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2012-03-21

エピソード「先輩、いよいよ同棲が始まりますね」(ノベル)

「んしょ……これはどこに持っていくんですか?」
「ああ、そこに置いといてくれるかな?」
「今日は資源ゴミの日で、明日が……」

3月3日に輝日東高校を卒業した私、七咲逢は今恋人の橘しゅう先輩が住んでいるアパートに来ている。
先輩がたった一年間だけ過ごしたアパート……。
たった一年間なのに片付けるのが大変なくらい散らかっている。
先輩……相変わらずですね。

「七咲~、こんな感じでいいのか?」
「えっと……はい」
「これも同じようにすればいいんだな」
「あ、先輩!」
「ん?どうした?」
「どうした?じゃありません!私と先輩二人っきりなので、名前で呼んで下さい」
「え?でも……」
「嫌……ですか?」
「あ、そうじゃなくって。毎日二人っきりの時に名前で呼んでいたら公の場でもうっかり呼んじゃいそうで……」
「……そ、それでしたら」
「それでしたら?」
「今、だけ、お願いします」
「今?こんな甘くもない雰囲気の中でか?」
「……や、やっぱりいいです!」
「……分かった。そんな顔するなよ、逢」
「クスッ。では、日が暮れるまでに作業を終えてしまいましょう」
「うん!頑張ろう!」

どうして私が先輩の部屋を片付けているかと言うと……
うー……

「逢。鍋はこれでいいかな?」
「そうですね……二人ならその大きさで十分です」
「じゃあ、このフライパンも使えそうだな」
「はい」
「楽しみだな~逢の手料理が毎日食べられる!」
「えっ?」
「逢のご両親が逢の大学進学と、僕との同棲を許可してくれてよかった」
「……」
「どうした?」
「えっ?あ、あの……」
「学費なら僕が一生懸命……」
「え、えっと、そうじゃなくて……」
「ん?」
「あ、あっちを片付けますね!」
「あ、逢!?な、なんなんだ?」

すみません。
恥ずかしくて説明するのを少しだけ躊躇いました。

さっき先輩が話した通り、私は体育大学への進学を両親に許可してもらい、推薦で進学を決めている。
その体育大学がこのアパートの近くにあるということで、同時に先輩との同棲も許可してもらった。
でも、このアパートは二人で暮らすには狭すぎる。
そこで、塚原先輩、森島先輩に協力してもらって二人で暮らすためのアパートを決めた。
だから、今は先輩の引っ越しを手伝いながら、私が新たに用意するものを探している。

「……って、考え事していないで、早く作業しないと」

先輩には来ないでくれって言われたけど、私が強引に来てしまった。
これから一緒に住むのに私に見せられない物でもあるんですか、先輩?

「先輩のことだからたぶん、この辺に……ない」
「こっち……ない。ここも……ない」

先輩、もしかして私に気を遣ってエッチな本を読まなくなったのかな?
ううん、きっと私が来ると知って大急ぎで証拠を隠滅したはず。
探せばきっと……

「ないぞ」
「えっ??」
「そっちには食器とかは置いてないぞ」
「え?あ、そ、そうでしたね」
「逢……ちょっと」
「えっ?」

先輩がいきなり右手を私の額に、左手を先輩の額に当てた。

「う~ん、熱はなさそうだな」
「え?熱……ですか?」
「いや、何か逢の様子がおかしいから具合でも悪いんじゃないかと」
「だ、大丈夫です」
「そ、そっか。じゃあ、ここはいいから向こうを頼む」
「はい」

結局、エッチな本は見つけられなかった。
先輩……信じていいんですよね?


ち・な・み・にっ♪

――ふぅ。逢に見つからなくてよかった
昨日逢から電話をもらった直後に即行、松原や華村たちにお宝本を全部預けておいた
こういう時に頼りになるよなー、親友って。あは、あはははは

これがこの時の先輩の心情である。
先輩、それって親友って言うよりも悪友じゃないですか?

