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2011-12-09

エピソード特別編「oneday two love stories and after・・・:イケメンたちのその後」

橘家にて

犬好にフラれた美也は……

美也「はぁ」
橘「美也、どうしたんだ?顔色悪いぞ?」
橘(犬好が美也に言ってくれたはずなんだがな。おかしいな)
美也「にぃにか……はぁ」
橘(何か昨日よりも顔色悪そうだ)
橘「美也、七咲と一緒に余計なことして悪かったな」
美也「……ううん。みゃーこそ悪かったよ、にぃに」
橘「……」
美也「みゃー、フラれちゃった」
橘「フラれた?」
美也「ハンカチに興味があっただけなんだって。なのにみゃー、勘違いしちゃって。バカだよ」
橘「美也……」
美也「僕を殴ってくれって言われたけど、殴れなかった」
美也「だって、殴ったら絢辻さんがかわいそうだから」
橘「えっ?」
美也「他の女子生徒が好きな相手を殴れるわけないじゃん。ましてや相手は先輩だし」
橘「その人、絢辻さんが好きなのか?」
美也「絢辻さんと仲良さそうにしてた。間違いないよ」
橘「……」
美也「にぃに……みゃーは、みゃーは……うっ」
橘「美也……」
美也「うっ……うっ」
橘「ごめんな、美也。僕には女心は分からない。こういう時、七咲とか中多さんがいてくれたらって思う」
橘「でも、こんな僕にでも分かることはある」
美也「にぃに?」
橘「美也、泣いていいよ。思いっきり泣くんだ」
美也「にぃに……」
橘「恋には涙は付き物だと思う。辛い時には思いっきり泣いて、乗り越えていくんだ」
美也「にぃに……」
橘「……」

一晩、僕は美也に付き添った。
泣いている美也を見て、以前の七咲を思い出していた。
泣きながらプールに落ちていった七咲を、僕もプールに飛び込んで受け止めたあの日を思い出していた。
女心なんて分からないさ。
でも、失恋で泣いている美也を見て、改めて美也も恋する乙女なんだなということを実感した。


それから数日後

美也「にぃに、まんま肉まん3個買って!」
橘「何でだよ?」
美也「みゃーはまんま肉まんにしか興味ないのだー!にししし」
橘(以前の美也に戻った……)

一時は犬好を奪った絢辻さんに勝つために「打倒絢辻」というスローガンを掲げて……
勉強やらダイエットやらを頑張っていた美也。
しかし、それも三日坊主に終わり、以前の美也に戻ってしまった。

美也「みゃーからまんま肉まんを取ったら何が残るの!?」
橘「美也、“打倒絢辻”はどうしたんだよ?」
美也「何が?」
橘「これだよ……」

僕は美也の心の切り替えの早さに呆れた。

橘「美也。そんなんだからこの前フラれたんだぞ?」
美也「む!」
橘「いつまでもそんなお子様体型のままじゃお兄ちゃん悲しいぞ」
美也「にぃに~」
橘「少しは絢辻さんみたくなぁ……うげええええええええええええええええええ」

美也に顔をひっかかれた!

美也「にぃにのバカアアアアアアアアアアアアアアアアア」


一方、その頃……

犬好「3ヶ月間、お世話になりました!」
担任「健康に気を付けてな」
犬好「はい!失礼しました!」

夏休みが間近に迫った頃、犬好は転校の準備を始めていた。
アメリカから両親が帰って来るので、また向こうの高校に転校するそうだ。

犬好「さてと……」
橘「転校するんだってな」
犬好「うわ、いたのか」
橘「3年A組の教室じゃ、絢辻さんがいて僕と逢いにくいと思ってさ」
犬好「彼女は?」
橘「声かけるの面倒だったし、美也に悪いから……」
犬好「そっか」
橘「絢辻さんはどうするんだ?」
犬好「うーん……どうしようかな?しばらく離れ離れになる」
橘「逢いたくならないか?」
犬好「なるかもな。どうすればいいんだろう?」
橘「ま、僕が口出しする問題じゃないな。二人で話し合って決めてくれ」
犬好「そうするよ」
橘「じゃあ……」
七咲「さようなら」
橘「うわ、いたのか」
犬好「それ僕の台詞!」
七咲「抜け駆けは許しませんよ」
橘「何だ、来たなら良かった」
犬好「二人には迷惑をかけた。色々ありがとうな」
橘「こちらこそ、楽しかったよ」
七咲「お体にお気をつけて」
犬好「じゃあね!」

犬好は去って行った。

橘「行っちゃったな」
七咲「先輩よりも断然イケメンでした。私は犬好先輩の方が好きですよ」
橘「まだ根に持ってたのか!」
七咲「クスッ」
橘「にしても、美男美女か。この先もずっと結ばれるといいな」

犬好は帰宅した。
すると、玄関にいたのは……

犬好「絢辻さん!」
絢辻「遅い!何してたの?」
犬好「何って、ずっと学校に……」
絢辻「私が待ってるんだから、さっさと帰宅しなさい!」
犬好「いえ、お言葉ですが、知りませんでした」
絢辻「普通分かるでしょ?あなたどれだけ鈍感なの?」
犬好「すみませんでした!!」
絢辻「もういい……べ、別にあなたのために待ってたわけじゃないんだからね」
犬好「絢辻さん?」
絢辻「今日はあなたを叱るために待ってたの」
犬好「ええっ?」
絢辻「だって、転校しちゃったら、しばらく逢えなくなるじゃない」
犬好「う、うん」
絢辻「わ、わざわざ叱りに来てあげたんだから、感謝しなさい!」
犬好「ありがとうございます!」
絢辻「もう……ばか」
犬好「ごめん……」
絢辻「……ねぇ、早くして」
犬好「えっ?」
絢辻「涙が出る前に、私の唇を奪って!お願い!」
犬好「う、うん!」

犬好は躊躇わずに絢辻さんの唇を奪った。

犬好(絢辻さん……)
絢辻「ん……」
犬好(大好きだ!)
絢辻「んん……」

転校したらしばらく逢えなくなる。
もしかしたらこれが最後のキスになるかもしれない。
そんなのは嫌だ!
そう思った犬好は絢辻さんを強く抱きしめた!

犬好(絢辻さんは僕の彼女だ!)
絢辻「んんん……」
犬好(今まで僕に近寄って来た女の子はたくさんいたけど……)
絢辻「んんん……」
犬好(絢辻さんは全然違う!!人一倍輝いて、僕の心を釘付けにした!!)
絢辻「んんん……」
犬好(ん?しょっぱいぞ……あ!絢辻さん、泣いてる!そうか、これは絢辻さんの涙の味)

犬好の強い抱擁に、絢辻さんはしばし放心状態になっていた。

犬好(絢辻さんの体からだんだん力が抜けていくような……)

キスを終えて、犬好は放心状態になった絢辻さんをしっかり抱擁して支えた。

絢辻「ん……犬好」
犬好「……詞」
絢辻「ちょ、ちょっと、あなたどこ触ってるのよ!変態!」

パーーーーン!

放心状態から脱した絢辻さんは思わず犬好をビンタした。

犬好「ぐお……た、たまらん。この痛み、たまらん」
犬好(叩かれてるのに嬉しい!いつもの快感!)
絢辻「もう、私ったら、何で泣いてるのよ」

絢辻さんはポケットからハンカチを取り出そうとして……

絢辻「あった、ハンカ……何これ?違うじゃない!」

ポイッ。

犬好「絢辻さん、ゴミのポイ捨ては良くないと思……」

絢辻さんがポイ捨てしたゴミを拾おうとした犬好。

犬好「あれ?これ何か書いてある」

そのゴミと思われる紙には住所らしきものが!

犬好「絢辻さんの住所?」
絢辻「命令。一日一通必ずそこに手紙をよこすこと。いいわね?返事は?」
犬好「ワン!」
絢辻「“はい!”でしょ?ふざけてるの?」
犬好「いや、癖でつい……」
絢辻「口答えしない!」
犬好「はい!必ず命令は守ります!」
絢辻「よろしい!」
絢辻「じゃ、体に気をつけなさい」

去って行こうとする絢辻さん。

犬好「待って!」
絢辻「何?」
犬好「お願い!さっきのもう一度やって!」
絢辻「さっきの?ああ」

絢辻さんが戻って来る。
目を瞑って待機する犬好。

絢辻「これのことね?」

パーーーーン!

犬好「ぐお!そ、そうじゃなくって……」
犬好(キスして欲しかったのに……)
絢辻「あははは。何その面白い顔」
犬好「ひどいよぉ」

笑いながら去って行く絢辻さん。
それを黙って見つめる犬好。
最後にキスはしてもらえなかったけど、これが絢辻さんらしさだと心底安心した。
犬好は確信した。
転校しても絢辻さんとの文通があればきっと大丈夫だと。
例え離れていても犬好と絢辻さんは必ずどこかで繋がっている。
絶対に寂しくなんかないんだと。

二人とも……
いつまでも、いつまでも、お幸せに。




七咲アフターストーリー
エピソード特別編「oneday two love stories」

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2011-12-09

エピソード特別編「oneday two love stories 3rd:美也とイケメンと絢辻、恋のゆくえ」

昼休み

七咲が独りで校舎裏でお弁当を食べているところに僕が行った。

橘「今日は弁当持って来た」
七咲「……」
橘「まだ怒ってるのか?」
七咲「……」
橘「あれは仕方なかったんだって!!現場を見られた以上、ああでも言わないと信じてもらえないだろ」
七咲「あの人、すでに見抜いていると思います。だから正直に言ってもよかったはずですが?」
橘「う……」
七咲「……」
橘「それはそうかもしれないけど、あの人に言ったことは紛れもない嘘だからな。それは信じてほしい」
橘「確かに、失礼な言い方かもしれないけど、絢辻さんの方が美人だって思っていることは本当だ」
橘「でも、そんなことはどうでもいいんだ!」
橘「絢辻さんが美人だろうがなかろうが、僕は七咲の方が好きだ」
橘「じゃなきゃこうして一緒に弁当を食べようなんて思わないよ」
七咲「……それで、美也ちゃんのことはどうなりましたか?」
橘(スルーした……いや、安心してる?)
橘「中多さんによると……」

中多さんから聞いた情報を七咲に話した。

七咲「なるほど。イケメンにハンカチを拾われて、かわいいって言われたんですね」
七咲「それであの美也ちゃんが一目惚れ」
橘「な?ありえないだろ?」
七咲「先輩。美也ちゃんだって恋する乙女なんですよ。ありえないなんて決め付けはよくないです」
橘「誰かさんもそうだったしな……」
七咲「何か言いましたか?」
橘「これあげる」

七咲のために作っただし巻き卵を七咲の弁当箱にさり気なく移した。

七咲「……おいしいです」
橘「僕の自信作だ」
七咲「クスッ。ごまかしても無駄です」
七咲「あ、そういえば昨日の犬好先輩って、結局要件は何だったんです?」
橘「そっか。七咲は途中でフェードアウトしたもんな」

