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2011-11-27

エピソード特別編「夢を諦めないで!七咲、決死の闘い 後編:絶交?」

翌日

橘「おーい、七咲!おはよう」
七咲「おはようございます。今日は珍しく早めの登校なんですね」
橘「珍しくって……失礼な。誰のためにこんな時間に来たと思ってる?」
七咲「クスッ」
橘「……もう、平気か?」
七咲「はい。おかげさまで」
橘「今日も一緒に帰るか」
七咲「いえ。先輩はいい加減勉強した方がいいと思います」
橘「う、うるさい。誰のために言ったと思って……」
七咲「今日は部活です」

七咲が小声で話しかけた。

橘「ああ、ならしょうがな……え??部活!?」
七咲「しーっ。声が大きいです。聞かれたらどうするんですか?」
橘「え?七咲今日も部活行けないのか!ケガ、よっぽどひどいんだな」
七咲「……!そうなんです。早く治るといいですが」

僕は咄嗟に嘘を言った。七咲も分かってくれた。

橘「部活って……ケガ平気なのか?」
七咲「まだ治っていませんね。でも、大会の選考が近いので」
橘「そんな状態でいいタイム出るのか?」
七咲「頑張ります」
橘「それはいいんだけど、無理するなよ」
七咲「はい。でも、負けませんから」
橘「……うん。それでこそ七咲。僕の自慢の……」
美也「逢ちゃんおっはよー!」

美也が間に割って入る。

橘「美也、どけよ。今七咲と……」
美也「今日現代文の宿題出てたよねぇ。みゃー分かんなかった」
七咲「え?全然難しくなかったと思うけど?」
美也「本当?」
七咲「現代文って1時間目だったよね。急ごう」
美也「うん」
橘「僕を無視するな!」
橘(何はともあれ、七咲は元気になったようだ)
橘(でも、ケガしてるのに水泳やって大丈夫か?)


放課後

七咲「部長。今日から復帰します」
部長「あら、七咲。捻挫は大丈夫なの?」
七咲「平気です。大会の選考が近いので頑張ります」
部長「あまり無理しないでね」
七咲「はい」
斗部「……」
七咲「……」

斗部さんが七咲を睨む。
七咲も斗部さんをチラッと見る。

部長「それじゃあ、練習スタート!」

部長の号令とともに七咲がプールに飛び込む。
自由形のクロールの練習を行う。
捻挫した足をかばってか、バタ足が少ない。
その代わり、手のかきが強くなっている。

(七咲の回想)
塚原「もし、斗部さんを許したい気持ちが少しでもあるなら、どうすればいいか分かるわね?」
七咲「……はい!」
七咲「あの……塚原先輩」
塚原「うん」
七咲「足はそんなに重傷ではないのですが、やはりこのままではバタ足が弱くなります」
七咲「今度の選考、また自由形のクロールなので心配です」
塚原「足が弱い。だったら手で代償するしかないんじゃない?」
七咲「手で……ですか?」
塚原「バタ足は弱めにして手のかきだけで進むの。そういう練習を重点的に行なってみたら?」
七咲「なるほど」
塚原「無理してバタ足したらそれこそケガがひどくなる」
塚原「七咲の長所はフォームがいいこと。手と足のバランスが多少崩れても十分うまく泳げる」
七咲「分かりました!」
塚原「七咲。私はいつでも七咲の味方だから。負けないでね」
七咲「はい」
塚原「あなたは迷惑をかけたくないって思ってるかもしれないけど、私はむしろ迷惑をかけてほしい」
塚原「それだけあなたのことを大事に思ってるから。彼もきっとそうよ」
七咲「はい!」
塚原「七咲。斗部さんに証明してやりなさい」
塚原「どんな不利な状況に陥っても努力した者は勝つんだってことを」
塚原「斗部さんだって本当はやればできるはずなんだから」
七咲「分かりました!私、もう二度と諦めません」

七咲は泳ぎながら思う。
塚原先輩と約束したんだから、諦めないと。
今度の大会への出場を絶対に決めて、斗部先輩に分からせてやるんだと。

そんな七咲を見ていた斗部さんは……

斗部(どうして!?どうしてまだそんな力が残ってるの?)
斗部(ケガしたら諦めると思ってた。七咲はどうしてここにいるの?)
斗部(今度の大会、必ずあたしが出るんだから!邪魔はさせない!)

