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2012-03-21

エピソード「先輩、いよいよ同棲が始まりますね」(ノベル)

「んしょ……これはどこに持っていくんですか?」
「ああ、そこに置いといてくれるかな?」
「今日は資源ゴミの日で、明日が……」

3月3日に輝日東高校を卒業した私、七咲逢は今恋人の橘しゅう先輩が住んでいるアパートに来ている。
先輩がたった一年間だけ過ごしたアパート……。
たった一年間なのに片付けるのが大変なくらい散らかっている。
先輩……相変わらずですね。

「七咲~、こんな感じでいいのか?」
「えっと……はい」
「これも同じようにすればいいんだな」
「あ、先輩!」
「ん?どうした?」
「どうした?じゃありません!私と先輩二人っきりなので、名前で呼んで下さい」
「え?でも……」
「嫌……ですか?」
「あ、そうじゃなくって。毎日二人っきりの時に名前で呼んでいたら公の場でもうっかり呼んじゃいそうで……」
「……そ、それでしたら」
「それでしたら?」
「今、だけ、お願いします」
「今?こんな甘くもない雰囲気の中でか?」
「……や、やっぱりいいです!」
「……分かった。そんな顔するなよ、逢」
「クスッ。では、日が暮れるまでに作業を終えてしまいましょう」
「うん!頑張ろう!」

どうして私が先輩の部屋を片付けているかと言うと……
うー……

「逢。鍋はこれでいいかな?」
「そうですね……二人ならその大きさで十分です」
「じゃあ、このフライパンも使えそうだな」
「はい」
「楽しみだな~逢の手料理が毎日食べられる!」
「えっ?」
「逢のご両親が逢の大学進学と、僕との同棲を許可してくれてよかった」
「……」
「どうした?」
「えっ?あ、あの……」
「学費なら僕が一生懸命……」
「え、えっと、そうじゃなくて……」
「ん?」
「あ、あっちを片付けますね!」
「あ、逢!?な、なんなんだ?」

すみません。
恥ずかしくて説明するのを少しだけ躊躇いました。

さっき先輩が話した通り、私は体育大学への進学を両親に許可してもらい、推薦で進学を決めている。
その体育大学がこのアパートの近くにあるということで、同時に先輩との同棲も許可してもらった。
でも、このアパートは二人で暮らすには狭すぎる。
そこで、塚原先輩、森島先輩に協力してもらって二人で暮らすためのアパートを決めた。
だから、今は先輩の引っ越しを手伝いながら、私が新たに用意するものを探している。

「……って、考え事していないで、早く作業しないと」

先輩には来ないでくれって言われたけど、私が強引に来てしまった。
これから一緒に住むのに私に見せられない物でもあるんですか、先輩?

「先輩のことだからたぶん、この辺に……ない」
「こっち……ない。ここも……ない」

先輩、もしかして私に気を遣ってエッチな本を読まなくなったのかな?
ううん、きっと私が来ると知って大急ぎで証拠を隠滅したはず。
探せばきっと……

「ないぞ」
「えっ??」
「そっちには食器とかは置いてないぞ」
「え?あ、そ、そうでしたね」
「逢……ちょっと」
「えっ?」

先輩がいきなり右手を私の額に、左手を先輩の額に当てた。

「う~ん、熱はなさそうだな」
「え?熱……ですか?」
「いや、何か逢の様子がおかしいから具合でも悪いんじゃないかと」
「だ、大丈夫です」
「そ、そっか。じゃあ、ここはいいから向こうを頼む」
「はい」

結局、エッチな本は見つけられなかった。
先輩……信じていいんですよね?


ち・な・み・にっ♪

――ふぅ。逢に見つからなくてよかった
昨日逢から電話をもらった直後に即行、松原や華村たちにお宝本を全部預けておいた
こういう時に頼りになるよなー、親友って。あは、あはははは

これがこの時の先輩の心情である。
先輩、それって親友って言うよりも悪友じゃないですか?

――あ、しまった。この一冊だけ預け忘れていた!えっと、そうだ。ここに入れておこう

先輩は適当な空間にエッチな本を隠した。
あ、私は先輩のエッチな本の真相を説明しているだけであって、この真相を知らないという設定ですからね。
し、知りたくもありませんよ!!


「逢~こうでいいかな?」
「見せて下さい……全然ダメです!」
「え~っ!?」
「よく見て下さい。こんなに隙間があるじゃないですか。もったいないです」
「う、確かに」
「先輩はここに、段ボールに入れて向こうに持って行く物を集めて下さい。荷造りは私がやります」
「任せた」

片付けが出来ない先輩。
引っ越しの荷造りだって一人前に出来ない先輩。
私はこんな、郁夫みたいに幼い先輩と付き合っている。
そしてずっとずっと一緒に生きていく。
少なくとも大学に通う4年間は一緒。
……えっ?その、後?
う……。
その後ってつまり……結、婚?先輩と……私が?
……。

「ほら」
「え?」
「さっきからずっと働きっぱなしで喉渇いてるんじゃないかと思って、冷たい麦茶を用意した」
「ありがとうございます」

先輩が用意してくれた冷たい麦茶をちょっとだけ飲んで一息ついた。

「はぁ」
「ごめん」
「えっ?」
「片付けがろくに出来なくて、逢には大変な思いをさせてしまった」
「先輩……」
「でも」
「はい」
「これからもよろしくな」
「え?あ、はい!」
「片付けが出来なくて荷造りも下手くそで、逢には色々負担をかけると思う」
「そ、そんなこと、ないですよ」
「ひょっとしたらずっと逢には負担をかけっぱなしになるかもしれない」
「ずっと?」
「うん。えっと、何て言ったらいいのか……逢と、ずっと一緒にいられたらいいなって思う」
「先輩……私もです」
「本当に?」
「はい」
「僕に出来ない片付けとかを代わりにすることになっても?」
「いいえ。先輩に出来ないことなんてありません。私と一緒に頑張ればいいと思います」
「逢……」
「先輩……」

先輩とちょっとだけ甘いキスをした。

先輩……ちゃんと分かってたんだ。
自分が片付けが出来ない、いえ、苦手なせいで私に負担をかけているって。
でも、私はちっとも負担だなんて思っていませんよ。
むしろ楽しいです!
先輩と今こうして一緒にいられる時間が。
これから先輩と一緒に過ごせるって思った時。
これから先輩と一緒に過ごしていく時間。
私は先輩と一緒にいられるだけで、それだけで幸せなんですからね。

「逢、手伝うよ。逢のやり方を見て参考にしたい」
「分かりました」

それからしばらく先輩に荷造りの仕方を教えた。
先輩ったら、小さな子供みたいにいちいち感激しちゃって……。

「うお!さすがだな!すごいよ、逢」
「こんなの出来て当然ですよ?」
「でも、逢はすごいと思う。僕に出来ないことが出来るんだから」
「先輩もそのうち出来るようになります。そのために私がいるんですから」
「そ、そうだな。逢が教えてくれるからきっと!」
「これでだいたい終わりましたね。後は……ん?あれ、何ですか?」
「えっ!?」

私は立ち上がってそれを取りに行った。

「あ、それは!!まずい!!」

先輩も急いで立ち上がってそれを拾おうとしたが、私の方が早かった。

「今が旬。春先水着美女特集」
「え、ええっと……」
「先、輩っ。やっぱり別居しましょうか?」

私はわざと微笑みながら言った。

「そ、それだけは勘弁!」
「先輩は、私とこの人のどっちが好きなんですか!?」
「あ、逢に決まってるだろ!!」
「では、捨てますね。これは必要ありません」
「そ、そんな……」

大事な本を私に捨てられそうになってションボリしている先輩。
そんな先輩を横目に、私はしばらくエッチな本を見ながら考えた。
ちょっと意地悪しようかな?

「あ、逢?もしかしてそれに興味があるのか?」
「……あの、先輩?」
「うん」
「わ、私が、こ、この人と同じ柄のビキニを着たら似合いますか?」

私はわざと照れながらそう言ってみた。

「……ブウウウウウウウウウウウ」

先輩が麦茶を吐いた。

「ケホッ、ケホッ。あ、あ、逢が?ビ、ビキニ、を?」
「……おかしいですか?」
「そ、そうだな~……ふっ、ふふっ、に、似合う!すごく似合うよ!!」

先輩のことだから、ビキニを着た私をニヤニヤしながら妄想したに決まってる。

「逢!頼む!そのビキニを……」

ビリビリビリ……。

「う、うわあああああああああああああ、破いた!!」
「先、輩?本気で別居しましょうか?」
「あ、逢!!こ、怖い、怖いよ……」
「冗談に決まってるじゃないですか。相変わらずエッチな先輩です」
「ご、ごめん……」
「仕方ありませんね。今回はこれで許してあげます」
「あ、ありがとう」
「でも」
「はい!金輪際エッチな本は決して読まないと誓います!僕は逢だけを見続けると誓います!」
「はい、そうしてください」
「そうだよな。僕には逢がいる。そんな本もう必要ないよな」
「ええ、必要ありません。私が、その本に載っている人たちみたいになればいいんですから」
「えっ?今何て言った??」
「では、荷造りも終わって必要な物も分かったので、夕飯を食べに行きましょうか」
「そ、そうだな」

その後、先輩が私を美味しいラーメン屋さんに連れて行ってくれた。
先輩はその店の常連さんらしく、店長さんがすぐに私を先輩の彼女だと見抜いて色々サービスしてくれた。
ちょっとだけ恥ずかしかったけど、嬉しかった。

――私ははたして、これから先輩の彼女としてうまくやっていけるのだろうか。
先輩と同棲して先輩を助けながらうまくやっていけたらいい。
そして大学を卒業したら先輩と……。

そんなことを妄想しながら私はその日の夜、電車で輝日東に帰って行った。
先輩は大学の用事があるため残らなくてはならず、私も家の手伝いがあるため帰らなくてはならない。
つまり、先輩と一緒にはいられない。
でも、これから新しい生活が待っている。
入学式の直前くらいから私はやっと先輩と同棲できる。
それまでは先輩に逢えなくて寂しいけど、少しの間なので我慢出来る。
先輩、今から新しい生活が待ち遠しいです。



七咲アフターストーリー
エピソード「先輩、いよいよ同棲が始まりますね」(ノベル)
END

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2010-11-29

エピソード「先輩、今日は試験前夜です」(ノベル)

これは僕が大学2年生で逢が大学1年生の頃のエピソードだ。
1月末、後期の定期試験の試験期間中にあったエピソードだ。
僕も逢も試験期間が2週間で、ちょうど日程が被っていた。
だけど逢は1年生ということもあり基礎科目が多いため、僕よりも試験科目が5科目多かった。
前の年の僕と同じような感じだった。
ちなみに試験日程は……
僕は1週間目が月曜日1科目、火曜日1科目、水曜日2科目、木曜日1科目、金曜日1科目……
2週間目が月曜日1科目、火曜日1科目、木曜日2科目の計10科目だった。
逢は1週間目が月曜日2科目、火曜日1科目、木曜日2科目、金曜日1科目、土曜日2科目……
2週間目が月曜日1科目、火曜日2科目、木曜日3科目、金曜日1科目の計15科目だった。
したがって、僕の試験は逢と同じ日に始まって逢よりも1日早く終わった。