七咲に犬好のことを、昨日の彼の話と今日の梅原とマサとケンの情報を合わせて話した。

七咲「彼、絢辻先輩が好きなんですね……」
橘「転校早々、しかもたったの3ヶ月で絢辻さんを落とすのは至難の業だぞ」
七咲「落とす?好きな相手を傷付けるんですか?」
橘「違う!そういう意味じゃなくて、恋に落とすんだ。つまり自分のことを愛させる」
七咲「よく分からないです」
橘「まあ、そのうちきっと分かるさ」
七咲「……美也ちゃんが好きなイケメンが誰か気になりますが、犬好先輩と絢辻先輩のことも気になります」
橘「そうだよなぁ」

僕も七咲も弁当を食べ終わった頃……

??「しゃべってないよね?」
??「う、うん」

橘「誰か来る!隠れよう!」
七咲「どうして隠れるんですか?」
橘「いいから!」

七咲と一緒に陰に隠れた。
そこに現れたのは……

美也「はぁ。どうしよう」
中多「美也ちゃん……」

橘「美也?」
七咲「中多さんも」

美也「紗江ちゃん。聞いて来てくれない?」
中多「えっ?何を?」
美也「だーから!あの人に……わ……す……」
中多「美也ちゃん?」
美也「……」

橘「美也が口ごもってる」
七咲「顔が赤いです」

中多「美也ちゃん、聞こえない」
美也「だーから!みゃー……じゃなくて、私を好きかって」
中多「好き?」
美也「この前のあの人に!」
中多「聞くの?」
美也「うん……」

橘「中多さんに聞かせるのか?そういうのは自分で聞くべきだと思うが」
七咲「聞けないから困るんです!乙女心は繊細なんですよ」
橘「そうかな?」

中多「美也ちゃん、それはできないよ……」
美也「お願い!」
中多「わ、私も、その……」
美也「その?」
中多「き、緊張するから……」
美也「……紗江ちゃん人見知りだったね。ごめん」
中多「ううん」
美也「困ったなぁ。どうしよう。逢ちゃんはこのこと知らないし、話したくないし」

橘「だってよ?ここで変化球だ」
七咲「でもやはり、これは美也ちゃんの問題です。私が首を突っ込むわけには……」
橘「もうすでに突っ込んでるけどな」

中多「先輩は?」
美也「お兄ちゃん?無理!」

橘「即答かよ!」
七咲「クスッ」

中多「兄弟、でしょ?」
美也「でもお兄ちゃんなんかに話しても役に立なそうだから」

橘「失礼な」
七咲「私よりもひどい言われようですね」

中多「そうかな?美也ちゃんが羨ましい」
美也「羨ましい?みゃーが?」
中多「兄弟がいるから何でも相談できるね。私は一人っ子だから……」
美也「全然良くないよ!エッチでスケベで変態で……」

橘「全部同義語だろ!」
七咲「クスッ。あはは」
橘「ええい、このままじゃ埒が明かない!行くぞ」
七咲「あ、ちょ、先輩」

僕は七咲の手を引っ張って美也たちの前に出た。

橘「変態で役に立たないお兄ちゃんで悪かったな!」
美也「お兄ちゃん……逢ちゃん」
中多「あ……」
美也「い、いつからそこにいたの!?」
橘「美也たちが来る前から。元々ここで七咲と弁当を食べていたら話し声が聞こえたんだ」
美也「全部、聞いてたの?」
七咲「ごめんね、美也ちゃん」
美也「……」
橘「美也。どうして僕に相談してくれなかったんだ?」
橘「中多さんはいい友達だけど、中多さんにだってできないことくらいあるぞ」
橘「男の僕に女心が分からないからっていう理由なら他に七咲だっているし」
橘「独りで悩んでないで、困った時はいつでも相談してほしい。それが友達であり、兄弟だからな」
七咲「私じゃ力になれないかもしれないけど、協力はするよ」
美也「……」
橘「美也」
七咲「美也ちゃん」
美也「う、うるさい!」
橘「美也!」
美也「いいよねぇ二人は。そんなにラブラブでさ」
七咲「……」
美也「まるで美也のことをかわいそうな目で見て。自分たちは勝ち誇っている」
橘「そんなこと……」
美也「お兄ちゃんにも逢ちゃんにも関係ないでしょ?黙っててよ!!」
七咲「……」
美也「だいたい盗聴なんて趣味悪い。もう、二人ともだいっきらい!!」

美也は怒って去って行った。

中多「美也ちゃん、待って!」

中多さんが美也の後を追いかけた。

七咲「……」
橘「……ごめん。僕が余計なことしたから」
七咲「先輩……」

泣きそうな七咲を抱いた。

橘「美也にああ言われたけどさ」
七咲「はい」
橘「一度首を突っ込んだことだ。このまま続けよう」
七咲「いいんですか?」
橘「うん。美也を幸せにしてあげたい」
七咲「私もです」
橘「もし何かあったら、僕が責任をとる。美也に責められようが何しようが、めげるなよ」
七咲「はい!」
橘「それから、七咲の役割はこれで終わった」
七咲「役割?」
橘「うん。中多さんを守るって役割」
七咲「あ……そうですね」
橘「こうして美也には僕らが盗聴した結果、美也の恋事情を知ったと思わせることができた」
七咲「実は最初に中多さんから聞いてすでに知っていた、という事実を隠すことができたんですね」
橘「そう。これで中多さんが美也から責められることはない。中多さんを守る必要がなくなった」
七咲「でも、まだ私の役割は残ってますよ」
橘「そうだっけ?」
七咲「美也ちゃんの監視です。美也ちゃんの好きな相手を突き止めない限りは打つ手がありません」
橘「そうだったな」

七咲を離した。

橘「引き続き頼むよ。僕も探ってみるから」
七咲「了解です」

こうして、本格的に美也の好きな相手を突き止めることになった。

その一方で……

放課後、3年A組の教室にて……
ものすごい形相で犬好のネクタイをギューギュー引っ張りながら犬好に迫っている絢辻さんがいた。
犬好は絢辻さんに拷問されていること、絢辻さんの胸が自分の胸に当たっていることに喜びを覚えていた。

実は、廊下に落ちていた黒革の手帳を拾って誰の手帳かを調べるために手帳をペラペラめくっていた犬好。
そこに絢辻さんが通りかかり、黒革の手帳が絢辻さんのものだと発覚する。
黒革の手帳の中を見られたと焦った絢辻さんは、犬好を3年A組の教室に引き入れ、拷問している。

そう。
僕と七咲が美也の恋愛で苦戦している最中、犬好は次々と絢辻さん攻略のフラグを立てていったのだ。


その日からしばらくの間、美也の恋愛は平行線を辿っていった。
美也の好きな相手がなかなか現れなくなった。


数日後、休み時間

犬好「それでね、おかしいんだ」
絢辻「ふふっ、そうね」

犬好と絢辻さんが屋上で仲良さそうに話している。
犬好の、絢辻さん攻略丸n日目。
絢辻さんはすでに犬好に少しだけ好意を抱いている。

中多「美也ちゃん、元気出して」
美也「う~~~。だって、あの人に逢えないんだもん」
中多「き、きっと、逢えるから……あ!」
美也「そうかなぁ?……あれ!?」

美也と中多さんが屋上にやって来た。
そこで見たものは!

美也「いた!」
中多「うん」
美也「で、でも、どうやって話しかければ。それにお兄ちゃんのクラスの絢辻さんが一緒だよ」
中多「どういうこと?クラス違うのに」

その時、犬好が絢辻さんを抱いた!
美也たちの側から見ると、絢辻さんが犬好の体に隠れて見えなくなった。

美也「何、して……」
中多「……」

犬好が絢辻さんを離した。

美也「あれ?絢辻さん、鼻血出てる。何があったの?」
中多「……」

絢辻「この唐変木!」
犬好「痛い!」
犬好(でも、この痛さがたまらなく、いい!!)

絢辻さんは美也と中多さんの横を抜けて、屋上から出て行った。

犬好「ああ……」

犬好はしばらく放心状態だった……。
絢辻さんを抱いた心地と絢辻さんにぶたれた痛みがまだ体に残っていて……
絢辻さんのかわいい鼻から出ていた鼻血がまだ目に焼き付いていた。
三割増しイケメンと言えど、こんな快感を味わったのは実は初めてであった。

犬好「絢辻さん……あなたが、僕の、新しい飼い主だ!ワンワン」

美也「……えっ?」
中多「何、言ってるの?」

犬好「……おっと、こうしちゃいられない!早く教室に戻らないと」

ここで再び、犬好と美也・中多さんがすれ違う。

美也「あ、あの!」
犬好「ん?……キミは」
美也「えっと、その」
中多「み、美也ちゃん、ハンカチ」
犬好「ハンカチ?」
美也「あ、そうだった」

美也はダッ君ハンカチを取り出した。

美也「この前はありがとうございました!」
犬好「ああ!キミはこの前のハンカチの子か!大したことはしてないのに」
美也「で、でも、か、かわいいって」
犬好「ああ、そのダックスフンド、僕が前飼ってた犬に似てるんだ。かわいかったんだ」
美也「えっ?」
犬好「それより、早くしないと次の授業に遅れるよ。じゃあね」
美也「あ、あ……」
中多「美也ちゃん……」

犬好は足早に去って行った。

美也「……ダッ君が、かわいい」
中多「美也ちゃん……」
美也「みゃーじゃなかった」
中多「……」
美也「それにさっき絢辻さんと……」
中多「じゅ、授業始まるよ」
美也「……保健室行って来る」
中多「えっ?」
美也「みゃー、何か具合悪い」
中多「美也ちゃん」

七咲(やっぱりそういうことだったんだ……)


次の休み時間

七咲「先輩の推理通りでした」
橘「やっぱりか。そしてまさかの犬好」
七咲「美也ちゃんの好きな相手がイケメンって聞いてずっとひっかかっていました」
橘「犬好は絢辻さんが好きだ。美也たちの前で絢辻さんとイチャイチャしていたとなると……」
七咲「そこからの形勢逆転は容易ではありませんね」
橘「くっそ!何でもっと早く気付かなかった!?僕が犬好に絢辻さんのことを話したばっかりに」
七咲「先輩は間違ったことはしていません!それに、先輩は犬好先輩にとって恩人となったわけです」
橘「七咲」
七咲「確かに美也ちゃんは残念な結果となりましたが、犬好先輩は本当に好きな相手と仲良くなれました」
七咲「美也ちゃんにとってはかわいそうですが、私は犬好先輩と絢辻先輩の幸せを壊したくありません」
橘「同感だ。例え美也のためとは言え、人様の不幸なんて願いたくない!」
七咲「でも、美也ちゃん、フラれたショックで保健室から出て来ません」
橘「どうしたものかなぁ」
七咲「……」
橘「そうだ!僕ちょっと犬好と話して来る!」
七咲「えっ?先輩」