偶然、七咲と斗部さんが隣同士のコースに並ぶ。
同時にスタートする!
種目も同じ自由形でクロール。
序盤、バタ足の弱さもあって七咲が若干劣勢だったが、後半、スタミナ切れで斗部さんが後退。
捻挫している割には七咲が勝った。

斗部(嘘……捻挫してて不利なはずなのにどうして速いの?)
斗部(どうして七咲はそこまで強いの?)

この日から七咲は手のかきだけで速く泳ぐ練習を始めた。
それらは毎日行われ、積み重ねられていった。

練習が終わると……

橘「七咲。やっと出てきたか。いつも通り最後だな」
七咲「ええ。誰よりも早く練習を始めて、誰よりも遅く練習を終える。これが私の練習のスタイルです」
橘「無理してないだろうな?」
七咲「大丈夫ですよ。調子は順調です」
橘「そっか」
橘「それじゃ帰ろうか」
七咲「はい。……あ」
橘「ん?」

七咲の目の前に一人の女子水泳部員が現れた。

斗部「……」
七咲「……斗部先輩」
橘「何!?こ、この人が斗部さんか」

僕は両手を握り締めた。

橘「何の用だ?七咲によくも!」

僕は斗部さんに向かって行こうとしたが、七咲に片手で止められた。

七咲「待って下さい。ここは私が」
橘「七咲」
七咲「……」
斗部「……」
七咲「斗部先輩。私は先輩を……」
天殿「あ!翠子!」
斗部「麻衣」

少し離れた場所から僕ら3人を見つけた天殿さんが駆け寄って来た。

天殿「翠子。もうやめて!もうこれ以上彼女を傷付けないで!あなたの大事な後輩でしょ?」
七咲「天殿先輩」
天殿「あなた、あんなに七咲さんのこと気に入ってたじゃない。友達になりたいって言ってたじゃない」
斗部「黙って」
天殿「黙らない。ねぇ、お願いだから、このことを素直に部長に報告して!七咲さんにも謝って」
天殿「大人しく罪を認めて!翠子!」
斗部「麻衣……あなたまた余計なこと喋ったのね。あなたはいつもそう。鬱陶しいのよ」
天殿「翠子」
橘「真面目に心配している友人に向かってそんなこと言うのか」
橘「今回だって天殿さんがいなかったら……」
七咲「別に、謝る必要なんてないですよ」
橘「!」
斗部「え?」
天殿「七咲さん?」
七咲「確かに最初は落ち込みました」
七咲「でも、私は最初から斗部先輩に謝ってほしいなんて思っていませんでした」
七咲「私が入部早々大会に出場したあの時、斗部先輩が褒めてくれたのを今でも覚えています」
七咲「だから、今回斗部先輩が私を大会に出場させないためにわざとケガをさせただなんて思っていません」
七咲「あの時の優しい斗部先輩がこんなひどいことをするなんて今でも信じていません」
斗部「……」
天殿「じゃあどうして落ち込んでいたの?」
七咲「……悔しかったんです。斗部先輩を許したいのに、どうやって許せばいいか分からなかったから」
橘「確かに七咲は最初から自分を犠牲にして斗部さんを許そうとしてたな」
七咲「斗部先輩、水泳が大好きで、私のせいで水泳を諦めさせてしまうのが嫌だったんです」
天殿「そうだったんだ」
斗部「……」
七咲「だけど……ある人に叱られてようやく気付いたんです」
七咲「私だって水泳が好きなのに、斗部先輩をかばって水泳を諦める……そんなのは甘えだって」
七咲「斗部先輩は私を大会に出場させないために私にケガを負わせました」
七咲「だったら!私がケガを負ってでも大会に出場すればいいだけのこと」
七咲「斗部先輩の思惑を潰してしまえば、斗部先輩は何もしなかったことになります」
七咲「そして、こんな不利な状況でも頑張れば乗り越えられるってことを身をもって証明します」
橘「七咲」
七咲「斗部先輩に、努力することの意味をもう一度分かってほしいんです」
斗部「……」
天殿「翠子」
斗部「……」
天殿「何か言いなさいよ翠子」
斗部「……あたしよりも実力が上だからって偉そうに。あたしを許すですって?ふざけないで!」
天殿「翠子」
斗部「あんたのせいであたしがこの1年、どんな思いをしてきたか知らないくせに!」
天殿「翠子。そんな言い方は……」
斗部「うるさい。うるさいうるさいうるさい!もうほっといて!!みんな大っ嫌い」

