--------

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2011-03-17

~俺、寿司屋を継ぐ!!~ (東日本大震災を受けて)

それは……俺が中学2年生の時だった。
当時俺は進路で悩んでいた。
俺、お笑いが好きで、将来はお笑い芸人になるんだって心に決めていたんだ。
嘘だと思うだろ?いや、本当の話だ。
その当時は本気でそう思っていた。

ところがある時、オヤジとお袋の会話を盗み聞きしてしまった!

「ったく、困ったもんだ。あいつぁうちの店を継がないって言ったのか!」
「ええ、何でも大学進学するとか言ってるらしいわ」
「ちっ、あいつの頭で大学なんて行けんのか?」
「でも、それが本人の希望だそうよ」
「しかたねぇ、正吉に託すか」
「そうしましょ」

えっ……今何て……?

どうやら兄貴は大学進学するとかでうちの店、東寿司を継がない気らしい。
ということは次男の俺が継がなければならない。
冗談じゃねぇ!誰が継ぐか、こんな店!
俺は……俺は……将来お笑い芸人になるんだ!
たくさんの人を笑わせて、たくさんの金を稼いで、豪邸に住んで、上品な奥さんを手に入れるんだ!!
こんな店……やってられっか!

「あら、正吉。何してるの、そんなところで」

オヤジとの会話を終えて、お袋が部屋から出て来た。

「お袋……オヤジ……」
「あんだ?何か言いたいことあんのか?」
「俺……俺……」
「どうしたの、正吉?」
「この店継がない!!継ぐ気ない!!」
「……」
「……」

オヤジもお袋も一瞬沈黙した。

「……ふぅ」

一服してからオヤジは言った。

「んじゃおめぇ、将来何をするつもりだ?」
「……」
「この店継がないで、おめぇ、行くとこあんのか?」
「俺」
「ん?」
「……」
「正吉。言いたいことあるならはっきり言いな」
「俺……将来……お笑い芸人になるんだ!!」
「……」
「……」
「……はぁ?おめぇ……寝ぼけてんのか?熱でもあんのか?」

お袋が心配して俺の額に手を当てた。
俺はそれを払いのける。

「だーっ。ちげぇよ。俺は本気で言ってんだ!」
「……バカか?」
「バカって何だぁ!」
「おめぇみたいな奴が……寄りにも寄ってお笑い芸人になれるって!?ふっ、ははは」
「わ、笑うな!」
「おめぇなぁ……現実はそう甘かぁねぇんだよ。もっと現実を見ろってんだ」
「み、見てる!現実」
「正吉……」
「オヤジの分からず屋!なあ、お袋なら分かってくれるよな?な?」
「……」
「お袋!」
「……正吉。あんたにはどうしてもこの店を継いでほしいんだ」
「なっ!?」
「父ちゃんもこの通り、歳だ。跡取りがいなかったら、この店は畳まなきゃいけない」
「う……」
「兄ちゃんは店を継がないって言っている。だったら残る希望は正吉しかいないんだ」
「そ、そんなの勝手だ!兄貴の勝手だ!兄貴を説得して継がせればいいじゃないか!」
「そ、それは……」
「それにこの店はもう相当昔からやっている。この辺で区切りを付ければいいんだ」
「なん……だと?」
「正吉」
「だいたい何で俺の人生なのに俺の自由に出来ないんだ!おかしいじゃねぇか!」
「てめぇ!」
「……」
「俺は……俺は……こんな店に人生縛られたかぁねぇよ!こんなオンボロな店……さっさと畳んじまえ!」
「!!」
「てめぇ……」

オヤジが怒りのあまり立ち上がったその時!

パーーーーン!

お袋が……力一杯……俺を……平手打ちした!!
近所にまで響き渡るくらいでかくていい音が鳴った!!

「ぐは!」
「あんたって奴は!もう一辺言ってみな!!」
「ぐっ!オヤジにも……殴られたこたぁねぇのに」
「……」

ははっ、あまりのお袋の威勢に、頑固者のオヤジまで黙ってしまった。

――あんた……この店を何だと思っているの!
この店は、あんたとあの子をずっと長い間守って来たっていうのに!
あたしら家族は……
この店で父ちゃんが一生懸命汗水垂らして働いてくれたおかげで今までずっと守られてきたんじゃない!
こうして平凡に毎日を送れることがどれだけ幸せなことかまだ分からないの?
それに、お笑い芸人になるっていうけど、それも簡単なことじゃない!
今の平凡な毎日が送れるかどうかすら分かったもんじゃない!
ましてやあんたなんか才能の欠片もない!
それなのに……ずっと長い間お世話になったこの店をオンボロな店とか言って……。

「あ?」

その時、お袋の目が潤んでいた。
たぶん、溢れてくる涙をこらえていたんだ。

――あんた……本当に何も分かっていない!
この店に何も恩を感じていない!
父ちゃんが今までずっと守ってきた……だからあたしたちは幸せでいられた。
だから、今度は正吉……あんたの番!
お願いだから……この店を継いで!

「嫌だ!恩だか何だか知らねぇが、それを言うなら俺じゃなくて兄貴に言え!」
「でも、あの子は大学に」
「大学だってただじゃ行けねぇんだろ!大学行く金があったらこの店継がせればいいじゃねぇか!」
「う……」
「お笑い芸人にならないとしても俺はこんな店継ぎたくない!継ぎたくねぇんだよ!!」

そう言って俺は店を飛び出した。
生まれて初めての家出をした。

「正吉!」
「ちっ、放っておけ!」
「でも」
「どうせすぐ泣いて帰って来るにちげぇねぇ」
「父ちゃん……」

俺は家出をした後、行く宛もなく、ただただ街を歩き回った。
もちろん財布や身の回りの品なんて全部家に置いて来た。
とりあえず、河川敷のコンクリートにそっと腰掛ける。
冷たい……当たり前だ。今日は特に冷え込むって天気予報で言っていた。
コンクリートが、いい感じに冷えて、ケツが冷やされる。
冷たい風が、俺を嘲笑うかのような音を立て、俺の体を冷やす。
あまりにも寒いので体育座りして体を縮こめた。

「うう、さみぃ」

そしてさっきまでのことを考え、しばらくの間、物想いに耽った。

よくよく考えてみれば、オヤジとお袋の言ってることは正しい。
けど、俺は夢を叶えられないことが悔しくて悔しくて仕方がねぇ。
それで、結局家出したはいいが、どこへ行こうか。
今日は特に冷え込むって天気予報で言っていた。
ここままここにいたら寒くて死んでしまう。
冗談じゃねぇ、夢を叶えられないまま死んでしまうなんて……それもこんなところで……冗談じゃねぇ!!
しかし、行く宛が……そうか、橘の家に!……駄目だ。あいつに迷惑はかけられねぇ。
美也ちゃんだっているんだ。とてもじゃねぇが、置いてもらえるわけがねぇ。
幸い明日は日曜日だから学校は休みだ。
うう……それにしてもさみぃ。大将、おまえなら、こんな時どうする?
俺はいったい、この後どうすればいい!?