昼休み

3年B組の教室前

橘「どうして付いて来た!?僕一人で十分だよ」
七咲「先輩が余計なことを喋らないか監視するんです!」
橘「今度は僕を監視するのか。まあいいや。行こう」

七咲と3年B組の教室に乗り込んだ。

女子生徒「犬好君。今日は一人?一緒にご飯食べよう?」
女子生徒「犬好君。私、お弁当作って来たの。一緒に食べない?」
犬好「そうだなぁ……ん?」

犬好がこちらに気付いた。

犬好「ごめん!今日は先約があったの忘れてた。本当にごめんな!」
女子生徒「え~!?」
犬好「また後日、一緒に食べよう」
女子生徒「う、うん……」

犬好は女子生徒を振り切って僕と七咲の前に来た。

橘「犬好。遅いと思ったらクラスの女子とイチャイチャしてたのか~」
犬好「橘。ごめんな!つい約束すっぽかすとこだった」
七咲「あの、犬好先輩!今日は私と食べる約束じゃ?」
犬好「ああ、ごめん!!また今度」
七咲「ひどいですよ~犬好せんぱ~い!」
橘「犬好。また女か。この子ほっといて行こうぜ」
犬好「あ、ああ。キミ、ごめんな!!また今度だ」
七咲「……」

廊下に出てしばらく歩いたところで……

犬好「で、何か用かい?」
橘「ちょっとな」

犬好と校舎裏に行った。

七咲は先回りしてすでに校舎裏にいた。

橘「んで、どうしてさっきはクラスの女子に“先約があった”って嘘を吐いたんだ?」
犬好「嘘?」
七咲「さっき先輩のクラスの女子が先輩に“今日は一人?”って聞いてましたよね」
七咲「それって、いつもは誰かが一緒ということです」
橘「おそらくその誰かは絢辻さんだが、彼女は今日クラス委員の仕事で昼休みも忙しそうだった」
橘「それにさっき教室に入って来た僕らを見て咄嗟に“先約があった”って言ってた」
橘「僕らは突然誘いに行ったから先約なんてなかった」
七咲「何で私たちが犬好先輩に用があって来たと分かったんですか?」
橘「たった一回しか逢ったことのない僕らを見て、どうして分かったんだ?」
犬好「……はは、さすがだな」
犬好「キミたちはさっきの僕のその一言を聞いただけでそこまで疑問を抱き、僕の芝居に付き合ってくれた」
犬好「さすがだよ」
犬好「……分かるさ。動物的勘ってやつ?キミたちがただならぬ顔をして僕を見ていた」
犬好「これは何かあるなと思って周りの女子生徒をどうにか振り切った」
犬好「で、僕に何の用だい?」
七咲「犬好先輩、最近女子生徒のハンカチを拾いませんでしたか?」
犬好「女子生徒のハンカチ?ああ、ダックスフンドのハンカチなら拾ったよ」
犬好「僕が以前飼ってた犬によく似ててかわいいなと思った」
橘「そのハンカチの持ち主、実は僕の妹なんだ」
犬好「……ええっ?あの子、キミの妹だったのか!……にしてはちょっとお子様体型でキミに似てなかったけど」
橘「そうなんだよ。あんなお子様体型だから誰にもモテ、いてててて……」
七咲「彼女は橘美也と言って、私のクラスメートなんです」
七咲「犬好先輩、美也ちゃんのハンカチを拾って渡した際に“かわいいね”って言いませんでした?」
犬好「うん。ハンカチのダックスフンドがかわいくてつい本音が出てしまったんだ」
七咲「やっぱり」
犬好「それがどうしたんだ?」
橘「紛らわしいこと言ってくれたなぁ」
犬好「紛らわしい?」
橘「美也の奴、“かわいい”って言われて、勘違いして、あんたに一目惚れしてしまったんだよ!」
犬好「な、なんだって!?僕に??」
橘「そうだよ。あんな“まんま肉まん”にしか興味がない妹でも、恋する時は恋するんだよ」
七咲「美也ちゃん、あれ以来恋わずらいで……見ていてかわいそうなんです」
犬好「それは悪い事したなぁ」
橘「僕らじゃ何を言っても美也は受け付けない。だから、お手数だけど、美也に直接言ってくれないか?」
七咲「先輩が絢辻先輩のことが好きだというのは知っています。それを邪魔する気はまったくありません」
橘「美也に本当のことを話すだけでいいんだ。それで美也が立ち直ってくれればいい」
七咲「お願いします!」
犬好「……」
橘「……」
七咲「……」
犬好「分かった。元々僕が曖昧な言い方をしたのが悪い。けじめをつけて来る!」

そう言って立ち去ろうとした犬好は一旦止まってこちらを振り返った。

犬好「それにしても、キミたち、いいカップルじゃないか」
橘「はっ?」
七咲「えっ?」
犬好「ごまかしても無駄さ。言ったろ?動物的勘って」
犬好「キミたちを最初に見た時からすでに見抜いてたよ」
犬好「それでも僕にバレまいとして彼女のことをわざと蔑んでいたキミを見て楽しませてもらった」
橘「お、おう」
犬好「仲が良かったからあんなことができたのさ。たまたま相席していただけの赤の他人にはできないさ」
犬好「絢辻さんのことはありがとう。僕もキミたちみたく、絢辻さんといいカップルになれるように頑張るよ」
犬好「じゃあね!」

犬好は去って行った。

橘「行っちゃったな」
七咲「……」
橘「七咲?」
七咲「まだ怒ってますからね」
橘「えー」
七咲「冗談ですよ、クスッ」
橘「はぁ」


その後

美也「あ、あの」
犬好「橘さんだよね?」
美也「え、は、はい」
犬好「この前のハンカチ、かわいかったよ」
美也「はい」
犬好「前も言ったけど、僕が飼ってた犬に似てたから、思わず本音で“かわいいね”って言ってしまったんだ」
犬好「もちろんキミもかわいいと思う。でもあの時の僕はハンカチに対して“かわいいね”って言った」
犬好「曖昧な言い方をしてごめんね」
美也「い、いえ」
犬好「実は僕、他に好きな人がいて、キミとはお付き合いできないんだ」
美也「えっ?」
犬好「なのに、僕の曖昧な一言のせいでキミがずっと苦しんでいたって聞いた」
犬好「本当に悪かったと思う。キミには悪いことをした!ごめん!!」

犬好が美也に頭を下げた。

犬好「僕って最低な男だろう。殴りたいと思うだろう。遠慮はいらない!僕を殴ってくれ!!」
美也「え、ちょ!」

犬好は美也に頭を下げたままだ。

美也「知ってました」
犬好「えっ?」
美也「私、屋上で見ちゃった。先輩が絢辻先輩と仲良くしているのを」
犬好「うん」
美也「と、とても似合ってました。ど、どうか幸せになって下さい!!」

美也は走り去った。

犬好「……これで良かったのだろうか?」
絢辻「犬好君?」
犬好「絢辻さん」
絢辻「こんなところで何してるの?ちょっと手伝ってくれない?」
犬好「はい、ご主人様!」
絢辻「その言い方やめて!」
犬好「はい、ご主……グボッ!」

犬好は絢辻さんのパンチを腹に食らった!

こうして美也の恋は儚く散った。
一方で、犬好は美也に対して多少の罪悪感を感じながらも絢辻さんとの愛を深めていった。



and after・・・へ続く

2011-12-09

エピソード特別編「oneday two love stories 2nd:犬好きのイケメン」

次の日の昼休み

橘「お待たせ」
七咲「あ、先輩はB定食ですか」
橘「七咲はA定食なんだな」

今日は珍しくテラスで食べた。

七咲「A定食のカレーライスか、B定食のパスタで迷いました。パスタも食べたかったのですが……」
橘「あ、実は僕もカレーライスが……。よかったら少し交換する?」
七咲「はい」

七咲が少し遠慮してパスタを持っていった。

橘「それだけか?もっと食べていいよ」
七咲「いえ、それでは先輩の分が」
橘「交換だから、もっといいよ」
七咲「ありがとうございます」

今度は僕が少し遠慮してカレーライスを持っていった。

七咲「先輩こそ、もっと食べて下さい」
橘「いや、部活やってない僕はこのくらいがちょうどいいんだ」
七咲「……」

七咲がカレーライスをスプーンいっぱいにすくって……

七咲「先輩。あーん」
橘「あーん……もぐもぐ。おいしい!……って、遠慮したのに」
七咲「プレゼントです。受け取って下さい」
橘「ありがとう」

お互いランチを食べ進めたところで七咲が周りを確認し……

七咲「早速本題に入りましょう」
橘「ああ、そっか。報告しなきゃな」
七咲「で、誰なんです?」
橘「うん。中多さんによると……」
男子生徒「ちょっといいかな?」
七咲「えっ??」
橘「ん?」

見知らぬ男子生徒、それもイケメンがいきなり話しかけてきた。

男子生徒「キミ、絢辻さんと同じクラスの人だよね?」
橘「えっ??」
七咲「知り合いですか?」
橘「いや、まったく」
男子生徒「ああ、ごめん。こういう時はまず自分から名乗るってもんだよね」
男子生徒「僕はこの春3年B組に転校してきた、犬好忠生(いぬよしただお)です。よろしく」
橘「転校生なんだ……」
七咲「転校生?じゃあもしかして噂の??」
犬好「噂?何のことだい?」
七咲「私たちのクラスで上の学年にイケメンの転校生が来たって噂になっているんです」
七咲「あ、私は2年B組の七咲逢です」
橘「僕は3年A組の橘しゅうです」
犬好「イ、イケメン??やだなぁ。僕はイケメンなんかじゃ……」
橘(く、悔しいけど、僕よりはいい顔してると思うぞ)
犬好「ところでつかぬ事をお聞きしますが……」
七咲「は、はい」
橘「何だ?」
犬好「お二人のご関係は?」
橘「えっ??」
七咲「えっと……」
橘「カ……ん」
七咲「た、たまたま相席してるだけです!!」

カップルって言おうとした僕の口を逢が即座に塞いだ。
当然の反応だな。

犬好「そうなのかぁ。仲良さそうなカップルに見えたんだけど残念だなぁ」
橘(なんであんたががっかりしてるんだ!?)
犬好「定食交換したりして……いいなぁ」
橘(だからなんであんたが羨ましがる!?イケメンのくせに!)
犬好「僕もあーんとかされたいなぁ」
犬好「いや、むしろ、“待て”って言われてちゃんと待ったらエサをもらえる……みたいな?」
犬好「うーん、それよりも……」
橘「あの、妄想はそこまでにして下さい」
七咲「で、彼に何の用事なんですか?」
犬好「ああ、そうそう。何だっけ?」

ズサァ!

橘「おいっ!」
七咲「もう……」
犬好「いや、冗談。あはは……ごめん」
犬好「実は僕、絢辻さんと話したいんだ」
橘「……」
七咲「……」
犬好「……」
橘「それだけ?」
七咲「他には?」
犬好「以上」

ズサァ!