1週間目の火曜日、深夜2時過ぎ。
僕は自分の部屋で明日(水曜日)の2科目の試験の勉強をしていた。
1限目の試験は比較的楽だからいいんだけど、4限目の試験が範囲が広くて嫌になる……。
しかも、もう2時じゃないか!!道理で眠いわけだ。
1限目の試験は9時半だってのに、そろそろ寝ないと試験中に居眠りしてしまいそうだ。
でも、まだ4限目の試験科目の範囲が終わらないんだ!!
明日の1~4限の間に勉強しただけじゃとてもじゃないけど追いつきそうにない。
今やらなきゃ駄目なんだ。
でも、眠いんだよ!!どうしたらいい?この眠気。

そんなことを考えていたら僕の気持ちを察してくれたのか、ドアをノックする音が聞こえた。

コンコン。

「あの……先輩?まだ起きているんですか?」
「……眠っています」
「あ……はい、そうですか。やっぱり起きているんですね?」
「……」

僕はふざけて答えたが、七咲にはバレバレだ。
当たり前だ。本当に眠っていたら返事できるはずがない。

「入ってもいいですか?」
「いいよ」
「失礼します」

七咲が僕の部屋に入って来た。

「コーヒーお持ちしました」
「えっ?何というナイスタイミングだ……今ちょうど眠くて困っていたところなんだ」
「そうですか……ならよかったです。クスッ」
「じゃあ、早速……」
「あ、ちょっと待って下さい」
「ん?」
「ふーふー」
「えっ?」
「これでよし……と。熱いので気を付けて飲んで下さい」
「う、うん」

七咲がふーふーしてくれたコーヒー。
逆にちょっとだけ熱くなった気がする。別の意味で。

「……おいしい。おかげで眠気が覚めたよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「七咲こそこんな時間まで起きてて平気か?」
「はい。明日は試験がないので」
「でも、明後日2科目あるんだろ?寝れる時に寝といた方がいいと思うよ」
「実は今寝ようと思っていたのですが、先輩の部屋の電気がついていたので」
「あ、それでわざわざ僕を気遣ってコーヒーを持って来てくれたのか」
「はい」
「ごめんな、僕のせいで貴重な睡眠時間を……」
「いえ、先輩のためならこのくらい平気ですよ」
「七咲……ありがとうな」
「先輩……私は当然のことをしたまでですよ」
「よし、じゃあ、とりあえず4時までは頑張ってみる!七咲は寝ていいよ」
「いえ、先輩がうたた寝しないように私は先輩のそばにいます」
「駄目だよ。早く寝て。七咲に無理をされる方が逆に心配になって勉強に集中できなくなる」
「で、でも……」
「いいから。おやすみ」
「はい。分かりました。おやすみなさい」

七咲はちょっと残念そうな顔で部屋を出て行った。
でも、これでよかったんだ。
ちゃんと寝て、明日は早起きして明後日の2科目の試験に備えるべきなんだ。
これが七咲にとっての最善の手段だと思う。

その後、僕は4時までしっかりと勉強してから寝た。
僕も七咲もしっかりと寝て8時に起き、大学に行った。
七咲の愛情籠ったコーヒーのおかげか、この日は1日中頭が冴えて、4限目の試験も余裕だった。

そして日にちは飛んで、2週間目の木曜日の深夜0時過ぎ。
僕はこの日で試験終了だったので、解放感に全力で浸っていた。
めんどくさい10科目の試験からようやく解放されたんだ。
嬉しくて仕方がない。
新作のゲームでもやろうと思って部屋に向かおうとしたその時だった。

「あれ?」

隣の部屋を見るとまだ電気がついている。

「あ、そっか!」

そういえば僕は今日試験が終わったけど、七咲は明日がラストだったんだ。
どうやら明日のラスト1科目が一番きついらしい。まさに正念場だ。
しかも今日3科目の試験を終えて勉強できる時間が少なかったらしい。
体力も限界かもしれない。

「七咲……大丈夫かな?よし、コーヒーの差し入れでもしよう」

僕はコーヒーを淹れて再び七咲の部屋の前に立つ。

コンコン。

「七咲、起きてるか?」
「……」

……返事がない。
もしかして居眠りしてるのか?それとも居眠りしてるフリとか?
いや、まさかな。あははは。

「七咲、入っていいか?」
「……」

……やはり返事がない。
まさか!

「七咲、入るぞ」
「……」

返事がないけど、僕は心配になって七咲の部屋に入った。
すると……僕の目に飛び込んで来た光景は……!?

「あ……」
「……せん……ぱい……むにゃ……」
「七咲……?寝てる……」

やはり思った通り、七咲は居眠りしていた。
今日の3科目の試験が相当堪えたらしい。

「おいおい、七咲ったら。明日試験じゃないのか?寝ちゃ駄目だろ」

僕は七咲を起こそうと七咲のすぐ後ろに近寄った。

「七咲、起きろ。起き……ろ……あ……」

七咲を起こそうと僕は七咲の両肩に両手をそっと添えて七咲の身体を軽く数回揺さぶった。
その時だった!

「か、かわいい……」
「ん……んん……」

今まで何度も見て、見慣れているはずの七咲の寝顔が特別かわいく思えた。

「七咲って……こんなにかわいかったんだ……」

僕はその場で固まり、七咲の寝顔に見入っていた。
僕は七咲を起こすのを躊躇った。
寝顔がこんなにかわいいのに……起こすなんてもったいない。
でも、起こさなきゃ!七咲自身のためにも。
だって明日大事な試験があるんだぞ?
もし七咲が留年なんかしたら結婚はとりやめだ。
このかわいい寝顔ももう二度と見れないかもしれない。
……だけど、このかわいい寝顔をずっと見ていたい。見続けていたい。
僕はどうすればいいんだろう?
僕の私欲のために七咲を寝かせておくべきか、それとも七咲自身のために七咲を起こすべきか。
そんな葛藤を僕は10分くらいした。
悩みに悩んだ末、出した結論は……

「よし、このかわいい寝顔を撮影すればいいんだ」

今ちょうど使い捨てカメラを持ってて、余っているフィルムがあった。

「七咲……ごめん!」

パシャ。

七咲のかわいい寝顔を……1枚の写真に収めた。ベストショットだ。
でも、これって世間では盗撮って言うんじゃないの?
しかも僕は今刑事を目指している。
……
いや、バレなきゃいいんだよ。バレなきゃ。
刑事らしからぬ発言だが、まあ、気にすることはない。
さて、これで満足した。七咲を全力で起こすんだ!!

「七咲、起きろ!」
「……」

僕は七咲の両肩に両手をそっと添えて七咲の身体を少し強めに数回揺さぶった。
しかし、反応はない。

「はぁ。七咲、起きなきゃまずいんじゃないか?」

ぷにぷに。

僕はふざけて七咲のほっぺたを人差し指で突っついてみた。

「あ……柔らかい」

ぷにぷに。

「七咲のほっぺた、結構柔らかいなぁ」

ぷにぷに。

「普段唇にしかキスしないからなぁ。唇の柔らかさくらいしか知らなかった」
「よし、試しに……」

……ちゅっ。

僕はふざけて七咲のほっぺたにキスしてみた。

「柔らかい……抜群の破壊力だ」

……って!僕は何七咲で遊んでいるんだ!?
早く起こさなきゃ!!
でも、こんなことをしても起きないなんて……相当疲れているのかな?
……だったら!
……こんなことをしても平気かな?

僕は七咲の背後から脇の下を通して、胸まで両手を伸ばした。

せいの!

ぷにぷに。
びくっ!
「ん……」

七咲の胸を触った。
すると、七咲の身体が反応した!
これは効果がありそうだ!数回やれば起きるだろう。

せいの!

ぷにぷに。ぷにぷに。
びくっ!びくっ!
「ん……んん……」

今度は触るだけじゃなく、ちょっと強めに押してみた。

ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。
びくっ!びくっ!びくっ!
「ん……はう!や、やめて、駄目!」

さらに強めに押してみた。
これはもう触る……ではなく、揉む……だな。

寝言か。もうちょっとだな。

ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。
びくっ!びくっ!びくっ!びくっ!
「ん……はぁ……ゆ、許して……お姉ちゃんが悪かったから……だから、やめて……」

え??お姉ちゃん??
郁夫の奴……昔七咲に何をしてたんだ!?
うらやましい。

ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。
びくっ!びくっ!びくっ!びくっ!びくっ!
「はう!……ああん……あ!」

それ、もっとやってやれ!

僕は調子に乗って七咲の胸を揉みまくった。

ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。
びくっ!びくっ!びくっ!びくっ!びくっ!びくっ!
「や、やめて下さい先輩!」

ははは……先輩だって!まだ寝ぼけて……ん??先輩??
僕のことか??えっ??

僕は身の危険を感じて七咲から手を離した。
しかし、手遅れだった!

「あ……な、七咲、おはよう」
「……」
「あ、あははは……コ、コーヒーあるぞ」
「……」
「そ、それじゃあ僕はこれで……」

ぎゅっ。

「えっ??」

僕が逃げようとして七咲に背を向けた途端、七咲に背後から襟を掴まれた。

「えっ??な、七咲?」
「すぅ……」
「……」
「この変態!!!」
ボカ!!ボカ!!ボカ!!
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」


結局七咲にバレてしまった。まあ、当然のオチだな。

椅子に座り直す七咲。僕は七咲の前で土下座した。

「先輩との婚約はなかったことにします」
「えっ??どうしてさ?」
「毎日こんなことされたら嫌ですから」
「ま、毎日だなんて……た、たまたまの間違いだろ?」
「……!」
「ご、ごめんなさい。調子に乗りました」
「もしかしてそこにあるカメラで私の寝顔を撮影したりとか?」
「カメラ……?あ……」

しまった!カメラをしまい忘れていた。僕は重要な証拠を現場に残した駄目刑事だ。

「したんですね?そのカメラ、最初からそこにはありませんでした」
「はい、容疑を認めます。寝顔があまりにもかわいかったので……その……つい……調子に乗って」
「う……この盗撮魔」
「ごめんなさい。だけど……あまりにもかわいくて……」
「もういいです。出て行って下さい。早く!私は勉強しなきゃいけないんです。先輩は邪魔ですから」
「う……」
「まだ何かあるんですか?」

七咲、相当怒っている!
早くこの誤解を解かないと婚約が破棄されてしまう!!

「……」
「早く用件を言って下さい」

よし!!!