そんなことを考えていると、俺の元に駆け寄って来る奴がいた。

「あれ?おまえ……」

大将か?大将なのか?

「おまえ……もしかして……隣のクラスの梅原か?」

いや、違う。

「ん?おまえ……誰だ?」
「やっぱりおまえ、梅原正吉なのか」
「だからおまえ誰だ?」
「ああ、悪い悪い。俺は隣のクラスの……」

何だ、大将かと思った。大将じゃねぇのか……ちっ。
しかも……面識がねぇ。こいつ……何で俺のことを知っている?

「知らねぇ名前だな」
「まあ、そりゃそうだ。俺、おまえと違って“変な意味で”有名人じゃないからな」
「あ?“変な意味で”だと?それっていったいどういうことだ?」
「うん、まあ、そのまんまの意味だ」
「……で?おまえがどうして俺に話しかけてんだ?」
「いや、何となくおかしいなって思ったから。おまえがこんなところで体育座りして……」
「それが俺に似合わねぇって言いたいのか?」
「いや、別に似合うも何も。ただ……ちょっと気になったんだ」
「……」
「おまえ……何かあったのか?学校で見る姿とまるで違う」
「別に」
「……まあいい。こんなところで立ち話も難だ。とりあえず……俺んち来いよ」
「……ああ」

正直言って知らねぇ奴だったからそいつの家に行く気はまるでなかった。
だが、こんなところで死ぬよりはましだと思ったから断る気力もなかった。

そいつの家は普通の家だった。見た感じ俺の家よりも貧しそうだった。

「……で?何があったんだ?」
「は?」
「おまえ、おまえに似合わない表情をしてたから」
「……」
「……」

正直言ってこんな奴に話しても何の解決策にもならないと思ったが、すべてを観念して話した。

「ふーん」
「ん?何だその返事。おまえ、驚いたり笑ったりしないのか」
「いや、別に」
「……」
「ただ」
「ん?」
「おまえ、俺と真逆なんだな」
「は?」
「俺、実はおまえにちょっと憧れていたんだ」
「何?」
「俺、将来板前になりたいって思っていたんだ」
「それで俺に?」
「ああ」

驚きだった。何でこいつは寄りにも寄って板前に?俺が一番就きたくない職業に?

「どうしてだ?どうしておまえは板前に?」
「ああ、俺、寿司が大好きなんだ」
「はあ?それだけか?」
「いや、板前ってかっこいいしさ、美味しい寿司でみんなを笑顔にすることが出来るし」
「……」
「……そう思えたのも、おまえのオヤジさんのおかげなんだ」
「え?」
「俺もずっと進路で悩んでいて……ほら、来年3年だろ?」
「ああ、そうだな」
「進路で悩んでいた俺はある日、昼飯に寿司が食いたくなって東寿司に行ったんだ」
「え?俺んちに?」
「ああ。そしたら寿司はうまいし、おまえのオヤジさんの姿がかっこいいし……」

嘘だろ?こいつ……寄りにも寄ってあんなオヤジの姿に惹かれたのか?

「だから、生まれた時から寿司屋の息子であるおまえがずっと羨ましくてさ」
「それで俺のことを知ってたのか」
「まあ、それだけじゃない。おまえ、さっきも言った通り、“変な意味で”有名人だしさ」
「おいおい、またそれかよ……」
「なあ、梅原。おまえが板前嫌だって言うなら俺がおまえの分まで立派な板前になってやるよ」
「ああ、そうしろ……って言いてぇが……俺しかうちを継げる奴がいねぇんだ」
「じゃあ、オヤジさんお袋さんととりあえず仲直りしとけ」
「あのな、それが出来たら苦労しねぇんだよ」
「おまえのクラスの橘しゅうだっけ?輝日東高校行くんだろ?」
「ああ」
「だったらあいつと一緒にとりあえず輝日東高校に進学するから後継ぎは待ってくれと頼めば」
「……そう、だな。その手があったか」
「まあ、そういうわけだ」
「なるほどな」
「……と、もうこんな時間か。そろそろ親が帰って来るなぁ」
「おまえんとこ、共働きか?ずっと親の姿がねぇが」
「ああ」
「……そっか。邪魔したな。恩に着るぜ」
「いいってことさ。じゃあな、外暗いから気をつけて帰れよ」
「ああ!」

そんなわけでそいつと別れた俺は、まっすぐ帰宅した。
開口一番、オヤジとお袋に詫びを入れた。
そして親友・橘しゅうと共に輝日東高校に進学したいと伝えた。
高校進学なら文句ないと、許可してもらえた。

それから約一年後、俺は大将と共に輝日東高校進学を決めた。
桜井さんや棚町も一緒だ。
一方、あいつは板前になるべく、親を説得し、食物科のある高校への進学を決めた。
輝日東でも十分海に近いし、旬の魚が取れるっていうのに……
どういうわけかあいつは漁業の本場で修行がしたいと言い出し……
東北地方の海岸近くの高校へ進学した。

中学の卒業式の日……
別れ際に俺とあいつは誓いを交わした。
あいつは立派な板前になって輝日東に帰って来ると誓った。
俺はそれまでに進路を決めて立派な社会人になってみせると誓った。
そして俺とあいつはそれぞれの進路に向かって別々の道を歩き出した。

「ん?梅原。その人……誰だ?」
「あ?ああ、ちょっとした知り合いだ。おまえには関係ねぇよ、大将」
「う、うん……」
「さ、行こうぜ」
「ああ」

俺たちはまだ知らなかった……知る由もなかった。
これが、俺とあいつの永遠の別れだってことを。
あいつの東北地方の海岸近くの高校への進学……
これが後に悲劇の引き金になるとも知らずに……。




それから約三年後、高校3年の進路選択の時期――
悲劇は起こった!!起こってしまった!!