七咲「呆れました」
橘「話したいなら話せばいいのに」
犬好「でもクラス違うし、僕意外と人見知りしてて……」
橘「意外と?」
七咲「そうなんですか?」
犬好「うん」
橘「その割にはよく違うクラスの僕らに話しかけたよなぁ」
橘(ちゃっかり行動まで観察してるし)
七咲「同じクラスの人には相談しなかったんですか?」
犬好「いや、絢辻さんのクラスの人の方がよく知ってるだろ」
橘「まあな。でも絢辻さんは有名人だからなぁ」
犬好「有名人?」
七咲「ええ。去年の創設祭の実行委員長だったので、みんな知っているはずです」
犬好「そうだったのか」
橘「頭良くてスポーツも得意で美人で、キャリアウーマン!みんなの憧れの的だよ」
犬好「そ、そうなんだ……」

僕はパックのジュースを口に含んだ。

犬好「美人かぁ……七咲さんよりも?」
橘「ブーーーーーー」
七咲「先輩!」
橘「ケホケホ。いきなり何言うんだよ!ジュースを噴いちゃったじゃないか!」
犬好「おかしいなぁ。キミたち、たまたま相席しただけなんだろ?何でジュースを噴くんだ?」
橘「そ、それは……」
犬好「それは?」
橘「う……」
七咲「……」

七咲が見つめてきた。

橘「あまりにも愚かな質問をするからだよ!」
犬好「愚か?」
橘「後で絢辻さんを見てみろ!七咲とは比べ物にならないくらい美人だぞ?きっと鼻血出すぞ!」
七咲「……!」
犬好「ほぉ……」
橘「さっきも言ったけど、たまたま相席しただけなんだ。僕は絢辻さんの方がいいに決まってる!」
七咲「!」
橘(う……七咲、怒りを我慢している!)
犬好「……まぁ、そうだね。実は僕、絢辻さんに一目惚れしたんだ」
橘「……へぇ」
犬好「それで、どうしても絢辻さんと仲良くなりたいって思ったんだ」
橘「そうならそうと最初から言ってくれよ」
犬好「ごめん。恥ずかしくて言い出せなかった」
橘「そうだなぁ……絢辻さんと仲良くなりたいならクラス委員にでも立候補してみたら?」
犬好「クラス委員?」
橘「各クラスのクラス委員は時々集会を開くんだ。その時にでも!」
犬好「そっか!ありがとう!」
橘「お役に立てて何よりだ」
犬好「あ、でも……」
橘「ん?」
犬好「僕、夏休み前にはまた転校するんだ」
橘「えっ??来たばっかなのに?」
犬好「うん。両親がアメリカに転勤になって、3ヶ月間だけここでお世話になるんだ」
橘「へぇ……。一人暮らし?」
犬好「母の弟、つまりおじさんの家に居候している。おじさんの娘と一緒に」
橘「娘、何歳?」
犬好「7歳」
橘「へぇ……。そりゃかわいいだろうな」
犬好「僕に似て人見知りする」
橘「あれ?おじさんと娘の二人暮らし?」
犬好「うん。おばさんは事故で死んだって聞いた」
橘「そうなんだ……。ごめん」
犬好「ううん、いいよ」
橘「まぁ、転校大変だろうけど、頑張って!」
犬好「ありがとう!!七咲さんもありが……いない!!」
橘「あれ?消えた」
犬好「ごめん。僕が余計なこと言ったもんだから」
橘「気にしなくていいよ。頑張って」
犬好「うん!」

七咲は怒ってすでにいなくなっていた。
後で謝罪しなきゃな。
それにしても転校生の犬好か……。
転校早々絢辻さんを攻略するのは至難の業だと思うが……、まあ、頑張ってほしい。
僕よりも断然イケメンなんだから余裕だと思う!

犬好「絢辻さんと話すにはどうしたらいいんだろう?」
犬好「……そうか!」

次の休み時間

犬好「えっと、次は移動教室。理科室ってどこだ?」

転校したてで理科室の場所が分からない犬好。
辺りをキョロキョロしている。

??「何かお困り?」
犬好「えっ?……絢辻さん」
絢辻「あら、私のこと知ってるの?」
犬好「そりゃもう!!去年の創設祭の実行委員長だったって聞いてるし、一回見かけたことあるから」
絢辻「知ってたんだ。ありがとう」
犬好「いや、どういたしまして」
絢辻「それよりあなた、転校生なんでしょ?」
犬好「うん。B組の犬好忠生。よろしく」
絢辻「改めて、A組の絢辻詞よ。よろしく」
犬好「いやあ、嬉しいな。絢辻さんとお話できて嬉しいな」
絢辻「……そう?変な人」
犬好「絢辻さん、ありがとう!」
絢辻「まだ何もしてないけどね……」
犬好「そんなことない!!話してくれただけでも……」
絢辻「もしかして転校早々、場所が分からなくて困っているの?」
犬好「……えっ?あ、うん」
絢辻「確かB組は次の授業、理科だったわね。こっちよ」

絢辻さんが理科室まで付いて行くことに。

犬好「わざわざ付いて来てくれるの?場所教えるだけでいいのに」
絢辻「いいの。そんなに遠くないから連れて行ってあげる」
犬好「……」
犬好(絢辻さんに連れて行ってもらえるなんて!!)
絢辻「この角を右に曲って……」
犬好(こ、こんな贅沢していいのか!?)
絢辻「で、ここが理科室よ」
犬好(いいんだよ!!絢辻さんにどこまでも連れて行ってもらいたい!!)
絢辻「道覚えたわね?」
犬好(もう僕のご主人様は絢辻さんしかいない!!僕は……僕は……絢辻さんの飼い犬になるんだ!!)
犬好「いよっし!!」

犬好は突然満面の笑みでガッツポーズした。

絢辻「聞いてた?」
犬好「……えっ?」
絢辻「私の説明ちゃんと聞いてた?」
犬好「……う、うん、もちろんさ!」
絢辻「……聞いてなかったようね」
犬好「う……」
絢辻「あなたのために一生懸命説明したんだからちゃんと聞きなさい。まったく」
犬好「ごめんなさい。ありがとうございます」
絢辻「それじゃ、また何か分からないことがあったら遠慮なく聞いて」
犬好「うん!」
絢辻「じゃあ、また」

犬好は幸せを噛み締めながら理科室に入っていった。

桜井「転校生の犬好君だよね?」
犬好「うん」
桜井「私、桜井梨穂子。よろしく」
犬好「僕は犬好忠生。よろしく」
伊藤「よかったら、私たちと一緒にやらない?あ、私は伊藤香苗。桜井の友達」
犬好「よろしく」

同じクラスの梨穂子と香苗さんとも友達になれたようだ。


次の日の休み時間

伊藤「でね、桜井ったらおっかしいんだよ」
桜井「そ~んなことないよぉ!」
犬好「あはは」
女子生徒「犬好せんぱ~い!」
女子生徒「これ、受け取って下さい!」

後輩と思われる女子生徒が犬好にプレゼントを渡していた。

犬好「ありがとう」
伊藤「人気者だね。羨ましいな」
犬好「そ~んなことないよぉ!」
桜井「私の真似?似ってな~い」

その様子を遠目で見ていた僕。

橘「転校早々人気者か。すごいな」
梅原「お前、あいつのこと気になるのか?」
橘「ああ、ちょっとな」
マサ「3年B組、犬好忠生」
マサ「家族構成は父、母と三人暮らし。つまり一人っ子」
マサ「その両親が3ヶ月間だけアメリカに転勤になった影響で、あいつも3ヶ月間だけこの学校にいる」
マサ「輝日東に母の弟の家があって、居候している」
マサ「ちなみに母の弟の妻は交通事故で死亡。現在は7歳の娘と二人暮らし」
橘「うん。本人から聞いた」
梅原「お前、あいつと話したのか?」
橘「うん。他愛もない会話だ」
マサ「じゃあ、これは知ってるか?母の弟はこの地で刑事をやっているって話だ」
マサ「泣く子も黙る輝日東署の有名な刑事だって話だ」
橘「へぇ。すごいな」
ケン「見て分かる通り、前の学校でも相当モテたらしいぞ」
ケン「なんたって、普通の男子生徒の三割増しイケメンだからな」
ケン「ラブレターとかプレゼントとか、置き場所に困るくらいもらってたって話だ」
橘「へぇ。すごいな……って!どっからそんな情報を仕入れた!?」
マサ「へっへっへ!」
ケン「俺たちの情報網をナメんなよ!キリッ」
梅原「ちなみに、あいつ、名前の通り、相当な犬好きだって話だ」
梅原「野良犬を見かけるとついついエサをやりたくなるらしい」
梅原「下校途中であいつが野良犬にエサをやっているところを見かけた生徒もいるらしい」
橘「へぇ」
棚町「あ、それ、あたしも見た」
橘「薫」
棚町「何か、犬に“おすわり”とか“待て”とか“お手”とか言ってた」
橘「エサやるだけじゃなくてしつけもするのか!大したもんだな」
マサ「ここだけの話、あいつ、時々ポロッと呟くらしい。“僕も犬になりたい”」
橘「ええっ!?」
橘(あ、そういえばそんなこと言ってたな)
棚町「犬になりたい?どゆこと?」
梅原「棚町には分からないだろうな~」
ケン「男ってのはな、男ってのはな、女にしつけられたいっていう願望があるものさ!」
マサ「そうさ!女のことを“ご主人様”と呼び、自分は“ご主人様”の飼い犬になる!」
梅原「これがどんなに幸せなことか!」
ケン「“ご主人様”に逆らうと叱られて、踏まれて、痛い!」
マサ「でも、それがいい!!“ご主人様”に踏まれてこそ立派な飼い犬!」
梅原「ああ!僕は、一生“ご主人様”のオトモをします!!どこまでも連れて行ってくだせぇ!!」

ドM発言に花を咲かせる梅原とマサとケン。

棚町「……それ、ただのドMじゃん。だっさ~い。あんたもそう思うでしょ?」
橘「ま、まあな……」
棚町「さて、次の授業行かなきゃ」
橘「ああ」
マサ「うあ、一蹴された……」
ケン「何も言うな」
梅原「そうさ。この快感が分からない奴ぁほっとけ」
橘「……」

こうして、犬好のことが色々分かった。
要するに……ドMなんだな。
もしかして絢辻さんに近付いたのも飼い犬になりたいから?
……いや、違うだろ。



3rdへ続く

2011-12-09

エピソード特別編「oneday two love stories 1st:現れた謎のイケメン」

それは、高校3年生の春の出来事だった。
あまりに突然過ぎてびっくりした。

ある日の2年B組の教室

美也「ふわ~~~。や~~っと日本史の授業が終わったよぉ」
中多「美也ちゃん、眠そうだね」
美也「眠いよ、紗江ちゃん。夕べは発売されたばっかりの漫画を読んでて、つい夜更かししちゃったから」
中多「そ、そうだったんだ……」
美也「すっごい面白いんだよ!!紗江ちゃんに貸してあげようか?」
中多「うん。読みたい」
女子A「ねぇ、聞いた?」
女子B「どうしたの?」
女子A「上の学年に転校生来たんだって!!」
女子B「うっそぉ?マジで?男?女?」
女子A「男!!すっごい、びっくりするくらいのイケメンなんだって!」
女子B「イケメン!?逢いたい!!」
女子A「んじゃ、見に行こう?」
女子B「うん!!」
美也「上の学年って、お兄ちゃんの?……くっだらな~い」
中多「美也ちゃん、興味ないの?」
美也「みゃーはまんま肉まん以外には興味ないのだー」
中多「……え、えっと、次は移動教室だよ」
美也「うん」