――あ、しまった。この一冊だけ預け忘れていた!えっと、そうだ。ここに入れておこう

先輩は適当な空間にエッチな本を隠した。
あ、私は先輩のエッチな本の真相を説明しているだけであって、この真相を知らないという設定ですからね。
し、知りたくもありませんよ!!


「逢~こうでいいかな?」
「見せて下さい……全然ダメです!」
「え~っ!?」
「よく見て下さい。こんなに隙間があるじゃないですか。もったいないです」
「う、確かに」
「先輩はここに、段ボールに入れて向こうに持って行く物を集めて下さい。荷造りは私がやります」
「任せた」

片付けが出来ない先輩。
引っ越しの荷造りだって一人前に出来ない先輩。
私はこんな、郁夫みたいに幼い先輩と付き合っている。
そしてずっとずっと一緒に生きていく。
少なくとも大学に通う4年間は一緒。
……えっ?その、後?
う……。
その後ってつまり……結、婚?先輩と……私が?
……。

「ほら」
「え?」
「さっきからずっと働きっぱなしで喉渇いてるんじゃないかと思って、冷たい麦茶を用意した」
「ありがとうございます」

先輩が用意してくれた冷たい麦茶をちょっとだけ飲んで一息ついた。

「はぁ」
「ごめん」
「えっ?」
「片付けがろくに出来なくて、逢には大変な思いをさせてしまった」
「先輩……」
「でも」
「はい」
「これからもよろしくな」
「え?あ、はい!」
「片付けが出来なくて荷造りも下手くそで、逢には色々負担をかけると思う」
「そ、そんなこと、ないですよ」
「ひょっとしたらずっと逢には負担をかけっぱなしになるかもしれない」
「ずっと?」
「うん。えっと、何て言ったらいいのか……逢と、ずっと一緒にいられたらいいなって思う」
「先輩……私もです」
「本当に?」
「はい」
「僕に出来ない片付けとかを代わりにすることになっても?」
「いいえ。先輩に出来ないことなんてありません。私と一緒に頑張ればいいと思います」
「逢……」
「先輩……」

先輩とちょっとだけ甘いキスをした。

先輩……ちゃんと分かってたんだ。
自分が片付けが出来ない、いえ、苦手なせいで私に負担をかけているって。
でも、私はちっとも負担だなんて思っていませんよ。
むしろ楽しいです!
先輩と今こうして一緒にいられる時間が。
これから先輩と一緒に過ごせるって思った時。
これから先輩と一緒に過ごしていく時間。
私は先輩と一緒にいられるだけで、それだけで幸せなんですからね。

「逢、手伝うよ。逢のやり方を見て参考にしたい」
「分かりました」

それからしばらく先輩に荷造りの仕方を教えた。
先輩ったら、小さな子供みたいにいちいち感激しちゃって……。

「うお!さすがだな!すごいよ、逢」
「こんなの出来て当然ですよ?」
「でも、逢はすごいと思う。僕に出来ないことが出来るんだから」
「先輩もそのうち出来るようになります。そのために私がいるんですから」
「そ、そうだな。逢が教えてくれるからきっと!」
「これでだいたい終わりましたね。後は……ん?あれ、何ですか?」
「えっ!?」

私は立ち上がってそれを取りに行った。

「あ、それは!!まずい!!」

先輩も急いで立ち上がってそれを拾おうとしたが、私の方が早かった。

「今が旬。春先水着美女特集」
「え、ええっと……」
「先、輩っ。やっぱり別居しましょうか?」

私はわざと微笑みながら言った。

「そ、それだけは勘弁!」
「先輩は、私とこの人のどっちが好きなんですか!?」
「あ、逢に決まってるだろ!!」
「では、捨てますね。これは必要ありません」
「そ、そんな……」

大事な本を私に捨てられそうになってションボリしている先輩。
そんな先輩を横目に、私はしばらくエッチな本を見ながら考えた。
ちょっと意地悪しようかな?