グラグラグラ……

「わっ!な、なんだ、地震か!?」

俺がちょうど部屋でお宝本を読んでいたら突然大きな地震が襲って来た!
何だこれ!生まれて初めて経験した大地震だ!
大きな地震に数分間襲われ、死ぬかと思ったが、何とか地震は収まった。
俺は慌ててテレビをつけ、ネットでも情報収集をした。
東北地方で震度6弱、輝日東でも震度5くらいらしい。
俺は騒然となった!何故なら!

「あ、あいつは!?あいつは大丈夫なのか!?」

あいつとは無論、約三年前に約束を交わしたあいつのことだ!
確か東北地方の海岸近くに住んでいるって……。
何!?大津波注意報だと!?
こんな大地震でただでさえダメージがでかいのに、その上大津波!?

「……くそ!ふざけるなよ」
「あいつは……あいつは無事なんだよな!?おい!」


ニュース通り、大津波が東北地方を襲った。
街が……街が……もう跡形もないくらいめちゃめちゃに壊された。
その後も大地震は震源を転々とし、何度も何度も日本列島を襲った。

東北地方を中心とした東日本での大地震!!
及び
それによる大津波の被害!!


これが世に言う……
東日本大震災!!
東北地方を震度6弱、マグニチュード9.0の巨大地震が襲った!!

俺はあいつのことが心配だったが、あいつならきっと無事に生きているだろうと信じていた!
確かに信じていたんだ!
けど……それからしばらくして……遺体の身元確認が終了した。
あいつに連絡するも連絡が取れず、そのうち連絡が来るだろうと信じて待っていたが、何の音沙汰もなし。
痺れを切らした俺はネットであいつの名前を調べた!
遺体のリストにないことを願いながら、懸命に調べた!!

「はは……バカだな俺。あるわけねぇじゃねぇか」

しかし……しばらく調べるうちに……騒然となった!!

「あ……な……何!?嘘だろ!?」

見 つ け た !
あいつの名前が……あったんだ!
この遺体の身元確認のリストの中に!


「あ……」

俺はあまりの衝撃に……言葉を失った!
全身が……凍り付くように寒くなった!

おい!
嘘だろ!
嘘だろおおおおおおおおおお!!!!!


あいつが死ぬわけねぇ!!
あいつが死ぬわけねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!


どうして……どうしてだ!?
おまえ、俺と誓ったよな。立派な板前になって帰って来るって……誓ったよな。
なのにどうして……どうして死んじまったんだ!?
答えろよおおおおおおおおおお!!!!!

俺は一気に絶望感に浸った!
それと同時にこの災害とあいつに対する悲しみと怒りと憎しみが一気に込み上げて来た!

俺はそれから数日間、落ち込んだ。塞ぎ込んでいた。
大将や棚町たちに心配されるも何を言われているのか聞こえないほど、心を閉ざした。
しかし、やっぱりそんないつもと違う俺を放っておかない奴らがいた。
三年前のあいつと同じように……。
いや、違う。
三年前のあいつは見ず知らずの奴だったが、今回の奴らは違う……紛れもない親友だ。
親友だからこそ、こんな時こそ俺の心の支えになってくれる!
やっぱりおまえらすげぇよ……。

「おい、梅原!梅原ってば!」
「……」
「ちょっと、あたしのこと無視する気?」
「……」
「うーめーはーら!」
「しっかりしろ!」

ドカッ!

「いてて……なーにするんだよ、棚町。それに大将」
「おまえ、何か顔色悪いぞ。どうした?何かあったか?」
「……別に」
「何かあったって顔してるわよ」
「……何もねぇ」
「ふーん。僕らに隠し事?」
「……」
「言いなさいよ、水くさい」
「薫!あのな、梅原。困った時はお互い様だろ?何でもいい。何か悩んでるなら相談してくれ」
「……」

大将と棚町が真剣な表情で俺のことを見つめている。
こいつらになら……話してもいいか。

「……実はな」

俺は大将と棚町にすべてを話した。

「……なるほどね。それはつらかったな」
「……冥福を祈るわ」
「ああ」

しばらく沈黙が続く。
二人とも悲しい表情をしている。
するとその沈黙を破るかのように大将が一言。

「……で、梅原はこれからどうしたい?」
「……どうって?」
「だって、いつまでもそうやって落ち込んでいたってしょうがないだろ」
「確かに……亡くなった彼が帰って来るわけじゃない……」
「まあ、そりゃそうなんだが……」
「梅原は……彼の死を受けて……これからどうやって生きていくつもりなんだ?」
「あ、そういえば進路調査票出してないのは梅原くんだけだって絢辻さんが言ってたわ」
「そうだよ、進路だよ!どうするんだ?」
「……進路、か。困ったな」
「ね、あたしの意見言っていい?」
「……ああ。構わねぇ」
「……あんたんとこの……東寿司だっけ?そこを継いだら?」
「……何!?」
「薫……おまえ、何を」
「だって、そうでしょ。亡くなった彼は板前になれなかった。憧れの梅原くんみたいになれなかった」
「そうか……彼の……彼の分まで立派な板前になれってことか。うん、僕も賛成だ」
「棚町……それに大将まで」
「あたしはそれが彼にとって一番いい選択だと思う」
「僕もそう思う」
「……だがな、それじゃ約束がちげぇんだ!」
「確かに約束は違う。でも、彼のことを大事に思うならそれが一番だ!」
「……大将」
「ファイトよ!何かまたつらいことがあったらいつでも相談に乗るから!」
「……棚町」

大将と棚町が今度は笑顔で俺を見つめた。

「……ったく、おまえら……最高だ!」
「ふっ」
「あはは」
「よっし、何だか元気が出て来たぞ……っと、絢辻さーーーん!」
「……行っちゃった」
「うん」
「薫、ナイスアシストだったぞ」
「まあね!」

こうして……
俺は亡くなったあいつの遺志を継いで……
板前になることを決心した!
東寿司を継ぐことを決心したんだ!!
確かに一度はあいつの死を受けて絶望しかけた。
だが、俺は分かったんだ。このままじゃいけねぇって!
あいつの死を無駄にしちゃいけねぇって!!
ありがとよ、俺の親友たち!
おまえら本当に……最高だぜ!!