斗部さんは逃げるように去って行く。

天殿「翠子!」

天殿さんが追いかけた。

七咲「……」
橘「……」
七咲「斗部先輩」
橘「あんな言い方ってないよな」
七咲「……」
橘「そ、そうだ七咲」
七咲「はい」
橘「そ、その、ここんとこ練習続きで疲れてるだろ?」
七咲「……」
橘「今度の日曜日、うちでゆっくりしていかないか?」
七咲「先輩の家?」
橘「うん。部活もないだろ?ちょうど僕以外はいないんだ」
橘(美也は後で何とかしよう)
七咲「いいですけど、勉強は?」
橘「勉強しながら話そう。七咲が一緒だとはかどりそうだ」
七咲「はい」


日曜日

橘「よし、勉強道具取って来るから待ってて」
七咲「はい」

居間で七咲と勉強することにした。
ちょうどよく両親が出掛けている。
美也はというと……

(橘しゅうの回想)
橘「美也!頼みがあるんだ!」
美也「まんま肉まん5個」
橘「分かったから!」
美也「約束だよ?学校帰りに買って来てね」
橘「分かってる!」
美也「それで頼みって?」
橘「明日一日、留守にしてほしい!」
美也「……ええっ?た、頼みってそれだけ?」
橘「うん」
美也「……」
橘「た、頼む!来週模試なんだ。じっくり集中して勉強したいんだ!!」
美也「……紗江ちん、明日遊びに行ってもいい~?」
橘(やった!まんま肉まん5個は痛いけど、七咲のためだと思えば全然痛くない)

橘「よし。お待たせ」
七咲「何が目的ですか?」
橘「え?来週模試だから勉強したいんだけど、七咲と一緒の方が集中できるかなぁって」
七咲「なるほど。そういう名目だったんですね」
橘「う、うん」
七咲「でも、勉強なら何も美也ちゃんを追い出さなくても……」
橘「美也はいない方がいい。僕は七咲と二人っきりがいい」
七咲「……」
橘「……」
七咲「本当は私のことが心配だったんですね」
橘「……」
七咲「だからこうして邪魔者が入らず、二人っきりでじっくり話せる環境を作った。違いますか?」
橘「……何もかもお見通しなんだな」
七咲「私を誘った後で、美也ちゃんをあんなに必死に説得する先輩を見たらすぐに分かりました」
橘「み、見てたのか?」
七咲「教室の前で話していましたよね?分かりますよ」
橘「そ、そっか」
七咲「私、斗部先輩と天殿先輩の前で話した通り、大会の選考を受けることにしました」
橘「塚原先輩に叱られたんだな」
七咲「ええ。誰かさんのせいで」
橘「う……だって、放っておいたら誰にも相談しないだろ?むしろ感謝してほしい」
七咲「ありがとうございます」
橘「う……ぼ、僕は何も」
七咲「いえ、今回もまた橘先輩に助けられました。感謝しています」
橘「えっと、ほ、ほら、勉強しなくちゃ」

僕はさり気なく参考書を開いた。

七咲「先輩」
橘「な、何?」
七咲「感謝していますと言った直後に、こんなことを言うのはどうかと思いますが……」
橘「どうした?」
七咲「しばらく絶交しませんか?」
橘「……は!?」