「……」
「……」
「ごめん……本当は悪気はなかったんだ。ただ、七咲が明日大事な試験があるって言うから……」
「……」
「しかも今日3科目終えて疲れて居眠りしてないか心配で……」
「え?」
「もう冷めちゃったけど……ここにコーヒー持って来たんだ。そしたら……」
「私が居眠りしてた……」
「うん」
「……だったら……もっと普通の起こし方でよかったのに……どうして……」
「……」
「どうして……胸を!!」
「う……」

七咲は椅子から立ち上がって僕の前にしゃがんだ。
僕は七咲に襟を掴まれ、持ち上げられた。
七咲は胸を揉まれたことが嫌だったみたいでちょっと涙目になってる。

「ごめん。それでも起きなかったから……つい調子に乗って……」
「……」
「実は起こす前に七咲のかわいい寝顔を見ちゃって……一瞬起こすのを躊躇ったんだ」
「え?」

七咲が僕から手を離した。

「七咲のかわいい寝顔をずっと見ていたくて……それで……盗撮を……」
「う……」
「悪いのはすべて僕なんだ!!償いならいくらでもする!!だから……だから……」
「……」

僕は深く土下座した。

「婚約だけは破棄しないでほしい!!僕はずっと七咲と……逢と一緒にいたいから!!」
「……」
「逢の……その……かわいい寝顔をずっとそばで見続けていたいから……お願いします!!どうか……」

僕は強く歯を食いしばった。

「……もう、いいですよ」
「えっ??」
「本当に……仕方がない先輩ですね」
「逢……」

七咲はコーヒーカップを持って、冷めたコーヒーを一口飲んでから……

「ふ……まったく……相変わらずバカでエッチで……本当にどうしようもない先輩です」
「逢……」
「だけど……バカでエッチだけど……私を想う気持ちに嘘はないみたいですね。安心しました」
「じゃ、じゃあ……」
「私を起こしてくれたお礼に、許すことにします」
「逢……ありがとう!」
「方法は間違っていたけど、先輩が私を起こしてくれなかったら大変なことになっていました」
「本当にごめんな。このカメラに入っている寝顔は後でちゃんと削除……」
「いえ、その必要はありません」
「えっ??」
「それは先輩が持っていて下さい」
「えっ??い、いいのか?」
「はい。さっき私は許すと言いました」
「わ、分かった。ありがたく受け取るよ」
「ただし!」
「は、はい!!」
「他の人には絶対に見せないで下さいね。恥ずかしいので、先輩と私だけの秘密にして下さい」
「分かった!」

よかった……分かってもらえたみたいだ。
逢……本当に僕が悪かったよ。
これからも誠心誠意逢に尽くすと誓おう!

「……もう1時ですね。早く勉強しないと」
「あのさ……逢」
「はい?何です?」
「僕……ここにいてもいいかな?」
「えっ?」
「その……お詫びと言っちゃあ難だけど……逢が寝ないように僕がここにいて見守る」
「えっ??い、いいですよ……私一人で勉強できますので」
「でも、疲れてるんだろ?また寝ちゃうかもしれない」
「そしたらまた先輩が起こしてくれるんですか?エッチな手段で?」
「い、いや、今度は普通に起こす!!何が何でも!!さっきのことはもうしません!!」
「信用できませんね……ついさっきされたばっかりなので」
「そ、そこを何とか信用して下さい!!」
「……分かりました。これ以上争っていても時間の無駄なので、どうぞお好きにして下さい」
「そ、その言い方は引っかかるけど……分かった」
「あ、それと……」
「うん」
「コーヒーごちそうさまでした。おいしかったです」
「あ、うん。どういたしまして」

七咲は再び勉強机に向かう。
僕は七咲が飲み終えたコーヒーカップをキッチンで洗ってから再び七咲の部屋に戻った。

「……」

黙々と勉強している七咲。
何を勉強しているのか気になってちょっと覗いてみた。

「……か、解剖学?」
「えっ??」
「解剖学なんて勉強してるの?怖い」
「ああ、これですか?別に怖くはありませんよ。人体の構造を学ぶんです」
「えっ?そんなの勉強してどうするの?」
「そんなのって何ですか?そんなのって?アスリートを目指す者にとっては重要な学問なんですよ」
「そうなのか?」
「はい。基本中の基本です」
「ああ、そっか。筋肉とかの勉強をするのか。確かに重要だなぁ」
「そういうことです」
「へぇ……あ、この上腕二頭筋って何かどっかで聞いたことがある!」
「肘を曲げる筋肉ですよ」
「へぇ……そうなのか?」
「……」
「あ……この大胸筋って……」
「胸の筋肉ですね」
「へぇ……胸のねぇ……」

そう言って僕は七咲の胸を見る。
胸のねぇ……
七咲の胸にも……

「先輩!どこを見てるんですか?」
「えっ??」
「今、私の胸を見ていましたね?」
「あ……ごめん」
「私の胸ではなく、ちゃんと教科書を見て下さい。エッチな先輩ですね」
「う……」

怒られちゃった。まあ、当然だな。さっきのことがあるし。

七咲は一生懸命教科書に書いてある文章を読んで覚えようとしている。
僕も同じ文章を読んでみる。

「はぁ……難しいですね。覚えづらいんです」
「なぁ……逢」
「はい?」
「僕、初めて見るから正しいかどうかよく分からないんだけど……」
「何です?」
「こういうのって文章読んだだけじゃ駄目なんじゃないかな?」
「え?と言うと?」
「ほら、隣に図が出てるだろ?文章じゃなくて図を覚えればいいんじゃないかな?」
「図を?」
「例えば、さっきの上腕二頭筋だったら……こういう走行だから収縮したら肘が曲がるって」
「……」
「どう……かな?」
「なるほど。それなら分かりやすいですね」
「うん。だと思うよ」
「……」
「僕思うんだけど、解剖学って実際に人体を観察して得られた結果をこの文章にしたんじゃない?」
「つまり?」
「こっちの図から分かったことをこの文章で表してるとしたら、逢も同じことをすればいいと思う」
「同じこと?」
「まずは、この図を覚える。そしたらこっちの文章が自然に出て来るんじゃない?」
「……」
「……」
「なるほど。確かに先輩の言う通りです」
「……だろ?」
「でも、意外です」
「何が?」
「先輩は初めて見たのにそこまで分かるなんて」
「あ、ああ……僕はもともと数学が得意だからね。何となくだよ」
「何となく……。でも、すごいと思います」
「そ、そうかな?」
「はい」
「て、照れるなぁ」
「あ、それはそうと先輩」
「ん?」
「先輩は起きてても平気なんですか?」
「ああ、平気だよ」
「でも、先輩も今日試験を2科目受けて疲れてるんじゃ……」
「うん。さっきまではね。だけど、逢のパンチを食らったら疲れが吹っ飛んだよ」
「ごめんなさい……。痛かったですよね?」
「う、うん。まあ……正直痛かったけど……おかげで元気が出たよ。ありがとう」
「……」
「逢?どうした?」
「やっぱり先輩は変態ですね」
「え?」
「女の子に殴られて喜ぶなんて……」
「あ、いや、あはは……」

そうだよ!僕はドMキャラか!?違うぞ!!断じて違うからな!!

それから3時まで、勉強する七咲のそばにずっといてあげた。
ただ何もせずずっとそばにいてあげた訳ではなく、僕も七咲の教科書を読みながら一緒に勉強した。
正直七咲が日頃何を勉強してるのか興味があったんだ。

「よし、残り3ページか」
「はい。そうですね。はぁ……」

七咲は欠伸をした。

「眠いのか?」
「ええ。もう3時ですからね」
「そっか。もうそんな時間なのか。僕は試験終わったし明日1日中家でごろごろできるけどな」
「うらやましいです」
「でも、そのおかげでこうして逢の勉強に夜遅くまで付き合ってあげられるんだ」
「私のために……ありがとうございます」
「ううん。逢のためだけじゃないよ」
「え?」
「これは僕のためでもあるんだから」
「先輩の?」
「僕も逢も無事に現役で大学を卒業できなきゃ結婚できないからな」
「そのために私を……?」
「そう。僕は僕と逢、二人のために今こうして逢を応援しているんだ」
「先輩……」
「さあ、雑談はこのくらいにしよう。早く勉強をするんだ……」
「はい……えっ?」

僕は逢を全力で抱きしめた。

「えっ?ええっ?せ、先輩……いきなり何を?」
「逢……頑張ろう」
「ん……んん……」

僕は逢の唇にキスをした。
さっきふざけて逢のほっぺたにキスをしたけど……やっぱり唇の方がいい。
唇の方が柔らかくて温かい。

そして逢を放した。

「……」
「……」
「さあ、今のキスで逢の眠気は僕がすべて吸い取った。代わりに僕の元気を逢にすべて与えた」
「……」
「もう少し……せめて4時までは頑張れるよな?」
「……はい!頑張れる気がします!頑張ります!」
「よし……それじゃあ僕も一緒に勉強しよう」

こうして逢の試験最終日の前夜に逢と一緒に甘い一夜を過ごした。
最初はどうなることかと思ったけど、逢が許してくれたし、一件落着だ。

翌朝、僕は七咲を起こそうと、七咲の部屋の前に立った。

「七咲、起きろ!そろそろ起きないと」
「分かってます。先輩に言われなくても私はちゃんと起きてます」
「そ、そっか。ならいいんだ」
「私は先輩とは違ってしっかりしてるつもりです」
「昨日僕に起こされなきゃ起きれなかった人がよく言うよ……」
「あ、あれは……」
「あれは?」
「もういいじゃないですか!早く朝ご飯を食べましょう」

そう言って七咲は部屋から出てリビングに向かった。

さては照れてるな?

「それじゃ、先輩。行って来ますね」
「うん、頑張ってな」
「はい」

七咲は元気よく家を飛び出して行った。
七咲の鞄には今年の春に買った僕とお揃いの学業成就のお守りが付いている。
安全祈願のお守りだけではなく、学業成就のお守りも僕と七咲の絆の象徴なんだ。
僕は数ヶ月前、学業成就のお守りと一緒に買った七咲とお揃いの安全祈願のお守りに生命を救われた。
そしてその出来事がきっかけで七咲との婚約に至った。
今度は学業成就のお守りで僕が七咲を救ってやるんだ!!昨日七咲の勉強を手伝ったみたいにな。
二人の関係を恋人同士から婚約する仲にまで進展させたのが安全祈願のお守りなら……
二人の関係を婚約する仲から夫婦にまで進展させるのが学業成就のお守りなんだと思う。
僕と七咲はお互いの夢を応援することで一歩ずつ結婚というゴールに向かっている。
これからもゴールを目指してお互いに頑張っていこうと思う。



七咲アフターストーリー
エピソード「先輩、今日は試験前夜です」(ノベル)
END

2010-11-17

エピソード「先輩、お誕生日おめでとうございます」(ノベル)

まず、混乱防止のためにこの話の設定を先に書いておきます。
本日、11月17日は当ブログの開設者であり、当ブログにある数々のストーリーの作者でもある……
僕、七咲しゅうの誕生日なんです。はい、拍手!!
……(しーん)
な~んて誰もしないよね?ははは……(棒読み)
一応右のプロフィールには誕生日の月日だけは載せてあります。ご参照下さい。
生年は……あまり歳を知られたくないので載せてないです(笑)
別に大した理由があるわけではなく……そう、何となくです(笑)
でも、この話では思い切って公開しちゃいます!!
先に書いておく……刮目せよ!!!

1988年(昭和63年)11月17日生まれです!!
満22歳になりました!!