CLAGAMI~クラガミ~
梅原正吉編~俺、寿司屋を継ぐ!!~
END

続きを読む »

スポンサーサイト
2010-07-03

10年ぶりの涙

時代設定
塚原響、20歳。
国公立大学医学部3年生
前作:CLAGAMI~クラガミ~ 塚原響編~初恋さよなら~
その10年後
及び
外伝:七咲アフターストーリー第21話「先輩、これから一緒に頑張りましょう」
その翌日

病院
塚原「はい。これ今日の医学概論の講義資料と私のノート」
塚原「それから来週小テストがあるから頑張ってね」
女性「ありがとう。響」
塚原「ううん。別に当たり前のことをしているだけだから」
女性「そんなことないって!本当に感謝しているよ」
塚原「そう。ならよかった」
女性「どうか……したの?」
塚原「え?」
女性「だって、響、昨日より顔色が悪いから」
塚原「ああ。気のせいよ。もともと強面だし」
女性「ねぇ、本当に何かあったんでしょ?もし差し支えなければ、私に聞かせて」
塚原「……」
女性「ねぇ」
塚原「はぁ。困ったな。あなたには嘘は吐けないか。実はね……」
私は彼女に、昨日の橘しゅう君の記憶喪失について話した。
女性「そっか。そんなことが。ごめんね、ただでさえ落ち込んでいるのに……」
塚原「ううん。いいの。話したらちょっとだけ気が楽になった」
女性「本当に大変ね。彼自身が一番大変だけど、同じくらいにその七咲って子も」
塚原「でも、あの二人ならきっとうまく乗り越えられる気がする」
塚原「私だってできる限りサポートするから」
女性「うん。そうだね。ね、もしよければ私にも協力させて」
塚原「ううん。いいって。あなたにまで負担をかける訳にはいかない」
塚原「私たちに任せて」
女性「本当に大丈夫?」
塚原「うん。大丈夫だから。……と、もうこんな時間ね。それじゃあ、また明日」
女性「うん。じゃあね」


廊下
塚原「……」
塚原「あの二人なら……きっと乗り越えられる……か」

私はそう信じつつも、何故か少し不安だ……
そう。私はまた橘君と七咲に、10年前の立花君と私を重ねてしまっている。
10年前に小学校を転校し、それ以来連絡がとれなくなった初恋相手の立花直生君……。
今、どこで何をしてるんだろう。

塚原「あ……このベンチ」
私は昨日七咲が座って俯いていたこのベンチに深く腰掛け、同様に俯く。
初恋の立花直生君のことをいろいろ回想してみた。

当時、小学4年生でいじめられっ子だった私をいつも助けてくれた。
別れ際にその理由を聞いたら、いじめられて自殺したお姉さんに私が似ていたかららしい。
お姉さんみたいな目に私を遭わせたくなくて、一生懸命助けてくれたらしい。
本当にいい人だったな、彼は。
だからこそ連絡がつかなくなった時、私は物凄く切なくなった。
彼が絶対に無事だと信じたくて、向こうで私以上に好きな子ができたんだろうと勝手に推測し、
その時から私は恋に対して奥手になってしまった。
そしてあれから10年経った。
私の近くには初恋の彼と同じ苗字の橘しゅう君、それに部活の後輩の七咲逢のカップルがいる。
私の悪い癖で、苗字が同じだからってしゅう君に勝手に直生君を重ね、
私同様に七咲に悲しい思いをさせたくなくて、色々この二人にお節介を焼いてしまう。
まったく、私ったら何をやっているんだろう。
でも、橘しゅう君は山からの転落事故で記憶喪失になってしまった。
思い出を何もかも失ってしまったんだ。
あんなに仲のよかった橘君と七咲の間にまた距離ができてしまった。
だからまた心配なんだ。二人が私みたいな悲しい結果にならないか。
ならないと信じたい。でも、逆の可能性だって、なきにしもあらずだ。
人間の感情は複雑で「絶対」って言葉は当てはまらない。
お互いに最後まで信じ合わない限り、幸せは訪れない。
直生くんだって……直生くんだって……私は信じていたのに……
どうして?どうして私の前から消えてしまったの、あなたは!?

ベンチで俯くこと30分。
一人の男性が俯く私に声をかけた。
精神科医「あれ?あなたは……昨日の?」
私は即行で元の顔に戻り、そっと顔を上げた。
塚原「ああ、どうも」
精神科医「塚原……くん?」
塚原「え?」
精神科医「やっぱりそうか!昨日から引っかかっていたんだ」
精神科医「初対面だったのに、どこかで見た顔だと思っていたんだ」
精神科医「それに周りの人が塚原さんと呼んでいるのを聞いて」
塚原「私に何か用ですか?」
精神科医「ここで話すのも難だ。もう診察が終わっている時間だから診察室へ」
塚原「……ええ。わかりました」


精神科診察室
塚原「それで話って……」
精神科医「単刀直入に聞こう。立花直生って子、覚えてる?」
塚原「!!」
塚原「どうしてそれを?」
精神科医「実は僕は彼の3つ上の兄なんだ。名前は立花直也」
塚原「お兄さん?」
立花「あいつ、昔よく家で塚原くんのことをよく話しててね」

回想
10年前
立花家
直生「僕ね、また響ちゃんを助けてあげたんだ」
直也「そうか。偉いな、直生は」
直生「そんなことないよ。だって僕は当たり前のことをしているまでだよ」
直生「……お姉ちゃん、助けられなかったのが悔しくてね」
直也「……」
直生「それに、響ちゃんってとってもいい顔してるから」
直也「まさかお前、好きなのか?」
直生「え……や、やだなぁ。ご、ごちそうさま!!」
直也「図星か」

塚原「……」
立花「本当にあいつは君のことを心の底から愛していたんだよ」
塚原「でも、だったらどうして引越して連絡をしなくなったんですか?」
立花「死んだんだ」
塚原「……えっ?」
立花「あいつは、幼い頃からずっと癌で、あいつの成長とともに癌も進行していった」
立花「転校した本当の理由は両親の仕事の都合なんかじゃない」
立花「……闘病のためだよ」
塚原「そんな……」
立花「転校の一ヶ月前の定期検診で余命1年と診断された」
立花「あいつも僕も両親もみんな絶望した」
立花「そしてあいつは悩みに悩んだ末にこう言い出した」

