「頑張ったんだね」
彼からもそう誉められた。私はそれが嬉しくてたまらなかった。
本当に彼には感謝している。
もしかしたら私は彼のことを意識しているのかもしれない。
今度逢ったら彼に私の気持ちを正直にぶつけてみよう。

そう思い始めた矢先…
思わぬ知らせが飛び込んできた!
なんと、彼が両親の仕事の都合で転校することになったという。
しかも遠方。私の手の届かない所に彼は行ってしまう。

彼の引っ越しの前日、学校で彼に思い切って聞いてみた。
「キミはあの時、どうして私を助けようって思ったの?」
すると彼は答えた。
「それは…いじめられる塚原さんを見て放っておけなかったんだ」
「だって、塚原さんは僕の姉にどことなく似てるんだもん」
「実はね、僕の姉は中学校でいじめを受けて自殺したんだ」
「僕は姉に何もしてあげられなかった。守れなかったんだ」
彼は涙を流しながら話す。
「塚原さんに僕の姉の姿を重ねた時、どうしても助けてあげたくなったんだ」
「僕の姉みたいに苦しんでほしくなかったから!」
「もうあんな悲しい思いをするのは僕の姉だけで十分だよ」
そう言うと彼は私にもっと近づいて来る。
「塚原さん。僕は、キミが、キミのことが、好きなんだ」
「キミを守れて、僕はどんなに嬉しかったことか。幸せだよ」
その言葉に対して私はもうこれしか返す言葉がなかった。
「私もキミのことが好きだよ。立花くん」

そう、私の初恋の人の名前は立花直生(なお)くんだ。
真っ直ぐひたむきに生きる少年、立花直生くん。

そして私と立花くんはそのまま抱き合った。
別れを惜しむかようにしばらくの間、抱き合った。

彼が旅立つ直前、彼から新しい住所を教えてもらった。
時々文通してお互いの近況を報告するためだ。
例え二人が離れていても心は見えない糸で通じ合っている。
始めのうちはそう思っていた。

しかしそれから1年たったある日を境に彼から返事が来なくなった。
彼は必ずどこかで生きているはずだ。
でも返事は来ない。
とすれば彼はまた向こうで好きな子でもできたのだろう。
私以上に好きな子が…。

その日を境に私は恋を捨てた。
例え愛し合っている間柄でもいつしか裏切られる時が来る。
だったらそんなものはいらない。
立花くんのおかげで明るかった表情も、彼を失った今、また強面へと戻ってしまった。

結局立花くんからはあれから何の音沙汰もなかった。

そして現在に至る。
七咲が付き合っている彼の名は橘しゅう。
私の初恋の人と同じ苗字だ。漢字は違うけど。
だからかもしれない。
七咲にかつての私の姿を重ねて、彼女が同じ想いをしないように
ついつい世話を焼いてしまう。
ふふっ、余計なお世話ね。
さっさと初恋のことはきれいさっぱり忘れて、
今という時間を大切に生きて行くべきね。



CLAGAMI~クラガミ~
塚原響編~初恋さよなら~
END

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