しかも平成22年にちょうど22歳という……何と覚えやすい年齢だ!!
どうせなら平成22年2月22日22時22分22秒22……みたいなゾロ目だったらよかったのにな~
そんな奇跡はそうそう起きるものじゃない。
それに2月22日って七咲逢の誕生日の1日後じゃないか!!いいなぁ~(笑)
平成22年に22歳ってことは……
一応ゆとりだよ?ゆとりですよ!!
ゆとりで悪かったな!!!
いや、誰も悪いなんて言ってないしな……(笑)

ちなみに僕は現在医療系大学3年生です。留年中です。
ダッサ!
おい、今ダサイとか言った奴誰だ!?出て来いよ!!
……僕か。いや、僕しかいないよな。ま、いいや。
今、単位を習得すべく努力しております。
あともうちょっとで進級できるはず!!
頑張ります!!応援よろしくお願いします!!


まあ、そんなわけで……
僕自身の誕生日を祝うためにこんな話を書いてみました。

七咲アフターストーリー
エピソード「先輩、お誕生日おめでとうございます」(ノベル)


この話を書くにあたり、七咲アフターストーリーの設定を用いることにしました。
今までの話を読んでいただければ分かる通り……
(この話を読む方が全話読んで流れを掴んでいただいていることを前提に話を進めます)
(まだ読んでない方はまた後ほどゆっくり読んでいただければ結構ですよ)
七咲アフターストーリーの設定は以下の通りです。
僕(橘しゅう)は私立大学法学部4年生で、12月14日に22歳になります。
何故12月14日かというと、ゲーム本編ではクリスマスイヴの10日前が主人公の誕生日となっているからです。
一方、この時同棲している彼女……そう、我らが七咲逢は20歳で体育大学3年生です!!
この日から2年ほど前の秋、僕は大学の友人2人と登山に行って、誤って山から転落し、記憶喪失になりました。
その時、七咲が僕の記憶を取り戻そうと懸命に励んだことがきっかけで、僕と七咲は婚約に至りました。
無事に二人とも大学を現役で卒業することを条件に婚約に至ったわけです!!
ちなみに結婚したら僕の方が姓を変えて七咲しゅうになります。

この話は、作者である僕(七咲しゅう)の22歳の誕生日を……
主人公である僕(橘(七咲)しゅう)の22歳の誕生日に重ね合わせて……
作者の11月17日の22歳の誕生日を主人公の12月14日の22歳の誕生日として祝います。
要は作者の年齢を主人公の年齢に重ね合わせた感じです。

前置きがかなり長くなってしまいました。
では、本編をどうぞ!!



あの婚約の日から2年という月日が流れた……
今日は12月14日、僕(橘しゅう)の22歳の誕生日だ!!
そのことを覚えていなかった僕は今日も普通に七咲が待っている我が家に帰宅した。

「ただいまー」
「先輩、おかえりなさい。どう……でした?」
「え?何が?」
「とぼけないで下さい。試験ですよ。今日重要な試験があるって言ってたじゃないですか」
「ああ、試験か……うん、ぼちぼち……かな」
「ぼちぼち!?そ、それで大丈夫なんですか!?」
「分かんない」
「はぁ……。もっと頑張って下さいよ……」
「うん、頑張る」

僕は重要な試験が終わって疲れていたので、気の抜けた返事をした。
靴を脱いで上がった。

「何ですか、その気の抜けた返事は?」
「さあ。何だろうね」
「留年とかやめて下さいよ。留年なんてしたら即婚約解消しますので、そのつもりで」
「留年は絶対しない。大丈夫」
「はぁ……。その自信はいったいどこから来るんですかね……」
「さあね」
「先輩は……本当に私と結婚する気があるんですかね?このままだと……」
「ん?何か言った?」
「い、いえ!別に何も。それよりも夕飯の支度が出来ているので早く着替えて来て下さい」
「分かった。……そういえば何かいい匂いがするなぁ」

僕は居間から漂ういい匂いに釣られて、即行着替えをして居間に向かった。

「ああ!!すごい豪華な食卓だ!!どうしたの、これ?」
「ふふっ。久しぶりに頑張ってみました」
「え?何々?どうしたの??」
「とりあえず……席について下さい」
「うん」

僕と七咲は席についた。

「いただきます」
「い、いただきます」

僕が早速料理に手をつけようとすると……

「あ、待って下さい」
「ん?」
「先輩、グラスを持って」
「え?こうか?」
「橘しゅう先輩……22歳のお誕生日おめでとうございます!!乾杯」
「ああ!!そういうことか!!すっかり忘れてた!!乾杯」

チャリン。

そういえばそうだったな!!今日12月14日は僕の22歳の誕生日だった!!
だからこの料理なのか!!七咲が1年に1度、料理の腕を奮う日。
七咲は僕の帰りを楽しみに待っていたんだな。
だったらもっと明るい表情で楽しそうに帰ってくればよかったな。
試験さえ余裕だったらなぁ……。

「覚えててくれたんだ……」
「はい。当然です。先輩も毎年私の誕生日を覚えててくれるので」
「はは……相手の誕生日を覚えてるくせに自分の誕生日を忘れるなんてな……」
「私も先輩の誕生日は覚えているのに私の誕生日は忘れています」
「僕たちは似たもの同士だな」
「そうですね!クスッ」
「食べていい?」
「はい、どうぞ」

パク、モグモグ。
パク、モグモグ。

「……」
「……」
「おお、おいしい!!さすが七咲!!」
「あ、ありがとうございます」
「こんなおいしい料理が毎日食べられるなんて……僕はなんて幸せ者なんだろう……」
「えっ?あ……えっと……先輩」

僕の言葉に七咲は照れて話題を変えようとする。

「え?何?」
「誕生日プレゼントですが……今年も何にしようか迷って結局……」
「いいよ」
「え?」
「僕はこんなおいしい料理を食べられるんだ……それだけで幸せなんだ」
「先輩……」
「この料理には七咲の愛情が込もっている!この料理こそが僕への誕生日プレゼントだよ」
「あ……」
「ありがとう……逢」
「ん……」

僕は誕生日プレゼントのお礼に七咲にキスをした。

「……って!早く食べないとせっかくの愛情が冷めちゃうな」
「……」
「うん。これもおいしい!!」
「……はい、そうですね」

我ながらうまいこと言った?
七咲は照れているようだ。

「あ……先輩」
「ん?」
「22歳の抱負を聞いていいですか?」
「え?抱負??」
「はい」
「抱負って……何を言えばいいんだろう?聞かれたの初めてだからな」
「目の前にある目標とかです」
「目の前……か。でもな、ありふれてるよな」
「大学を無事に現役で卒業すること……ですか?」
「そうなるね」
「確かにありふれていますが、それしかないですよね」
「うん。でも、誕生日にあった重要な試験があの結果だったからな……」
「なるほど。早速抱負に違反するわけですか」
「いや、違反じゃない!!たぶん受かった……と……思う」
「たぶん……?先輩、留年なんてしたら……覚悟は出来てますね?」

七咲が怖い表情で僕を睨みつけた!

「りゅ、留年なんて恐れ多い!!しない!!絶対にしないから!!」

この話の作者じゃあるまいし、留年なんてするもんか!!
でも、彼が留年しなかったら僕もこの話も生まれていなかったわけで……
うーん、複雑な心境だ。
……だけど!!

「僕は七咲と結婚したいんだ!!」
「ならもっと頑張って下さい……」
「もちろんだ!!」
「じゃあ、期待してます」
「……あ、そっか!」
「どうしました?」
「もう一つ……というかたった一つだけ大きな抱負があるよ」
「それは何です?」

ニコッ。
「えっ?」

僕は笑顔で七咲を見つめた。

「私……ですか?」
「そう。七咲を幸せにすること!」
「……」
「よくよく考えてみれば……七咲を幸せにするにはまず七咲との結婚だ」
「……はい」
「で、そのためには学業成就だ」
「はい」
「つまり、僕が今向かっている先には七咲との幸せな未来がある!!全部そこに繋がっている!!」
「そう……なりますね」
「だから、僕には七咲を幸せにするっていうたった一つだけの大きな抱負があるんだ」
「……」
「いや、それしかないって言った方が正しいのかな?」
「……」
「僕には……結局それ以外の抱負はないんだ。七咲が……僕のすべてだと思うから!!」
「……」
「ん?七咲?どうした?急に黙ったりして……」
「あ、えっと……ケーキ、持って来ますね」
「え?ケーキ??あるの??」
「はい」

七咲はケーキを取りに台所へ行った……いや、逃げたと言った方が正しいだろう。
僕が急に真面目な話をするから照れてしまったのだろう。

「はい、どうぞ」
「おお!!これは駅前の銘菓専門店のケーキじゃないか!!」
「箱開けますね」

七咲は丁寧にケーキの箱を開けた……すると!!

「おお!!大きいなぁ!!いくらしたの?」
「4.5号サイズで2300円でした」
「こんな大量に……食べ切れるかなぁ。この豪華な夕飯の直後だし」
「昔からよく言うじゃないですか。甘い物は別腹って」
「うん。だけどな……僕と七咲で2.25号ずつ食べられるかな」

まあ、実際にはこのケーキは作者がこの話を書き切った後、一人でおいしくいただきます(笑)
一人で4.5号サイズのケーキ食ったらお腹壊しそうだけど、年に一度の不摂生だし……いいよね?

「しかも僕のネーム入りか!!素晴らしい」
「じゃあ、早速ケーキを切りますね」
「あ、待って!その前に記念写真を撮りたい!!」
「あ……じゃあ、どうぞ」
「うん」

僕はこのケーキを写真に撮った。

誕生日1

誕生日2

誕生日3

「じゃあ、次は七咲とケーキのツーショットで」
「え?私ですか」
「うん。記念に」
「分かりました」

僕は七咲とケーキのツーショットを写真に撮った。

誕生日4

「次は先輩とケーキのツーショットですね」
「うん。お願い」
「はい」

七咲は僕とケーキのツーショットを写真に撮った。

「じゃあ、食べようか」
「はい」

七咲が手慣れた手つきでケーキを切り分けた。

「おいしい!!」
「ええ。おいしいです」
「それにしても七咲……料理だけじゃなくケーキまで用意してくれたのか!」
「はい。先輩のためなら当然です」
「ありがとう!!これも誕生日プレゼントなんだな!」
「え?あ……」
(七咲……好きだ!!大好きだ!!)
「んん……」

僕はまた誕生日プレゼントのお礼に七咲にキスをした。
しかもさっきよりもちょっと強めに。

「はぁはぁ……」
「はぁはぁ……ん?」
「どうした?」
「これは……」

七咲が唇についた生クリームを指で拭った。

「あ……もしかして……」

僕も唇についた生クリームを指で拭った。

「そうですよ。これは先輩がつけたものです!」
「そう……みたいだな」
「まったく……生クリームのついた唇でキスするなんて……」
「ごめん。気付かなかったんだ」
「……」
「でも、この方がキスの甘みが増していいんじゃ……」
「……!!」

七咲が僕を睨みつけた。

「……ごめんなさい」
「もう先輩とは金輪際キスしません」
「ええっ!?」
「また生クリーム付けられたらたまったもんじゃありません」
「そ、そんな……七咲!」
「もう知りません」

七咲は怒ってケーキを食べ出す。

「ごめん!ごめんって!僕が悪かった!!だから機嫌直してよ、七咲」
「……」
「七咲!七咲!!」

そっぽを向いてケーキを食べている七咲に僕が接近したその時だった!!