回想
直生「……転校したい。お願い、僕を転校させてください!!」
父「いきなりどうした?」
母「そうよ。何で転校するの?」
直生「響の……好きな子のためだよ」
両親「何だって!?」
直生「あいつに、悲しい思いをさせたくないんだ!!」
直生「あいつと離れて、あいつには僕がずっと生きているって思わせて……」
直生「独り、静かに息を引き取りたい」
両親「……」
直生「お願いします!!僕を……僕をあいつから引き離してください!!」
両親「……」

塚原「……」
私はそれを聞いて言葉が出なかった。
ただ、目から涙が溢れ出て来た。
10年間ずっと目の奥に仕舞い込んでいた涙が一気に溢れ出て来た。
それは10年経っても変わらず、きらきらとまるでダイヤモンドのようにきれいに輝いていた。
ずっと生きているって信じていた直生君がまさか……
まさか私を気遣って転校しただなんて……
馬鹿。馬鹿だよ、直生君。
君のせいで私は余計な思考を巡らせ、余計悲しくなってしまったんだよ?
どうして教えてくれなかったの?
キミの最期をちゃんと看取って、お礼が言いたかったのに。
何で……どうして私を置いていってしまったの?

立花「あいつは……」
塚原「はい」
立花「あいつは死の間際にこう言っていたよ」

回想
直生「最期に、一つだけお願いしてもいい?お兄ちゃん」
直也「最期だなんて言うなよ!」
直生「ごめん。でも、これだけは言っておきたくて」
直生「もしもお兄ちゃんが将来お医者さんになって、響に逢ったら伝えてほしい」
直也「おう。何だ?」
直生「ありがとうって」
直生「こんなひ弱な僕でも、助けられた人間がいたことを誇りに思う」
直生「僕は幼い頃から病気で、しょっちゅう、僕は何のために生きているんだろうって考えてた」
直生「死にたくなった時もあったんだ」
直生「でもね、響が、僕の生きる目的になってくれた」
直生「僕は響の笑顔を守れて本当によかった。僕はずっと響のことが好きだったんだ」
直生「死んでもあいつのそばでずっとあいつを守り続けたい」
直也「そ、そっか。頑張れよ」

立花「そのすぐ後だったよ。あいつはいい笑顔で安らかに息を引き取った」
塚原「……」
私は返事ができず、ただ、ただ、立花先生の前で泣くばかり。
10年間我慢していた涙はまるで滝のようで、止まることを知らない。
立花「直生は……生命の限り塚原くんを愛し続けたんだ」
立花「本当に、凄い奴だったよ」
塚原「……」
立花「塚原くん。あいつの分まで君には立派に生きてほしい」
立花「それが……あいつの本望だったから」
塚原「……わかりました。ありがとうございます」
立花「さて。本日の診察はここまで。お疲れ様でした」
塚原「本当にありがとうございました。お疲れ様でした」


病院外
その後、私は立花先生の話を思い出しながら、まっすぐ帰宅した。
これで、やっと、10年前の真実が明らかになった。
直生君、今まで君のこと疑ってごめんね。
私は君の温もりを感じながら、これからも真っ直ぐ生きてみせるよ。
恋だってもっと積極的に頑張ってみせるから!
だから、ずっとそばで私のことを見守っていてね。約束だよ?

……それにしても橘しゅう君って本当に不思議な子ね。
あの子が記憶喪失になって立花先生のお世話になったおかげで……
こうして私は立花先生と巡り逢い、直生君の話を聞くことができた。
一人の「たちばな」くんが呼んだもう一人の「たちばな」くん。
本当に不思議な運命ね。
私はこの二人の「たちばな」くんに感謝しなきゃいけないわね。
そして、この二人の「たちばな」くんのために、私はこれからも橘くんと七咲を支援し続ける。
これはお節介なんかじゃないんだ。ちょっとした恩返しだ。
よし、明日からまた頑張ろう、明るい未来のために。



CLAGAMI~クラガミ~
塚原響編~10年ぶりの涙~
END

2010-06-19

彼女の生まれた意味

七咲アフターストーリー第12話「先輩、私を知ってください」より

今から25年前に遡る

当時輝日東高校2年生だった七咲邦夫はある日、
同校1年生の水澤希(のぞみ)と出逢い、一目惚れする。
やがて二人は交際を繰り返すうちに恋人同士となる。
当時の二人にとっては毎日が幸せで充実していて
文字通り、夢のような日々だった。

それから約1年後、邦夫は大学生となり、希と離れて暮らすようになる。
寂しさのあまり、毎日のように文通をやりとりしたこともあった。
そんなある日、邦夫はふと、希に将来の夢について聞いてみた。
すると、希は人の面倒を見る仕事が夢だと答えた。
なぜなら、彼女は昔から身体が弱く、しょっちゅう風邪を引いていた。
そんな時、いつも自分を優しく看病してくれていたお母さんが大好きで、
お母さんみたいな優しくて温かい人に憧れているらしい。
実を言うと、希のお母さんは希が10歳の時にガンでこの世を去って、
希はお父さんに男手ひとつで育てられた。
だから、幼少期のお母さんの温もりが彼女にとってはすごく恋しかったのだ。
そんな希の想いを知った邦夫は、その夢を絶対に叶えようと言った。

しかし、現状はそう甘くはなかった。
希のお父さんがこれに猛反対した。当たり前と言ったら当たり前だ。
彼一人の稼ぎでは家計をやりくりするのが精一杯で、
例えどんなに頑張っても、学費を出せる余裕なんてなかった。
それに何より、愛する我が娘を人様の家の男に取られて、
自分は家に独りぼっちになってしまう。
愛する妻をガンで失った彼にとっては希が唯一、自分を癒してくれる存在なのだ。
それさえも失ってしまったら、自分は何のために生きていけばいいのだろうか。
家計の事情と親心…立ちはだかる二つの壁。
でも…それでも…希は諦めなかった。

「私が…幸せになること。それがお父さんに対する恩返しだと思うの」
「だから…お願いします!!大学に行かせてください」

なかなか許可してくれない父親に対して…
ついには希が泣いてお願いをする始末…。
それを見ていた父親は、娘が心から目の前の男を愛しているのだなとわかり、
やむなく、娘の頼みを受け入れた。
やはり頑固な父親でも娘の涙には勝てないのだろう。