七咲の口から出た信じられない言葉。
絶 交

橘「ぜ、絶交……だと?」
七咲「あ、勘違いしないで下さい。別に先輩のことを嫌いになったわけじゃないんです」
七咲「ただ……」
橘「ただ?」
七咲「私は大会の選考が、先輩は模試が近いです」
七咲「だから、少しの間絶交して、お互いの目標に集中すべきだと思うんです」
橘「……びっくりした。そういう意味か」
橘「てっきり僕に一生逢いたくないって意味かと思った」
七咲「それはありません。先輩には感謝していますから」
橘「だよな。七咲らしいよ」
七咲「私らしい?」
橘「斗部さん、どんなに努力しても水泳上手にならなかったって言ってただろ?」
橘「斗部さんは努力することに何の意味も見出せなかった」
橘「だから、努力して上達していく七咲に嫉妬していたんだな」
橘「ケガをさせてまで七咲の邪魔をしたかった」
橘「でも、おかげでチャンスじゃないか」
橘「このケガをしている不利な状態から這い上がって、大会メンバーに選ばれれば……」
七咲「ええ。斗部さんだって努力すればできるんだってことを分からせてあげるチャンスですね」
橘「斗部さんはきっと、ケガをした七咲は大会に出場できないと思っているはずだ」
七咲「だからこそ……ですね」
橘「そこが七咲らしいよ。そういう考えができるのが七咲らしいよ」
七咲「いえ。私らしさではないです。前部長の命令ですから」
橘「でも、自分にひどいことをした相手でも許せてしまうのは七咲だけじゃないか?」
七咲「かもしれませんね。塚原先輩なら絶対に許さないそうです」
橘「な?だから七咲らしさだ」
七咲「そう言われてみればそうですね」
橘「……分かった!そういうことなら絶交しよう!」
橘「考えてみれば僕も今、斗部さんと同じ立場にいるんだ。受験勉強を頑張らないとな」
七咲「はい。そうして下さい」
橘「あ、絶交前に一つ約束しよう。お互いに無理はしない」
橘「僕は多少無理をしないと成績上がらないかもしれないけど、七咲はケガを悪化させないように」
七咲「ええ。そうですね」
橘「無理をしないという意味はそれだけじゃない」
七咲「え?」
橘「例え絶交中であっても、何か悩みや嫌なことがあったら遠慮なく相談する!」
七咲「相談?」
橘「うん。特に七咲かな」
七咲「私が?」
橘「斗部さんのことを信用しないわけじゃないけど、また何か嫌がらせをされたら僕に相談してほしい」
七咲「先輩」
橘「迷惑だからって遠慮するな。むしろ七咲にだったら迷惑かけてもらいたい」
橘「七咲は僕にとって受験勉強よりも大事な存在だ」
橘「僕、七咲が傷付けられるのは絶対に嫌だ。守りたい。他を犠牲にしてでも!」
七咲「せんぱ……」

今にも泣き出しそうな七咲を自分の胸に引き寄せた。
七咲の泣き顔を見ないように、七咲の顔を僕の胸に埋めた。

橘「七咲。あんなにつらかったはずなのに、よくここまで立ち直った。偉いと思う」
七咲「ぐすっ、ぐすっ、先輩」
橘「ほら、今僕には七咲の泣き顔は見えない。僕の胸で思いっきり泣いていいよ」
七咲「はい」

ただただ泣いている七咲を僕は黙って受け止めた。
時折、そっと優しく頭を撫でながら。

七咲「ぐすっ、ぐすっ。……先輩」
橘「ん?」
七咲「もう……平気です」
橘「そっか。もう気は済んだな?」
七咲「はい」

泣き止んだ七咲をそっと離した。

橘「七咲がつらいところからようやく立ち直って、斗部さんを想って選んだ答え」
橘「そこまで真剣に考えたなら僕も従うよ」
橘「でも、もしも僕が必要になった時はいつでも声をかけてほしい」
橘「今みたいにきちんと七咲を受け止める。僕の胸をいつでも貸してあげるから」
七咲「ありがとうございます」
橘「じゃあ、これで本当にいいんだな?」
七咲「はい!」
橘「それじゃあ……これが絶交の印」
七咲「ん……」