七咲「……転校生?」

同じ日の3年A組の教室

梅原「いよっす、大将」
橘「……眠いから寝る」
梅原「何だよ、つれねぇな」
橘「昨日はお前から借りたお宝本を読んでて、夜更かししたんだよ」
梅原「お?どうだった?」
橘「最高だな!」
梅原「だろだろ?……って、そうじゃない」
橘「ん?」
梅原「隣のクラスに転校生来たんだよ。知ってっか?」
橘「女子か?」
梅原「残念。男子だ。それもかなりのイケメンらしいぜ」
橘「野郎か。興味ない」
梅原「あのハナヂ王子よりもイケメンで、ハナヂ王子も嫉妬してるらしい」
橘「ああ、森島先輩がどうとか言ってた花園聖治か。どうでもいいや」
梅原「……ま、転校生が女子だとしてもお前には関係ないか」
橘「どういう意味だ?」
梅原「言わせんなよ、恥ずかしい」
橘「……」
梅原「……ああ、七咲、かわいいよぉ!いやん、先輩、素敵ですぅ!」
橘「……ぐーぐー」
梅原「……狸寝入りか。照れんなって」

一方、その頃……

七咲「転校生……くしゅっ」
七咲「……何だろう?一瞬寒気がした」

放課後

美也「や~~~っと今日一日が終わったね~」
中多「今日は用事ないから一緒に帰る?」
美也「うん。あ、みゃートイレ寄ってく」
中多「じゃあ、正門で待ってるね」
美也「うん」

美也がダッ君ハンカチで手を拭きながらトイレから出て来た。

美也「さて、紗江ちゃんが待ってる。行かなくちゃ」

その時、少し開いていた廊下の窓から隙間風が吹き、ハンカチが飛ばされた。

美也「あ!」

美也が飛んで行くハンカチを追いかけ、取ろうとした時……

男子生徒「ん?」
美也「あ……」

足元に落ちたハンカチを男子生徒が拾った。

男子生徒「これ、キミのかい?」
美也「は、はい」
男子生徒「……」
美也「……」

男子生徒が美也にハンカチを渡した。
美也は何故か顔を少し赤らめ、無言になった。

中多「忘れ物しちゃった……えっ?美也ちゃん?」

忘れ物を取りに戻って来た中多さんが少し離れた場所から二人を見ていた。

男子生徒「……かわいいね」
美也「えっ?」
男子生徒「それじゃ、僕はこれで失礼するよ」
美也「あ……あのっ」

男子生徒はすでに去った後だった。

美也「う……何この気持ち」
中多「美也ちゃん?」
美也「……何なの」
中多「美也ちゃん」

美也はボーッと何かを考えながら、背後の中多さんに気付かずに前進した。

美也「……あ、そうだ!紗江ちゃんを待たせていたんだ!」
中多「ひっ!」

美也は急に思い出し、急に後ろに向き直った。
当然中多さんはびっくりして後退りした。

美也「紗江ちゃんいたんだ~。び~っくりした」
中多「み、美也ちゃんこそ……」
美也「正門じゃないの?」
中多「ちょっと忘れ物しちゃって……」
美也「……見た?」
中多「えっ?」
美也「今の見た?」
中多「えっ?何を?」
美也「紗江ちゃん。ちょっと来てもらっていい?」
中多「えっ?どこ?」
美也「来れば分かる」
中多「……?」

その後、美也は中多さんを保健室に連れて行き、拷問したようだ。

美也「……」
中多「……」
美也「ねぇ、紗江ちゃん。この気持ちは何だと思う?」
中多「えっ?……わ、分からない」
美也「……だよねぇ」
中多「美也ちゃん。そろそろ帰ろう?」
美也「そだね~」

橘家で……

美也は居間でテレビを見ながらぼんやりとしている。

美也「……はぁ」
橘「美也。風呂だぞ」
美也「……」
橘「美也。聞いてるのか?」
美也「……」
橘「美~也!!」

美也に近付いて耳元で叫んだ。

美也「わわっ!び~っくりした。なんだ、にぃにか」
橘「なんだとはないだろ?どうしたんだよ?」
美也「どうもしないよ。それより何?」
橘「風呂」
美也「分かった。入るよ」
橘(おかしなやつ……)

翌日の学校

先生「ここはこういう心情を表しているんですね~」
美也「……」
先生「で~はここを、そうだなぁ?聞いてなさそうな橘!」
美也「……」
七咲「美也ちゃん」
先生「橘、起立!読んでみなさい……って、教科書も出さずに何やってるんだ?」
七咲「美也ちゃん!当てられてるよ!」
美也「……ふぇ?な、何、逢ちゃん?」
先生「橘!早く教科書を出しなさい!」
美也「え、えっと……次の問題を解け。5人中3人を選ぶ方法は何通りあるか」
先生「はぁ?」
七咲「美也ちゃん!今現代文!」
美也「え?あ!」

美也は焦って引き出しの中を探り始めた。
周りは笑っている。
事情を知っている中多さんも苦笑い。

先生「橘!後で補習のプリントを渡す!七咲。代わりに読みなさい」
七咲「はい」
七咲(美也ちゃん、どうしたんだろう?昨日まではこんなことなかったのに)
七咲「……触れ合う手。真っ赤に染まる頬」
七咲(まさか!……でも、考えられる。私だって去年は……)
先生「はい、よろしい。今日の授業はここまで。橘は職員室に来なさい」

美也「ふぇぇ。補習プリントだよ~」
中多「美也ちゃん……」

橘「やっとお昼だ!」
橘(早く校舎裏に向かおう。今日は七咲と食べるんだ)
七咲「先輩」
橘「あれ?七咲。これから向かうところなのに」
七咲「ちょっとお話があるんです。場所を変えましょう」
橘「校舎裏じゃなくて?」

橘「で、屋上か」
七咲「先輩」
橘「うん」
七咲「単刀直入に聞きます」
橘「な、何だよ、怖いな」
七咲「美也ちゃん、昨夜はどんな様子でした?」
橘「えっ?昨夜?」
七咲「はい」
橘「……そうだな。何かぼんやりしてた」
七咲「ぼんやり?」
橘「まんま肉まん、ほとんど口にしてなかったし、変だった」
七咲「具合悪そうでした?」
橘「いや、ぼんやりしてるだけだったけど……何でそんなこと聞くんだ?」
七咲「美也ちゃん、授業中ずっとぼんやりしていました」
橘「夜更かししたんじゃないか?」
七咲「でも、夜更かしした時はちゃんと教科書を出していました」
七咲「それに、現代文の授業は指名されてちゃんと答えられなかったら補習があるんです」
橘「いつもは眠くてもちゃんと警戒しているのか」
七咲「はい」
橘「確かにそれは変だ」
七咲「それで私、思ったんです」
橘「うん」
七咲「美也ちゃん、ひょっとして……恋わずらいなんじゃないですか?」
橘「……恋わずらい?」
七咲「誰かに片思いして、ずっとその人のことを考えてぼんやりしているんです。夜も眠れないほど」
橘「……本当に?」
七咲「はい。私にも似たような……な、何でもありません」
橘「知ってるよ。別に隠さなくていい」
橘「だけど美也が恋わずらい?ありえないな」
七咲「えっ?」
橘「あいつはよく言ってる。“みゃーはまんま肉まん以外には興味ないのだー”」
七咲「でもそれは建前で、実際は……」
橘「きっとまんま肉まんに恋わずらいなんだろう」
七咲「先輩。真面目に考えてあげて下さい」
橘「あのなぁ、僕は受験生なんだぞ?一緒に勉強しようって言ったのは誰だよ?」
七咲「でも、妹ですよ?」
橘「妹だろうと関係ないよ。ていうかむしろ妹だからこそ手を出さない」
七咲「どうしてですか?」
橘「妹の恋だぞ?兄貴の出る幕じゃないだろう。余計なお世話だ」
七咲「そうですか……。そうですよね」

七咲が少し落胆しているのが分かる。
よほど美也のことが心配なんだろう。

七咲「あ……」

七咲を抱いた。

橘「心配してくれているんだな?ありがとう」
七咲「いえ……」
橘「協力するかどうかは分からない。でも……一目見てみたいな」
七咲「一目?」
橘「うん。あの鉄壁の美也を惚れさせた相手を。どんな奴なんだろう?気になるな」

七咲を離した。

橘「美也が恋わずらいになったのは昨日の放課後で間違いないな?」
七咲「はい。それまでは普通でした」
橘「じゃあ、もしかしたら目撃者がいるかもしれない」
七咲「目撃者?本人に聞かないんですか?」
橘「美也が簡単にしゃべってくれる相手なら苦労しないよ。七咲もそうだったし」
七咲「そうですね。目撃者を探しましょうか?」
橘「うん。……って言ってもその時間に美也の周りに誰がいたんだろう?」
七咲「手当たり次第聞いたら不審がられますからね」
橘「七咲。心当たりないか?美也の周りによくいる人。友達とか」
七咲「友達、ですか。美也ちゃん、友達多いので……」
橘「うー」
七咲「……あ!中多さん!」
橘「ん?」

偶然屋上に中多さんが現れた。
どうやら独りのようだ。

中多「あ、七咲さん。橘先輩」
七咲「……知り合いですか?」
橘「前に何回か話したことあるんだ」
中多「何か、私に用ですか?」
橘「えっと、美也って今どうしてる?」
中多「美也ちゃん……ですか?」
七咲「美也ちゃん、昨日から変だけど、何か知ってる?」
中多「えっ?昨日?」
橘「兄として、あいつが心配なんだ。知ってること、何でもいいんだ。話してほしい」
中多「う……」

(中多さんの回想)
中多「み、美也ちゃん。許して」
美也「紗江ちゃんの体は正直でよろしい!にししし」
中多「美也ちゃん、許して。お願い」
美也「誰にも言わないって約束する?」
中多「う、うん」
美也「本当に?お兄ちゃんや逢ちゃんにもだめなんだからね!」
中多「わ、わかったから、離して」

中多「……分かりません」
橘「……そっか」
七咲「他を当たりましょうか?」
橘「……」
中多「……」
七咲「先輩?」

僕は中多さんを見つめた。
中多さんの目はうるうるしている。
中多さんは何かに怯えているようだ。

橘(何か、知ってるな。大方、美也に口止めされているんだろう。あいつならやりかねない)
七咲「先輩。行きますよ」
中多「そろそろ授業が」
橘「中多さん」
中多「はい」
七咲「……?」
橘「中多さんのことは七咲が守ってくれる。だから、後で本当のことを話してくれないか?」
中多「……えっ?」
七咲「先輩。何を言っているんですか?」
橘「おそらく、美也に口止めされているんだろう」
中多「!」
七咲「美也ちゃんが?」
橘「前に一回、偶然にも美也が中多さんをいじっているところを目撃したんだ」
中多「えっ?」