「でも…君も知っての通り、うちは決して裕福な家庭ではない」
「学費はいったいどうするつもりなんだ?」

邦夫はしばらく悩み、答えた。

「僕が責任をもって、学業とアルバイトを両立し、彼女の学費を稼ぎます!」
「これは、元はと言えば僕たちの自分勝手なお願いなんです」
「だから、お父さんには絶対負担をかけません」
「ですから、お願いします!!」

…そう言って、邦夫は希の父親の前で深々と土下座をした。
希も邦夫と一緒に深々と土下座をした。


そんな二人を見て、希の父親はこう言った。

「そういうことならしかたがない。許可しよう」

その言葉に安堵する邦夫と希。

「じゃ、じゃあ…来年から一緒に?」
「ただし、条件がある!」
「はい。何でしょうか?」
「娘を…希を必ず幸せにするとこの父に誓えるか!?」
「さっきも希が言った通り、希が幸せになることが…この父に対する恩返しだ」
「心から…誓えるか!?」

希の父親の強い言葉に…邦夫は一瞬驚き、戸惑った。
でも、すぐに答えた。

「もちろんです!僕が彼女を…希を必ず幸せにしてみせます!」

邦夫の力強い返答に、希は無言で涙を流し、希の父親はもう返す言葉がなかった。
二人の願いはここに叶ったのである。


その日から邦夫は来年一緒に大学に通う希のために、
毎日汗水垂らして一生懸命仕事をした。
毎日仕事から帰るとクタクタに疲れ果てた。
だが、その疲労は決して苦痛ではなかった。
愛する人のためだと思えば、辛いとは決して思わなかった。


やがて、二人の夢は叶う。
二人とも大学進学を果たし、邦夫のアパートに同棲することになる。
二人とも夢の大学生活を満喫する一方で、
数ヶ月前に一度の長期休暇を利用して地元に帰省し、
実家に独りぼっちで寂しい希の父親に逢いに行き、近況を報告していた。


その後、二人とも無事に大学を卒業し、希望通りに就職した。
そして、出逢いから6年後に二人はめでたく結ばれた。
23歳の夫と21歳の妻…
この二人にとっては毎日が幸せ以外の何物でもなかった。
そんな幸せな二人を見て、安心したのか、
希の父親はそっと息を引き取った。
二人の同棲を頑なに否認する頑固な父親に見えて、
実は他の誰よりも一番二人の幸せを願い、
ずっと陰で支え続けた優しい父親は、
やっと幸せになった二人を見て、肩の荷が下りたのだろう。

「ありがとう、お父さん。これからも娘さんをずっと幸せにすると誓います」
「ありがとう、お父さん。この御恩、私は一生忘れません」

二人は、天国にいる希の父親にそう誓った。


しかし…希の父親の死は…
この後、幸せな二人に起こる悲劇の前触れでもあった。
そう…社会というものは幸せな二人に決して甘くはなかったのだ!
この時から世の中はだんだん景気が悪くなってくる…
不況と呼ばれる時代に突入する。

邦夫が務める企業も不況の煽りを受けて赤字へと転落する。
その影響で、リストラされる社員がぼちぼち出始める。
自分の家族を…幸せにしたい…
そう思った邦夫は、自ら残業を志願し、今まで以上に熱心に働く。
希のためにも…そして生まれてくる新しい生命のためにも、
どうしてもこの企業から消えるわけにはいかない。

そう、結婚から2年後…二人は待望の子供を授かっていたのだ。
だから尚更、二人は一生懸命働いて養育費を稼がなければならない。
不況と新しい生命…それらの要因が重なり、邦夫に負担をかける。
それでも彼は必死に仕事をする。

そしてついに…最悪の事態が訪れる。
邦夫が…度重なる疲労のあまり、仕事中に不慮の事故に遭って
利き腕である右腕を骨折してしまう。
そのことが原因で邦夫は企業からリストラされた。
さらに、骨折の治療やリハビリにかかる費用が家計を圧迫する。
希の給料を以てしてもかなり苦しい状況に陥った。
お腹の子の養育費なんていったいどこから出せばいいんだ!?

二人は悩み苦しんだ。
幸せ一杯だった二人の面影はどこかへ消え…

「お互いの幸せのために、お腹の子供を諦め、そして…別れるか?」
「何言ってるの?この子に罪はないでしょ!!」
「でも…養育費が稼げないんじゃな…」
「例え…稼げなかったとしても…私はこの子を産みます」
「う…」
「私たち親の都合で消えていい生命なんて…ないに決まってるじゃない!!」

と、喧嘩ばかりする毎日…。
そんな二人を不憫に思った、地元・輝日東の人たちは…
二人のために地元で簡単に働ける職業を探した。
二人に、帰省して輝日東で働くよう勧めた。
もうそれしか…二人、そしてお腹の子が幸せになれる手段は残ってない…
そう思い、二人は輝日東で働くことに決めた。
それが現在の彼らの職業である。


地元・輝日東で安定した職業に就いた二人。
お腹の子も無事に生まれた。
元気な女の子が生まれてきた。
再び幸せを取り戻した。
二人が真剣に話しあった結果、女の子の名前が決まった。

彼女の名前は…
自分たちは今まですごく幸せな反面…
すごく辛い人生を歩んできた。
だから、せめてこの子だけは…
ずっといつまでも幸せでいてほしい。
たくさんの幸せに出逢ってほしい…
そんな想いをこめて、と名付けられた。
七咲逢はここに誕生したのである…。


逢の誕生を皆が喜ぶ…
しかし、まだ養育費の問題が消えたわけじゃない。
何とかして稼がなければならないが、その一方で幼い逢の世話もしなければならない。
このままでは、共働きはできなくなり、また邦夫に負担がかかり、
以前と同じ悲劇が起きてしまうだろう。
何か対策はないのかと考えた時、希は現在輝日東保育園に就職していることを思い出した。
園長さんにお願いして、育児をしながら仕事を続けることに成功した。
これで何とか逢の養育費の問題は丸く収まった。


そして月日は流れ、逢はすくすくと成長する。
彼女は希に似て、生まれつき身体が弱く、風邪を引きやすい体質だった。
さらには、両親が共働きのため、家に帰っても誰もいない。
独りぼっちの逢を心配した邦夫と希は、少々お金がかかるが、
逢に習い事をさせることにした。
何を習わせようか悩んだ結果、水泳に決まった。
理由は水泳にはあまり費用がかからないこと、
病弱な体質を改善するのに水泳が適していると医者から勧められたこと、
そしてスイミングスクールには仲間がいるため独りぼっちにならないことである。
逢は最初は嫌々スイミングスクールに通っていたが、
そのスイミングスクールの入り口にあった巨大なペンギンの像に逢いたくなり、
さらに他の学校の人とも友達になったことで、
次第にスイミングスクールに通うことが好きになったという。
最初は子供らしい、すごく単純な理由だったが、
それが彼女にとっての習い事をする理由となったので、
邦夫も希も嬉しくなった。


そんな彼女が8歳の時に、希が突然仕事中に倒れた…。
何事かと思えば…何と、第2子がお腹にいた!!