七咲にキスをした。
一旦唇を離す。

橘「……」
七咲「んん……」

今度は七咲が僕にキスをした。
それもちょっと強めに。
“絶交してもいつでも先輩のことを頼りにしています”という強い意志の表れだ。

橘「……逢」
七咲「……しゅう先輩」
橘「……って!勉強どころじゃないな、もう」
七咲「あれ?もうこんな時間ですか?」
橘「そろそろ夕方だな。みんな帰って来る」
七咲「なら、早めに帰った方がいいですね」
橘「そうだな。逢はいないことになってるから」
七咲「よいしょ」

逢が捻挫した足をかばいながら、ゆっくり立ち上がる。

橘「大丈夫か?」
七咲「平気です」
橘「難なら途中まで一緒に行こうか?」
七咲「絶交したんじゃなかったんですか?」
橘「まだだろ。おうちに帰るまでは今のままだ」

僕は逢に背を向けてしゃがんだ。

橘「乗って」
七咲「何してるんですか?」
橘「見て分からないか?おんぶだよ」
七咲「え?べ、別に平気ですよ。来る時だって一人で……」
橘「何を恥ずかしがっているんだ?逢が大事だからこうして……」
七咲「う……分かりました」
七咲「こうですか?」
橘「いくぞ!せいの!」

逢をおんぶした。

橘「お、軽い!」
七咲「当然です。もしかして、重いと思っていました?」
橘「え?そ、そりゃあ、部活で鍛えた筋肉の分だけ体重が……」
七咲「……」
橘「ご、ごめんなさい」
七咲「さあ、行きましょう」

初めて逢をおんぶした。
失礼な言い方だけど、意外に軽かった。
し、しかし……

橘(僕の背中に二つの感触が!こ、これは、胸か!)

考えてみれば、初めて逢をおんぶしたんだ。
僕の背中に逢の胸が当たってるし、触りどころを間違えたら、逢のお尻を……

七咲「ほら、何してるんですか?早く進んで下さい」
橘「わ、分かったよ」
七咲「あ、玄関で私の靴を取って下さい」
橘「了解」

玄関を出て、いつも歩いている道を、今度は七咲をおんぶしながら歩く。
新鮮な感覚だ。

橘「乗り心地はどうだ?」
七咲「最高です。ありがとうございます」
橘「そ、そっか。よかった」
橘(うう、自分で言い出したことなのに、緊張する)
橘(でも、いざおんぶしてみると、七咲って何かふわふわしてて気持ちいい)
橘「……」
七咲「……」
橘(もうちょっとで七咲を下ろす地点だ。だけど、このままでいたい)
橘(このまま、七咲をおんぶしたまま、どこかへ行ってしまいたい)

そんないけないことを考えていたら……

カプッ。

橘「ひぃ!」

七咲が僕の耳をアマガミした!

七咲「ふふっ。先輩いきなり変な声出さないで下さい」
橘「だ、だって、七咲がいきな……おわ!」

僕はびっくりしてバランスを崩した!

七咲「あ!せ、先輩!だめ!手が、手が!ああん」
橘「七咲!暴れるな!持ちこたえて……あっ、この感触」

何か今柔らかいものに触れた。

七咲「先輩、どこ触っているんですか!」
橘「ごめん!」

何とか間一髪、七咲は無事に着地できた。

橘「ふぅ。危なかった」
七咲「それはこっちのセリフです」
橘「もう!いきなりふざけて耳をアマガミするなよ。びっくりしただろ」
七咲「ふざけていません。先輩こそ私のお尻を触らないで下さい!変態」
橘「あ、あれは不可抗力だよ。七咲が暴れるから」
七咲「先輩」
橘「な、何?」
七咲「本当に絶交しましょうか?」
橘「え?そ、それだけは勘弁!」
七咲「……」
橘「七咲、許してくれよ!本当に事故なんだから!」
七咲「……また明日」
橘「七咲……」

七咲は最後に笑みを浮かべて去って行った。
許してくれたのだろうか?