「クスッ」
「えっ?」
「えいっ!」
「あっ!」

七咲は急に僕の方を向いて、そのまま僕を後ろに押し倒した。

「んん……」
(七咲……どういうつもりなんだ!?怒ってそっぽを向いてケーキを食べ出したかと思えば……)
「んん……」
(いきなり向き直って僕を後ろに押し倒してキスだなんて!!)
「んん……」
(あれ?待てよ……この唇の柔らかい感触……まさか!?)
「はぁはぁ……」
「何だ、結局僕と同じことしただけか。まったく、びっくりしたよ」
「すみません」
「いや、いいんだよ。最初にやったのは僕だし」
「……」
「ありがとう……甘いキスを」
「いえ。先輩のためなら」
「でも、ちょっと甘すぎたかなぁ」
「クスッ。そうかもしれませんね」

その時、僕はケーキの箱に一緒に入っていたロウソクを見つけた。

「あんまり甘すぎると溶けてしまいそうだ、このロウソクみたいに」
「ロウソクみたい……?」

僕はロウソクを1本取り出して自分の食べかけのケーキに刺した。

「先輩……何を?」
「えっと……ライターどこだっけ?」
「そこの引き出しですよ」
「ああ、これか」

僕はライターを使ってロウソクに火を着けた。
そして部屋の証明を落とした。

誕生日5

「きれい……ですね」
「うん。そうだな」
「先輩、覚えてますか?ロウソクの話」
「うん。覚えているとも」

(参照:第7話「先輩、兄弟っていいですね」

「あれは4年前の夏休みの出来事だったな……。懐かしいよな、あの頃が」
「ええ。そうですね」
「……」
「……」

僕と七咲はしばらくの間ロウソクをじっと見つめた。
僕はロウソクと火を見ていて突然ひらめいた!

「なあ、七咲」
「はい。何ですか?」
「僕と七咲の関係って、このロウソクと火の関係に似てないか?」
「え?どういうことです?」

――僕はロウソクで七咲は火だ。
ロウソクってさ、火に溶かされて消えてなくなるまで火を灯し続けるだろ?
僕も同じだよ。
僕も自分を犠牲にしてまで……生命の限り、七咲に一生懸命尽くし続ける。
僕も溶けてなくなるまで七咲っていう火を灯し続けるんだ。
七咲がいつまでも明るく輝き続けるために、僕は一生懸命尽くし続けるんだ。
違う?

「……そう……ですね……」
「え?違った?」
「半分正解で、半分間違い……でしょうか?」
「え?どういうこと?」

――もしかしたら私の方がロウソクかもしれません。
火が熱ければ熱いほどロウソクは早く消耗しますよね。
先輩の私に対する想いが熱すぎて……私、溶けてしまいそうです。
先輩、いつもそんな熱いことを急に語り出すじゃないですか。
私、いつもびっくりしているんですよ。
このままではびっくりしすぎて寿命が縮まりそうです。
私を溶かし切らないためにも、あまり熱くならないで下さいね。

「えっ?そうだったのか!?ごめん……」
「いえ、冗談ですよ。クスッ」
「いや、七咲の言ってることも正しいと思う。確かに……僕は熱すぎるんだな」
「でも、先輩のそういうところ、結構好きですよ」
「えっ?」
「だって……そんな先輩だからこそ一緒にいて飽きないです。」
「七咲……」
「先輩と一緒だといつもびっくりさせられて飽きないんです。」
「……」

――先輩は私のためにいつも急に熱くなります。
それは私のためを想っての行動なんですよね?ちゃーんと分かってますよ。
先輩は私という火がいつまでも明るく輝き続けるために、一生懸命尽くしてくれます。
でも、そんな先輩の急な行動がいつも私をびっくりさせて私の寿命を縮めていきます。
一見、矛盾しているかのようにも見えますが、実はそうでもないんです。
先輩と一緒だといつもびっくりさせられて飽きないんです。
そんな先輩と一緒にいられて、私は嬉しいんです。
だからこそ今度は私がロウソクになって先輩に一生懸命尽くします。
大好きなしゅう先輩だからこそ一生懸命尽くしたいんです!!
お互いにお互いのことを想って生命を張る……それこそが愛情ですよね?

「う……」
「先輩?どう……しました?」
「七咲……」
「はい」
「熱い!熱いぞ」
「えっ?」
「僕……一瞬……溶けかかった。七咲が熱すぎて」
「えっ?あ……」
「七咲もやるなぁ。僕を超えるくらい熱いこと言うなんて……」
「いえ、先輩の言葉をもらってちょっと付け足しただけですよ」
「そんなことない!七咲も十分熱いよ」
「そうですか?」
「うん。もっと自信持っていいよ!僕の許婚……いや、奥さんなんだから!!」
「えっ……?せ、先輩……気が早いです!!だってまだ私たち……」
「頑張るよ!僕、頑張るよ!!必ず、七咲……いや、逢と結婚してみせるさ!!」
「先輩……あ……」

僕は七咲の両肩に両手を載せて、そのまま七咲を前に引っ張りながら後ろに倒れた。
ちょうどロウソクと火の位置関係のように、僕が下で七咲が上になるように寝た。

「一生、消させはしないよ。七咲逢っていう希望の火だけはね!」
「先輩……」
「今度は僕からいくよ」
「はい」

僕は頭を少し上げて七咲に熱いキスをした。
正直この体勢は首筋が辛い。
それを察してくれたのか、七咲はそっと僕の後頭部に両手をあてがい……
僕の頭をそっと床に下ろしながら深くキスをした。

「んん……」
「んん……」

僕が主導権を握るつもりだったが、キスがあまりにも深すぎて息が続かなくなってきた。
でも、七咲は微動だにしない。それどころかますます深いキスをしてくる!!
僕は耐えられなくなって顔をそっぽに向けようとしたが……

「んんん!」

七咲は両手で無理やり僕の顔を正面に戻した。

(七咲……まだ放してくれないのか!勘弁してくれ!!)
「んんん……」

僕は我慢できなくなって手足をジタバタさせた。
それでやっと七咲が気付いてくれたみたいで、僕を放してくれた。

「はぁはぁ……死ぬかと思った!」
「すみません。先輩を溶かし切ってしまうくらい熱いキスがしたかったので」
「そ、そっか。それならいいんだ。でも、それならそうと最初に言ってくれれば、心の準備ができたのに」
「心の準備なんて……許しません」
「え?」
「だって先輩はいつも急ですから。いつも私に心の準備をさせてくれません。だから……お返しです!!」
「あ……そっか。ごめん」
「いえ、別に……謝らなくていいです。悪いとは言ってませんから」
「まあ……そうだな」
「あ……それよりも、先輩」
「ん?」
「早くこのケーキを全部食べてしまいましょう。このまま放置しておくとケーキが室温で傷んでしまいます」
「そうだな。でも……食べ切れるかなぁ」
「私は全部食べ切るつもりですよ。先輩は残しても構いません。私がもらいますから」
「お?言ったな!七咲には絶対に負けないぞ」
「じゃあ、競争しましょうか」
「そうだな。あ……この燃えかけのロウソク、どうする?」
「せっかくなので、そのままにしておきましょうか」
「分かった。このロウソクを刺した部分は最後に食べよう」

というわけで、僕と七咲は1本のロウソクのみで照らされた暗い部屋でケーキを食べ切ることにした。
この部屋のいい雰囲気の割りに合わないことをすることになったが……ま、いっか。
結局、二人ともやっとの思いでケーキを完食した。
さっき強気なことを言っておきながら七咲の奴、自分の分を完食するのがやっとっていう感じだった。
七咲は相変わらず強がりなんだな。でも、そういうところがかわいいから、僕は七咲が好きなんだ。


――ロウソクと火の関係。
火は風や水などの妨害が入らない限り一生燃え続け、ロウソクを熱く溶かしていく。
ロウソクは自分を溶かしながら一生火のために尽くしていく。
ロウソクが溶けてなくなると同時に火も消えてなくなる。
ロウソクと火は一生を共にし、死ぬ時も一緒だ。
まるで、これから結婚して一生を共にしようと考えている僕と七咲みたいだ。
この時の僕と七咲は一生このロウソクと火の関係になりたいと願った。



七咲アフターストーリー
エピソード「先輩、お誕生日おめでとうございます」(ノベル)

この話は、僕と七咲がロウソクと火の永遠の愛をお互いに誓い合った、そんな僕の22歳の誕生日の物語。
END

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2010-07-23

エピローグ「先輩、私とみんなのその後」

婚約の翌日、月曜日
僕、七咲、松原、華村、塚原先輩、森島先輩の6人は……
また今日から大学の講義があるため、昨日夜遅くに帰って来た。
輝日東で七咲の両親、郁夫、梅原、美也に見送られて帰って来た。
帰りの電車では他の4人が気を遣ってわざと僕と七咲だけにしてくれたが……
お互い、何を話していいのか分からず、結局終始無言だった。
松原、華村たちからはすごく残念がられた……。

そして時刻はすでに9時を回っている……

新居
橘「スコー、スカー……ん?」
僕はふと目を覚ました。
橘「ふあ~あ。よく寝たなぁ」
橘「あれ?今何時?」
僕は慌てて時計を見た!
橘「うわあああ!!もう9時じゃないか!!1限に間に合わないよ!!」
橘「どうして起こしてくれなかったんだよ、七咲!!」
僕が文句を言いに七咲の部屋に行くと……
橘「あ……かわいい」
七咲「ん……先輩……好きです……」
橘「あ……」
橘(き、きっと……寝言……だよな?)
七咲が幸せそうな顔で寝言を言いながら眠っている。
七咲「ん……」
橘(ずっと、このまま……七咲の寝顔を見続けていたい……)
橘(いや、ダメだろ!!二人とも1限に遅刻してるんだから!!)
橘(ここは……起こしてあげるのが本当の優しさだよな?よし!!)
七咲「……」
橘(とは言ったものの……やっぱりかわいいから起こしたくない!!)
橘(どうするんだ!?どうすればいい??)
七咲「先……輩……」
橘(く、唇……もう一度、キスを……)
僕は七咲の唇に吸い込まれ、そのままキスをした。
橘(七咲……好きだ……)
七咲「んん……あ……先輩?」
橘「あ、ごめん。起こしちゃった?もう9時だよ」
七咲「え?あ……本当に……」
橘「おはよう」
七咲「おはよう……ございます」
橘「あ……あはは」
七咲「って!ええっ!?1限遅刻じゃないですか!どうして起こしてくれなかったんです?」
橘「ごめん。僕もついさっき起きたばっかりなんだ」
橘「七咲が起こしてくれなかったから文句言いに来たら……」
七咲「私が寝てたと……え??」
橘「ど、どうした??」
七咲「先輩に……見られちゃったんですね……寝顔」
橘「そ、そういうことになるかな」
七咲「おまけにキスまで。私としたことが……。最低」
橘「ええっ!?」
七咲「と、とにかく、早く学校行きますよ!!」
橘「うん!!」