「やったね、お母さん。この子は私の弟かな、妹かな」
「妹だといいな。だって、私のお下がりをあげられるし…」
「それに、好きな漫画を一緒に読めるしね」
「あ…でも、弟が嫌ってわけじゃないよ」
「弟が生まれたら、私、思いっきりかわいがってやるんだ!」

と、8歳の逢が誰よりも第2子の存在を喜んだ。
家計のことなんか一切知らない逢の…
両親の苦労なんか全く知る由もない逢の…
その純粋で真っ直ぐなきらきらした瞳が…
その時の両親にとってはとても痛々しく感じられた。

ある晩、ふと両親の話し声で目が覚めた逢は、
二人ともこんな夜遅くまで何してるんだろう?と思い、
居間に行ってみると…
何と、お腹の子供のことを巡り、父親と母親が口論していた。
逢の時と同じ、養育費の問題がまたしても二人の関係を険悪にさせてしまった!

「二人ともやめて!!」
逢は、口論する両親に対して必死にそう叫んだ。
「逢……まだ起きてたのか?」
「もう寝なさいって言ったでしょ?」
「だって……眠れないんだもん。お父さんとお母さんが喧嘩してるから……」
逢の言葉に二人とも何と返事したらよいのかわからず、無言になる。
「ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、聞こえちゃったから」
「うちって…そんなにお金ないの?」
「お母さんのお腹の中にいる子を育てるだけのお金がないの?」
「私…そんなの嫌だよ!!」
「お父さん、お母さん。お願いします!」
「私、いい子にするから…」
「家のお手伝いをちゃんとやって…お父さんとお母さんを助けるから…」
「本当にいい子にするから…」
「だから、もっとお仕事頑張って!!」
「その子のために…私の兄弟のために…もっとお仕事頑張ってください!!」
「お願いします」
逢はぽろぽろ涙を流しながら、両親に訴えかけた。
「逢…」
二人とも娘の必死な訴えを聞いて、ようやく仲直りした。
「逢の言う通りだな。本当にすまなかった」
「逢…お母さん、頑張るから。家族みんなのためにね」
「お父さん…お母さん…二人とも大好きだよ」


その翌日から両親は再び仕事や家事に打ち込み、
逢は出来る限り両親のお手伝いをした。
家計のために、もらったお小遣いはちゃーんと貯金して、
決して無駄遣いをすることはなかった。
例え家が貧乏でも、弱音を吐くことなく、彼女は精一杯家族のために頑張った。
近所でも評判の「できる子」となっていった。


やがて、無事にお腹の子供が生まれた。
逢の弟が誕生したのである。
名前は郁夫。9歳も年下の逢の弟である。
名前の由来は、逢のおかげで家族が一丸となり、
そのおかげで無事に生まれてきた、郁々青々とした子だからである。
「い…く…お?うーん…」
ちょっと変わった名前に最初戸惑う逢だったが、
だんだん慣れてきて、郁夫をかわいがった。
スイミングスクールに家事に弟の世話…
逢にとって忙しい毎日となったが、
それでも彼女は笑顔で頑張り続けた。

そして現在へと至る。
これが25年前から続く波瀾万丈な七咲家の歴史である。



彼女は普段は大人びていてしっかりした子なのに…
時々子供みたいに僕に甘えてくることがある。
たぶん、彼女は…
普段から家事と弟の世話と部活をすべて完璧にこなす努力家だけれども…
どこか疲れを感じていて、時々子供みたいに誰かに甘えたくなるのだろう。
彼女の両親は共働きだから…
彼女は幼い時から誰にもすがることなく頑張ってきたので…
誰かに甘えたくてしょうがないんだと思う。
彼女の両親みたいに身内の者ならともかく…
僕みたいな他人だとなかなか素直に甘えられない。
それが原因で彼女は部活に集中できなくなった。
もう…どうしようもなくなって涙を流して感極まって…
彼女はそのままプールに転落した。
僕はそんな彼女を不憫に思い、助けたい一心で制服のままプールに飛び込んだ。
僕は自ら彼女の心の支えになりたかったんだ。



七咲逢。
たくさんの幸せに出逢ってほしいという彼女の両親の想いから…
この世に生を享けた女の子。
しかし、彼女の両親がどれだけ苦労しても…
彼女を幸せにしてあげることは困難であった。
だったら、今度は僕の…橘しゅうの番だ!
彼女の両親に代わって僕が頑張るしかない!!
僕は今ここに誓う。
絶対に将来彼女を…七咲逢を幸せにすると!!

彼女の生まれた意味。
その一つは僕が彼女を幸せにするため…なんじゃないかな?


CLAGAMI~クラガミ~
七咲逢編~彼女の生まれた意味~
END
いや、違う。これはNEVERENDだろう。きっと。

2010-06-10

初恋さよなら

七咲アフターストーリー第8話「先輩、今日は創設祭ですね」より
一方、その頃
女子更衣室
塚原「似合うわ、七咲」
七咲「そ…そうですか?なんか…可愛すぎる気が…」
七咲「それに胸元が…」
塚原「ううん、似合うわ。橘くんもびっくりすると思う」
七咲「ありがとうございます」
塚原「ところで、七咲」
七咲「はい」
塚原「彼が卒業したら、七咲はどうするの?」
塚原「彼が目指している大学は確か遠方だったわね?」
塚原「卒業したら離れ離れになるでしょ?」
七咲「それは……定期的に連絡を取り合って、時々逢いたいと思います」
塚原「七咲は…それでさみしくない?」
七咲「もちろん、さみしいです。でも、また逢えると信じて橘先輩を待つことにします」
塚原「そっか。……うまく…いくといいわね。じゃないと…私みたいに…」
七咲「え?塚原先輩、今何て…」
塚原「ううん、何でもないわ。ちょっと羨ましかっただけ。さ、行きましょ」