それからというもの、約束通り、僕も七咲もお互いの目標に突き進んでいった。

橘「梅原。たまには一緒にお昼食べないか?」
梅原「……!?」
橘「どうした?」
梅原「おまえ、具合悪いか?」
橘「は?」
梅原「具合悪いかって聞いてんだ。熱でもあるんじゃないか?」
橘「何でだよ」
梅原「いつも七咲と一緒に食べているお前が、今日に限って俺を誘うなんて。何かあっただろ?」
橘「別に。今日はこういう気分なんだ」
梅原「七咲とケンカでもしたのか?」
橘「いや。ちょっと色々あってな。話し合った結果がこうだ」
梅原「そうか。よし、んじゃ飯買いに行くぞ!」
棚町「いいわねぇ!」
橘「だろう?」
棚町「たまにはさ、おつかいジャンケンとかやらない?」
橘「ああ、たまにはいいなぁ……って!何でお前がいるんだよ?」
棚町「いちゃ悪い?」
橘「いや、悪くはない」
梅原「ようし!負けた奴が買って来る約束だな!」

七咲「美也ちゃん。お昼一緒に食べよう」
美也「え?逢ちゃんも?」
七咲「うん」
美也「めっずらしいね。お兄ちゃんは一緒じゃないの?」
七咲「今日は別」
美也「ケンカ?」
七咲「ううん。今日はこういう気分ってだけ」
美也「じゃあ、紗江ちん。食堂行こう」
中多「うん」

橘「そして結局僕が負けた……。ありえない」
美也「それでね、紗江ちんったらおっかしいんだよ」
中多「み、美也ちゃん……恥ずかしいよ」
七咲「ふふっ」
橘(七咲……い、いや、話しかけないぞ)

僕と七咲は無言ですれ違った。

美也「あれ?お兄ちゃんだ。逢ちゃん、話しかけないの?」
七咲「うん。何か忙しそうだから」
美也「模試が近いんだっけ?お兄ちゃん、柄じゃないのに勉強張り切っちゃって」
中多「でも、偉いと思う」
七咲「あの先輩が勉強……ちゃんとやってるんだ」
美也「知らないの?お兄ちゃん、毎日遅くまでやってるよ」
七咲「……」

橘(七咲、元気そうで安心した)
七咲(先輩も頑張っているんだ……よし!私も頑張る!)


こうして、約一週間絶交を続けた。

一週間後……

橘「信じられません!」
高橋「ええ。私も驚いたわ。頑張ったのね」
橘「ありがとうございます」
橘(よーし!早速七咲に報告だ!)

部長「大会メンバーを発表します」
部長「自由形。1年生からは……、2年生からはB組七咲逢……」
七咲「!」
斗部「……」
部長「3年生からは私と……以上」
部員「七咲!やるじゃん!」
部員「足捻挫してんのにすごいよ」
部員「わが校最速だって!」
七咲「そ、そんな……」
部長「七咲。大会一緒に頑張ろうね」
七咲「はい!」
斗部「……」
七咲(先輩に報告しないと!)

橘「七咲!」
七咲「先輩!」
橘「……」
七咲「先輩、あの……」
橘「おめでとう!」
七咲「え?」
橘「その表情見れば分かるよ」
七咲「ありがとうございます」
七咲「あの……先輩こそ、おめでとうございます」
橘「ありがとう」
橘「七咲のおかげだよ」
七咲「いえ、私は何も……」
橘「もう、絶交する必要ないよな?」
七咲「そうですね」
橘「あ、ここじゃまずいか。また後であれをやろう」
七咲「はい」
橘「それはそうと……何か騒がしくないか?」
七咲「え?」

プールの方から何か聞こえる。

橘「もしかして!」
七咲「行きましょう!」


部長「斗部さん、本当なの?」
斗部「ごめんなさい」
七咲「どうしたんですか?」
部長「あ、七咲。ちょうどよかった」
七咲「え?」
部長「あなたの足の捻挫、斗部さんの仕業だって本当?」
七咲「どうしてそれを?」
斗部「あたし、間違ってた」
橘「……」
斗部「本当にすみませんでした」