橘「ほら、前に保健室で美也が中多さんにあやかっていただろう?」
中多「あ……」

七咲には話せない内容なので、中多さんにこっそり耳打ちした。

中多「そ、そんなこともありました」
橘「美也は中多さんを口止めしている。もしも漏らしたことがバレたら……」
七咲「……美也ちゃんがそんなことするんでしょうか?」
橘「万が一だ。美也のそばにいて、一番監視しやすい七咲が適任だ」
七咲「か、勝手に決めないで下さい!」
橘「僕は美也の力になりたい。これは美也のためなんだ!だから、中多さん、お願い!」

僕は中多さんに頭を下げた。

橘「中多さんの身の安全は七咲が保証するから!」
七咲「ちょ……」
中多「……」
橘「……」
七咲「……」
中多「……分かりました」
橘「ありがとう!」
七咲「先輩!」
橘「何だよ?言いだしっぺは七咲なんだぞ。しっかり責任とってくれ」
七咲「……」
中多「あ、そろそろ授業ですね」
橘「よし、戻ろう」
七咲「先輩……」

放課後

七咲「私は部活があるので失礼します。話は後で聞きます」
橘「分かった。美也は補習みたいだし、ちょうどいい。行こう」
中多「はい」

中多さんを人目につかない場所に連れて行った。

橘「それで?相手は誰なんだ?」
中多「えっ?」
橘「七咲の推理によると、美也は恋わずらいらしい」
中多「……分かってたんですね」
橘「うん」
中多「……実は」

中多さんから昨日の放課後の出来事を聞いた。

橘「美也がかわいいって言われた!?」
中多「こ、声が大きいです」
橘「ごめん」
橘「それは美也のことなのか、あるいはハンカチのことなのか」
橘「うーん。どっちも考えにくい」
中多「どうしてですか?」
橘「美也を褒めたとしよう。その場合はきっとあのお子ちゃま体型のことを言っているんだ」
橘「そんなイケメンな男子高生がお子ちゃま体型の女子高生を本気でかわいいと思うだろうか?」
橘「あるいはからかっているんだな」
橘「ハンカチを褒めたとしよう。その場合はきっとダックスフンドのダッ君のことを言っているんだ」
橘「犬好きなら分かるけど、そうじゃないならおかしい」
橘「さっきも言ったけど、そんなイケメンな男子高生がダッ君を本気でかわいいと思うだろうか?」
橘「あるいはからかっているんだな」
中多「……」
橘「結論。美也の片思いだ」
中多「えっ?そんな……」
橘「でも、おかしいな」
橘「あの美也だよ?あの美也がだよ?」
橘「イケメンに“かわいいね”って言われただけで恋わずらいになるとはなぁ」
中多「美也ちゃん、まんま肉まん以外興味ないって言ってましたが」
橘「そうなんだよな。天変地異の予兆だ。何か起きるよ」
中多「……あ」
橘「どうした?」
中多「すみません。パ……お父さんとの約束があるのでそろそろ帰ります」
橘「分かった。ありがとう」
中多「先輩、美也ちゃんをお願いします」
橘「任せて」
中多「失礼します」

こうして僕は中多さんから詳しい事情を聞き、色々推理してみたが、やはり腑に落ちない。
美也を惚れさせたイケメンって誰なんだ?



2ndへ続く

2011-11-27

エピソード特別編「夢を諦めないで!七咲、決死の闘い 後編:絶交?」

翌日

橘「おーい、七咲!おはよう」
七咲「おはようございます。今日は珍しく早めの登校なんですね」
橘「珍しくって……失礼な。誰のためにこんな時間に来たと思ってる?」
七咲「クスッ」
橘「……もう、平気か?」
七咲「はい。おかげさまで」
橘「今日も一緒に帰るか」
七咲「いえ。先輩はいい加減勉強した方がいいと思います」
橘「う、うるさい。誰のために言ったと思って……」
七咲「今日は部活です」

七咲が小声で話しかけた。

橘「ああ、ならしょうがな……え??部活!?」
七咲「しーっ。声が大きいです。聞かれたらどうするんですか?」
橘「え?七咲今日も部活行けないのか!ケガ、よっぽどひどいんだな」
七咲「……!そうなんです。早く治るといいですが」

僕は咄嗟に嘘を言った。七咲も分かってくれた。

橘「部活って……ケガ平気なのか?」
七咲「まだ治っていませんね。でも、大会の選考が近いので」
橘「そんな状態でいいタイム出るのか?」
七咲「頑張ります」
橘「それはいいんだけど、無理するなよ」
七咲「はい。でも、負けませんから」
橘「……うん。それでこそ七咲。僕の自慢の……」
美也「逢ちゃんおっはよー!」

美也が間に割って入る。

橘「美也、どけよ。今七咲と……」
美也「今日現代文の宿題出てたよねぇ。みゃー分かんなかった」
七咲「え?全然難しくなかったと思うけど?」
美也「本当?」
七咲「現代文って1時間目だったよね。急ごう」
美也「うん」
橘「僕を無視するな!」
橘(何はともあれ、七咲は元気になったようだ)
橘(でも、ケガしてるのに水泳やって大丈夫か?)


放課後

七咲「部長。今日から復帰します」
部長「あら、七咲。捻挫は大丈夫なの?」
七咲「平気です。大会の選考が近いので頑張ります」
部長「あまり無理しないでね」
七咲「はい」
斗部「……」
七咲「……」

斗部さんが七咲を睨む。
七咲も斗部さんをチラッと見る。

部長「それじゃあ、練習スタート!」

部長の号令とともに七咲がプールに飛び込む。
自由形のクロールの練習を行う。
捻挫した足をかばってか、バタ足が少ない。
その代わり、手のかきが強くなっている。

(七咲の回想)
塚原「もし、斗部さんを許したい気持ちが少しでもあるなら、どうすればいいか分かるわね?」
七咲「……はい!」
七咲「あの……塚原先輩」
塚原「うん」
七咲「足はそんなに重傷ではないのですが、やはりこのままではバタ足が弱くなります」
七咲「今度の選考、また自由形のクロールなので心配です」
塚原「足が弱い。だったら手で代償するしかないんじゃない?」
七咲「手で……ですか?」
塚原「バタ足は弱めにして手のかきだけで進むの。そういう練習を重点的に行なってみたら?」
七咲「なるほど」
塚原「無理してバタ足したらそれこそケガがひどくなる」
塚原「七咲の長所はフォームがいいこと。手と足のバランスが多少崩れても十分うまく泳げる」
七咲「分かりました!」
塚原「七咲。私はいつでも七咲の味方だから。負けないでね」
七咲「はい」
塚原「あなたは迷惑をかけたくないって思ってるかもしれないけど、私はむしろ迷惑をかけてほしい」
塚原「それだけあなたのことを大事に思ってるから。彼もきっとそうよ」
七咲「はい!」
塚原「七咲。斗部さんに証明してやりなさい」
塚原「どんな不利な状況に陥っても努力した者は勝つんだってことを」
塚原「斗部さんだって本当はやればできるはずなんだから」
七咲「分かりました!私、もう二度と諦めません」

七咲は泳ぎながら思う。
塚原先輩と約束したんだから、諦めないと。
今度の大会への出場を絶対に決めて、斗部先輩に分からせてやるんだと。

そんな七咲を見ていた斗部さんは……

斗部(どうして!?どうしてまだそんな力が残ってるの?)
斗部(ケガしたら諦めると思ってた。七咲はどうしてここにいるの?)
斗部(今度の大会、必ずあたしが出るんだから!邪魔はさせない!)

偶然、七咲と斗部さんが隣同士のコースに並ぶ。
同時にスタートする!
種目も同じ自由形でクロール。
序盤、バタ足の弱さもあって七咲が若干劣勢だったが、後半、スタミナ切れで斗部さんが後退。
捻挫している割には七咲が勝った。

斗部(嘘……捻挫してて不利なはずなのにどうして速いの?)
斗部(どうして七咲はそこまで強いの?)

この日から七咲は手のかきだけで速く泳ぐ練習を始めた。
それらは毎日行われ、積み重ねられていった。

練習が終わると……

橘「七咲。やっと出てきたか。いつも通り最後だな」
七咲「ええ。誰よりも早く練習を始めて、誰よりも遅く練習を終える。これが私の練習のスタイルです」
橘「無理してないだろうな?」
七咲「大丈夫ですよ。調子は順調です」
橘「そっか」
橘「それじゃ帰ろうか」
七咲「はい。……あ」
橘「ん?」

七咲の目の前に一人の女子水泳部員が現れた。

斗部「……」
七咲「……斗部先輩」
橘「何!?こ、この人が斗部さんか」

僕は両手を握り締めた。

橘「何の用だ?七咲によくも!」

僕は斗部さんに向かって行こうとしたが、七咲に片手で止められた。

七咲「待って下さい。ここは私が」
橘「七咲」
七咲「……」
斗部「……」
七咲「斗部先輩。私は先輩を……」
天殿「あ!翠子!」
斗部「麻衣」

少し離れた場所から僕ら3人を見つけた天殿さんが駆け寄って来た。

天殿「翠子。もうやめて!もうこれ以上彼女を傷付けないで!あなたの大事な後輩でしょ?」
七咲「天殿先輩」
天殿「あなた、あんなに七咲さんのこと気に入ってたじゃない。友達になりたいって言ってたじゃない」
斗部「黙って」
天殿「黙らない。ねぇ、お願いだから、このことを素直に部長に報告して!七咲さんにも謝って」
天殿「大人しく罪を認めて!翠子!」
斗部「麻衣……あなたまた余計なこと喋ったのね。あなたはいつもそう。鬱陶しいのよ」
天殿「翠子」
橘「真面目に心配している友人に向かってそんなこと言うのか」
橘「今回だって天殿さんがいなかったら……」
七咲「別に、謝る必要なんてないですよ」
橘「!」
斗部「え?」
天殿「七咲さん?」
七咲「確かに最初は落ち込みました」
七咲「でも、私は最初から斗部先輩に謝ってほしいなんて思っていませんでした」
七咲「私が入部早々大会に出場したあの時、斗部先輩が褒めてくれたのを今でも覚えています」
七咲「だから、今回斗部先輩が私を大会に出場させないためにわざとケガをさせただなんて思っていません」
七咲「あの時の優しい斗部先輩がこんなひどいことをするなんて今でも信じていません」
斗部「……」
天殿「じゃあどうして落ち込んでいたの?」
七咲「……悔しかったんです。斗部先輩を許したいのに、どうやって許せばいいか分からなかったから」
橘「確かに七咲は最初から自分を犠牲にして斗部さんを許そうとしてたな」
七咲「斗部先輩、水泳が大好きで、私のせいで水泳を諦めさせてしまうのが嫌だったんです」
天殿「そうだったんだ」
斗部「……」
七咲「だけど……ある人に叱られてようやく気付いたんです」
七咲「私だって水泳が好きなのに、斗部先輩をかばって水泳を諦める……そんなのは甘えだって」
七咲「斗部先輩は私を大会に出場させないために私にケガを負わせました」
七咲「だったら!私がケガを負ってでも大会に出場すればいいだけのこと」
七咲「斗部先輩の思惑を潰してしまえば、斗部先輩は何もしなかったことになります」
七咲「そして、こんな不利な状況でも頑張れば乗り越えられるってことを身をもって証明します」
橘「七咲」
七咲「斗部先輩に、努力することの意味をもう一度分かってほしいんです」
斗部「……」
天殿「翠子」
斗部「……」
天殿「何か言いなさいよ翠子」
斗部「……あたしよりも実力が上だからって偉そうに。あたしを許すですって?ふざけないで!」
天殿「翠子」
斗部「あんたのせいであたしがこの1年、どんな思いをしてきたか知らないくせに!」
天殿「翠子。そんな言い方は……」
斗部「うるさい。うるさいうるさいうるさい!もうほっといて!!みんな大っ嫌い」