この時、私が七咲に言いかけたこと…
それは…
離れ離れになってしまうと私みたいに…二度と好きな人と逢えなくなるから…

そう。こんな強面の私にもかつて愛し合っていた人がいたんだ。
ふふっ、と言っても小学生時代の話だけどね。

私は小学4年生の時、すでに今のような強面だった。
だからクラスメイトの男子だけでなく女子からもいじめを受けていた。
私は今でこそ国公立大学の医学部に合格できるほどの学力を持っているが、
当時はクラスでも下の方の学力だった。
同様に体力もあまりなかった。
ブスで勉強もスポーツも何もできない…何も自慢できるものがない。
そんな私はいじめっ子たちにとって格好のターゲットだったのだろう。
教科書に落書きをされたり、上履きを隠されたりと、
よくあるいじめを受けて泣いてばかりいた。

もういっそのこと登校拒否しようかと諦めていたその時…
クラスメイトの一人の男子が私のもとに歩み寄って来た。
「塚原さん、大丈夫?」
そう言って彼はポケットからハンカチを取り出して、
泣いている私にそっと差し出してくれた。
「うん」
そう言って私は彼のハンカチで涙を拭いた。
「どうして私なんかの味方をしてくれるの?」
「だって、私はブスで勉強もスポーツも何もできないんだよ」
「何の取り柄もない、ただのいじめられっ子だよ」
「それに、私の味方をしたらキミもいじめられるんだよ」
「それでもいいの?」
すると、彼は私の問いかけに対してこくりと頷いた。
「誰が何と言おうと僕は塚原さんの味方だよ」
「え?本当?」
「うん。約束する」
「でも、私は何もできないんだよ?」
「だったら努力すればいい!僕がずっと応援してるから頑張ってよ」

約束通り、彼はずっと私のことを見守っていてくれた。
だから私は勉強やスポーツに打ち込むことができた。
それでも、時々いじめに遭って心が折れそうになる。
そんな時はいつも彼がやって来て私を再び立ち上がらせてくれる。
そしていつしか私は勉強もスポーツも得意となり、
だんだん自信をつけていく。
すると、今まで暗かった表情も次第に明るくなっていき、
徐々にいじめを受けなくなっていた。
それどころかクラスメイトに打ち解けていった。
「今の明るい塚原さん、すごく素敵だよ」
「頑張ったんだね」
彼からもそう誉められた。私はそれが嬉しくてたまらなかった。
本当に彼には感謝している。
もしかしたら私は彼のことを意識しているのかもしれない。
今度逢ったら彼に私の気持ちを正直にぶつけてみよう。

そう思い始めた矢先…
思わぬ知らせが飛び込んできた!
なんと、彼が両親の仕事の都合で転校することになったという。
しかも遠方。私の手の届かない所に彼は行ってしまう。

彼の引っ越しの前日、学校で彼に思い切って聞いてみた。
「キミはあの時、どうして私を助けようって思ったの?」
すると彼は答えた。
「それは…いじめられる塚原さんを見て放っておけなかったんだ」
「だって、塚原さんは僕の姉にどことなく似てるんだもん」
「実はね、僕の姉は中学校でいじめを受けて自殺したんだ」
「僕は姉に何もしてあげられなかった。守れなかったんだ」
彼は涙を流しながら話す。
「塚原さんに僕の姉の姿を重ねた時、どうしても助けてあげたくなったんだ」
「僕の姉みたいに苦しんでほしくなかったから!」
「もうあんな悲しい思いをするのは僕の姉だけで十分だよ」
そう言うと彼は私にもっと近づいて来る。
「塚原さん。僕は、キミが、キミのことが、好きなんだ」
「キミを守れて、僕はどんなに嬉しかったことか。幸せだよ」
その言葉に対して私はもうこれしか返す言葉がなかった。
「私もキミのことが好きだよ。立花くん」

そう、私の初恋の人の名前は立花直生(なお)くんだ。
真っ直ぐひたむきに生きる少年、立花直生くん。

そして私と立花くんはそのまま抱き合った。
別れを惜しむかようにしばらくの間、抱き合った。

彼が旅立つ直前、彼から新しい住所を教えてもらった。
時々文通してお互いの近況を報告するためだ。
例え二人が離れていても心は見えない糸で通じ合っている。
始めのうちはそう思っていた。

しかしそれから1年たったある日を境に彼から返事が来なくなった。
彼は必ずどこかで生きているはずだ。
でも返事は来ない。
とすれば彼はまた向こうで好きな子でもできたのだろう。
私以上に好きな子が…。

その日を境に私は恋を捨てた。
例え愛し合っている間柄でもいつしか裏切られる時が来る。
だったらそんなものはいらない。
立花くんのおかげで明るかった表情も、彼を失った今、また強面へと戻ってしまった。

結局立花くんからはあれから何の音沙汰もなかった。

そして現在に至る。
七咲が付き合っている彼の名は橘しゅう。
私の初恋の人と同じ苗字だ。漢字は違うけど。
だからかもしれない。
七咲にかつての私の姿を重ねて、彼女が同じ想いをしないように
ついつい世話を焼いてしまう。
ふふっ、余計なお世話ね。
さっさと初恋のことはきれいさっぱり忘れて、
今という時間を大切に生きて行くべきね。



CLAGAMI~クラガミ~
塚原響編~初恋さよなら~
END

2010-06-10

CLAGAMI~クラガミ~とは

まず最初にCLAGAMI~クラガミ~についての説明から。
読んで字の如く、CLAGAMI~クラガミ~とは、CLANNADとアマガミを併せたものである。
CLANNADも恋愛ゲームだがアマガミとはジャンルが違い、いわゆる泣きゲーと呼ばれている。
僕はアマガミ全クリ後、CLANNADも全クリしており、自称CLANNADマイスターでもある。
で…そんな僕は、CLAGAMI~クラガミ~と称して、アマガミの各キャラ(主に女の子)に
CLANNADのような悲しいサイドストーリーを作ってみようと思う。
彼女たちの笑顔の裏に隠された悲しい過去をとくとご覧あれ。

Copyright (C) アマガミ・七咲逢をこよなく逢する七咲逢依存症患者の家. All rights reserved. Template by Underground
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。