斗部さんが土下座した。

部長「斗部さん、自分でそう言ってた」
橘「え?自白したってことか」
部長「そういうこと……って、あなた部外者でしょう?」
橘「失礼な!僕も関係者だ!」
部長「水泳部じゃないでしょ?」
七咲「部長。彼も一応関係者です。一緒にいてもいいですか?」
橘「七咲」
部長「え?ああ、そういうことならいいけど」
斗部「部長。今まで黙っていてすみませんでした」
斗部「あたし、七咲に嫉妬していたんです」
斗部「あたしは入部以来、ずっと大会に出ていました」
斗部「なのに、全然結果が出せなくて、去年の春に入部した七咲に追い抜かれてしまいました」
斗部「あたし、誰よりも部活を頑張ったのに、それでも全然だめで。努力するのが虚しくなりました」
斗部「最初は七咲を応援していましたが、努力して伸びていく七咲に次第に嫉妬していきました」
斗部「今回、最後の大会なのに七咲がいるから出られない」
斗部「そう思ったら何だか七咲のことが邪魔に思えて……それで」
部長「そうだったんだ……。でも、どうして相談してくれなかったの?」
斗部「……」
橘「相談しても無意味だったんだよ。斗部さんの悩みは相談しても解決しないから」
斗部「確かにあたしは七咲にケガを負わせた。大会にあたしが出るために」
斗部「でも、七咲はそんなあたしを憎むどころか許してくれた」
斗部「あたしは、七咲にこんなひどいことをしたのに、あたしのことを恩人って……」
斗部「たった一回、七咲を応援しただけなのに、そのことを覚えていて、あたしを……」

斗部さんは泣き出した。

天殿「翠子」
斗部「麻衣」

いつの間にか天殿さんが現れた。

二人は抱き合った。

部長「でも、結果的には七咲が選考に受かって、斗部さんが選考に落ちた」
部長「七咲のことを恨んでないの?」
橘「恨む?違うよ。逆だよ」
部長「逆?」
七咲「ええ。私が選考に受かることで斗部先輩にはいくつかメリットが生まれました」
部長「どういうこと?」
七咲「斗部先輩が私にケガを負わせた理由は、私を大会に出させないため」
橘「もし、七咲がケガを負っていなかったら七咲が選考に受かっていた」
橘「だが、ケガを負った今でもちゃんと七咲が選考に受かった」
橘「つまり、ケガを負っても負わなくても結果は同じになった」
七咲「だから、これでやっと斗部先輩の罪を帳消しにできました」
七咲「彼女には謝る理由がないし、処罰される必要もありません」
部長「なるほど」
七咲「それだけではないです」
部長「まだあるの?」
七咲「私はこんなケガをした不利な状況でも努力して勝利を勝ち取ることができました」
七咲「努力が無意味だと諦めていた斗部先輩に、努力することの大切さを教えることができました」
七咲「斗部先輩も私と同じで水泳が大好きなんです」
七咲「だから、こんなことで斗部先輩の水泳人生を終わりにしたくはなかったんです」
七咲「もう一度、ここからやり直してほしいです」
斗部「七咲」
七咲「斗部先輩」
斗部「ごめん!七咲、ごめん!」
七咲「謝らないで下さい。私が頑張った意味がないじゃないですか!!」
斗部「そう……だね」
橘「……」
部長「よかった」
天殿「翠子!」
斗部「麻衣!ごめん」
天殿「謝らないで!私が頑張った意味がない!」
七咲「天殿先輩!」
天殿「へっへっへ、セリフパクっちった」
七咲「もう……」

こうして斗部さんと七咲は和解した。
斗部さんに分かってもらえてよかった。


次の日曜日……

七咲「お邪魔します」
橘「足はもう大丈夫か?」
七咲「はい。完治しました」
橘「そっか、よかった」
七咲「捻挫していた時、手のかきだけで速く進む練習をしていたので……」
七咲「捻挫が完治してバタ足を合わせたらさらに速く進めました」
橘「じゃあ大会はばっちりだな」
七咲「かもしれません」
橘「何だよ、もっと自信持てよ」
七咲「他校にはもっと速い選手がいますから。私なんてまだまだです」
橘「そ、そうか」
七咲「先輩も、余裕でいると大変なことになりますよ?」
橘「う、が、頑張るさ」
七咲「ふふっ」
橘「じゃあ……逢」
七咲「はい、しゅう先輩」