二人とも慌てて支度をし、コンビニで朝食を買ってそれぞれ大学に向かった。

橘しゅうの大学
1限目残り30分
僕は講師にバレないように後ろの席に座った。
ちょうど華村の隣が空いていて助かった。
橘「間に合った」
華村「間に合ってねぇよ。遅刻だよ、お前」
橘「ああ、わかってる」
華村「珍しいじゃねぇか。七咲がいるのに遅刻するなんて。こりゃ明日雨だな」
橘「うん、そうだな」
橘(考えてみれば、いつもしっかり者の七咲が起こしてくれたおかげで、僕は遅刻せずに済んでいた)
橘(いつもはちゃんと朝早く起きる七咲が今日だけ珍しく寝坊するなんてな……)
橘(無理もないか。昨日あんなことがあったわけだし)
橘(相当嬉しかったんだろうな。思わず寝坊しちゃうくらいに)
華村「おい、何ニタニタ笑ってんだよ?」
橘「うん?僕今笑ってた?」
華村「気持ち悪いくらいに」
橘「あ……あははは」


その夜
新居
七咲「……」
橘「……」
七咲「……」
橘「もしかして……まだ怒ってる?寝坊したこと」
七咲「当たり前です」
橘「……だよね。はぁ」
七咲「……」
橘「でもさ、七咲の寝顔……すごく幸せそうだったよ」
橘「見ていてすごく微笑ましかった」
七咲「……」
橘「ついこの前までは寝顔を見るどころか眠れない日が続いていた」
橘「僕が山からの転落事故で記憶喪失になっていたあの時はね」
橘「でも、そこから無事に記憶を取り戻して、婚約までして……」
橘「やっと二人とも肩の荷が下りて……安心して眠れたからじゃないかな?」
七咲「……」
橘「だから、寝坊は別に悪いことじゃないと思う。むしろ良かった」
七咲「そんなこと……言われなくてもわかってます」
七咲「ただ……自分が寝坊したことが悔しくて悔しくて」
橘「仕方ないよ。誰でも必ず一度は失敗はする。人間だからな」
橘「僕なんて今まで何度失敗したことか」
七咲「……仕方ないですね。今日だけですよ」
七咲「その代わり、明日からはちゃんといつも通りの時間に起きますよ」
七咲「先輩もそのつもりで!」
橘「うん。もちろんだ」
七咲「じゃあ、私は夕飯の後片付けをするので……」
橘「いや、今日は僕がやるよ。先風呂入っていいよ」
七咲「いえ、このくらい私が……」
橘「今日くらい代わるって!いいから先に風呂入って」
七咲「……はい。ではお言葉に甘えて」
橘(そうだ。いつも七咲には負担を掛けっぱなしなんだ)
橘(結婚してからもこんな調子じゃ、七咲の身がもたない)
橘(僕が代われることは僕が率先して代わらないと!)

こうして今日一日が終わった。
結婚まであと3年半……
僕は七咲のために出来る限り努力していこうと思う。


ちなみに、この日から約1年半後の話。
記憶喪失になった僕のために尽くしてくれた仲間たちのその後は……
松原正義と華村政治は無事にすべての単位を取得し、進級が決まった。
橘美也はなんとか大学に補欠合格し、実家から通うことになった。
梅原正吉は無事に父親の跡を継いで東寿司を経営することになった。
森島はるか先輩も無事に進級し、就活に励んでいる。

塚原響先輩は大学4年生で、医療実習で忙しい毎日だ。
医学部は6年制なので、まだ卒業ではない。
そんな忙しい毎日の中にもちょっとは変化があったようだ。
塚原「お待たせ」
男性「ひびき、遅いじゃないか」
塚原「あ、ごめん。レポート書いてた。締切り明後日だから」
男性「そっか。じゃ、行くぞ」
塚原「うん」
どうやら塚原先輩にも春が来たようだ。
初恋の相手の話を聞いてから自信を取り戻し、見事に彼氏ができたらしい。
おめでとう、塚原先輩。

そして僕と七咲も学業に励み、問題なく単位を取得していった。
そんなの当たり前だ。
二人で無事に留年することなく卒業しなければ意味がない。
卒業の先に待っている、結婚という名の人生のゴールのためにね!
これからも結婚に向け、僕と七咲は共に歩んでいく。



七咲アフターストーリー
エピローグ「先輩、私とみんなのその後」
END

2010-07-15

第26話(完結)「先輩、私はずっと先輩のそばにいますから」

自宅を目指して雨の中、傘をさしながら全力疾走する七咲……
七咲(やっぱり私は橘先輩を諦める事なんてできない!!)
七咲(例え、傷ついて死ぬことになっても……)
七咲(私は塚原先輩を死ぬまで愛し続けた立花直生君みたいに……)
七咲(最期の最期まで橘しゅう先輩を愛し続けたい!!)
七咲(せっかく手に入れた温もりをもう二度と失いたくない!!)
七咲は俯いていた顔を上げ、笑顔で……
七咲(クスッ。橘先輩、死ぬ時は……一緒ですからね)


新居
橘しゅうの部屋
橘「はぁ。外は雨か。そして塚原先輩に連れて行かれた七咲は帰って来ないし」
橘「でも、もし帰って来たら、まず最初に何て言えばいいんだ?」
橘「別れようって言っちゃったしな」
橘「七咲……どうしてそんなに僕のことが好きなんだ?」
橘「僕とこれ以上関われば傷つくって分かってるはずなのに」
橘「僕は、僕のせいで誰かが傷つくのなんて見たくないんだ」
橘「くそっ。頭痛い。もう9時だし、ちょっと早いけど寝るか」
僕は電気を消して布団に入った。
橘「それにしても……あのお守り、一体どこ行っちゃったんだろうな?」
橘「そしてあの男はどうして僕のことを覚えていたんだ?」
橘「……わからない。あと一歩ですべてを思い出せそうなのに思い出すのが怖い」
橘「僕は……どうして……」
よほど疲れていたのか、僕は布団に入って数分で眠りに就いた。


悪夢(回想)
第20話「先輩、私を忘れたんですか」
橘(ここは……どこだ?見た感じ、山なのか?)
橘(あ……あれは僕と松原と華村?どうしてここに?)

橘(夢)「はぁはぁはぁ……」
松原「もうちょっとで次の休憩所だ。頑張れ」
華村「きっついなぁ、しかし」

橘(夢)「はぁ。どうする?何だか雨足強くなってきてないか?」
松原「確かにな。家出た時は小雨だったのに、本当に山の天気は変わりやすいんだな」
華村「もうちょっと先まで行こうぜ」
橘(夢)「う、うん。ちょっとくらいなら大丈夫か」
松原「よし、出発だ」
橘(登山してるのか。それにしてもひどい雨だな。大丈夫なのか?)



橘(夢)「なぁ、もうやばくないか?この雨、相当強いぞ!」
松原「確かにな。こりゃ山頂までは無理だな」
華村「ええっ。だってまだ20mしか登ってないぜ」
橘(夢)「でも無理だよ、この雨じゃ。視界悪いし」
松原「だな。引き返そうか」
華村「しゃーない」
松原「じゃあ、しゅうちゃん先頭で」
橘(夢)「わかった!」
橘(夢)「……えっ?」
橘(どうしたんだ?何で僕は下りるのを躊躇っているんだ?)
松原「ん?どうした?早く行けよ」
華村「俺らも下りられないじゃないか!」
橘(夢)「わ、わかってるって!」
夢の中の僕は目線を上に送って足場を見ずに発進した。
松原「おーい、大丈夫か?」
華村「おい、バカ!止まれ、そこは崖だぞ!!」
橘(夢)「何も見えない……何も聞こえない!!」
橘(危ない!!落ちるぞ!!引き返せ!!)
夢の中の僕は足場を見ず、彼らの言葉もシャットダウンしていた……

それが命取りとなった!!
ツルッ。
橘(夢)「えっ?何だか身体が軽くなったみたいだ……」
橘(夢)「回転して宙に浮いて……えっ?そんな……」
気づいたら夢の中の僕は崖から足を踏み外していた!!
松原・華村が上の方に見える!!
僕は……どこに行くんだ……どこに行ってしまったんだ!?

松原「しゅうちゃん……しゅうちゃん!!」
華村「あ、あのバカ!!そっちは崖だって言っただろ!!」
松原「しゅうちゃああああああああああん!!!!!!!!」


落下中……
僕はどんどん下に落ちていく……奈落の底へと。
この高さから落ちたらまず助からない。
僕は死ぬのだろうか?
僕はこのまま大切な人を残して死んでしまうのだろうか?
……そんなの嫌だ!!
絶対にその人を幸せにしてみせるって、あの時、その人の両親の前で誓ったじゃないか!
僕はその約束をこんなくだらない事故で破ってしまうのか!?
大切な人を……悲しませてしまっていいのか!?よくない!!
……でも、僕にとって大切な人って誰なんだ?
それに……あの時っていつだったっけ?
いや、今はそんなこと考えている場合じゃない!!とにかく……

僕は……僕は……死にたくない!!生きたい!!
怖い……怖いよ……助けて……七咲!!
……え?僕今、何て思った?誰の名前を呼んだ?
僕は落下中涙を流しながら、自分の胸にそう言い聞かせた。
すると……願いが通じたのか……
僕の懐から安全祈願のお守りが飛び出してきた。
大切な人が今朝持たせてくれた、大事な大事なお守りだ。
僕は咄嗟にお守りを右手で掴み、強く握りしめた!!
その瞬間、お守りが残り3m地点の木の小枝に引っかかって落下が止まった。
と、同時に落下の恐怖から僕の意識も飛んだ……
な……な……さ……き……。


一方、その頃
現実
悪夢にうなされている僕
橘「僕は……僕は……死にたくない!!生きたい!!」
橘「怖い……怖いよ……助けて……七咲!!」
橘「な……な……さ……き……」
七咲「先輩!!」
パシッ。
七咲が僕のベッドに飛び乗り、僕の右手に安全祈願のお守りを握らせ……
僕の右手を両手で包み込むようにして握った!!
七咲「せんぱーい!!」
七咲は僕に必死に呼び掛ける!!


悪夢
一瞬、意識が飛びかけた……
しかし、遠くから僕を呼ぶ声がする……
「先輩!!」
「せんぱーい!!」

夢の中の僕は恐怖から目を強く閉じていたが……
その声に、ふと目を開けると……
何と……安全祈願のお守りが引っ掛かっていた木の小枝が……
誰かの手のように見えた!!
その手は冷たくて、弱々しくて……でも柔らかくて温もりがあった。
え?これは……一体……誰の手なんだ!?
僕を……僕の手を……こんなにも優しく……愛情を込めて握ってくれている。
「先輩っ!」
はっ!?僕がその伸びている手の先を見上げると……
そこにはよく知っている人の顔があった。
橘(夢・現)「七咲?七咲なのか?」
七咲(夢・現)「先輩!先輩!」
そうか。やっぱりこの手は七咲の手だったのか。
七咲逢……僕がこの世界で一番愛している人。僕にとってすごく大切な人。
やっと……思い出せた。そうだよ……キミだよ……七咲。
僕は一生キミを守り、幸せにするってキミの両親の前で誓ったじゃないか!!
こんなくだらない事故で死んでたまるか!?
僕は……七咲のために生きるんだ!!
それが僕の……生きる目的なんだから!!