「あ、逢?もしかしてそれに興味があるのか?」
「……あの、先輩?」
「うん」
「わ、私が、こ、この人と同じ柄のビキニを着たら似合いますか?」

私はわざと照れながらそう言ってみた。

「……ブウウウウウウウウウウウ」

先輩が麦茶を吐いた。

「ケホッ、ケホッ。あ、あ、逢が?ビ、ビキニ、を?」
「……おかしいですか?」
「そ、そうだな~……ふっ、ふふっ、に、似合う!すごく似合うよ!!」

先輩のことだから、ビキニを着た私をニヤニヤしながら妄想したに決まってる。

「逢!頼む!そのビキニを……」

ビリビリビリ……。

「う、うわあああああああああああああ、破いた!!」
「先、輩?本気で別居しましょうか?」
「あ、逢!!こ、怖い、怖いよ……」
「冗談に決まってるじゃないですか。相変わらずエッチな先輩です」
「ご、ごめん……」
「仕方ありませんね。今回はこれで許してあげます」
「あ、ありがとう」
「でも」
「はい!金輪際エッチな本は決して読まないと誓います!僕は逢だけを見続けると誓います!」
「はい、そうしてください」
「そうだよな。僕には逢がいる。そんな本もう必要ないよな」
「ええ、必要ありません。私が、その本に載っている人たちみたいになればいいんですから」
「えっ?今何て言った??」
「では、荷造りも終わって必要な物も分かったので、夕飯を食べに行きましょうか」
「そ、そうだな」

その後、先輩が私を美味しいラーメン屋さんに連れて行ってくれた。
先輩はその店の常連さんらしく、店長さんがすぐに私を先輩の彼女だと見抜いて色々サービスしてくれた。
ちょっとだけ恥ずかしかったけど、嬉しかった。

――私ははたして、これから先輩の彼女としてうまくやっていけるのだろうか。
先輩と同棲して先輩を助けながらうまくやっていけたらいい。
そして大学を卒業したら先輩と……。

そんなことを妄想しながら私はその日の夜、電車で輝日東に帰って行った。
先輩は大学の用事があるため残らなくてはならず、私も家の手伝いがあるため帰らなくてはならない。
つまり、先輩と一緒にはいられない。
でも、これから新しい生活が待っている。
入学式の直前くらいから私はやっと先輩と同棲できる。
それまでは先輩に逢えなくて寂しいけど、少しの間なので我慢出来る。
先輩、今から新しい生活が待ち遠しいです。



七咲アフターストーリー
エピソード「先輩、いよいよ同棲が始まりますね」(ノベル)
END

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コメント

しゅうちゃ…しゅうさんが七咲視点で書くとは、珍しいですね。
しゅう視点のと一緒に読むと、相思相愛な感じになっててよかったです。
+もこんな感じにしてくれれば…いえなんでもないですwww

Re: タイトルなし

初めての試みでした。
前にちょっとだけ試みたノベル版と併せてみました。
しゅう視点でもちょくちょく逢の感情なども表現してみましたが、おかしいってツッコまれたもので。
たまには視点を変えてみるのも新鮮でいいかなと思いますね。
相思相愛……けれどもしゅうは相変わらずお宝本が手放せない。
まったく、逢が好きなのかそっちが好きなのか。
+は、あれはサイドストーリー的な何かだと捉えていますよ。
SSですでに完結しているので、+はサイドストーリーでしょうね。

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Re: タイトルなし

いつも会話形式なのでたまには気分転換して語り中心もやってみたくなります(笑)
これからも「会話形式、時々語り中心」みたいな感じでやっていきたいと思います。
ありがとうございます。

しゅうさんの作品をみて最近のはあり得なそうであり得ないことを書いてるなと思っていました。今回のは高校生活編みたいにあり得そうであり得ないだったのでとても楽しかったです!

Re: タイトルなし

あり得なそうであり得ないこと……ですか。
まあ、大半は妄想の世界なので……。
コメントの前半だけを見ると
「ん?あり得ない??そ、そうなのか……(´・ω・`) 」って思ってしまいましたが、
結果的に楽しんでいただけたなら幸いです。
ありがとうございます。

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