僕と逢は再びキスをした。
絶交終了の印だ。
そして抱き合った。

橘「よく頑張ったな」
七咲「先輩こそ」
橘「そんな……。七咲がいてくれたからさ」
七咲「私も、先輩がいてくれたから」
橘「……」
七咲「……」
橘「あ。もう、塚原先輩にお礼は言ったか?」
七咲「いいえ」
橘「どうして?」
七咲「“お礼は言わなくていい”って先に言われてしまいました」
橘「あっちゃあ。先越されたか」
七咲「あと、部長や斗部先輩に塚原先輩とのこと、バレてしまいました」
橘「え?」
七咲「“ある人に叱られた”って言っただけで、“七咲を叱るのは塚原先輩くらいだろう”って」
橘「お見通しか」
七咲「水泳部の、誰もが尊敬する先輩ですから」
橘「七咲も、もう尊敬されているんじゃないか?」
七咲「え?」
橘「だってさ、悪いことした人を迷いもなく許したじゃないか」
七咲「あ……」
橘「七咲も来年、いい部長になれると思う」
七咲「先輩……」
橘「僕も陰ながら応援してるよ」
七咲「……」

七咲が僕の胸に顔を埋めた。

橘「お?泣くのか?いいぞ」
七咲「違います!」
橘「え?泣かないのか」
七咲「……照れて、いるんですよ」
橘「はい??今何て?」
七咲「……先輩のばかっ!」
橘「おわっ!」

七咲は僕を突き飛ばした。
そして僕の上に覆い被さり……

七咲「んん……」
橘(……逢)


その後、斗部さんは水泳部を引退した。
聞いた話によると、大学でも水泳を続けているそうだ。
目標は“打倒七咲”
水泳だけでなく、人柄の改善も頑張っているそうだ。
七咲みたいに……
水泳が得意ってだけでなく、どんな人でも許せる寛大な心も持った人間になることが斗部さんの目標らしい。

明るい未来に向かって……
飛べ(斗部)、翠子!




七咲アフターストーリー
エピソード特別編「夢を諦めないで!七咲、決死の闘い」


いかがだったでしょうか?
僕は散々努力について悩んでいました。
当ブログにも努力について色々書いたと思います。
この記事は半分、自分自身に対して書いています。
今まで斗部さんみたいに「努力は無意味だ」って諦めていた自分に対して活を入れています。
最近水泳を始めて思います。
僕だって努力すれば成長できるんだって。
斗部さんみたいな悪事はしなかったけど、「努力は無意味だ」ってつい最近まで思っていました。
前にこんな記事書きましたよね?
記事:22歳の締めくくりに……
ワルサさんは読んだか知りませんが、僕が日頃思っていることはそこにまとめたつもりです。
自分を変えてくれた七咲に感謝している斗部さんのように……
僕も、僕を変えてくれたワルサさんや他多数の方に感謝しています。
天殿麻衣さんも今回の出演を許可して下さってありがとうございました。
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コメント

読ませていただきました

斗部翠子…ん~悪いキャラでしたねww
でも最終的に土下座までしちゃうくらいだから結構反省してたんでしょうね。
それにしても翠子にちょっとイラッとしましたww七咲になんてことを…ww

まあ、悪役がメインキャラのアマガミもいいと思いますね。
これからも執筆活動頑張ってください!

P.S
十部翠さんドンマイですwwww

Re: 読ませていただきました

読んでくれてありがとう。

やっぱ悪役にワルサはぴった……ゲホンゲホン

また機会があれば十部翠か斗部翠子を出演させるよ。

応援ありがとう

読みましたw
 頭の中で 家政婦=麻衣 ってなってましたww 

すー っと読んでていつのまにか読み終わってたw

Re: タイトルなし

何故に家政婦??

飴さん、こういう役回りってどう?
ちょっとぴったりな気はした(笑)

次回の出演もお楽しみに!
(その前に次回があるのか??)

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