七咲(夢・現)「先輩、私と一緒に生きましょう!!」
橘(夢・現)「ああ。もちろんだ」
七咲(夢・現)「それじゃあ、早く上がりますよ!!」
橘(夢・現)「ああ。思いっきり引っ張り上げてくれ!!」
七咲(夢・現)「はい。よいしょ……よいしょ……」
現実で七咲が僕の手を全力で引いてこの悪夢から僕を引き上げようと頑張っている。
夢でも七咲が僕の手を全力で引いて暗ーい奈落の底に落ちかかっていた僕を……
明るく安全な場所まで引き上げようと頑張っている。
もう二度とあんな暗ーい奈落の底には落ちたくない。七咲を忘れてたまるか!!


そして、ある程度引き上げられたところで僕は目を覚ました。
すると……

現実
七咲「ん……」
橘(あ……)
気づいたら……僕は七咲とキスをしていた。
七咲は右手で僕の右手を掴んで、左腕を僕の肩に回していた。
七咲「んん……」
橘(七咲……)
僕はしばらくの間、七咲とキスをしていた。
橘「七咲……」
七咲「先輩……」
橘「……」
僕が七咲に何と話しかけたらいいのか分からず、黙っていると……
七咲「すべてを……思い出したんですね?」
橘「……うん」
七咲「よかった。本当に……よかった」
ホッとしたのか七咲は僕から手を離し、そのまま脱力した。
橘「な、七咲!?大丈夫か!?」
今度は僕が七咲を支えた。
七咲「はい。大丈夫です」
その目には……さっきまで必死にこらえていた涙が……溢れていた。
橘「そっか。よかった」
七咲「先輩……」
橘「でもさ、どうして……分かったんだ?」
七咲「ああ、それは……簡単な推理ですよ」
七咲「先輩にはいくつか不自然な点があった……」
七咲「20mの高さから転落したのに、全身軽度の打撲で済んでいること……」
七咲「その原因がどこかに掴まって助かったからだと仮定したら、当然あるはずのものがない」
七咲「そう。手の平にあるはずの過擦り傷です」
橘「……」
七咲「これらの不自然な点はこの安全祈願のお守りですべて説明がつきます」
橘「と言うと?」
七咲「先輩の手の平に過擦り傷がなかったのは当然なんです」
七咲「何故なら、その時先輩が掴んでいたのは木の小枝ではなく……」
七咲「この安全祈願のお守りだったからです!」
橘「お守りを……?」
七咲「さっき私がやって見せたように、先輩は右手でお守りを掴みました」
七咲「そしてそのお守りが偶然木の小枝に引っ掛かって落下を止めました」
橘「なるほど」
橘「でもさ、それが軽傷の原因だったとしても記憶喪失とは一体どういう関係なんだ?」
七咲「直接は関係しません。記憶喪失の原因は他にあるからです」
橘「え?」
七咲「山から転落したことによるショック……そう、高所恐怖症です」
橘「あ!!」
七咲「先輩は確か20mの高さから転落したんですよね?」
橘「うん」
七咲「だったら相当ショックは強かったはず」
七咲「運良くお守りのおかげで助かったとしても高所恐怖症で記憶が飛んだ」
橘「当たり……だな。でも、どうして僕が高所恐怖症だってわかったんだ?」
七咲「さっき塚原先輩からお聞きしました」
七咲「事故発生当時の先輩の様子について松原さんたちがこう言ってたそうです」

回想
第20話「先輩、私を忘れたんですか」
塚原「ねぇ」
松原「はい」
塚原「彼が転落する前、妙な動きしてなかった?」
松原「妙な動き?そうですね……あ!」
松原「そういえば、しゅうちゃん、登りも下りもずっと上を向いてました」
塚原「上を?」
華村「あと、下山の時、俺が『そっちは崖だ!!』って注意したにも関わらず……」
華村「聞こえていなかったみたいで、そのまま崖から転落しました」
塚原「……」

七咲「高所恐怖症の人は怖いから下を見ようとしない」
七咲「怖さから焦って自分の世界に入り込み、周りの声が聞こえなくなる」
七咲「……ですよね、橘先輩?」
橘「す、すごい……全部当たってる!」
七咲「以上が今回の事故と、それによる先輩の軽傷及び記憶喪失の真相です」
橘「……」
僕は驚きの余り、声が出なかった。
七咲「先輩?どうしました?」
橘「あ……ごめん。ちょっと、びっくりしちゃってさ」
七咲「そうですか。クスッ」
橘「あ……えっと……その……七咲」
七咲「はい」
橘「さっきは……ごめんな。助けてくれて……ありがとう」
七咲「さっき……?」
橘「ほら、『別れよう』って言って、七咲を無理やり突き放そうとした……」
七咲「あ……」
橘「でも、あれは本当に七咲のために……」
七咲「もう……いいですよ。気にしてませんから!」
橘「え?」
七咲「現に私はここにいる。それは許したっていう証拠ですよ」
橘「七咲?」
七咲「だって……私は死ぬまで先輩と一緒にいるって決めたので」
橘「……」
七咲「さっきの先輩のおかげでその決心がつきました」
七咲「例え、傷ついて死ぬことになっても……」
七咲「最期の最期まで橘しゅう先輩を愛し続けたい!!」
七咲「こうしてせっかく手に入れた温もりをもう二度と失いたくない!!」
七咲は俯いて涙で濡れたその顔を上げ、笑顔で……
七咲「先輩、私はずっと先輩のそばにいますから!!」
七咲「いつまでも……そばにいますから!!」
橘「七咲……」
橘(あ……七咲の身体、冷えてるじゃないか!)
橘(僕のためにわざわざ傘をさして戻って来てくれたのか!)
橘(何ていう無茶を!!)
橘「ふっ。僕は……つくづくダメな彼氏だな」
七咲「え?」
橘「守るって約束した彼女に迷惑をかけ、逆に守られている」
橘「最低だよ……」
七咲「先輩、そんなこと……」
橘「でもさ」
七咲「はい」
橘「こんなダメな彼氏でもよければ、ずっと一緒にいてほしい」
橘「こんなダメな僕にはやっぱり、しっかり者の彼女が必要みたいだな」
七咲「先輩……」
橘「全く……身体冷えてるじゃないか。無茶ばっかりして」
七咲「いえ、別に寒くないですよ」
七咲「このくらい、水泳で慣れてますし」
橘「よくないよ」
七咲「え?」
橘「ほら、こっちおいで。さっきまで僕が温めていた布団がある」
橘「一緒に入ろう」
七咲「……はい!」
橘「違うって。こうだよ」
七咲「え?」
僕はまず、七咲をベッドの向かって左側に仰向けに寝かせ……
七咲と向きあうようにその隣、ベッドの向かって右側に正座した。
自分の背中に掛け布団をかぶせ、そのままうつ伏せになった。
七咲「先輩?一体何を?」
橘「……」
七咲「え?」
僕は寝ている七咲の肩に手を回し、自分の上体を七咲の上体に乗せ……
橘「好きだよ、逢」
七咲の唇にキスをした。
七咲(先輩……私もです!!)
七咲「ん……」
橘「ん……」
七咲「んん……」
橘「んん……」
僕たちはもはや欲望を抑えきれなくなっていた。
記憶喪失の時にもキスをしたこともあったけど……
あの時の僕は、僕であって僕じゃなかった。
本当の僕は……約一週間ぶりに大好きな人に再会したんだ。
もう二度と……離れたくない。
ずっと、このままでいたい!!
橘(逢……逢……)
七咲(先輩……先輩……)
僕たちはお互いに夢中で気が付かなかったけど……
外は台風の影響で嵐となっていた。
僕たちも外の嵐に負けないくらいに……何度も何度も……
そう、まるで嵐のように……キスを繰り返した。
お互いの存在を証明するかのように……
ただただ、深くて熱いキスを数分間続けた。
橘「もう……寒くないよな?」
七咲「はい。とても……温かいです」
橘「そっか。よかった」
七咲「先輩、ありがとうございました」
橘「いや。感謝するのは僕の方だよ」
橘「逢が、一生僕を愛し続けたいって言ってくれて、本当に嬉しかった」
七咲「先輩」
橘「おかげで、僕もついさっき決心がついたよ」
七咲「決心……?」
橘「逢……聞いてくれるか?僕の……一生のお願いを!」
七咲「はい。喜んで」



一週間後の日曜日
輝日東・七咲家
橘「懐かしいなぁ。去年のゴールデンウィーク以来か」
七咲「私はつい最近帰ったばっかりなのでそんなに懐かしくはないですね」
橘「……」
七咲「どうしたんですか、先輩。早く入りましょう」
橘「その……何て言うか……入るのが怖い」
橘「ご両親にも心配かけたわけだし」
七咲「ああ、それでしたら大丈夫ですよ」
七咲「私の両親なら、事情を話せばわかってくれるはずなので」
橘「そ、そういえば、そうだったな」
七咲「じゃあ、入りましょう」
七咲「ただいま」
橘「お、お邪魔します」
梅原「ようっす!大将!よく来たな!」
橘「う……梅原!?どうしてここにいるんだよ?」
七咲「梅原先輩」
梅原「おお!その様子だと俺のこと思い出してくれたんだな?」
橘「……さあな。お前、誰だっけ?」
梅原「お、おい!!それはねぇよ!!」
橘「人ん家に勝手に入るような奴を僕は友達に持った覚えはないぞ」
七咲「そうですね。通報しましょうか」
梅原「おい、待て待て!!誰のためにここにいると思ってんだ?」
梅原「お前の記憶が戻ったって聞いて、わざわざ先回りして……」
梅原「東寿司から無料でお寿司を届けてやったんじゃねぇか!」
橘「え!?」
七咲「本当ですか!?」
梅原「嘘だと思うならお寿司は持って帰る」
橘「あー!!今やっと思い出したわ!!そういえば、そんな友達が僕にはいたなぁ」
橘「小学校から一緒の梅原正吉君!スポーツが得意で高校時代の所属は剣道部!」
橘「幽霊部員気味の困った一面が!」
橘「高校時代はクラスも一緒で、家も近い!寿司屋の次男坊で僕の親友じゃないか!」
梅原「……驚きの変わり身っぷりだな」
橘「……すまん」
梅原「へへっ、いいってことよ。むしろその食いつきを待ってたぜ」
七咲「ありがとうございます、梅原先輩」
梅原「いいってことよ。さあ、上がって食えよ。みんな待ってるぜ」
橘「みんな?」