斗部さんは逃げるように去って行く。

天殿「翠子!」

天殿さんが追いかけた。

七咲「……」
橘「……」
七咲「斗部先輩」
橘「あんな言い方ってないよな」
七咲「……」
橘「そ、そうだ七咲」
七咲「はい」
橘「そ、その、ここんとこ練習続きで疲れてるだろ?」
七咲「……」
橘「今度の日曜日、うちでゆっくりしていかないか?」
七咲「先輩の家?」
橘「うん。部活もないだろ?ちょうど僕以外はいないんだ」
橘(美也は後で何とかしよう)
七咲「いいですけど、勉強は?」
橘「勉強しながら話そう。七咲が一緒だとはかどりそうだ」
七咲「はい」


日曜日

橘「よし、勉強道具取って来るから待ってて」
七咲「はい」

居間で七咲と勉強することにした。
ちょうどよく両親が出掛けている。
美也はというと……

(橘しゅうの回想)
橘「美也!頼みがあるんだ!」
美也「まんま肉まん5個」
橘「分かったから!」
美也「約束だよ?学校帰りに買って来てね」
橘「分かってる!」
美也「それで頼みって?」
橘「明日一日、留守にしてほしい!」
美也「……ええっ?た、頼みってそれだけ?」
橘「うん」
美也「……」
橘「た、頼む!来週模試なんだ。じっくり集中して勉強したいんだ!!」
美也「……紗江ちん、明日遊びに行ってもいい~?」
橘(やった!まんま肉まん5個は痛いけど、七咲のためだと思えば全然痛くない)

橘「よし。お待たせ」
七咲「何が目的ですか?」
橘「え?来週模試だから勉強したいんだけど、七咲と一緒の方が集中できるかなぁって」
七咲「なるほど。そういう名目だったんですね」
橘「う、うん」
七咲「でも、勉強なら何も美也ちゃんを追い出さなくても……」
橘「美也はいない方がいい。僕は七咲と二人っきりがいい」
七咲「……」
橘「……」
七咲「本当は私のことが心配だったんですね」
橘「……」
七咲「だからこうして邪魔者が入らず、二人っきりでじっくり話せる環境を作った。違いますか?」
橘「……何もかもお見通しなんだな」
七咲「私を誘った後で、美也ちゃんをあんなに必死に説得する先輩を見たらすぐに分かりました」
橘「み、見てたのか?」
七咲「教室の前で話していましたよね?分かりますよ」
橘「そ、そっか」
七咲「私、斗部先輩と天殿先輩の前で話した通り、大会の選考を受けることにしました」
橘「塚原先輩に叱られたんだな」
七咲「ええ。誰かさんのせいで」
橘「う……だって、放っておいたら誰にも相談しないだろ?むしろ感謝してほしい」
七咲「ありがとうございます」
橘「う……ぼ、僕は何も」
七咲「いえ、今回もまた橘先輩に助けられました。感謝しています」
橘「えっと、ほ、ほら、勉強しなくちゃ」

僕はさり気なく参考書を開いた。

七咲「先輩」
橘「な、何?」
七咲「感謝していますと言った直後に、こんなことを言うのはどうかと思いますが……」
橘「どうした?」
七咲「しばらく絶交しませんか?」
橘「……は!?」

七咲の口から出た信じられない言葉。
絶 交

橘「ぜ、絶交……だと?」
七咲「あ、勘違いしないで下さい。別に先輩のことを嫌いになったわけじゃないんです」
七咲「ただ……」
橘「ただ?」
七咲「私は大会の選考が、先輩は模試が近いです」
七咲「だから、少しの間絶交して、お互いの目標に集中すべきだと思うんです」
橘「……びっくりした。そういう意味か」
橘「てっきり僕に一生逢いたくないって意味かと思った」
七咲「それはありません。先輩には感謝していますから」
橘「だよな。七咲らしいよ」
七咲「私らしい?」
橘「斗部さん、どんなに努力しても水泳上手にならなかったって言ってただろ?」
橘「斗部さんは努力することに何の意味も見出せなかった」
橘「だから、努力して上達していく七咲に嫉妬していたんだな」
橘「ケガをさせてまで七咲の邪魔をしたかった」
橘「でも、おかげでチャンスじゃないか」
橘「このケガをしている不利な状態から這い上がって、大会メンバーに選ばれれば……」
七咲「ええ。斗部さんだって努力すればできるんだってことを分からせてあげるチャンスですね」
橘「斗部さんはきっと、ケガをした七咲は大会に出場できないと思っているはずだ」
七咲「だからこそ……ですね」
橘「そこが七咲らしいよ。そういう考えができるのが七咲らしいよ」
七咲「いえ。私らしさではないです。前部長の命令ですから」
橘「でも、自分にひどいことをした相手でも許せてしまうのは七咲だけじゃないか?」
七咲「かもしれませんね。塚原先輩なら絶対に許さないそうです」
橘「な?だから七咲らしさだ」
七咲「そう言われてみればそうですね」
橘「……分かった!そういうことなら絶交しよう!」
橘「考えてみれば僕も今、斗部さんと同じ立場にいるんだ。受験勉強を頑張らないとな」
七咲「はい。そうして下さい」
橘「あ、絶交前に一つ約束しよう。お互いに無理はしない」
橘「僕は多少無理をしないと成績上がらないかもしれないけど、七咲はケガを悪化させないように」
七咲「ええ。そうですね」
橘「無理をしないという意味はそれだけじゃない」
七咲「え?」
橘「例え絶交中であっても、何か悩みや嫌なことがあったら遠慮なく相談する!」
七咲「相談?」
橘「うん。特に七咲かな」
七咲「私が?」
橘「斗部さんのことを信用しないわけじゃないけど、また何か嫌がらせをされたら僕に相談してほしい」
七咲「先輩」
橘「迷惑だからって遠慮するな。むしろ七咲にだったら迷惑かけてもらいたい」
橘「七咲は僕にとって受験勉強よりも大事な存在だ」
橘「僕、七咲が傷付けられるのは絶対に嫌だ。守りたい。他を犠牲にしてでも!」
七咲「せんぱ……」

今にも泣き出しそうな七咲を自分の胸に引き寄せた。
七咲の泣き顔を見ないように、七咲の顔を僕の胸に埋めた。

橘「七咲。あんなにつらかったはずなのに、よくここまで立ち直った。偉いと思う」
七咲「ぐすっ、ぐすっ、先輩」
橘「ほら、今僕には七咲の泣き顔は見えない。僕の胸で思いっきり泣いていいよ」
七咲「はい」

ただただ泣いている七咲を僕は黙って受け止めた。
時折、そっと優しく頭を撫でながら。

七咲「ぐすっ、ぐすっ。……先輩」
橘「ん?」
七咲「もう……平気です」
橘「そっか。もう気は済んだな?」
七咲「はい」

泣き止んだ七咲をそっと離した。

橘「七咲がつらいところからようやく立ち直って、斗部さんを想って選んだ答え」
橘「そこまで真剣に考えたなら僕も従うよ」
橘「でも、もしも僕が必要になった時はいつでも声をかけてほしい」
橘「今みたいにきちんと七咲を受け止める。僕の胸をいつでも貸してあげるから」
七咲「ありがとうございます」
橘「じゃあ、これで本当にいいんだな?」
七咲「はい!」
橘「それじゃあ……これが絶交の印」
七咲「ん……」

七咲にキスをした。
一旦唇を離す。

橘「……」
七咲「んん……」

今度は七咲が僕にキスをした。
それもちょっと強めに。
“絶交してもいつでも先輩のことを頼りにしています”という強い意志の表れだ。

橘「……逢」
七咲「……しゅう先輩」
橘「……って!勉強どころじゃないな、もう」
七咲「あれ?もうこんな時間ですか?」
橘「そろそろ夕方だな。みんな帰って来る」
七咲「なら、早めに帰った方がいいですね」
橘「そうだな。逢はいないことになってるから」
七咲「よいしょ」

逢が捻挫した足をかばいながら、ゆっくり立ち上がる。

橘「大丈夫か?」
七咲「平気です」
橘「難なら途中まで一緒に行こうか?」
七咲「絶交したんじゃなかったんですか?」
橘「まだだろ。おうちに帰るまでは今のままだ」

僕は逢に背を向けてしゃがんだ。

橘「乗って」
七咲「何してるんですか?」
橘「見て分からないか?おんぶだよ」
七咲「え?べ、別に平気ですよ。来る時だって一人で……」
橘「何を恥ずかしがっているんだ?逢が大事だからこうして……」
七咲「う……分かりました」
七咲「こうですか?」
橘「いくぞ!せいの!」

逢をおんぶした。

橘「お、軽い!」
七咲「当然です。もしかして、重いと思っていました?」
橘「え?そ、そりゃあ、部活で鍛えた筋肉の分だけ体重が……」
七咲「……」
橘「ご、ごめんなさい」
七咲「さあ、行きましょう」

初めて逢をおんぶした。
失礼な言い方だけど、意外に軽かった。
し、しかし……

橘(僕の背中に二つの感触が!こ、これは、胸か!)

考えてみれば、初めて逢をおんぶしたんだ。
僕の背中に逢の胸が当たってるし、触りどころを間違えたら、逢のお尻を……

七咲「ほら、何してるんですか?早く進んで下さい」
橘「わ、分かったよ」
七咲「あ、玄関で私の靴を取って下さい」
橘「了解」

玄関を出て、いつも歩いている道を、今度は七咲をおんぶしながら歩く。
新鮮な感覚だ。

橘「乗り心地はどうだ?」
七咲「最高です。ありがとうございます」
橘「そ、そっか。よかった」
橘(うう、自分で言い出したことなのに、緊張する)
橘(でも、いざおんぶしてみると、七咲って何かふわふわしてて気持ちいい)
橘「……」
七咲「……」
橘(もうちょっとで七咲を下ろす地点だ。だけど、このままでいたい)
橘(このまま、七咲をおんぶしたまま、どこかへ行ってしまいたい)

そんないけないことを考えていたら……

カプッ。

橘「ひぃ!」

七咲が僕の耳をアマガミした!

七咲「ふふっ。先輩いきなり変な声出さないで下さい」
橘「だ、だって、七咲がいきな……おわ!」

僕はびっくりしてバランスを崩した!