七咲家・居間
橘「あ……」
七咲「美也ちゃんに塚原先輩、森島先輩。それに……松原さんや華村さんも!」
美也「にぃに、逢ちゃん、おかえり!!」
塚原「あ、ごめんなさいね。私まで御厄介になって」
森島「私たちも呼んでくれてありがとう」
橘「い、いえ。呼んだのは僕たちじゃないですけど」
七咲「もしかして梅原先輩?」
梅原「そういうこった」
橘「なるほど」
松原「俺、輝日東に来たの初めてだ。何か凄く場違いな気がする……」
華村「お、おい。ウメちゃん。本当にいいのか?」
梅原「七咲のご両親が許可してくれたんだ。素直に喜べよ」
松原「あ、ああ。そういうことなら」
華村「ありがとうございます」
父「今日はゆっくりして行きなさい」
母「皆さんのおかげで橘君の記憶が元に戻ったのだから」
梅原「それじゃ、全員揃ったところで、寿司を食べようぜ!!」
美也「そだね。みゃーお腹空いたよ」
梅原「ほら、大将。挨拶しろよ」
橘「ああ。えっと、皆さん」
橘「今日は僕のためにこのような食事会を開いていただき、本当にありがとうございます」
橘「僕が元に戻れたのは本当に皆さんのおかげなんです」
橘「その感謝の気持ちを込めて……いただきます!!」
皆「いただきます!!」
みんなが笑顔でお寿司を頬張る。
本当にみんな、幸せそうだ。
七咲「塚原先輩、森島先輩、本当にありがとうございました」
塚原「ううん。私は何もしてない。お礼なら、妹さんに言ってくれる?」
七咲「え?美也ちゃんですか?」
森島「そう。すべて美也ちゃんのおかげよ」
塚原「あなたたちが輝日東を去る日の早朝、妹さんが電話をくれてね」
塚原「『このままだとお兄ちゃんも逢ちゃんも、ボロボロになっちゃう』」
塚原「『でも、美也にはどうしようもできないんです』」
塚原「『どうか、美也の代わりに二人を助けてあげてください』」
塚原「……と泣きながらお願いしてきてね……」
森島「ひびきちゃんからその話を聞いて、私も協力しようと思ったの」
橘「美也が……」
七咲「美也ちゃん……」
森島「もう、美也ちゃんったら!な~んていい子なのかしら!大好き!!」
橘「そっか。美也がな……」
七咲「私たちはいい妹といい親友を持ちましたね」
橘「うん!」
松原「親友って、俺のことか?」
橘「まっちゃん!」
松原「おお!初めてそのあだ名で呼んでくれたな!ありがとう」
華村「しゅうちゃん、ありがとうな。おかげで法学の小テストは3人揃って合格だ!!」
橘「ううん。ほんのお礼の気持ちだよ」
橘「法学の小テストのことを教えてくれたお礼に法学の勉強を教えてあげたんだ」
七咲「ええ。ゴリラ先生が怒りますからね」
華村「あああ……」
橘「全く。どうして口が滑ったのかな?」
松原「それはそうと。しゅうちゃんに渡すものがあるんだ」
橘「僕に?」
華村「これ、見覚えあるだろ?」
橘「あ……これは!?」
七咲「先輩が無くしたお守り!?」
橘「どうしてこれを?」
松原「これを見ろよ。事故現場から3mくらい上の木の小枝に引っ掛かっていたんだ」
松原が見せてくれた事故現場の写真には確かに木の小枝に引っ掛かっているお守りが写っていた。
華村「塚原さんに電話で頼まれて二人で取りに行ったんだぜ」
橘「本当ですか?」
塚原「ええ。確かにそうよ」
塚原「七咲が私のアパートから橘君の元に向かった直後、二人にお願いしたの」
塚原「はるかのヒントで七咲も私もピーンと閃いてね」
塚原「橘君の傷の度合いからして落下地点から3mくらいだと踏んで……」
塚原「ちょうど松原君と華村君が肩車をすれば届く高さだと思ってね」
松原「塚原さん、すげぇんだぜ!本当にその通りだった!!」
華村「俺がまっちゃんの上に乗って思いっきり手を伸ばしたら何とか取れた」
松原「ほらよ。こんな大事なもの、もう二度と無くすんじゃねぇぞ」
橘「ありがとう。塚原先輩、松原、華村……ありがとう!!」
七咲「よかったですね、先輩。無くしたお守り、ちゃんと帰って来ましたよ」
橘「このお守り……僕と七咲、二人の絆が僕の生命を救ってくれたんだな……」
橘「ありがとう。大切にする!」
僕はもう二度と失いたくないと思い、お守りを強く握りしめた。
そして自分の懐に大事にしまった。
七咲「先輩、これでやっと証明できましたね」
七咲「お守りは、信じればきっと、その人の役に立ってくれます!」
橘「うん。どんな願いでも信じれば必ず叶うんだな」
梅原「……っと!俺はそろそろ次の配達に戻らないといけないんで、失礼しまっす!」
橘「おい、梅原!もう行っちゃうのか?寂しいなぁ」
梅原「なーに。また逢えるぜ。お互い生きていればな」
塚原(お互い生きていればまた逢える……そうだよね、直生君)
塚原「すみません。私もちょっと急用が。ほら、はるか。あなたもでしょ?」
森島「そ、そうね。……あの!」
母「はい」
森島「私、この子気に入ったので、一緒に遊んで来てもいいですか?」
郁夫「……」
郁夫はいつになく満面の笑み。
母「ええ。どうぞ」
森島「やったね!いこ、郁夫君。お姉ちゃんと一緒に遊ぼうね」
郁夫「……」
郁夫は嬉しそう!!
七咲「もう、郁夫ったら。森島先輩相手だと何であんなに嬉しそうなの?」
七咲はちょっと森島先輩に嫉妬してるようだ。無理もない。
美也「本当だよね!にぃにも森島先輩の前じゃデレデレしちゃって!!」
橘「こら!美也!何てこと言うんだ!?」
美也「あ!お兄ちゃんタンマタンマ!トイレ行って来る~」
橘「あいつ、逃げたな」
松原「えっと、そうだ。俺らもそろそろおいとまを」
華村「じゃ、しゅうちゃん、また逢おうな!」
橘「おい、お前らまで……」
七咲「……」
その場に残ったのは僕と七咲と七咲の両親の4人だ。
もしかして、みんなして僕たちに気を遣ってくれたのか?
僕はとりあえず、七咲のご両親の前で正座した。
七咲も僕の左隣に正座した。
橘「……」
七咲「……」
父「……」
母「……」
橘「この度は……本当に、ご心配おかけしました」
橘「去年のゴールデンウィークに初めてここを訪れ……」
橘「娘さんを幸せにすると誓ったばかりなのに、逆に迷惑をかけてしまい……」
橘「本当に申し訳ございませんでした!!」
橘「でも、彼女はこんな頼りない僕でも一生そばにいてほしいと言ってくれました」
橘「正直言って、僕にはそんな権利、ないと思います」
橘「現にこうして彼女を守るどころか、逆に彼女に守られました」
七咲「……」
父「……」
母「……」
橘「それでも僕は、彼女と一生一緒にいたいです!!」
橘「僕は、心の底から逢のことが好きなんです!!」
七咲「……」
橘「その気持ちは去年のゴールデンウィークの時と全く変わっていません」
橘「……」
橘「彼女を……逢を……僕にください」
橘「今現在、彼女に迷惑をかけた分、一生努力し、必ず彼女を幸せにすると誓います!!」
橘「去年も同じこと言ったのに約束を破って……信用していただけないのも無理はないと思います」
橘「ですが、一生その罪を償っていきたいと思います」
橘「今度こそ、約束を果たせるように頑張ります!!」
橘「なので、どうか!どうかよろしくお願いします」
僕は深々と頭を下げた。
七咲も無言のまま深々と頭を下げた。


回想
橘「逢……聞いてくれるか?僕の……一生のお願いを!」
七咲「はい。喜んで」
橘「……」
七咲「……」
橘「結婚しよう」
七咲「……はい」
橘「本当に?」
七咲「本当に決まってるじゃないですか」
七咲「こんなこと、嘘なんかじゃ言えませんよ」
橘「そっか」
七咲「あ、でも」
橘「ん?」
七咲「今はまだ駄目ですよ。まだお互い学生なので色々不安です」
七咲「大学を出て、立派に就職できたら……その時はよろしくお願いします、先輩」
橘「うん。もちろんだよ。じゃなきゃ何のための学業成就のお守りだ?」
七咲「そうですね。クスッ」

橘「……」
七咲「……」
父「二人とも、頭を上げなさい」
僕と七咲は言われた通りに頭を上げる。
父「橘君」
橘「はい」
父「逢を……よろしく頼んだよ」
橘「え?あ……はい。こちらこそ」
七咲「お父さん?いいの?」
父「いいに決まってるじゃないか。おかしなこと聞くんじゃない」
橘「でも、僕は迷惑を……」
母「橘君、ありがとう。ちゃんと無事に戻って来てくれてありがとう」
母「確かに逢を始め、みんなに迷惑をかけたことは事実」
母「それは一生許されることじゃない」
母「だけどね、あなたはこうして無事な姿をみんなに見せてくれた」
母「ちゃんと、生きていてくれた」
橘「……」
母「生きてさえいれば、いくらだって罪を償うことはできる!」
母「例え何年かかっても、何回失敗してもいずれ必ず逢を幸せにすることはできる」
母「橘君、あなたになら必ずできると信じているわ」
橘「……」
母「私はあなたが逢に迷惑をかけたことなんて全然気にしてない」
母「あなたが無事だったことが何よりも嬉しい」
橘「……」
僕は七咲のお母さんの言葉に一瞬うるっときたが、何とか涙をこらえた。
父「それにな、君を助けようとあんなに必死だった逢の顔を見たら……」
父「逢がどれほど君のことを愛していたかがわかったよ」
父「最初から二人のことは認めていた。というよりも最初から反対はしていなかった」
橘「え?どういうことです?」
母「去年のゴールデンウィーク……橘君と初めて逢った時から……」
母「逢のお婿さんは橘君しかいないなって思ってた」
橘「え……」
僕は何と返事をしたらいいのか分からず、一瞬戸惑った。
七咲「お母さん……ありがとう」
母「いいのよ、逢」
橘「ありがとうございます。僕、一生逢を幸せにします!!約束します!!」
梅原「せいの!!」
皆「婚約おめでとう!!」
橘「み、みんな……聞いてたのか!?」
塚原「ええ……、悪いとは思ったんだけど聞いてたの……ごめんね」
森島「オーキードーキー!!」
パーン!!
橘「うわああ……びっくりした!!クラッカーを耳元で鳴らさないでくださいよ」
橘「心臓止まるかと思った」
美也「そしてまた記憶喪失に逆戻りなのだ~にししし」
七咲「美也ちゃん!!変な冗談はよして」
松原「はいはい。冗談はそのくらいにして。ほら、ケーキの差し入れだ」
華村「俺とまっちゃんで注文したんだ」
松原「二人は知ってるだろ?大学の近くにある銘菓専門店のケーキだ」
華村「ついさっき届いたばっかりだ」
橘「あれ?でも呼び鈴鳴らなかったぞ?」
松原「当たり前だ。外に出て待ち伏せしてたからな」
華村「せっかくの大事なプロポーズだってのに、呼び鈴に邪魔されちゃかわいそうだしな」
橘「……」
七咲「……」
梅原「二人とも赤くなってらー!!さあさ、さっさと食べようぜ」
橘「ふっ」
七咲「クスッ」

こうして僕と七咲は七咲のご両親、それに周りのみんなに認められて晴れて婚約した。
と言ってもあと3年半も待たないといけない。長いなぁ……。
だけど、僕と七咲なら3年半なんて期間、あっという間な気がする。
どれだけ待とうと関係ない。その先に確かな幸せがあるならば。
僕は3年半後まで、そしてそれから先もずっと……
逢を守り幸せにすると誓おう!!今度こそは絶対だからな。

だから、これからもよろしくな。僕の愛しの逢。
僕の未来の妻であり、一生のパートナーでもある七咲逢。




           七咲逢スキエピローグBEST
アフターストーリー「私はずっと先輩のそばにいますから」
               完

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