七咲「あ!せ、先輩!だめ!手が、手が!ああん」
橘「七咲!暴れるな!持ちこたえて……あっ、この感触」

何か今柔らかいものに触れた。

七咲「先輩、どこ触っているんですか!」
橘「ごめん!」

何とか間一髪、七咲は無事に着地できた。

橘「ふぅ。危なかった」
七咲「それはこっちのセリフです」
橘「もう!いきなりふざけて耳をアマガミするなよ。びっくりしただろ」
七咲「ふざけていません。先輩こそ私のお尻を触らないで下さい!変態」
橘「あ、あれは不可抗力だよ。七咲が暴れるから」
七咲「先輩」
橘「な、何?」
七咲「本当に絶交しましょうか?」
橘「え?そ、それだけは勘弁!」
七咲「……」
橘「七咲、許してくれよ!本当に事故なんだから!」
七咲「……また明日」
橘「七咲……」

七咲は最後に笑みを浮かべて去って行った。
許してくれたのだろうか?


それからというもの、約束通り、僕も七咲もお互いの目標に突き進んでいった。

橘「梅原。たまには一緒にお昼食べないか?」
梅原「……!?」
橘「どうした?」
梅原「おまえ、具合悪いか?」
橘「は?」
梅原「具合悪いかって聞いてんだ。熱でもあるんじゃないか?」
橘「何でだよ」
梅原「いつも七咲と一緒に食べているお前が、今日に限って俺を誘うなんて。何かあっただろ?」
橘「別に。今日はこういう気分なんだ」
梅原「七咲とケンカでもしたのか?」
橘「いや。ちょっと色々あってな。話し合った結果がこうだ」
梅原「そうか。よし、んじゃ飯買いに行くぞ!」
棚町「いいわねぇ!」
橘「だろう?」
棚町「たまにはさ、おつかいジャンケンとかやらない?」
橘「ああ、たまにはいいなぁ……って!何でお前がいるんだよ?」
棚町「いちゃ悪い?」
橘「いや、悪くはない」
梅原「ようし!負けた奴が買って来る約束だな!」

七咲「美也ちゃん。お昼一緒に食べよう」
美也「え?逢ちゃんも?」
七咲「うん」
美也「めっずらしいね。お兄ちゃんは一緒じゃないの?」
七咲「今日は別」
美也「ケンカ?」
七咲「ううん。今日はこういう気分ってだけ」
美也「じゃあ、紗江ちん。食堂行こう」
中多「うん」

橘「そして結局僕が負けた……。ありえない」
美也「それでね、紗江ちんったらおっかしいんだよ」
中多「み、美也ちゃん……恥ずかしいよ」
七咲「ふふっ」
橘(七咲……い、いや、話しかけないぞ)

僕と七咲は無言ですれ違った。

美也「あれ?お兄ちゃんだ。逢ちゃん、話しかけないの?」
七咲「うん。何か忙しそうだから」
美也「模試が近いんだっけ?お兄ちゃん、柄じゃないのに勉強張り切っちゃって」
中多「でも、偉いと思う」
七咲「あの先輩が勉強……ちゃんとやってるんだ」
美也「知らないの?お兄ちゃん、毎日遅くまでやってるよ」
七咲「……」

橘(七咲、元気そうで安心した)
七咲(先輩も頑張っているんだ……よし!私も頑張る!)


こうして、約一週間絶交を続けた。

一週間後……

橘「信じられません!」
高橋「ええ。私も驚いたわ。頑張ったのね」
橘「ありがとうございます」
橘(よーし!早速七咲に報告だ!)

部長「大会メンバーを発表します」
部長「自由形。1年生からは……、2年生からはB組七咲逢……」
七咲「!」
斗部「……」
部長「3年生からは私と……以上」
部員「七咲!やるじゃん!」
部員「足捻挫してんのにすごいよ」
部員「わが校最速だって!」
七咲「そ、そんな……」
部長「七咲。大会一緒に頑張ろうね」
七咲「はい!」
斗部「……」
七咲(先輩に報告しないと!)

橘「七咲!」
七咲「先輩!」
橘「……」
七咲「先輩、あの……」
橘「おめでとう!」
七咲「え?」
橘「その表情見れば分かるよ」
七咲「ありがとうございます」
七咲「あの……先輩こそ、おめでとうございます」
橘「ありがとう」
橘「七咲のおかげだよ」
七咲「いえ、私は何も……」
橘「もう、絶交する必要ないよな?」
七咲「そうですね」
橘「あ、ここじゃまずいか。また後であれをやろう」
七咲「はい」
橘「それはそうと……何か騒がしくないか?」
七咲「え?」

プールの方から何か聞こえる。

橘「もしかして!」
七咲「行きましょう!」


部長「斗部さん、本当なの?」
斗部「ごめんなさい」
七咲「どうしたんですか?」
部長「あ、七咲。ちょうどよかった」
七咲「え?」
部長「あなたの足の捻挫、斗部さんの仕業だって本当?」
七咲「どうしてそれを?」
斗部「あたし、間違ってた」
橘「……」
斗部「本当にすみませんでした」

斗部さんが土下座した。

部長「斗部さん、自分でそう言ってた」
橘「え?自白したってことか」
部長「そういうこと……って、あなた部外者でしょう?」
橘「失礼な!僕も関係者だ!」
部長「水泳部じゃないでしょ?」
七咲「部長。彼も一応関係者です。一緒にいてもいいですか?」
橘「七咲」
部長「え?ああ、そういうことならいいけど」
斗部「部長。今まで黙っていてすみませんでした」
斗部「あたし、七咲に嫉妬していたんです」
斗部「あたしは入部以来、ずっと大会に出ていました」
斗部「なのに、全然結果が出せなくて、去年の春に入部した七咲に追い抜かれてしまいました」
斗部「あたし、誰よりも部活を頑張ったのに、それでも全然だめで。努力するのが虚しくなりました」
斗部「最初は七咲を応援していましたが、努力して伸びていく七咲に次第に嫉妬していきました」
斗部「今回、最後の大会なのに七咲がいるから出られない」
斗部「そう思ったら何だか七咲のことが邪魔に思えて……それで」
部長「そうだったんだ……。でも、どうして相談してくれなかったの?」
斗部「……」
橘「相談しても無意味だったんだよ。斗部さんの悩みは相談しても解決しないから」
斗部「確かにあたしは七咲にケガを負わせた。大会にあたしが出るために」
斗部「でも、七咲はそんなあたしを憎むどころか許してくれた」
斗部「あたしは、七咲にこんなひどいことをしたのに、あたしのことを恩人って……」
斗部「たった一回、七咲を応援しただけなのに、そのことを覚えていて、あたしを……」

斗部さんは泣き出した。

天殿「翠子」
斗部「麻衣」

いつの間にか天殿さんが現れた。

二人は抱き合った。

部長「でも、結果的には七咲が選考に受かって、斗部さんが選考に落ちた」
部長「七咲のことを恨んでないの?」
橘「恨む?違うよ。逆だよ」
部長「逆?」
七咲「ええ。私が選考に受かることで斗部先輩にはいくつかメリットが生まれました」
部長「どういうこと?」
七咲「斗部先輩が私にケガを負わせた理由は、私を大会に出させないため」
橘「もし、七咲がケガを負っていなかったら七咲が選考に受かっていた」
橘「だが、ケガを負った今でもちゃんと七咲が選考に受かった」
橘「つまり、ケガを負っても負わなくても結果は同じになった」
七咲「だから、これでやっと斗部先輩の罪を帳消しにできました」
七咲「彼女には謝る理由がないし、処罰される必要もありません」
部長「なるほど」
七咲「それだけではないです」
部長「まだあるの?」
七咲「私はこんなケガをした不利な状況でも努力して勝利を勝ち取ることができました」
七咲「努力が無意味だと諦めていた斗部先輩に、努力することの大切さを教えることができました」
七咲「斗部先輩も私と同じで水泳が大好きなんです」
七咲「だから、こんなことで斗部先輩の水泳人生を終わりにしたくはなかったんです」
七咲「もう一度、ここからやり直してほしいです」
斗部「七咲」
七咲「斗部先輩」
斗部「ごめん!七咲、ごめん!」
七咲「謝らないで下さい。私が頑張った意味がないじゃないですか!!」
斗部「そう……だね」
橘「……」
部長「よかった」
天殿「翠子!」
斗部「麻衣!ごめん」
天殿「謝らないで!私が頑張った意味がない!」
七咲「天殿先輩!」
天殿「へっへっへ、セリフパクっちった」
七咲「もう……」

こうして斗部さんと七咲は和解した。
斗部さんに分かってもらえてよかった。


次の日曜日……

七咲「お邪魔します」
橘「足はもう大丈夫か?」
七咲「はい。完治しました」
橘「そっか、よかった」
七咲「捻挫していた時、手のかきだけで速く進む練習をしていたので……」
七咲「捻挫が完治してバタ足を合わせたらさらに速く進めました」
橘「じゃあ大会はばっちりだな」
七咲「かもしれません」
橘「何だよ、もっと自信持てよ」
七咲「他校にはもっと速い選手がいますから。私なんてまだまだです」
橘「そ、そうか」
七咲「先輩も、余裕でいると大変なことになりますよ?」
橘「う、が、頑張るさ」
七咲「ふふっ」
橘「じゃあ……逢」
七咲「はい、しゅう先輩」

僕と逢は再びキスをした。
絶交終了の印だ。
そして抱き合った。

橘「よく頑張ったな」
七咲「先輩こそ」
橘「そんな……。七咲がいてくれたからさ」
七咲「私も、先輩がいてくれたから」
橘「……」
七咲「……」
橘「あ。もう、塚原先輩にお礼は言ったか?」
七咲「いいえ」
橘「どうして?」
七咲「“お礼は言わなくていい”って先に言われてしまいました」
橘「あっちゃあ。先越されたか」
七咲「あと、部長や斗部先輩に塚原先輩とのこと、バレてしまいました」
橘「え?」
七咲「“ある人に叱られた”って言っただけで、“七咲を叱るのは塚原先輩くらいだろう”って」
橘「お見通しか」
七咲「水泳部の、誰もが尊敬する先輩ですから」
橘「七咲も、もう尊敬されているんじゃないか?」
七咲「え?」
橘「だってさ、悪いことした人を迷いもなく許したじゃないか」
七咲「あ……」
橘「七咲も来年、いい部長になれると思う」
七咲「先輩……」
橘「僕も陰ながら応援してるよ」
七咲「……」

七咲が僕の胸に顔を埋めた。

橘「お?泣くのか?いいぞ」
七咲「違います!」
橘「え?泣かないのか」
七咲「……照れて、いるんですよ」
橘「はい??今何て?」
七咲「……先輩のばかっ!」
橘「おわっ!」

七咲は僕を突き飛ばした。
そして僕の上に覆い被さり……

七咲「んん……」
橘(……逢)


その後、斗部さんは水泳部を引退した。
聞いた話によると、大学でも水泳を続けているそうだ。
目標は“打倒七咲”
水泳だけでなく、人柄の改善も頑張っているそうだ。
七咲みたいに……
水泳が得意ってだけでなく、どんな人でも許せる寛大な心も持った人間になることが斗部さんの目標らしい。

明るい未来に向かって……
飛べ(斗部)、翠子!




七咲アフターストーリー
エピソード特別編「夢を諦めないで!七咲、決死の闘い」

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